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SARNews No.40

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SAR News No.40 「目次」 ///// Perspective/Retrospective ///// SARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼの分子基盤 理化学研究所 関根 俊一 ・・・ 1 ///// Cutting Edge ///// 機械学習とバーチャルスクリーニングを通じた SARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤予測 株式会社Elix Nazim Medzhidov、結城 伸哉 ・・・ 11 理論創薬及び関連分野におけるSARS-CoV-2研究動向 2020~2021/3 理化学研究所 高谷 大輔 ・・・ 23 ///// SAR Presentation Award ///// 受賞コメントおよび発表要旨 ・・・ 30 ///// Activities ///// <報告> 第48回構造活性相関シンポジウム 開催報告 理化学研究所 本間 光貴 ・・・ 42 <会告> 構造活性フォーラム2021 会告 横浜市立大学 池口 満徳 ・・・ 45 編集後記 ・・・ 46 ///// Perspective/Retrospective ///// SARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼの分子基盤 理化学研究所 関根 俊一 1. はじめに 2020年は予期せぬ異例の年になった。2019年末に中国の武漢で報告された新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が、2020年3月頃には世界各地で広がりを見せ、瞬く間にほぼすべての国に広がってパンデミックとなった。日本も例外ではなく、我々もこれまでに経験したことのない生活を余儀なくされている。本稿執筆時点(2021年2月)で、国内で40万人以上が感染し、死者は7,000人を超える。感染を抑えるためには、ワクチンの接種による集団免疫の獲得が不可欠な状況であるが、並行して感染者を治療する治療薬の開発も急務である。 COVID-19の原因である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2) は、ニドウイルス目コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスの一種である。(+)1本鎖RNAをゲノムに持つRNAウイルスであり、そのゲノムサイズは約30kbとRNAウイルスの中では最大級である。コロナウイルスのゲノムの前半部分2/3は2つの長いオープンリーディングフレーム(ORF1a, ORF1b)を含んでおり、これらは非構造タンパク質 (nsp1~16) をコードしている(1, 2)。ORF1aからnsp1~11を含むpp1aというポリタンパク質が翻訳される。また、リボソームのフレームシフトにより、ORF1aに続けてORF1bが翻訳されたときにのみ生じるpp1abというポリタンパク質はnsp1~10に加えてnsp12~16を含む。pp1aとpp1abは3C様プロテアーゼ (3CLpro, nsp5) およびパパイン様プロテアーゼ (PLP, nsp3) でプロセスされ、個々の非構造タンパク質(nsp)となる(3)。ゲノムの後半部分1/3は4種類の構造タンパク質(spike (S), nucleocapsid (N), membrane (M), envelope (E))に加え、いくつかのアクセサリータンパク質をコードしている。この領域からは、それぞれの遺伝子をコードした分節化したmRNAが合成される。 コロナウイルスのゲノムRNAの複製にはnsp7~16タンパク質が深く関わっている。nsp12はRNA合成を担うRNA 依存性 RNA ポリメラーゼ(RdRp)の本体であり、他のnspタンパク質がサブユニットとして加わることで、ゲノム複製に必須の機能を付与していると考えられている。感染症をコントロールするためには、ウイルスの複製機構の理解とワクチンや特効薬の開発が鍵となるが、ウイルスRNAの複製を担うRdRpは抗ウイルス薬の開発の主要なターゲットのひとつである。抗SARS-CoV-2薬として広く認知されているレムデシビルはRdRpを標的としたヌクレオチドアナログである。世界的な流行が発生してから、SARS-CoV-2の複製や阻害の分子メカニズムに関する研究報告が急激に増加した。