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SARNews No.41

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SAR News No.41 「目次」 ///// Perspective/Retrospective ///// クライオ電子顕微鏡単粒子解析の適用可能範囲 高橋花南、牧野文信、元木創平、難波啓一、岩崎憲治 ///// Cutting Edge ///// クライオ電子顕微鏡法-学術基盤技術から創薬ツールへ 葦原雅道 分子動力学計算に基づくクライオ電顕構造のモデリングおよび最適化 森貴治 ///// Activities ///// <報告> 構造活性フォーラム2021 池口満徳 <会告> 第49回構造活性相関シンポジウム 仲西功 編集後記 ///// Perspective/Retrospective ///// クライオ電子顕微鏡単粒子解析の適用可能範囲 高橋花南1、牧野文信2,4、元木創平2、難波啓一3,4、岩崎憲治1 1筑波大学・生存ダイナミクス研究センター、2日本電子(株)、3理化学研究所、 4大阪大学・生命機能研究科 1. はじめに クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)+単粒子解析(SPA)による今のスタイルの高分解能解析が初めて報告されたのが2013年12月とすると、はや8年になる [1, 2]。この間に0.1 nmのFSC(Fourier Shell Correlation、フーリエシェル相関)分解能が報告されるような進歩から、クロマチンリモデリング複合体やメディエーターの転写開始前複合体のように非常に複雑でなおかつ細胞内では一時的な複合体が解かれるようになってきた [3, 4]。それでは一体どのような問題があり、どのようにして克服してきたのか。この先はどうなるのか。2013年あたりを起点に紙面の許す範囲で概括してみよう。 2.クライオ電子顕微鏡単粒子解析の技術に関するトピック 実は、ある先生から国内でいくらやってもうまくいかなかった試料を海外の某所と共同研究したところ、非常に短い期間で解析を終了しトップジャーナル掲載につながった話をこの原稿の構想を練っている時に聞いた。その勝因はやはり試料作製にあったという。クライオ電子顕微鏡というと、試料水溶液をガラス状の氷薄膜(分子配置が液体に非常に近い状態の氷)として物理固定する(これを包埋という)ため、「試料作製」という用語がこの氷包埋試料作製過程を指すことが多い。しかし、その会話の中で某先生が指摘された点は、氷包埋試料作製以前のタンパク質の調整方法についてであった。それは、通常の各種発現系を用いた大量精製や、細胞からの単離精製のプロトコルを指す。筆者らの経験からも100%この点が最重要なことに賛同する。 逆に言えば試料の状態にフォーカスできるくらいハードウェア、ソフトウェアが整ってきたということであろう。本節では、次の2点に絞ってクライオ電子顕微鏡単粒子解析のRetrospective/Perspectiveを見ていく。 ・氷包埋法の現在と未来 ・画像取得の現在と未来 2.1氷包埋法の現在と未来 2.1.1 氷包埋用グリッドの改良・開発 現在多くのユーザーが使用しているのはThermo Fisher Scientific(TF)社のVitrobotという急速凍結装置であり、そこで使われている氷包埋の原理は2017年ノーベル化学賞を受賞したJacques Dubochetが開発したものと何ら変わりはない。直径1 μm程度の穴が薄いカーボン膜に規則的な配列で開けてあり、ここにターゲット分子を溶解した水溶液を3 μL程度付着させる。濃度は試料に依存するが、一般的に1 mg/mL以上は必要である。水溶液の大半をろ紙で吸い取り穴に残った薄膜を急速凍結させることで試料粒子の氷包埋を実現する。さて、ここで様々な問題が起こり、これがクライオ電子顕微鏡単粒子解析による構造解析効率をぐっと下げている。Drulyteらの論文を参考に図1に整理したので見て頂きたい [5]。全て筆者らが経験したものである。(a)は、理想的な状態で粒子が単分散しなおかつ様々な方向を向いている。これでいろいろな角度の投影像データが得られるわけである。ところが、(b)のように粒子が大きい、もしくは氷が薄すぎると穴の縁に集まるという現象が起きる。これは実によく経験する。(c)は、カーボン膜の上に大部分の粒子が吸着してしまう現象である。このようなときに、まず高濃度の試料を大量に付着させてから、もう一度試料を加える、あるいは一度に大量に加えるという手法が採られることがある。このためにクライオ電子顕微鏡単粒子解析に用いる試料の濃度について一概に述べることができないのである。ここで試料作製過程において時折省かれる重要なファクターについて説明しておく必要がある。カーボン膜は疎水的なため、低真空放電(グロー放電という)を行うことで親水化処理する。残留気体のイオンの衝突とそれによる電子の放出現象の中で網状の金属に貼り付けたカーボンの膜(通称グリッド、またはカーボン膜付きグリッドと呼ぶ)を親水化する処理である。その時の親水化の程度はガラス状氷薄膜の厚みや形に非常に強く影響する。(d)は粒子が一方向を向いてしまう現象であり、非常にやっかいである。この図ほどまでではなくともある程度粒子の配向に指向性が出てしまうことは頻繁に起こる。それは、気液界面の気相が疎水的なためである。この場合特定の方向の投影像データしか集まらず、分解能の空間異方性が強くなる原因となる。最後の(e)は気液界面への粒子の集積である。気相に触れた、あるいは露出した部分は、変性していると考えられているためこれらの粒子は、解析途中で除外されていく。この問題は深刻であり、著名な複数のグループから報告がある。その中には86%の粒子が気液界面で損傷を受けていると述べている例もある [6]。 図1. 氷包埋時における生体分子の挙動を頻出するパターンごとに示した図。それぞれ上段はグリッド上のガラス状氷薄膜を上から見た図、下段は横から見た図である。(参考文献[5]の論文を参考に作成) (a) 理想的な単粒子解析用の氷包埋試料。粒子が単分散しており、かつ方向性もランダムである。 (b) ガラス状氷の厚みが中心部で薄く、粒子が穴の縁に集まってしまっている状態。 (c) カーボン膜の上に試料が逃げてしまっている状態。 (d) 粒子が一方向を向いてしまっている状態。 (e) 気液界面に粒子が集まってしまっている状態。解析時に除外される。 では、現在どのような解決策が採られているかというと、程度の差こそあれ(b)?(e)全ての問題を改善する方法としてグラフェンの使用が広まっている。穴があいているカーボン膜には厚さ30 nm程のアモルファス状のカーボンが使用されている。薄いとはいえ穴を維持するため解析には不向きな厚さを持ち、強い背景コントラストを形成する。そこで数nm程度の厚みの非常に薄いアモルファス状のカーボン膜をこの穴の上にのせ、そこに粒子を吸着させる方法が時折採用される。しかし薄いとはいえ、それでも有意な背景シグナルとして画像を形成するので、小さな分子には不向きである。そこで登場したのがグラフェンであった。カーボン膜の穴の上に炭素原子の直径ほどの厚みしかもたず、なおかつ最高の強度をもつグラフェンを貼り付ける(というより敷くという方が操作としては近いだろう)。ここに粒子が吸着することで、気液界面に“浮いて”しまうことや、穴の縁への局在を避けることができ、単分散を実現することができる。配向指向性の問題も解決できることが多いが、ここで気をつけないといけないことは、グラフェンそのものは親水的でないということである。グロー放電中に置くとボロボロに壊れてしまう。そこで、様々な改良グラフェンが提案されており、現在も報告が相次いでいる。最初に広まったのはフレーク状の酸化グラフェンの使用である [7]。ミクロンからサブミクロンサイズのフレークだが、これだとフレークが高い頻度で重なる、うまく穴の上を覆うように乗ってくれない等、データ取得可能な場所が限られてしまい、使用するかどうかの好みは分かれているようである。最近では化学気相蒸着(CVD)により作製された大面積グラフェンが安価に利用でき、また様々な官能基で修飾し、規則的に分子を並べて吸着させる機能化グラフェンも提案されている [8]。さながらタンパク質チップのような代物である。研究室でのハンドメイドから脱却し、商品として安定した製造供給が可能になれば自動データ取得そのものだけでなく、凍結からデータ取得開始に至るまでの効率が非常に改善されることは想像に難くない。 2.1.2 凍結技法の改良・開発 また、凍結の自動化も各種試みられており、cryoWriterやSpotiton、VitroJetが有名どころであろう [9-11]。現在の凍結処理の問題点の一つはブロッティング操作にある。カーボン膜付きグリッドに試料溶液を付着させた後、ろ紙で余分な溶液を吸い取る。この操作がないと溶液内部において急速凍結が実現せず、また、氷層が厚くなってしまい、そもそも観察ができない。このとき、大部分の溶質であるタンパク質などの試料がろ紙に吸い取られるだけでなく、給水の流れが粒子の単分散を邪魔する。そこでブロッティングフリーの凍結方法の実現を試みたのがcryoWriterやSpotitonなどである。特にSpotitonでは時分割解析を狙った試みがなされており、原理的には謳われていたもののこれまで成功事例の少なかった時分割のクライオ電子顕微鏡単粒子解析が期待できる結果となっている。また、当然ながらこれらの装置開発の背景には自動化実現の目論見がある。 2.1.3 試料微動とゴールドグリッド カーボンに穴の開いた膜はメッシュ状の金属(銅やモリブデンが多い)の上に吸着されている。しかし、この構成が長年クライオ電顕ユーザーを苦しめてきた問題を引き起こす。電子線を照射した際におこる試料微動である。20?40 nm動くという報告もある [12]。0.1~0.2 nmの分解能が必要なときにこれはあまりにも大きな値である。銅とカーボン膜では液体窒素温度への冷却で収縮の程度に差が出る。まずこれが一つの原因である。また液体窒素温度下での電気伝導性の低さの問題もある。電荷が蓄積し、これが画像劣化につながる様々な原因をつくる。そこで、Russoたちは、金属部分をすべて金製にしたグリッドを作製したところ、飛躍的にこれらの問題は改善した [12]。ゴールドグリッドとして販売されるようになったこのグリッドは、現在のクライオ電顕単粒子解析ではほぼスタンダードになりつつある。 