本稿では、最近の知見を構造生物学的視点で俯瞰したい。 2. SARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRp) の構造 コロナウイルスのRNAの複製・転写を司るRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)は、ウイルスがコードする3種類のnspタンパク質 (nsp7, nsp8, nsp12) からなる複合体酵素である。nsp12タンパク質は、RNA合成を触媒するRdRpの本体であり、コロナウイルスの複製サイクルにおけるキーコンポーネントである(6)。nsp12はそれ単独ではほとんど活性がなく、その機能には2種類のアクセサリーサブユニット(nsp7, nsp8)が必要で、それらが会合して活性のあるRdRpコア複合体を形成する(4, 5)。 図1. SARS-CoV-2 RdRpの構造 A. SARS-CoV-2 RdRp (nsp12-nsp82-nsp7) のクライオ電子顕微鏡構造 (PDB: 6M71を基に作図)。B-D. RNAが結合したSARS-CoV-2 RdRpの伸長複合体のクライオ電子顕微鏡構造 (PDB: 6YYTを基に作図)。 2020年4月に入り、海外の複数の研究機関からSARS-CoV-2 RdRpのクライオ電子顕微鏡構造が相次いで報告された(6-9)。SARS-CoV-2のRdRpの構造は、2002年に発生したSARS-CoVや中東呼吸器症候群関連コロナウイルスMERSのRdRpの構造とよく似ている(8)。nsp12は、ウイルスのRNAポリメラーゼに典型的な“右手”型のRdRpドメイン、ニドウイルスのRdRpに固有のRdRp-associated nucleotidyltransferase(NiRAN)ドメイン、それらをつなぐInterfaceドメインからなっている(図1A)。 RdRpコア複合体には、1分子のnsp7サブユニットと2分子のnsp8サブユニットが含まれている。nsp7とnsp8はnsp12の“右手”ドメインの“親指(thumb)”部分に結合し、もう1分子のnsp8は“指(fingers)”に結合する。RNA合成の活性部位は、“手のひら(palm)”上に位置し、5つの保存されたモチーフ(モチーフA〜E)で構成されている。モチーフCには、RNA合成に必須のアスパラギン酸残基(D760, D761)が存在し、ここに活性に必要な金属イオン(Mg2+, Mn2+)が結合し、それを介して基質であるヌクレオシド3リン酸(NTPs)と新生RNA鎖の3´末端が結合する(9)。 続けて報告されたRNAを結合した状態のRdRp複合体の構造によれば、コロナウイルスのRdRpは他のウイルスのRdRpには見られない特徴的なRNA結合様式を持っている(図1B-D)(6, 7)。2分子のnsp8サブユニットは、C末端側の球状ドメインを介してRdRpの本体に結合する一方で、N末端側の長いヘリックス(“extension”)を介して伸長中の2重鎖RNAに結合している。このヘリックスは伸長中のRNAに沿うように伸びており、RNAの2重らせんのおよそ2巻き分をカバーしている。長いヘリックスの片面には正電荷をもったアミノ酸残基が規則的に配置されており、RNAのリン酸バックボーンと相互作用している。全体として、RdRpの活性中心に近い約10塩基対の部分をnsp12の“右手”がホールドし、それより下流の約20塩基対にわたる部分を2つのnsp8 extensionがガイドするかたちになっており、RNA合成途中のRNAの脱落を防ぐのに役立っていると考えられる。 3. RdRp阻害剤 –レムデシビル– 新型コロナウイルス感染症の発生以来、レムデシビルやアビガンといった薬剤の名前をニュース等で頻繁に目にするようになった。これらは、ウイルスのRNA合成の材料となるヌクレオチド類似物質の前駆体であり、RdRpの働きを阻害する化合物である。特に、レムデシビル (remdesivir) は、元々はエボラ出血熱の治療薬として開発されていたものであるが、現在ではCOVID-19治療薬としての認知度が高い。米国では、FDA(食品医薬品局)が2020年5月に重症入院患者を対象に緊急時の人道的使用の許可を与え、のちに正式承認された。日本でも、FDAの使用許可を受けて特例承認されている。 図2. SARS-CoV-2 RdRpによるレムデシビルの取り込みと阻害機構 A. RNAの3´末端にレムデシビルを取り込んだSARS-CoV-2 RdRpの構造 (PDB: 7BV2を基に作図)。B. レムデシビルを取り込んだ後、さらに3塩基伸長した状態の構造 (PDB: 7B3Cを基に作図)。 レムデシビルはコロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示し、その標的はRdRpである。プロドラッグであり、体内(細胞内)に取り込まれて保護基が外れ、三リン酸が付加されてレムデシビル三リン酸 (RTP) の状態となってはじめて阻害活性を示す(10)。RTPはATPアナログであり、アデニンに類似した環とリボースの1´位から突き出た1´-シアノ基を持っているのが特徴である。2020年には、レムデシビルの作用に関する生化学・構造生物学研究が相次いで報告された。それによれば、レムデシビルはアデノシン(A)と同様にRNA鎖の3´末端にUを鋳型として取り込まれる(9)(図2A)。しかし、この段階では転写は止まらずに、RdRpは最大で3残基分のヌクレオチドをさらに追加することができる(11)。したがって、レムデシビルはいわゆるchain terminatorではないが、4残基を超えてRNAが伸長するのを阻害する。レムデシビルを取り込んだRdRpのクライオ電子顕微鏡構造によれば、その原因は、レムデシビルの1´-シアノ基が立体障害となり、RNAが4残基伸長した時点で立体障害が生じ、それ以上のトランスロケーションが妨げられるためである(12) (図2B)。構造と配列の比較によれば、レムデシビルの阻害様式は他のRNAウイルスのRdRpにも適用可能で、ヌクレオチドアナログをベースとした幅広いスペクトルをもった抗ウイルス薬を設計できる可能性が示唆されている。 4. エキソヌクレアーゼ コロナウイルスはRNAウイルスの中で最大サイズのゲノムを持つ(13)。大きいゲノムサイズを維持するためにはRNA合成の精度が要求されるため、RNA合成中のエラーの校正機構を持っているのがコロナウイルスの大きな特徴である。nsp14はエキソヌクレアーゼ(ExoN)活性を持つサブユニットで、RdRpコア複合体にRNA合成に影響を与えずに結合することができ、転写エラーの校正を司ると考えられている。ExoNは、ゲノムサイズ20 kb以上のニドウイルスにおいて保存されており(14, 15)、その変異はRNA複製の精度に影響を与える(16-18)。一般的なRNAウイルスの複製精度 (10-3~10-5) と比較して、SARS-CoVの低い突然変異率 (10-6~10-7) はExoN活性で説明される。また、nsp14のExoN活性を欠いたコロナウイルス変異体は、レムデシビルに対してより高い感受性を示し(19)、ExoN活性が薬剤の有効性を鈍らせている可能性が示唆されている(20)。 図3. nsp14-nsp10複合体とエキソヌクレアーゼ A. nsp14-nsp10複合体の構造。B. nsp14のExoN活性部位。(A, BともにSARS-CoVの結晶構造PDB: 5C8Sを基に作図) コロナウイルスがコードするnsp14タンパク質は2つのドメインからなり、N末端ドメインがExoN活性を、C末端ドメインがN7-MTase活性(後述)をそれぞれ司る(15)(図3A)。nsp14はExoNドメインを介してnsp10タンパク質と安定な複合体を形成する(21)。ExoNドメインはDEDDスーパーファミリーのエキソヌクレアーゼに類似した構造を持っている(図3B)。また、コロナウイルスに特有の2つのZnフィンガーモチーフをもっており、これらはExoN活性に必須である。また、nsp10もExoN活性に必須である。nsp10とnsp14との間には広範な相互作用が見られ、nsp10はnsp14のExoNドメインの構造を安定化させ、活性を促進すると考えられる(22)。nsp14がどのようにしてRNAの二重らせんに取り込まれたミスマッチ塩基やレムデシビル等を除去するのかは不明であるが、nsp13タンパク質(後述)が5´ → 3´ヘリカーゼ活性でRNAを巻き戻し、nsp14のExoNの活性部位にRNAの3´末端を導くのではないかというモデルが提唱された(23)。 5. RNAヘリカーゼ ウイルスの複製転写複合体は、多くの場合RNA合成に必須のRNAヘリカーゼを含んでいる。コロナウイルスのnsp13タンパク質は、スーパーファミリー1B (SF1B)に属するNTP依存性ヘリカーゼであり、RNAないしDNAを 5´ → 3´ の極性をもってほどく活性を示す(24-26)。ヘリカーゼ活性の他に、RNA 5´-triphosphatase活性を有しており、mRNAのキャッピングにも関与している可能性が示唆されている(27, 28)。最近、nsp13を結合したRdRp複合体のクライオ電顕構造が報告され、RdRpコア複合体 (nsp12-nsp82-nsp7) に対して2分子のnsp13が結合することが明らかになった(23, 29)(図4)。