2.1.4 氷包埋法の未来 誰しもが思い描くのは次のような氷包埋装置だろう??試料を溶解した水溶液を装置にセットすれば、あとは自動で凍結条件を変えた氷包埋試料を作製して、なおかつクライオ電子顕微鏡に自動で挿入され、順番に良い試料かどうか判定される。Spotitonを開発したBridget Carragherは非常に早くからクライオ電子顕微鏡データ取得の全自動化を開発してきた。クライオ電顕解析がまだ黎明期であった90年代には、穴にあいたカーボン膜も自作で、穴の大きさも形もまちまち、場所はランダム。凍結は湿度を調節することなく、勘やろ紙に染み出ていく溶液量を光に透かしながら見るなど職人的要素を強いられるプロセスだった。それが逆にオペレーターに付加価値を与えた。しかし、今ここにきて販売されている新装置を考えると、それほど時間もかからず完全自動化が実現するような気がする。Fragment-Based Drug Design(FBDD)まで見据えた開発を行うのであれば当然の方向である。海外からの開発販売を待つのではなく、国内で完全製品化まで開発できる環境があれば言うことはない。 2.2 画像取得の現在と未来?国産(JEOL社製)電子顕微鏡の巻き返し? 2.2.1 イメージシフトによる撮影 クライオ電子顕微鏡の自動撮影スピードはここ数年で大きく向上した。その理由はイメージシフトを活用した画像取得法が確立されたこととカメラの高速化が要因である。カメラについてはGatan社のK3、TF社のFalcon 4を始め、各社のダイレクトディテクターによる動画取得のスピードが向上したためであるが、今回の主旨とは離れてしまうため詳細は割愛させて頂く。イメージシフトによる撮影方法とはステージを動かさずに多数のホールを電子線の移動だけで撮影する方法である(図2.1)。この方法ではビームを移動させるためbeam tiltが起こるが、これを補正するbeam compensatorというキャリブレーションを行うことで電子線を数ミクロン動かしても分解能に影響なく撮影することが可能である。TF社のEPU(解析用ソフトウェア)でもこの撮影方法が現在メインとなっている。JEOL社はこの電子線の移動が30ミクロン以上可能であり、±15ミクロン程度はbeam compensatorがアクティブで、一度の移動で多数のホールを撮影可能である。JEOL社のCRYO ARM 300 Ⅱはビームを収斂させたときに現れるフリンジを抑えたケラー照明を実装しており、個々のホール内を複数撮影可能である。その結果、試料ステージの移動の度に100枚以上の撮影が可能となる。高速撮影を実現するに当たって重要な要素は、露光時間とデータ転送速度、ビームの移動速度である。Gatan社のK3を使用すると1500フレーム/秒で撮影できるので、1秒以下の短い露光時間で40フレーム以上の動画が記録可能である。また、K3はデータの保存速度が速く、Tiff形式の圧縮を行うことで1動画あたりのファイルサイズを小さくできる。JEOL社ではSerialEMという電子顕微鏡を操作するためのプログラムを使用し、イメージシフトを利用して高速自動撮影ができる [13]。最大の特徴は、豊富な操作コマンドを組み合わせたスクリプトを組むことでユーザーの好きなように画像取得が可能であること。JEOL社から提供されているPythonライブラリPyJEMを活用することもできる。これはPythonベースにDIYができるようなもので、ユーザーの好きなようにJEOLマシンを操作することが可能である。もちろん電子線の移動やbeam compensatorもPyJEMで制御可能であり、すでに様々な操作を可能とするJAFIS.pywというアプリケーションもある。CRYO ARM 300 ⅡではこれをSerialEM(電子顕微鏡用のオープンソフトウェア)と組み合わせることにより一時間で1280枚のapoferritinの像を撮影し、このデータから分解能1.47 Aの構造解析を達成した。これも現時点において高分解能構造解析の世界最高速記録である(図2.2) [14]。具体的には、倍率120kですべての条件を最適化(0.41 A/ピクセル、30フレーム動画、電子線量30 e-/A2、0.5秒露光、一度のステージ移動で5x5ホールおよび8イメージ/ホールのイメージシフトマルチショット撮影で計200枚を撮影)することにより、一枚あたり2.4秒、1分間で25枚の電顕像撮影を可能にした成果である。通常の倍率で撮影する場合(倍率60k、3秒露光)でも一時間あたり600枚程度は撮影可能である。自動撮影の設定さえすれば一晩足らずで5000枚ほど撮影でき、長めの昼休みでも1000枚程度撮影できる。現在のところ完全自動化にはまだ到達してないが、最近はSerialEMがPythonライブラリ化されてpythonから呼び出し可能になったことで、機械学習と組み合わせることにより完全自動撮影の実現は近いと思われる。 図2.1. イメージシフトによるマルチホール高速撮影の概念図 図2.2. 高速撮影によるアポフェリチンの構造解析結果 2.2.2 On-the-flyシステムの構成と特徴 撮影速度が高速化した現在、構造解析の最大のボトルネックは画像解析となった。画像解析は数日でできることもあれば一ヶ月かかることもよくある。On-the-flyシステムとは、撮影用とは別にGPUワークステーションを用意してカメラPCと接続し、撮影と並行して動画のブレ補正であるMotion CorrectionやCTF補正、粒子像の抽出などを行うシステムである。また、ある程度の画像データ収集ができた時点で二次元平均像の作成や三次元再構成を行うことができる。これらはRELIONやCryoSPARCでも利用可能である。また、Warpは非常に優秀で、機械学習を利用した理想的な粒子像の抽出ができることと処理速度が非常に速いという特徴がある [15]。On-the-flyを実現する上でオススメは10 Gbpsイーサネットを使用したNASサーバ構成である。他の複数のGPUマシンからアクセスすることで、WarpなどでMotion CorrectionやCTF補正、粒子像の抽出をしながらCryoSPARCやRELIONで解析することができる。これのメリットは、解析時間を短縮しつつ、ある程度データが溜まった時点で二次元平均像から粒子像の投影角度に偏りがあるかをその場で確認できること、また三次元再構成像から目標とする分解能の達成にどの程度の枚数の電顕像が必要かを計算できる点である。また、試料粒子像に変性や崩壊したものが多くある場合は、解析に使用できる粒子像がどの程度あるかを探ることで撮影枚数を設定することもできる。後述するが、JEOL社のマシンでは凍結試料グリッドが電子顕微鏡内に長期保存可能なので、他のユーザーが使わない日(例えば週末)に追加で撮影するかどうかを決めることもできる。また、共同利用の際には解析結果をその場で確認できるため、解析がある程度終わるまで数日から数週間という時間を経てからその後の方針を相談するより具体的な戦略を立てやすく、次回のサンプル調製や解析の相談までできて、外部利用者にとっては大きなメリットである。 2.2.3 国産クライオ電子顕微鏡CRYO ARMの運用方法 JEOL社はCRYO ARMをスクリーニング兼自動データ収集に使用することを推奨している。そのワークフローは日中に複数のグリッドをスクリーニングして、夜の間に自動撮影でデータ収集を行うというルーティンである。撮影速度が早いので、日中に各グリッドについて2時間ほどデータを収集してon-the-flyで様子をみるということも出来る。CRYO ARM 200/300では搬送系の窒素パージを前室で行うのでコンタミが少なく、ベイク無しでも数週間という長いスパンで凍結試料グリッドを電子顕微鏡内に保持可能である。このメリットは先程記述した通りマシンの共同利用で大いに発揮する。例えば、撮影したい試料グリッドが複数できたがマシンタイムが十分確保できなかった場合でも、試料グリッドを電子顕微鏡内に保持しておけば、別のユーザーの試料が不幸にも本格的データ収集に至らず終了してしまったタイミングですぐに自動撮影を仕掛けることができる。JEOL社はグリッドの搭載に細長いカートリッジ式を採用しているので、グリッドのマップはスクリーニングしたときのものがそのまま利用でき、位置もほとんどずれないため自動撮影の再設定に時間をかける必要もない。このように多くの利用者がいてもマシンタイムを無駄なく上手に活用できる。また、CRYO ARM 200は、一般にはスクリーニングマシンとして使用される加速電圧200 kVのマシンであるが、実はハイエンドマシンとしてのポテンシャルを十分に持っている。標準でエネルギーフィルタとCold FEG、K3カメラを搭載しているため、データ収集速度でも分解能でも300 kVマシンに引けを取らない性能を発揮する。米国NIHにインストールされたCRYO ARM 200ではβ-galactosidaseで1.8 Aを記録し [16]、他にも2 Aより高い分解能の構造がいくつも得られたと聞いている。このようにCRYO ARM 200でもスクリーニングから高分解能データ収集まで一括して行うことが可能であり、CRYO ARM 200と300が近くにある環境では200でスクリーニングしたグリッドを300にカートリッジごと移行させることで、簡単により高分解能の構造解析が期待できる。 TF社のマシンと比較して使い勝手が良くないと批判はあるが、JEOL製品に最適化されたSerialEMスクリプトを使用することで問題は解決できており、ルーティンとして使用する分には全く問題がない。スクリーニングのスピードやデータ収集速度、到達分解能において実質的な性能差は殆どない。データ収集速度ではJEOLマシンの方が優れている。TF社が提供するEPUほど洗練された自動撮影プログラムがない点では遅れを取っているが、ハードウェアとしてはCold FEGによる高解像度撮影が可能である点で優れており、あとはソフトウェアの問題であるため近い将来に挽回可能である。JEOLマシンはPyJEMを始めとして、機械学習をライブラリから利用できるPythonを使用することで、ごく近い将来に完全自動化が実装可能な状況である。そうなれば使い勝手という言葉は意味を持たず、ただデータを自動収集するマシンとなる。共同利用の際にクライオ電子顕微鏡をメーカーで選ぶ時代ではなくなり、利用料金やサービス、担当者で選ぶ時代がすぐそこまで来ている。 3. 国産のクライオ電子顕微鏡の共同利用開始 2.2項で述べた自動画像取得可能な最先端の国産クライオ電子顕微鏡が2台、筑波大学生存ダイナミクス研究センターに設置され、2021年度内に稼働を始める。