nsp13のRNAヘリカーゼの極性(5´ → 3´)はRdRpの転写の方向性(3´ → 5´)とは反対であるため、nsp13は単純にRNA合成のprocessivityに寄与するだけでなく、上述のnsp14 (ExoN)による転写エラーの校正およびニドウイルスに特有の分節化mRNAを合成するためのテンプレートスイッチングに役立っている可能性が示唆された。 図4. RNAヘリカーゼを結合したSARS-CoV-2 RdRpの構造 A, B. nsp13サブユニット(RNAヘリカーゼ)を結合したSARS-CoV-2 RdRpの構造 (PDB: 6XEZを基に作図)。 6. RNAの5´末端のキャッピング コロナウイルスRNAは、その5末端にキャップ構造を有する(30, 31)。5´キャップ構造は真核生物のmRNAの特徴であるが、ウイルスはウイルスRNAの5´末端にキャップ構造をもつことでmRNAを模倣していると言える。これはRNAの安定性、宿主の免疫の回避、およびウイルスタンパク質の翻訳に重要である。ピコルナウイルスやC型肝炎ウイルスのように、ウイルスRNAの翻訳にInternal ribosome entry site (IRES)を使用することでキャップの問題を回避しているウイルスとは異なり、コロナウイルスは他の多くのウイルスと同様にRNAをキャップする機構を獲得し、RNAは真核生物のmRNAと同様にキャップ依存的に翻訳される。 図5. RNAキャッピング A. nsp12のNiRANドメインのGTase活性部位(PDB: 7CYQを基に作図)。B. nsp14のN7-MTase活性部位(PDB: 5C8Sを基に作図)。C. SARS-CoV-2 nsp16-nsp10複合体の構造(PDB: 7JYYを基に作図)。D. nsp16の2´-O-MTase活性部位の構造。 このキャップ構造は、4段階の連続した反応で生成されると考えられている(32)。①まず、RNA 5´-triphosphatase (RTPase)が、新生RNA鎖の5´末端の三リン酸基 (5´-pppN) からリン酸基を1つ取り除いて5´-ppNを生成する。②次に、guanylyltransferase (GTase)がGTPを加水分解してGMPを5´-ppNに転移し、キャップコア構造を生成する (GpppN)。③次いで、N7-MTaseがグアニンのN7位をメチル化し、cap-0構造(m7GpppN)を生成する。④最後に、2´-O-MTaseが一番目と二番目のヌクレオチドのリボースの2´-OHをメチル化し、それぞれcap-1, cap-2構造を生成する。 ①のRTPase反応はnsp13が担うと考えられているが、詳細は不明である。②のGTaseについては、最近nsp12のNiRANドメインにGTP結合部位が同定され、GTase活性部位があることが示唆された(33)(図5A)。③については、nsp14のN7-MTaseドメインがその役割を担う(図5B)。N7-MTaseドメインは非典型的なMTase foldをもったドメインであるが、メチル基のドナーとなるSAM (S-adenosyl-L-methionine)と受容体のGpppNが結合するポケットを有しており、SAMのメチル基をグアニンのN7近傍に固定して、インライン機構でメチル転移を実現していると考えられる(22)。④の2´-O-MTaseの活性部位はnsp16にあり、m7GpppA-RNAに特異的にキャップ付加を行ってcap-1構造を生成する(図5C,D)。nsp16タンパク質はnsp10と安定な複合体を形成する。nsp10は、nsp16の2´-O-MTase活性に必須であり、nsp16のSAM結合ポケットを安定化し、受容体となるRNA鎖の結合溝を拡張することで、基質結合に寄与し、nsp16を活性化していると推定されている(34-36)。 7. 終わりに 現在我々は、それ以前はまったく予想もしなかったウイルス感染症のパンデミックの最中にあり、いわゆる疫病が前時代的なものでも対岸の火事でもないことを痛感している。緊急承認されたレムデシビルは幅広いスペクトルを持ったヌクレオチド型阻害剤である。一方、WHOは大規模な治験の結果、レムデシビルがCOVID-19に効果がなかったとしている。上述したように、コロナウイルスの複製・増殖には多くのウイルスタンパク質や宿主因子の働きが不可欠であり、それらはウイルスを制御するためのターゲットとなりうる。COVID-19のパンデミックは、皮肉にもSARS-CoV-2に関する研究を急速に促進させているが、その中から第二第三の特効薬が現れることを期待したい。また一方で、長期的な視野に立ち、コロナウイルスに限らず病気の原因となりうるウイルス等の感染・増殖の仕組みを理解し、それらをコントロールする方法をあらかじめ準備し、今後に備えていくことが肝要であろう。 参考文献 1. 