AMEDが実施している創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)事業(https://www.binds.jp)の一環として運営される本機器は製薬企業等民間企業への支援を一番の目標としている。現実的な創薬への貢献が使命であり、そのためシステマティックな運営と、国産である最大のメリットとしてメーカーによる十分なバックアップ体制のもとでの利用が可能なことが挙げられる。近隣の高エネルギー加速器研究機構とともにTCEFと名付けられたチームとしてつくば地区で運営される。つくば地区が今まで以上に構造解析の巨大な共同利用施設の拠点として機能することになる。 4. SARへの貢献 実際、クライオ電子顕微鏡単粒子解析が創薬につながった例はまだ少ない。創薬に関連して構造活性相関に触れた成果としては2017年に報告された抗マラリア薬メフロキンの例が初期の例としてあげられるだろう [17]。有名な抗マラリア薬メフロキンが実はリボソームに結合していることを明らかにしただけでなく、その構造を基に作製した構造誘導体は寄生虫に対する殺傷効力が2倍になったことが報告されている。この時のメフロキンと80Sリボソーム複合体の分解能は3.2 Aと決して良い値ではなかった。 SARへの応用として、現在のクライオ電子顕微鏡単粒子解析の問題点は、一旦リード化合物との複合体構造が得られた後にある。様々な誘導体が結合した多数の構造を迅速に解いていかなくてはならない。これに現在のクライオ電子顕微鏡単粒子解析が耐えうる程の効率をもっているかというと、実現に向けて鋭意努力中というのが正直な答えだろう。表1をみて頂きたい。これは文献 [18, 19] を基に、さらに我々が独自に調べて作成した表である。GPCRへの取り組みが多いのには改めてなるほどと思わされるが、GABAA受容体を見て頂くと、チャネルブロッカーとしてピクロトキシニン、ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)としてジアゼパムとアルプラゾラム、PAMのアゴニストとしてフルマゼニル、アンタゴニストのビククリン、アゴニストとしてのGABAとの複合体がクライオ電子顕微鏡単粒子解析で解析されている。面白いのはジアゼパムがPAMとして細胞外ドメインに結合するだけでなく、神経ステロイドとして膜貫通部位に結合しているところが捉えられていることである。DRD1-Gsもみて頂きたい。5種類の化合物について結合状態が報告されている。 これらの結果は多種の化合物について、それぞれのターゲット分子との複合体が構造解析可能なことを示している。しかし、すべて3 A台の解析であり、SBDDを行うとなると不十分な解像度であろう。本来であれば1 A、悪くても2 Aを超える分解能は欲しい。確かに解析スピードは最大の課題であるが、ファーマコフォアのみに焦点を当てて高分解能解析を行うなどSBDDに特化した解析段階の工夫も必須だと考える。 表1. クライオ電子顕微鏡解析により解かれたターゲットタンパク質と薬剤複合体の構造 謝辞 クライオ電子顕微鏡の導入は、AMEDの創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)事業によるものです。 ///// Cutting Edge ///// クライオ電子顕微鏡法-学術基盤技術から創薬ツールへ Thermo Fisher Scientific 葦原雅道 1. はじめに クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析法は、生体高分子の構造解析手法として利用例が飛躍的に急増している。その対象範囲は幅広く、ウィルスやリボソームといった超分子複合体から、創薬ターゲットとして極めて重要な膜タンパク質に至るまで原子モデル構築に足る分解能での構造解析を可能にしている。現在のX線結晶構造解析 (XRD) 法や核磁気共鳴 (NMR) 法では解析が困難な標的分子の構造解析を推進できる非常に魅力的な手法である。 では、単粒子構造解析法を含むクライオ電子顕微鏡法がいかなる技術革新を経てタンパク質立体構造解析の基盤技術に発展し、立体構造を詳細に解明してきたのであろうか。また、世界的パンデミックを引き起こしているCOVID-19ワクチン開発において、いかに構造的基盤情報を提供したのか。さらには本手法による高分解能構造情報がいかに創薬に適用され、今後の新薬開発にパラダイムシフトを起こす可能性を秘めているのか、本稿で順を追って解説する。 2. クライオ電子顕微鏡法 クライオ電子顕微鏡法とは、生体高分子等溶液状態の試料を非晶質氷に包埋し、液体窒素温度下で像観察を行う電子顕微鏡手法の総称である。その中で、代表的な三次元構造解析手法として、単粒子構造解析法、電子線トモグラフィー法、電子線回折法(MicroED法を含む)がある [1]。単粒子構造解析法はタンパク質の原子分解能での構造解析手法として近年最も普及している手法である。一方、電子線トモグラフィー法は細胞内のオルガネラや、ウィルスと宿主細胞との相互作用様式の解明など、単離精製せずin situでの構造解析を行えることから、単粒子構造解析法の次のフロンティアと目されている [2]。さらに、電子線回折法、特にMicroED法では、微小の三次元結晶から電子線回折法により構造決定可能である [3, 4]。微結晶からの回折パターンをもとにタンパク質のみならず有機・無機低分子化合物や金属・有機構造体 (Metal-Organic Framework: MOF) 、鉱物等幅広い分野で注目を集めている [5,6]。本稿では、主に単粒子構造解析法を中心に展開し、2.3項でMicroED法の応用について言及する。 2.1 クライオ電子顕微鏡の技術革新 クライオ電子顕微鏡法の開発は1980年台前半に遡る。Dubochet博士により開発された急速凍結技法により、溶液状態の生体高分子の生理的機能条件での可視化が可能となった [1, 7]。またHenderson博士により、生体高分子の電子線回折パターンから初めて原子モデルの構築にいたる [1, 8]。Frank博士が開発した電子顕微鏡画像からの立体構造解析アルゴリズムは現在主流である単粒子構造解析法の礎となっている [1, 9]。上記三名の先生方はその功績を称えられ2017年のノーベル化学賞を受賞された [10]。その後、装置、解析アルゴリズム双方の断続的な技術革新を経て、2000年代に入り大きな変革期を迎える。 近年の単粒子構造解析法による飛躍的な分解能の向上は、大きくクライオ電子顕微鏡システムの自動化、電子直接検出器と構造解析アルゴリズムの発展に起因する [1, 2]。従来、クライオ電子顕微鏡は急速凍結した試料グリッドを液体窒素温度下で専用試料ホルダーにより一つずつ電子顕微鏡に搬送していた。凍結試料の成否は凍結グリッド上での濃度、分散、非晶質氷の厚み等にかかる。最適な凍結グリッドに至るまでに複数回の試行錯誤が必要になる。そのため複数のグリッドを逐次搬送し、グリッドの最適化を迅速に行うことが急務であった。2007年に開発上市されたThermo Scientific Krios (当時FEI Company) の誕生により、凍結試料自動搬送機構Autoloaderを備え、最大12個の凍結グリッドを一度にセットし、順にクライオ電子顕微鏡鏡筒に搬送することで、最適グリッドの選定を最適化した。またKriosは液体窒素の自動供給機構とソフトウェアによる自動操作を完備し、最大で一週間連続での自動測定を可能にした。これによりデータ取得のスループットが大幅に向上することになる。 次に、画質の劇的な向上である。2013年に発表された電子直接検出器K2 (AMETEK-Gatan) の誕生により、単粒子構造解析法の分解能は一気に擬似原子分解能に到達する [11, 12]。電子直接検出器では、CMOSセンサーにより電子を電子のまま記録できることから、ピクセル間での強度情報のにじみがなく、S/Nの向上と画像コントラストの大幅な改善が図られた。現在、電子直接検出器として、K3 (AMETEK-Gatan) とFalcon 4 (Thermo Fisher Scientific) が主流である。 第三に、構造解析アルゴリズムにベイズ統計による推論を実装したRelion [13] の登場である。従来、単粒子構造解析法では個々の粒子像とレファレンス像との相互相関により、投影角度のアサインやクラス分けを実施していた。しかし、Relionでは事前確率と事後確率を指標に取り入れ、クラス分けにおける統計学的確からしさを計算する。Relionの登場により、上記二点の技術的ブレークスルーと相まって、単粒子構造解析法による分解能を原子モデル構築可能な3 Å以下にまで飛躍的に高めた [2]。 上記三点の技術的要件は、昨今のクライオ電子顕微鏡法に欠かすことのできない必須アイテムといえる。今後更なる要素技術の高度化が大いに期待される。 2.2 単粒子構造解析法は原子レベルへ 前項2.1.で三点の技術的マイルストーンを紹介した。タンパク質試料調整技術の成熟化と相まり、単粒子構造解析法は1 Å台前半まで高分解能化する。Apoferritinの構造が1.22 Å分解能で解析され、密度マップから水分子を明瞭に確認できる [14](図1 B)。またGABAA受容体も1.7 Å分解能で解析され、リガンドの結合様式が詳らかになった [14] (図1 C)。これらを可能とした更なる技術革新として二点あげられる。一点目が冷陰極電界放出型電子銃Cold-FEGの搭載である。従来の電子銃と比較して高干渉性の電子線を照射でき、高い空間分解能の画像記録に寄与する。二点目にエネルギーフィルターである。試料を透過した電子線には画像シグナルとなる弾性散乱電子とノイズとなる非弾性散乱電子が含まれる。非弾性散乱電子をエネルギーフィルターで除去することで弾性散乱電子のみを結像させ、高S/N・高コントラストの画像記録を実現する。これら技術的要素が必須装備となるかは未だ検証の余地があるものの、単粒子構造解析法の威力を示す代表的な結果である(図1 A)。 図1. 単粒子構造解析へのCold-FEG, Energy Filterの寄与 A. Cold-FEG, Energy Filterの模式図。B. Apoferritinの密度マップ (PDB: 7A4Mを基に作図) 。C. GABAA受容体の密度マップとリガンド結合部位の拡大図 (PDB: 7A5Vを基に作図) 。 