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Science signaling 13, (2020). ///// Cutting Edge ///// 機械学習とバーチャルスクリーニングを通じた SARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤予測 株式会社Elix Nazim Medzhidov、結城 伸哉 1. はじめに 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の世界的な拡散により、COVID-19パンデミックが発生した。SARS-CoV-2は、一本鎖プラス鎖RNAゲノム[(+)ssRNA]を有し、ニドウイルス目コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に属する[1]。COVID-19は、非定型肺炎を特徴とする致死性の呼吸器疾患である[2]。COVID-19治療薬は現時点で存在せず、計算機を使用した解析をはじめ、様々な手法でドラッグリポジショニングの取り組みが行われてきた[3-5]。本研究では、複数の機械学習モデルを使用し、それらを分子ドッキングアプローチと組み合わせ、ウイルス複製機構の重要な構成要素であるSARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)に対し阻害活性を有しうる抗ウイルス薬および抗炎症薬のスクリーニングを行った。 2. コロナウイルスとSARS-Cov-2 2.1 概要 コロナウイルスは、様々な動物に感染する多様なウイルス群であり、ヒトでは軽度から重度の呼吸器感染症を引き起こす可能性がある。人獣共通感染源の高病原性コロナウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は、2002年と2012年にそれぞれヒトに感染し、致死的な呼吸器疾患を引き起こした。こうしてコロナウイルスは、21世紀の公衆衛生上の懸念事項として認識されるようになった[6]。2019年末、高い感染力を有するSARS-CoV-2が中国の武漢市で報道され、その後世界でもウイルス性肺炎の感染が広がりを見せた。COVID-19と呼ばれるこの病気は、感染者数と流行地域数の両方で過去に発生したSARSやMERSを上回っており、世界の公衆衛生に並々ならぬ脅威をもたらしている。 2.2 SARS-CoV-2の起源と拡散 2019年12月下旬、中国・武漢の複数の保健施設から原因不明の肺炎患者のクラスターが報告された[7]。患者の多くは、発熱、咳、胸部不快感などのウイルス性肺炎の症状を呈し、重症の場合呼吸困難や両側肺浸潤など、SARSやMERSの患者と同様の症状が見られた[7, 8]。患者の多くは、武漢市の中心部にある華南海鮮卸売市場と何かしらの関連を持っていたとされる[9, 10]。12月31日、武漢市衛生委員会は原因不明の肺炎発生を世界保健機関(WHO)に通知した[11]。 2.3 Genomic Characterization of SARS-CoV-2 / SARS-CoV-2の遺伝的特徴 SARS-CoV-2はSARS-CoVと比して79%、MERS-CoVと比して50%のゲノム配列同一性を有する[12]。SARS-CoV-2は他のベータコロナウイルスと共通のゲノム構造を持つ。SARS-CoV-2のゲノム構造は他のベータコロナウイルスと共通しており、レプリカーゼ(ORF1a/ORF1b)、スパイク(S)、エンベロープ(E)、メンブレン(M)、ヌクレオカプシド(N)の6つのオープンリーディングフレーム(ORF1a/ORF1b)が5′から3′の順に配列されている。また、遺伝子には、付属タンパク質をコードする7つのORFが散在している[1]。SARS-CoV-2がコードする多くのタンパク質の長さは、SARS-CoVの対応するタンパク質と近い。4つの構造遺伝子(上記S、E、M、N)のうち、SARS-CoV-2はS遺伝子を除いてSARS-CoVと90%以上のアミノ酸同一性を共有している[12]。レプリカーゼ遺伝子は5′ゲノムの3分の2をカバーし、大きなポリタンパク質(pp1ab)をコードしており、ウイルス複製に関与する16の非構造タンパク質をコードする。SARS-CoV-2非構造タンパク質のほとんどは、SARS-CoVの構成アミノ酸と85%以上同じアミノ酸で構成されている[1]。 2.4 SARS-CoV-2 RdRpを対象とした理由 RdRpsは、RNAテンプレートからRNA合成を触媒するマルチドメインタンパク質で、ウイルスのゲノム複製と転写プロセスを担う[13]。