2.3 MicroED法への期待値 X線結晶構造解析法における課題は単結晶の作製である。特に有機合成分子の場合、目に見えるかどうかの微小な結晶しか与えない化合物も多く、単結晶の作製が構造解析の成否を分ける [15]。しかし、ここに従来の常識を大いに覆すMicroED法が現れた。2018年にアメリカとスイスのグループから同時に発表された論文により、有機および無機の低分子三次元構造の決定が実証されたのである [16, 17]。 X線結晶構造解析法と比較して優位性が三点ある。第一に、数個の微結晶から構造決定できることである。従来、X線結晶構造解析法では、直径数十 ?mが結晶サイズの下限とされてきたのに対して、直径1 ?m以下の微結晶でも構造解析が可能である。第二に、水素原子の位置を容易に決定することが可能である。第三に、結晶の混合物でもそのまま解析でき、混合物中の結晶を一つひとつ解析可能であり、結晶多型の判別・同定にも展開可能である [18]。 MicroED法に必須の装備は比較的単純である。上記2.1項で示した高安定試料傾斜機構装備のクライオ電子顕微鏡プラットフォームに加え、連続傾斜回折パターンの自動取得ソフトウェア、高S/N回折パターン取得用の専用CMOSカメラである。これらは単粒子構造解析法及び電子線トモグラフィー用のクライオ電子顕微鏡システムと共存でき、必要な解析手法にあわせて同一の装置を切り替えて使えることも魅力のひとつである。 試料グリッドに構造決定したい化合物の微粉末試料をまぶし、電子顕微鏡の鏡筒内に搬送する。良い微結晶をターゲットし、試料ステージを連続的に回転させ、CMOSカメラで連続的に回折パターンを取得することで、数分でデータ取得が完了する。その後データ処理を行い分子構造の三次元構造が得られる。試料グリッド作製から数時間で構造決定に至り、いずれの報告例においても1 Å前後の分解能で構造解析が達成されており、原子同士のつながりをみるうえで申し分ない分解能である [18](図2)。 このように、MicroED法は、微結晶からの構造決定、水素原子位置の決定、結晶混合物からの解析、他クライオ電子顕微鏡手法との装置共有など特徴を多く有し、非常に魅力的な手法である。本手法はタンパク質構造解析の枠を超え、有機・無機化学者ならびに素材、材料研究者、多岐にわたる分野への橋渡しとなる技術と言えよう。 図2. MicroEDによる低分子化合物の構造解析 A. MicroEDデータ取得の模式図。B. Paracetamolの回折パターン。C. Paracetamolの結晶構造 (データ取得: Thermo Fisher Scientific Shanghai NNP) 。 3. クライオ電子顕微鏡法の創薬応用 クライオ電子顕微鏡法の適用事例は枚挙に暇がない。特に単粒子構造解析法によるタンパク質複合体の高分解能構造の登録数はProtein Data Bank (https://www.rcsb.org/) ならびにElectron Microscopy Data Bank (https://www.ebi.ac.uk/emdb/) ともに飛躍的に増加している。特筆すべきは構造登録数だけではなく、その適用対象が拡大していることである。分子量52 kDaのStreptavidinが1.9 Å分解能で構造解析され、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) ファミリーは驚異的な速度で複合体構造が決定されている [19, 20]。さらには、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するタウタンパク質フィラメントの原子レベルでの分子構造が決定された[21]。 本章では、単粒子構造解析法の応用事例としてCOVID-19ワクチン開発への貢献、産業界におけるクライオ電子顕微鏡法の導入をテーマに見ていく。 3.1 COVID-19ワクチン開発における構造的アプローチの貢献 2019年11月に中国武漢市に端を発するSARS-CoV-2(コロナウィルス)の蔓延は世界的パンデミックCOVID-19を引き起こした。その影響はいまなお続き、世界に甚大な影響を及ぼしている。人々への早期のワクチン接種ならびに治療薬の開発が急務である。本節では、COVID-19ワクチンの迅速な開発の一端をクライオ電子顕微鏡法が担ったことを紹介したい。 Pfizer-BioNTechおよびModernaに代表されるように、mRNAを遺伝物質として開発されたワクチンは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードする。前者のワクチン BNT162b2 は、P2 変異を有する Sタンパク質(P2 S: スパイクタンパク質のアミノ酸残基986番のリシンおよび987番のバリンをプロリンに変異)をコードする修飾ヌクレオシド RNA (modRNA) を、脂質ナノ粒子 (LNP) を用いて製剤化したRNA製剤である。P2 S変異体が使われ、スパイクタンパク質のpre-fusionコンフォメーションを選択的に発現するように設計されている [22]。この選択的なコンフォメーションデザインに単粒子構造解析法の高分解能構造情報が活かされている。mRNAがコードするスパイクタンパク質を発現、精製し、単粒子構造解析法によりコンフォメーションを分類すると、およそ80%のスパイクタンパク質粒子がpre-fusionコンフォメーションを有することが明らかとなった。そして、残りの20%のスパイクタンパク質粒子においても、三量体を形成するプロトマーのうち、一つの受容体結合ドメインがupコンフォメーション(受容体結合フォーム)、二つがdownコンフォメーション(受容体非結合フォーム)を示した [22]。この構造情報をエビデンスとしてmRNA配列の最適化が行われた(図3 A)。 またスパイクタンパク質とAngiotensin Converting Enzyme 2 (ACE2) 受容体との複合体構造も詳細に解明され、スパイクタンパク質と受容体との結合様式も明らかとなった [23]。そこで結合ドメインをターゲットとして、種々のモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品が開発されている。代表的なものとして、Regeneronの抗体カクテル療法があげられる。スパイクタンパク質のクライオ電子顕微鏡法と質量分析法によるエピトープマッピングから、二種類の異なるモノクローナル抗体を異なるエピトープに結合するように組み合わせ、抗体医薬品の耐性ウィルスの出現を阻止する試みが図られている [24](図3 B)。 図3. COVID-19ワクチン・治療薬開発へのクライオ電子顕微鏡法の貢献 A. BNT162b2がコードするスパイクタンパク質の立体構造 (PDB: 7L7Kを基に作図) 。B. Regeneron抗体カクテルの立体構造 (PDB: 6XDGを基に作図) 。C. 脂質ナノ粒子 (LNP) のクライオ電子顕微鏡像の一例。 さらにクライオ電子顕微鏡法の活用は単粒子構造解析法に限った話ではない。上記mRNAベースワクチンはキャリアとしてLNPが使われ、mRNAが封入される [22]。これらキャリアの構造や品質がmRNAの宿主細胞への運搬・トランスフェクション、ひいては効能に大きく影響する。そのためキャリア自体のサイズ、形状、mRNAの含有率等、製造工程における正確なコントロールが必要不可欠である。この品質管理にもクライオ電子顕微鏡法が有効な手法である。LNPを氷包埋し、凍結条件下で生理的環境下でのインタクトな形状解析が可能となる(図3 C)。本アプローチは、アデノ随伴ウィルスベクター (AAV) やウィルス様粒子にも適用可能であり、近い将来実用化が期待される遺伝子治療にも貢献する技術といえる。 3.2 産業界におけるクライオ電子顕微鏡法の導入 前節ですでにクライオ電子顕微鏡法のワクチン開発への応用に言及したが、本節ではより創薬に焦点をあて産業界での応用に触れる。製薬企業におけるクライオ電子顕微鏡法の導入は2016年のHenderson博士と大手製薬5社とのディスカッションに端を発する。当時黎明期にあったクライオ電子顕微鏡法をいかに創薬に活用していけるか、議論を重ねた後、Cambridge大学、AstraZeneca、GlaxoSmithKline、Sosei-Heptares、Astex、UCB、Thermo Fisher Scientific (当時FEI) がコンソーシアムを形成してKriosを用いた実証試験運用を開始した。Thermo Fisher Scientificの技術者が装置管理、データ取得、解析のサポートを行い、各社平均して1週間に1日のマシンタイムを割り当てられる。各社プロジェクトは相互に機密保持契約の下に遂行される一方、実験で得たクライオ電子顕微鏡法におけるノウハウや知識を定期的なユーザーミーティングで共有する仕組み作りがなされている。具体的な成果の詳細は解説文献に譲りたいが、各社Structure-Based Drug Design (SBDD) を創薬の根幹に据え、構造情報をエビデンスとした創薬を本格化させている。コンソーシアムを継続しつつ、加盟各社は装置の自社導入に投資している [25]。 2017年以降、Pfizer、Genentech、Novartis、Merck & Co.を筆頭に、クライオ電子顕微鏡の自社導入をいち早く進め、構造情報を創薬に積極的に活かしている。早期導入社に後れを取ることなく各社が自社投資もしくはContract Research Organization (CRO) 各社への委託という形でクライオ電子顕微鏡を創薬に取り入れている。自社装置投資は国内でも2020年から始まっており、国内企業の創薬レースにおける優位性に大いに期待したい。非常に興味深い統計データは、製薬企業ランキング上位50位に入る会社だけでなく、中規模のバイオテックや新興のIT創薬を標榜する会社も導入を進めていることにある。これはSBDDがDigital Transformation (DX) 革命とちょうど相まみえ、創薬のスピードが急加速するのではないかと思われてならない。 創薬ターゲットへの応用例の一端を紹介したい。創薬ターゲットの30 ? 40%を占めるGPCR構造解析の進展に伴い、構造情報に基づいた低分子医薬候補品あるいはペプチド候補品のリード候補最適化の開発競争が熾烈化している。Sexton博士らは2型糖尿病治療薬のターゲットとされるグルカゴン様ペプチド1受容体 (GLP1R) と治験中の経口投与低分子医薬候補品 (TT-OAD2) との複合体構造から、ペプチドと異なる結合ポケットへのアゴニスト結合様式を示し、代謝疾患のための経口投与可能な治療薬開発への手掛かりをもたらした [26] (図4 A)。次に、Merck & Co.は、インシュリン受容体-インシュリン複合体の構造解析に成功し、結合作用様式の解明に至る [27] (図4 B)。Genentechでは、CD20受容体-抗体複合体の構造解析を行っており、抗体医薬候補品のターゲットタンパク質との結合様式の解明に至っている [28] (図4 C)。Astexでは、Fragment-Based Drug Discovery (FBDD) を遂行し、低分子フラグメントとターゲットとの共結晶構造情報からヒット化合物を同定し、量子化学計算手法と組み合わせ、リード最適化プロセスを進めている [29] (図4 D)。国内の製薬企業5社による非競合領域における共同プロジェクトとして、human Ether-a-go-go-Related Gene (hERG) の構造解析が進められた [30]。オフターゲットという副作用に関わるタンパク質構造解析は非常に興味深い視点である(図4 E)。他にも報告されている文献だけでも多岐にわたる利用例があり、詳細は総説に委ねたい [31-34]。 図4. 創薬ターゲットの構造解析事例 A. GLP1R - 低分子候補化合物TT-OAD2複合体の立体構造 (PDB: 6ORVを基に作図) 。B. インシュリン受容体-インシュリン複合体の立体構造 (PDB: 6CE9を基に作図) 。C. CD20 - Rituximab複合体の立体構造 (PDB: 6VJAを基に作図) 。D. FBDDによるPKM2リガンド探索 (PDB: 6TTQを基に作図) 。E. hERGの立体構造 (PDB: 5VA1を基に作図。PDB: 7CN0を参照) 。 4. 今後の展望 クライオ電子顕微鏡法、特に単粒子構造解析法の威力は凄まじく、今後も生物学的・臨床的に極めて重要なタンパク質複合体の構造情報が提供されていくことは疑問の余地がない。ターゲットタンパク質がどんどん高難度になるに従い、タンパク質固有の柔軟性、不安定性、結合解離等、構造解析においてクリアすべき課題は山積しており、単粒子構造解析法の成否は試料精製技術にかかっているともいえよう。勿論、本稿で述べた技術的要素の更なる進展は必要不可欠であるが、昨今の量子化学計算手法やAIによる深層学習との相乗効果により、3 Å程度の比較的低分解能構造情報からSBDDを遂行できることが報告されており、常に実験的に高分解能を狙うだけでなく、計算科学と組み合わせて構造を理解していくアプローチも今後図られていくことが予想される [35]。本稿を執筆の最中(2021年8月現在)にAlphaFold2のタンパク質構造予測論文が報告され、AIの脅威を目の当たりにした [36, 37]。実験的アプローチとしての構造生物学手法が廃れるのではなく、むしろ実験構造生物学が教師学習データを提供し、機械学習とクロストークしていく時代はすぐそこにあるのではなかろうか。 本稿では主に単粒子構造解析法に焦点を絞り解説したが、他の手法も非常に将来性が期待される。MicroED法は、解析技術のさらなる高度化により、低分子化合物やペプチドの構造設計に重要な知見を与える大きな可能性を秘めており、従来の合成スキームにパラダイムシフトを起こす可能性がある。さらに電子線トモグラフィー法が進展すれば、生体内でのタンパク質複合体のin situ構造、タンパク質-タンパク質阻害作用の解明、ウィルス-受容体結合様式の構造的理解などが期待できるので、これは次のフロンティアとして極めて注目すべき手法である。 5. 終わりに 本稿では、クライオ電子顕微鏡法、特に単粒子構造解析法の技術的進展、微結晶サンプルへのMicroED法の興隆、単粒子構造解析法のCOVID-19ワクチン開発への貢献、そしてクライオ電子顕微鏡法の産業界における導入状況について解説した。本技術は日進月歩であり、その進歩には、生化学や計算科学など周辺の発展も欠くことのできない重要な要素である。今日の技術的限界が明日にはなくなり、本手法を取り入れて当たり前の未来はすぐそこにある。 謝辞 本稿の執筆にあたり、原稿内容のディスカッション、校正にご協力いただいたThermo Fisher Scientificの皆様に深く感謝いたします。 ///// Cutting Edge ///// 分子動力学計算に基づくクライオ電顕構造の モデリングおよび最適化 理化学研究所 森貴治 1. はじめに タンパク質の立体構造解析において、クライオ電顕を用いた単粒子解析が盛んに用いられている。単粒子解析とは、電顕によって撮影されたタンパク質の多数の2次元画像を再構成し、3次元密度マップを得る方法である。近年、ウイルスやリボソームなどの巨大タンパク質複合体だけでなく、膜タンパク質や核酸複合体などの小さな系に対しても近原子解像度で密度マップが得られるようになり、いくつかのケースでは原子解像度が達成されている。一方、大規模構造変化を起こすような柔らかいタンパク質を対象とした場合、柔らかいドメインなどで局所解像度が上がらないことが多く、常に高解像度の密度マップが得られるとは限らない。局所解像度が低いあるいはノイズを多く含む密度マップを扱う場合、タンパク質の分子構造を慎重にモデリングする必要がある。密度マップから分子構造をモデリングする手法として、剛体ドッキング、フレキシブル・フィッティング、De novoモデリングがある。剛体ドッキングでは、タンパク質を構成するドメインあるいは、複合体の構成因子を電顕密度マップに当てはめ、構造がマップに合致するように各構成因子の最適な位置や配向を探索する。フレキシブル・フィッティングでは、分子動力学 (Molecular dynamics; MD) 計算などに基づいて原子を動かしながら立体構造を最適化する。De novoモデリングでは、アミノ酸配列に基づき電顕マップから立体構造を直接予測する。多くの場合、これらの方法を組み合わせながら立体構造を決定するが、フレキシブル・フィッティングは最終的な構造精密化において必要不可欠である。しかしながら、信頼性の高い構造モデリングを行うためには、フレキシブル・フィッティングにおけるバイアスの力をどうやって決めるか、そして得られた構造をどのように評価して最も確からしい構造モデルを選ぶかが重要になってくる。本稿ではフレキシブル・フィッティングの原理を簡単に解説した後、これまでに開発された手法に基づいて最適な構造モデリング法を提案する。また、最近の計算科学分野における動向も踏まえ、今後の展望について述べる。 2. MD計算に基づくフレキシブル・フィッティング 2.1 基本原理 一般的に用いられるフレキシブル・フィッティング法では、タンパク質の立体構造が電顕密度マップにフィットするようにバイアスを付加しながらMD計算を実行する(図1A) [1]。MD計算とは、ニュートンの運動方程式F = maを各原子に適用し、原子の位置を力Fや速度に応じて微小変化させながら系を時間発展させる方法である。Fは系のポテンシャルエネルギーの原子位置に関する1階微分から計算され、ポテンシャルエネルギーは、分子内の結合の伸縮運動や変角運動のエネルギー、二面角の回転エネルギー、van der Waals 相互作用やクーロン相互作用の和(力場と呼ばれる)で計算される。フレキシブル・フィッティングでは、力場およびバイアス由来の力が原子にかかることによって、分子力学的に安定でかつ電顕密度マップと一致するような立体構造が得られる。MD計算以外にも基準振動解析を用いる手法が提案されており、これはタンパク質が調和振動子として振動していると近似し、振動モードの方向に原子を変位させてタンパク質を変形させる方法である [2]。 図1 MD計算に基づくクライオ電顕フレキシブル・フィッティングの概要。(A) 電顕密度マップに一致するようにバイアスをかけながらMD計算を実行する。(B) 相関係数 (c.c.) は実験マップと計算マップの一致度を示す指標であり、計算マップは各原子の中心に3次元ガウス関数を置き、各ボクセル (i,j,k) においてすべての原子からの寄与を足し合わせる。 フレキシブル・フィッティングにおける系のポテンシャルエネルギーEtotalは、一般に力場の項EFFとバイアスの項EEMの和で表現される: ?(E_"total" =E_"FF" +E_"EM" #(1) ) EFFは通常のMD計算で用いられるものと同等であり、これまでにCHARMM力場 [3] やAMBER力場 [4] などが開発され、様々な生体分子複合体へ適用できるようにパラメーターが最適化されている。EEMには実験マップと計算マップとの相関係数 (cross-correlation coefficient; c.c.) を含めた式が広く用いられる: ?(E_"EM" =k(1-c.c.)#(2) ) ?(c.c.=(∑_ijk??ρ^"exp" (i,j,k) ρ^"sim" (i,j,k) ?)/√(∑_ijk??ρ^"exp" (i,j,k)^2 ? ∑_ijk??ρ^"sim" (i,j,k)^2 ?)#(3) ) ここで、式 (2) のkは力の定数であり、式 (3) の?expと?simはそれぞれ実験マップおよび計算マップ中のボクセル (i,j,k) 内の密度値である(図1B)。相関係数は実験マップと計算マップの一致度を表す指標であり、1に近いほど両者が一致していることになる。計算マップは、MD計算中のタンパク質のスナップショットから理論的に生成されるマップであり、各原子に3次元ガウス関数を置いて混合させるGaussian mixture モデルが用いられる: ?(ρ^"sim" (i,j,k)=∑_(n=1)^N??_(V_ijk)^ ??g_n (x,y,z)"d" x"d" y"d" z?#(4) ) ?(g_n (x,y,z)="exp" [-3/(2σ^2 ) {?(x-x_n)?^2+?(y-y_n)?^2+?(z-z_n)?^2 }]#(5) ) ??はガウス関数の幅を表すパラメーターであり、2??は計算マップの解像度に対応する。実験マップ中には水素原子の密度はほとんど見えないため、計算マップを生成する際には重原子のみにガウス関数を置くか [2]、あるいは、原子の質量数や電子数に応じてガウス関数をスケーリングする [5-6]。フレキシブル・フィッティングでは、EEMが減少、すなわち、相関係数が増大するように各原子にバイアスがかかり、最終的に実験密度マップに一致するような分子構造が得られる。 