コロナウイルス属が属するニドウイルス目は、ウイルスの複製と転写を促進すべくORF1aおよびORF1bウイルスポリプロテインの開裂産物として産生される非構造タンパク質(NSP)によって作動するRNA合成専用の複雑な機構を持つという特徴を有する[14]。 ウイルスの宿主細胞への侵入は、感染開始の重要な過程である。SARS-CoV-2は、ウイルススパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメインを利用して宿主細胞上のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合し、エンドソームを介して細胞内に侵入する[15]。細胞内侵入の後、ウイルスゲノムRNAが放出され、ウイルスタンパク質の翻訳やウイルスゲノム複製のための鋳型として機能する。RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)は、非構造タンパク質12(nsp12)としても知られており、新しいウイルスのゲノムRNAの産生を担うウイルスレプリカーゼ複合体の重要な構成要素である[16]。 ほとんどすべてのRNAウイルスは、そのゲノムにコードされたRdRpを有する。配列の類似性が比較的低いにもかかわらず、さまざまなRNAウイルス由来のRdRpは、「右手モデル」として説明される3つの構成ドメイン(「親指ドメイン」、「手のひらドメイン」、「指ドメイン」)と同様の構造的類似性を有しており、これは逆転写酵素とも類似している。種々のウイルスから得られたRdRpの配列解析から、活性部位と手のひらドメインに重要な残基が保存されていることが明らかになっている[13, 17-19]。また、SARS-CoV-2 RdRpの構造解析の結果、RdRpの一般的な構造、保存されたA-Gモチーフの存在、主要な触媒アミノ酸の保存、C型肝炎ウイルス(HCV)やポリオウイルスRdRpとの構造的な類似性が確認された[20]。RdRpはウイルスの複製サイクルにおいて重要な役割を果たしつつ人体に対応するものが存在しないため、治療中に望ましくない副作用が生じるリスクを軽減できる重要な治療標的と見なされている。 3. ドラッグリポジショニングにおける人工知能の利用 3.1 分子ドッキングと機械学習によるアプローチの比較 SARS-CoV-2に有効な治療薬の開発が急務となっており、これまで多くの研究が行われてきた。最近では、SARS-CoV-2の異なるタンパク質を標的とした様々なドラッグリパーパシングの候補を提案するin silico創薬報告が数多く発表されている[5, 21-24]。これらの研究のほとんどは従来の分子ドッキング解析を利用しており、標的やリガンドの立体構造に関する情報を必要とする。この情報が得られれば、標的タンパク質上の指定された領域に対してドッキングシミュレーションを行い、タンパク質とリガンドの結合エネルギーを予測することができる。しかし、標的タンパク質の立体構造取得は困難で、費用も時間もかかる。さらに、結合エネルギーが良好であても、リガンドによる阻害活性が高いとは限らない。 3.2 SARS-CoV-2ドラッグリパーパシングにおける人工知能の利用 創薬における機械学習活用の技術開発は、従来の創薬プロセスを短縮し、新薬創出にかかるコストを削減できる可能性がある[25, 26]。最近では、立体構造に関する情報が得られない場合でも比較的短期間で潜在的な薬剤候補を見つけることができる代替手段として、機械学習を用いたアプローチがいくつか検討されている。 英国に拠点を置くBenevolentAI社は、種々の科学文献から得られる情報を統合したAI由来のナレッジグラフを多く活用している[4]。同グループは、宿主タンパク質AAK1の阻害を標的とし、関節リウマチの治療薬として承認されているバリシチニブを同定した。バリシチニブは、クラスリンを介したエンドサイトーシスを阻害することで、細胞のウイルス感染を抑制すると考えられている。バリシチニブが有する抗炎症性は、COVID-19患者に多く見られるサイトカインレベルの上昇に有効である可能性が高い[27]。同様に、Beckらは、Molecule Transformer-Drug Target Interaction(MT-DTI)と呼ばれる深層学習の技術を活用した薬物-標的相互作用モデルを応用し、SARS-COV-2関連のプロテアーゼとヘリカーゼを標的とする可能性を有する市販の抗ウイルス薬を予測した論文を発表している[3]。このモデルは分子を1次元の文字列表すSMILES(Simplified molecular-input line-entry system)とアミノ酸(AA)配列を使用しているため、実験で3次元結晶構造が確認されていない標的タンパク質を扱うことが可能である。