相関係数を用いないEEM も提案されている。MDFF法では、電顕マップ中の密度の勾配に応じてバイアスを付加する、すなわち、密度が高い方向に原子を動かす [7]。このような方法は、解像度が高く、各原子の密度が比較的見えている場合は大きな問題は生じないが、解像度が低い場合、例えば、?ヘリックスの密度が棒状に見えているような場合は、ヘリックスの中心に向かうような力が原子に加えられてしまうため、タンパク質の立体構造が崩れる可能性がある。そのため、MDFF法では場合によっては式 (1) に二次構造の拘束項が必要となる。実際に低解像度のマップを用いて二次構造拘束を弱くした場合、マップデータへのoverfittingによって構造が歪むという報告もある [8]。 2.2原子モデルおよび溶媒環境の選択について 通常のMD計算では、タンパク質の分子構造を表現する方法として、全原子 (all-atom) モデル、融合原子 (united-atom) モデル、粗視化 (coarse-grained) モデルなどの様々なモデルが用いられる(図2A)。全原子モデルでは水素も含めて原子1個を1つの球として表現し、融合原子モデルでは炭化水素部分 (CHn) の水素を炭素に取り込むことで水素を省略する。粗視化モデルでは複数の原子を束ねて1個の球として近似する。粗視化モデルの代表例として、郷モデルがある。これは天然構造において接触しているアミノ酸残基同士に引力、それ以外の相互作用には斥力を考慮することで、天然構造を最も安定にするようなモデルである [9]。郷モデルは一般的にCαモデルで表現されるが、重原子で表現されるall-atom Go modelも考案されている [10]。それぞれのモデルには一長一短があり、例えば、全原子モデルは、アミノ酸側鎖の化学的性質を表現できるため、モデルの精度は高いが、原子間相互作用の計算に膨大なコストがかかる。融合原子モデルは、高解像度情報を保持しながら計算コストを抑えることができるが、力場によっては核酸や脂質などの他の生体分子が利用できない。粗視化モデルは、さらに計算コストを抑えることができるが、側鎖の詳細な構造情報や化学的性質が損失してしまう。一般的にフレキシブル・フィッティングでは、全原子モデルが用いられるが、後述のように構造空間を広くサンプリングしたい場合には粗視化モデルも有用となる。 図2 フレキシブル・フィッティングに利用できる溶質モデルと溶媒モデル。(A) 左から全原子モデル、融合原子モデル、粗視化モデル、C?型郷モデル、(B) 左からExplicit solvent モデル(水環境)、Implicit solvent モデル (水環境), Implicit 膜モデル、Implicitミセルモデルの例を示す。 MD計算においては溶媒の効果を考慮することも重要である。実際、真空中でタンパク質のMD計算を実行すると、大抵の場合、原子間の強い静電的相互作用によって二次構造が崩れてしまう。フレキシブル・フィッティングではEEMによって天然構造が保持されるバイアスがかかるため、真空中でのMD計算に比べるとタンパク質の構造は崩れにくいが、低解像度領域で構造が崩れる可能性があり、少なくとも溶媒環境を考慮したほうがよい。溶媒環境を考慮する方法として2種類あり、溶媒分子を系にあらわに取り入れる方法 (explicit solvent)と、溶媒環境を連続体として近似的に取り入れる方法 (implicit solvent) がある(図2B) [11]。Explicit solvent モデルでは、タンパク質を十分な数の溶媒分子の中に浸す必要があるため、溶質-溶媒間および溶媒-溶媒間相互作用の計算に膨大な時間がかかってしまうが、機能に関与するような溶媒分子の配位構造などを解析でき、また、フィッティング後の構造からシームレスに全原子MD計算へ移行できる。Implicit solventモデルは、溶質中の各原子の埋もれ具合から溶質の溶媒和自由エネルギーを計算し、系のポテンシャルエネルギーに付加する方法である。溶媒和自由エネルギー由来の力によって溶質の親水性部分は溶媒に露出し、疎水性部分は溶質内部に埋もれるようになる。Implicit solvent の利点は、溶質の構造変化の緩和が早いことと、水環境だけでなく、膜環境も容易に導入できることにある。実際、Explicit membraneモデルでは膜タンパク質を脂質二重膜に埋め込む必要があり、これはしばしば手間のかかる作業になるが、Implicit membraneモデルでは誘電率 ??= 80の中に1~2程度の低誘電率の相を設置することで膜環境を模倣できる。水環境を模倣したモデルとして、GB/SA [12] やEEF1 [13]、脂質二重膜モデルとしてHDGB [14] や IMM1 [15] などの様々なモデルが考案されている。さらに近年、筆者らによってミセル環境を模倣できるモデルとして IMIC (Implicit micelle) が開発された [16]。IMICモデルでは、疎水コア領域を超楕円体で近似し、楕円体のXYZ軸の長さと膨らみ具合を表すパラメーターを調整することでミセル構造だけでなく、ナノディスク構造も模倣できる。フレキシブル・フィッティングで用いるモデルは、次の2.3および2.4で述べるように、目的に応じて選択することによって効率的な構造モデリングが可能になる。 2.3大規模構造変化を利用した構造モデリング フレキシブル・フィッティングを有効に活用できるケースとして、まず、大規模構造変化を利用した構造モデリングが挙げられる。例えば、対象とするタンパク質が開閉状態のような2つの大きく異なる構造を取るような場合において、一方が高分解能で解かれ、もう一方が低分解能で解かれたとき、前者から得られた構造を出発点としてフレキシブル・フィッティングを実行することによって、後者に対する信頼性の高い構造モデリングが可能となる。出発点となる高解像度構造は、X線結晶構造やNMR構造、ホモロジーモデリング構造なども用いられる。近年では3次元再構成における画像分類技術の向上により、1回のクライオ電顕実験から複数の状態の密度マップが得られるようになってきたため、このような複数の状態間を、フレキシブル・フィッティングを用いて自然に繋ぐように構造決定することも可能である。 一方、大規模構造変化を利用した構造モデリングでは様々な問題が起こりうる。例えば、構造変化の途中で構造の一部が高密度領域に引っかかってしまい、局所安定状態に陥ってしまうことがある。また、動かしたいドメインとターゲットとする高密度領域が、ある程度重なっていなければ、フィットさせるようなバイアスがかからないため、MD計算中に揺らぎの範囲内で構造と高密度領域が重なる必要がある。構造サンプリングを加速させるための工夫の1つとして、レプリカ交換法などの拡張アンサンブル法が広く用いられる [17-18]。レプリカ交換法とは、システムのコピー(レプリカ)を複数用意し、各レプリカに異なるパラメーターを割り当て、シミュレーション中にパラメーターをレプリカ間で交換する方法である。例えば、温度を交換する温度レプリカ交換法(図3A)では、1つのレプリカ内で温度が激しく上下することによって、構造変化が誘起されるため、通常のMD計算法と比べて広く構造空間をサンプリングできる(図3B) [19]。宮下らが開発したREUSfit法では、レプリカ交換アンブレラサンプリング法 (REUS) [20] をフレキシブル・フィッティングに応用し、レプリカ間で式 (2) の力の定数kを交換する[21]。すなわち、タンパク質が高密度領域に異なる強度でフィットすることを繰り返すことにより、最適な構造を効率よく探索することが可能である。 図3 温度レプリカ交換法の概要。(A) システムのコピーを複数用意し(ここでは4個)、それらを並行して同時にMD計算を実行する。各レプリカに異なる温度を割り当てており、あるステップ毎に隣り合う温度を持つレプリカ間で温度を交換する。温度を交換するかどうかは、レプリカ間でポテンシャルエネルギーを比較し、メトロポリスの判定式に従って決める(黒矢印)。この例ではレプリカ1において激しく温度が変化しており、大きな構造変化が起こりうる。このような計算を長時間にわたって繰り返し実行し、最終的に全レプリカから構造を集めて注目したい温度での物理量を解析する。(B) レプリカ交換MD法では高温になったときにエネルギー障壁を乗り越えやすいため、結果として通常のMD計算法と比べて広く構造空間をサンプリングできる。 大きなドメイン運動を伴うフレキシブル・フィッティングでは、強いバイアスによってドメイン構造の一部が崩れてしまうことがある。このような場合は、距離拘束や二次構造拘束などを用いてドメインを固めるような工夫が必要となる。分子モデルとして郷モデルを用いることも有効であり、実際、郷ポテンシャルの接触ペア間相互作用はドメインを固めるように働く。しかしながら、非接触ペア間には斥力がかかるため、フレキシブル・フィッティングの前後でドメインの接触面が変化するような大規模構造変化があった場合、構造変化後の近接ドメイン間に予期せぬ反発力がかかっている可能性がある。郷モデルを用いてフィッティングした後は、全原子モデルに変換して構造を最適化するなど、マルチスケールなプロトコルが必要である [22]。 2.4構造最適化のためのフィッティング モデリングした構造の最適化あるいは精密化を行う際にもフレキシブル・フィッティングが有用である。近年、電顕密度マップの解像度が向上したことにより、マニュアルでのDe novo構造モデリング、すなわち、密度マップ中の高密度部分をマウスでトレースしながらタンパク質の立体構造を構築することが可能になってきた。解像度が3 A以上の場合は側鎖の形が認識できるため、比較的識別しやすい芳香環を持つアミノ酸残基を基準にして、アミノ酸配列に従って構造を伸ばしていく方法がよく用いられる。また、側鎖が見えていなくても、?ヘリックス構造や?シート構造がぼんやりと見える場合、二次構造予測結果と照らし合わせたり、剛体ドッキングを行なったりしながら立体構造をモデリングする。しかしながら、マニュアルで構築したモデルは、原子間で大きな衝突があったり、二面角が統計値から外れていたりする可能性があるため、最終的にはフレキシブル・フィッティングで構造を精密化し、より確からしいモデルを構築する必要がある。 解像度が3.5?5 A程度の場合は、計算科学に基づくDe novo 構造モデリングが有効であり、フレキシブル・フィッティングはモデリング後の構造に対する最適化に広く用いられる。これまでに様々なDe novo 構造モデリング法が考案されている [23]。例えばRosetta では、アミノ酸配列を数残基ごとのフラグメントに分割し、フラグメントごとに構造を予測しながら密度マップに構造をドッキングさせ、全原子モデル構造を構築していく [24]。MAINMASTでは、密度の高い部分を自動的にトレースしてTree構造を構築し、最も長い幹を主鎖と定義してアミノ酸配列をそこに当てはめることで、C?モデル構造を構築する [25]。後者のような手法は主鎖のみが認識できるような解像度が4?5 A程度の密度マップに有用である。このようなモデリング法では、1回の計算で必ずしも正解に近い構造が得られるとは限らないため、初期乱数やパラメーターを変えることで、「デコイ」と呼ばれる正解構造の候補となるモデルを多数発生させ、あるスコアに基づいて最も確からしいモデルを選ぶ。 筆者らはDe novo 構造モデリングにより得られたC?モデルのデコイを効率よく最適化するプロトコルとして「SAUA-FFR法」を提案した [26]。これはC?モデルから側鎖を生やした後、融合原子モデルを用いてシミュレーティッド・アニーリング法を複数回繰り返しながら構造を最適化する方法である。実際にMAINMASTで得られたデコイに対してCHARMM C19力場の融合原子モデルとEEF1モデルを用いて最適化を行なったところ、CHARMM C36m力場の全原子モデルとGB/SAモデルを用いた方法 (SAAA-FFR) よりも二次構造の形成が促進され、正解構造により近づくことが分かった(図4)。融合原子モデルでは水素が省略されているため、全原子モデルと比べてタンパク質内部の構造に隙間があり、最適化の際に原子が動きやすいと考えられ、分子モデルの選択が最適化の効率向上に重要であることが示唆された。また、フレキシブル・フィッティングの前に構造エラー(キラリティーエラー、cisペプチド結合、芳香環の貫通など)を取り除いておくことも重要である。実際、MAINMAST のデコイに対して、MDFF [7] やPhenix [27] を用いて基本的なオプションを指定してフレキシブル・フィッティングを実行しても、構造エラーは十分に解消されず、最適化があまり進まなかった(図4)[26]。単純なフレキシブル・フィッティングでは正解構造に辿り着くことが困難なデコイもあるため、拡張アンサンブル法などの効率の良い構造サンプリング法を利用することも重要である。 図4 MAINMASTから予測されたデコイに対し、MDFF, SAUA-FFR, およびSAAA-FFRを実行して得られた予測構造と天然構造との比較 2.5フィッティング構造の妥当性の検証 フレキシブル・フィッティングでは、「バイアス項の力の定数kをどれくらいにすればよいか」ということがしばしば問題になる。実験で得られた密度マップには、ノイズや局所低解像度領域のような構造情報の乏しい領域が含まれることが多いため [28]、フレキシブル・フィッティグで強いkを用いると、そのような領域へのoverfittingによって分子構造が歪む可能性があり、逆にkが弱いと、力場の影響により密度マップにフィットしない構造が得られてしまう [8]。このような問題は「得られた構造の妥当性をどうやって調べるか」という定量的な解析の議論に置き換えられる。マップと構造の一致度の評価についてはc.c.やEMRinger [29] が広く用いられ、タンパク質構造らしさの評価については MolProbity [30] やRWplus [31] などが用いられる。C.c.は密度マップと全体構造がどれくらい一致しているかを示すグローバルな指標であり、EMRingerは側鎖の二面角と密度のピーク位置の関係を評価するローカルなスコアである。MolProbityは原子間の衝突や主鎖および側鎖二面角の統計値からの外れ値を1つにまとめたスコアであり、RWplusは側鎖の配向に関する統計的なスコアである。 筆者らは、多数のデコイの中から最適な構造モデルを選ぶための方法として、c.c., RWplus, MolProbityスコアを組み合わせるプロトコルを提案した [26]。具体的には、まず、強弱の異なる様々なkを用いたフレキシブル・フィッティングを複数実行し、そのデコイの中からc.c.が高いものを選ぶ。次にRWplusスコアに基づいてタンパク質らしい構造を選び、最後に、MolProbityスコアに基づいて歪みが少ないモデルを選択する。従って、得られた構造は、kへの依存度が抑制され、密度マップに一致し、かつoverfittingが少ないものとなる。ただし、このプロトコルでは、ヘリックスの数巻きのズレのような誤りを検知することがまだ難しいため、さらに溶媒和自由エネルギーなどを指標としてモデルを選択するような方法も必要になると考えられる。実際、膜タンパク質の立体構造予測において、Rosettaで得られた多数のデコイから、implicit membraneモデルで計算される溶媒和自由エネルギーに基づいて最適なデコイを選択することも試みられている [32]。 3. 構造モデリングソフトウェア フレキシブル・フィッティングが実装されている代表的なソフトウェアとしてPhenix [27], ISOLDE [33], NAMD [34], GROMACS [35], GENESIS [36-37] などがある。PhenixはX線結晶構造解析用のソフトウェアであるが、クライオ電顕構造に対する実空間での精密化にも利用される。ISOLDEはOn-the-flyでフレキシブル・フィッティングを実行し、動く原子をマウスで操作しながら構造を精密化できるGUIツールであり、構造生物学者の間で利用が広がりつつある。NAMD, GROMACS, GENESISはMD計算専用ソフトウェアであり、機能の一部としてフレキシブル・フィッティングが利用できる。PDB構造以外にもMD計算用のインプットファイルを用意する必要があるが、溶媒も含めたフレキシブル・フィッティングを高速に実行できる点で有効である。また、構造最適化後にバイアスなしのMD計算にシームレスに移行できるため、溶液中でのタンパク質のダイナミクス解析や機能の理解につなげられる。これらのMD計算用のインプットファイルは、CHARMM-GUI (https://www.charmm-gui.org) [38] を用いて簡便に準備できるため、実験家がMD計算を行うためのハードルも低くなっている。 GENESISについて簡単に紹介する。GENESISは理研・粒子系生物物理研究チームが中心となって開発している汎用MD計算プログラムであり、筆者も主要開発メンバーの一人である。GENESISはスーパーコンピュータだけでなく、GPU搭載ワークステーションでも動作し、機能面に関しては、2.2?2.4章で述べた様々な分子モデルやレプリカ交換法などの構造サンプリング法が利用できる。GENESISに実装されているフレキシブル・フィッティングは、幾何学的アルゴリズムに基づく独自の空間分割並列計算法で高速化されており、小さなタンパク質だけでなく、リボソーム級の巨大な複合体も扱うことができる [39]。また、モデリング時における芳香環の貫通や不斉中心の立体構造エラーを自動で検出して修正する機能も実装されている [26]。特に最近では、実験グループや他の理論グループと議論しながら新規機能の導入を進めており、MD計算ソフトとしてだけでなく、実験データからの構造モデリングのツールとしての強化にも取り組んでいる (https://www.r-ccs.riken.jp/labs/cbrt/)。 4. 今後の展望 クライオ電顕の登場によってタンパク質複合体の立体構造が高解像度で続々と解かれるようになってきたが、一方で、大きな揺らぎを持つタンパク質の精密な立体構造解析は未だ難しい。実際、得られる密度マップには、溶液中でのタンパク質のダイナミックな情報あるいは構造多型が含まれている。実験データを計算に基づいて正確に理解するためには、構造アンサンブルの最適化も必要となる。このようなアプローチは、従来NMRやSAXSデータの解析に用いられ、例えば、最大エントロピー法に基づいて、構造分布の重みを実験データと一致するように最適化したり、ベイズ推定に基づいて、実験データが与えられたときの構造の出現確率を考慮したりする方法が考案されている [40]。また、天然変性領域のような構造決定が困難な対象については、1分子FRETや高速AFM, cross-linking 質量分析などの様々な構造解析手法を組み合わせる必要がある。最近では、AlphaFold [41] や RoseTTAFold [42] に代表されるように、構造データベースや機械学習に基づく立体構造予測の精度が向上しており、情報科学と分子力学を組み合わせたモデリングやダイナミクス・機能の解析が今後さらに進むと期待される。 謝辞 本稿の一部で紹介した筆者のフレキシブル・フィッティングに関する研究は、理化学研究所・杉田理論分子科学研究室において行われたものである。これらの研究を行うにあたり、杉田有治主任研究員、Marta Kulik博士(現・ワルシャワ大)、松岳大輔博士(現・高度情報科学技術研究機構)、同計算科学研究センター宮下治博士、Florence Tamaチームリーダー、Jaewoon Jung 博士、米国パデュー大学木原大亮教授および寺師玄記博士から多くのご助言を頂き、この場をお借りして感謝申し上げます。 参考文献 ///// Activities ///// <開催報告> 構造活性フォーラム2021 実行委員長 池口 満徳 横浜市立大学大学院生命医科学研究科 構造活性フォーラム2021は2021年6月4日(金)、オンライン(Zoomウェビナー)にて、「次期スーパーコンピュータ「富岳」時代の計算創薬」と題して開催されました。 今回のフォーラムでは、“スーパーコンピュータによる分子シミュレーションや人工知能技術を応用した計算創薬”について、2021年3月に共用開始となった、日本のフラッグシップスーパーコンピュータ「富岳」の活用等についての情報を共有し、今後どのようにして、計算創薬をさらに有効に活用していくかという課題への取り組みの端緒となることを願って企画しました。 プログラムは以下のとおりです。 