また、米国に拠点を置くAtomwise社は、新たな抗ウイルス剤の開発を目指し、複数のコロナウイルスに高度に共通して保存されているSARS-CoV-2タンパク質結合部位をターゲットにした研究に注力している。具体的には、AtomNetの深層畳み込みニューラルネットワーク技術[28]を使い、数百万の仮想化合物をスクリーニングしているほか、学術研究者と15のパートナーシップを結んで、モデルで予測された化合物をin vitroアッセイで確認している[29]。 複数のウイルスのRdRpにおいて構造上の類似性および活性部位での主要アミノ酸の保存が認められ、また、広範な抗RdRp薬であるレムデシビルが同定されたことで、有効なRdRp阻害薬の化学構造に類似パターンが存在する可能性が示された。このことから、潜在的なRdRp阻害剤を同定するため、教師あり機械学習アルゴリズムを実装することとした。 4. Discovery of SARS-CoV-2 RdRp Inhibitors / SARS-CoV-2 RdRp阻害剤の探索 4.1 データセット収集及びモデルの学習 まずは、HCV、デングウイルス、ポリオウイルス、インフルエンザウイルスのRdRpに対し、過去の実験で既に活性値が確認されている低分子を含むデータセットを構築した。データセットはPubChem [30]とChEMBL [31]のバイオアッセイから取得した。分類モデルの学習を目的とし、既に実験で活性値(IC50/EC50)が知られているエントリを選択し、活性値と閾値から二値の活性ラベル(活性あり・なし)を割り当てた。学習に使用する活性のカットオフ閾値は5 µMとした。最終的に構築されたデータセットは、活性ラベル付きの化合物1,356(656種類が不活性、700種類が活性あり)が含まれている。バリデーションデータセットは、データセット全体から20%の化合物(活性化合物と不活性化合物)を無作為に選択したものを使用した。学習データセットは、残りの80%の化合物を使用した。学習データセット中の分子はHCV、ポリオウイルス、デングウイルス、インフルエンザウイルスのRdRpに対して阻害活性を示した。これらの阻害剤を機械学習モデルに学習させることで、機械学習のモデルに有効なRdRp阻害剤の化学的特徴の学習が可能になると考えられる。次に、当該モデルが既知の前臨床および臨床RdRp阻害剤を同定する能力を評価した。最後に、RdRpに対する阻害活性を潜在的に有する物質の候補を特定するため、FDA承認の抗ウイルス薬および抗炎症薬を、当該モデルでスクリーニングした。また、SARS-CoV-2のRdRpタンパク質に対する抗ウイルス薬や抗炎症薬の分子ドッキング解析も併せて実施した。今回の機械学習モデルでは、RdKit [32]を用いて化合物を分子フィンガープリントに変換したものを入力特徴量として使用した。フィンガープリントは、Morganフィンガープリント[33]とトポロジカルフィンガープリントを使用しており、トポロジカルフィンガープリントに関しては、結合数が最小1から最大7までの化合物のすべてのサブグラフを抽出して計算した。モデルの実装は、主にscikit-learnライブラリ[34]を使用した。 受信者操作時特性曲線下の面積(以下、ROC-AUC、又はAUROCとする)0.8を超えたモデルは複数ある。具体的には、グラフ畳み込みネットワーク、メッセージパッシングネットワーク、ランダムフォレスト分類器(円形フィンガープリント、トポロジカルフィンガープリント)、リッジ分類器(円形フィンガープリント)、ラッソ分類器(トポロジカルフィンガープリント)、3層マルチレイヤーパーセプトロン(円形フィンガープリント)、XGBoost分類器(トポロジカルフィンガープリント)が、0.8を超えていた。そのうちの1つである円形フィンガープリントのランダムフォレスト分類器はROC-AUC値が0.9を超えていた。精度(ACC)は、ランダムフォレスト分類器が84%と最も良い数値を示した。 4.2 前臨床RdRp阻害剤のテストセットを用いたモデル評価 結果検証には、ROC-AUCに基づく上位3つのモデルを使用し、既知の前臨床RdRp阻害剤のテストセットを対象とした予測を行った。ROC-AUCと精度に加え、真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陽性(FP)、偽陰性(FN)の割合も表1.1に示す。 