講演1「分子動力学シミュレーションによる蛋白質の動的構造と基質結合:分子混雑環境の影響とSARS-CoV-2スパイク蛋白質に関する計算」 杉田 有治(理化学研究所) 講演2「インシリコシミュレーションで探るタンパク質複合体の結合親和性とキネティックス」 北尾 彰朗(東京工業大学) 講演3「分子動力学シミュレーションを用いた抗体設計の可能性」 山下 雄史(東京大学) 講演4「武田薬品における創薬化学研究への分子動力学計算の活用」 高木 輝文(武田薬品工業) 講演5「創薬研究における化合物生成モデルの現状と課題」 小倉 圭司(塩野義製薬) 講演6「溶液理論で得たタンパク質水和の包括的解析」 吉留 崇(東北大学) はじめに、杉田先生からは、スーパーコンピュータ「富岳」に最適化された分子動力学(MD)シミュレーションソフトウエアGENESISの紹介がなされました。GENESISには、拡張アンサンブルであるレプリカ交換法などが搭載され、低分子リガンドの結合ポーズの予測や、結合自由エネルギーの評価を高精度で行うことができることが紹介されました。さらに、GENESISには、QM/MMや粗視化MDの機能も追加され、幅広い用途で活用することが可能になっています。応用研究としては、細胞内の混雑環境のMDやSARS-CoV-2のスパイク蛋白質の事例などが紹介されました。 つぎに北尾先生からは、タンパク質間相互作用の計算法(evERdock)や、パラレルカスケードMD法(PaCS-MD)の紹介がなされました。evERdockでは、ドッキング計算によって、タンパク質複合体構造の候補を複数予測した後、エネルギー表示法(ER法)を使って、結合自由エネルギーの低い構造を選び出す方法です。そこでは、界面の水分子の重要性が指摘されました。PaCS-MDは、通常のMDだとタイムスケールの制限のため実現困難な構造遷移の計算を可能とするMD手法です。短いMDを並列に行いながら、レアイベントを選択しMDを繋げていきます。具体的応用例として、リガンドの解離・結合過程の例が示されました。マルコフ状態モデル(MSM)と結合させることで、自由エネルギー地形やkon, koffなどのキネティックデータも算出可能なことが示されました。 続いて山下先生より、分子シミュレーションによる抗体設計についてご講演いただきました。X線結晶構造解析、ITC等の相互作用測定などの実験手法とMDシミュレーションを組み合わせ、肝臓がんに特異的に発現しているROBO1と抗ROBO1抗体の相互作用に関する熱力学量変化のメカニズムを探りました。アラニン置換で親和性が向上する例について、塩橋や、結合界面に存在する水分子が重要であることが示されました。さらに、卵白リゾチームとその抗体HyHEL-10の相互作用について、界面のモチーフである2つの塩橋に注目し、構成論的アプローチによって、塩橋近傍の疎水性アミノ酸が重要であることが示されました。 以上はアカデミア側からのご講演でしたが、ここからは産業界からのご講演です。まずは、武田薬品工業の高木先生にご講演いただきました。GPUなどの高速な計算機の普及とソフトウエアの発展により、製薬企業などの産業界でもMD計算を活用する事例が増えてきています。武田薬品工業のStructure-based drug discovery(SBDD)におけるMD計算の活用について、ターゲット分子とリガンドの結合様式の予測、親和性の予測、ターゲット分子の結合部位解析などの事例をご紹介いただきました。また、昨年度までLINC(Life Intelligence Consortium)において取り組んできた、MD計算とAIを組み合わせた、MD結果の新たな解析手法についても、その解析事例のご紹介がありました。 続いて、塩野義製薬の小倉先生に化合物生成のAIモデルについてのご講演をいただきました。前半部分は、非常によくまとまった、化合物生成の技術動向のレビューでした。用いられている記述子の説明や深層学習などの機械学習アルゴリズム、また、知識ベースの方法との比較など、たいへん興味深い内容でした。後半は、生成モデルによって化合物生成を行って実際に化学合成した事例の紹介がありました。このようなAIによる分子設計は、今後ますます重要になってくるように思われました。 最後のご講演は、再びアカデミアから、吉留先生に、タンパク質のリガンド結合部位の網羅的水和解析のご講演をいただきました。昨今のスーパーコンピュータ等の計算能力の増大は、データベース網羅的な計算を可能としています。本研究では、溶液理論である3D-RISM法を用い、データベースの数千ものタンパク質に対して水和解析を行いました。その結果、リガンド結合部位の水分子の分布は、それを置き換えるリガンドの原子の物理化学特性と関連が深く、その情報は分子設計に活用できる可能性が示されました。 以上のように、本フォーラムでは、日本のフラッグシップスーパーコンピュータ「富岳」の共用開始をきっかけとして、計算創薬をどのように活用していくか、という課題に挑む端緒となること願って開催しました。アカデミアと産業界、それぞれからのアプローチを理解することができたとともに、その垣根を超えた議論へと進展する場面も数多くあり、本目的は期待以上に達成されたと考えております。 本フォーラムは、新型コロナウイルス感染拡大のため1年延期し、オンラインという形でようやく開くことができました。実際の講演会では、多くの方々のご協力によって、大変活気のある充実した会となったと感じております。ご講演いただきました先生方、活発な議論を行っていただいた参加者の方々に厚く御礼申し上げます。また、実行委員を引き受け、多くの実務を担当していただき、フォーラムを成功に導いてくださった実行委員の赤松美紀先生(岡山大学)、植沢芳広先生(明治薬科大学)、浴本亨先生(横浜市立大学)、長門石曉先生(東京大学)、服部一成先生(塩野義製薬株式会社)のご助力、ご支援に深く感謝いたします。ホームページを作成と更新くださいました高木達也先生、部会長の大田雅照先生、本間光貴先生、そして構造活性相関部会常任幹事の先生方により多大なサポートをいただきました。心よりお礼申し上げます。また、開催運営についてご援助いただきました日本薬学会、各関係者の皆様にもこの場をお借りしまして,深くお礼申し上げます。 来年の構造活性フォーラム2022は、明治薬科大学の植沢芳広先生が実行委員長を担当されます。ぜひ多くの皆様が来年のフォーラムにご参加いただき、活発なご議論の場となるよう、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。 ///// Activities ///// <会告> 第49回構造活性相関シンポジウム 新型コロナウィルスが猛威を振るっている中、研究者の皆様は種々の制約のもと研究活動を推進されているものと拝察いたします。 さて、このような状況下、今年のシンポジウムは、昨年度と同様にオンラインで開催することにいたしました。参加費も前回同様 無料 としておりますので、多くの方のご参加をお待ちしております。 以下に概要をご案内いたします。ホームページの【参加登録】のタブに進み、必要事項を記入してご登録ください。 実行委員長 近畿大学薬学部 仲西 功 主催: 日本薬学会構造活性相関部会 会期: 2021年11月18日(木)~19日(金) 会場: オンライン開催 参加登録: 受付中~ 開催1週間前頃(予定) 人数上限(250人程度)に達した場合その時点で終了を予定しています 参加登録費: 無料 懇親会参加費: 無料(Remoを使用予定) 特別講演: 高木 達也(大阪大学大学院薬学研究科 教授) 「計量薬学の歴史と未来」 招待講演: 今枝 泰宏(株式会社Epigeneron 研究開発部長) 「モダリティの多様化における創薬化学と計算化学の連携」 中津 亨(和歌山県立医科大学薬学部 教授) 「SACLAにおけるタンパク質X線結晶構造解析の現状」 その他、最新情報はホームページにてご確認ください。https://www.phar.kindai.ac.jp/qsar2021/index.html 問い合わせ先: 〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1 第49回構造活性相関シンポジウム実行委員長 近畿大学薬学部 仲西 功 E-mail: qsar2021@phar.kindai.ac.jp  TEL: 06-4307-4008 部会役員人事 2021年度 常任世話人 2021/10/1現在 部会長 本間光貴(理化学研究所) 副部会長 服部一成(塩野義製薬(株)) 副部会長 竹田?志鷹 真由子(北里大学 薬学部) 会計幹事 川下理日人(近畿大学 理工学部) 庶務幹事 杉本 学(熊本大学大学院 先端科学研究部) 広報幹事 加藤博明(広島商船高等専門学校) SAR News編集長 幸 瞳(理化学研究所) ホームページ委員長 高木達也(大阪大学大学院 薬学研究科) 構造活性相関部会の沿革と趣旨 1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。 1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSAR Newsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。(https://sar.pharm.or.jp/) 編集後記 日本薬学会構造活性相関部会誌SAR News第41号をお届けいたします。今号では「クライオ電子顕微鏡法」をテーマにしております。Perspective/Retrospectiveでは筑波大学 生存ダイナミクス研究センターの岩崎憲治先生をはじめとする先生方に、クライオ電子顕微鏡における氷包埋法や画像取得の現在と未来について、およびクライオ電子顕微鏡法によって解かれた化合物との複合体構造についてご紹介いただきました。Cutting Edgeでは、Thermo Fisher Scientific社の葦原雅道先生にクライオ電子顕微鏡の技術革新や創薬応用について、理化学研究所の森貴治先生にMDに基づくフレキシブル・フィッティング法を中心にそれぞれご紹介いただきました。PDBに登録されている構造の解析技術として、クライオ電子顕微鏡法は2017年以降NMRを抜いて2番目に使われている手法となっており、今後ますます活用されると考えられます。ご多忙の中、快くご執筆していただいた各先生に深く感謝申し上げます。6月に開催された構造活性フォーラムの報告および11月の構造活性相関シンポジウムの会告も掲載いたしましたので、お目通しいただければ幸いです。 (編集委員会) SAR News No.41 2021年10月1日 発行:日本薬学会 構造活性相関部会長 本間光貴 SAR News 編集委員会 (委員長)幸 瞳、河合健太郎、清田泰臣、合田浩明、田上宇乃、仲西 功 *本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。