モデル AUROC ACC Confidence Interval (alpha=0.05) TP TN FP FN GraphConv 0.700 0.700 [0.558, 0.842] 0.65 0.75 0.25 0.35 RandomForest (C) 0.725 0.725 [0.587, 0.863] 0.50 0.95 0.05 0.50 3-layer MLP (C) 0.625 0.625 [0.475, 0.775] 0.50 0.75 0.25 0.50 表1.1 テストデータに対するモデルのパフォーマンス ランダムフォレスト分類器は陰性例の検出に非常に優れていたが(真陰性率95%)、陽性例について見てみると、検出可能な活性分子は半数に留まった(真陽性率50%)。グラフ畳み込みモデル等の他のモデルは、より多くの活性分子を検出できるが(真陽性率は65%)、真陰性率は75%に低下し、より多くの偽陽性を検出してしまう。更に、異なるモデルの出力間の相関はあまり高くない。これらの事情を勘案し、アンサンブルモデルを使用することとした。 今回の実験では、RBFカーネルを用いた単純なSupport Vector Machineが最も良く機能した。このモデルは、最も良い結果を示した上位10個のモデルの出力値を入力特徴量として使用している。最初に、元の学習セットを用いて個々のモデルの学習を行った。次に、バリデーションセットを2つの同じサイズのサブセットに分割した。そのうちの1つをアンサンブルモデルの学習に使用し、もう1つは検証セットに充てた。アンサンブルモデルでは、テストセットを用いた他のすべてのモデルの性能をわずかに上回った(表1.2)。 Dataset AUROC ACC Confidence Interval (alpha=0.05) TP TN FP FN Validation 0.875 0.875 [0.819, 0.931] 0.871 0.879 0.129 0.121 Test 0.750 0.750 [0.616, 0.884] 0.600 0.900 0.100 0.400 表1.2 アンサンブルモデルの結果 モデルの評価は、バリデーションセットと既知の前臨床RdRp阻害剤のテストセットのパフォーマンスに基づき実施した。最も良い性能を示した3つのモデルと(表1.1参照)、アンサンブルモデルの予測結果を分析した。モデルの学習はリガンドの情報のみを使用し、標的であるSARS-CoV-2 RdRpの立体構造は使用していない。そのため、標的タンパク質とリガンドの立体構造情報に基づく従来の分子ドッキングアプローチと比較することが望ましいと考えられる。そこで、SARS-CoV-2 RdRp(PDB ID: 6m71)の活性部位に対する抗ウイルス・抗炎症データセットのバーチャルスクリーニングをAutoDock Vinaを用いて行った[35]。 5. 機械学習とドッキングシミュレーションの結果 5.1 抗ウイルスデータセットの結果 解析の結果、抗ウイルス薬と抗炎症薬の両方のデータセットから標的候補を複数同定した。本章では具体的に紹介する。 我々のモデルは抗ウイルスデータセットからレムデシビルを同定した。レムデシビルはSARS-CoV-2 RdRpを標的とすることが確認されたヌクレオシドアナログであり、COVID-19患者の治療薬として米国FDAによって承認されている。レムデシビルは陽性対照としてテストセットに含まれていた。なお、上述のモデルで同定されたバロキサビル・マルボキシル、TMC-310911(ASC09)、およびユミフェノビル(アルビドール)は、COVID-19を対象とした臨床試験でも研究が進んでいる。臨床試験登録番号と識別番号は、バロキサビル・マルボキシルがChiCTR2000029544、ASC09がNCT04261907、ユミフェノビルがNCT04350684である。バロキサビル・マルボキシルはインフルエンザウイルスのRdRpに作用し[36]、TMC-310911はHIV-1に対して開発されたプロテアーゼ阻害剤であり[37]、ユミフェノビルはヘマグルチニン(HA)糖タンパク質を標的にしてウイルスの細胞内への侵入を抑制する抗インフルエンザ薬[38]である。 これらの薬剤候補に加え、最も良い性能を示した4つのモデル(表1.1の3つのモデル 及びアンサンブルモデル、以下「最良モデル」とする)が、RdRp阻害剤の可能性として、抗ウイルスデータセットからベクラブビルとアスナプレビルを同定した。ベクラブビルは、HCV RdRp(NS5B)の非ヌクレオシド系阻害剤である[39]。SARS-CoV-2と同様、HCVも一本鎖エンベロープ型ポジティブセンスRNAウイルスである。SARS-CoV-2とHCV RdRpの活性部位は構造的類似性を示しており、両者とも触媒部位の保存アミノ酸を保有している[20]。ベクラブビルのSARS-CoV-2 RdRpに対する結合エネルギーは-9.2 kcal/molとなり、本候補の阻害性を示唆している。別の抗HCV薬であるアスナプレビルは、HCVのプロテアーゼを標的とすることが知られている。全ての最良モデルが潜在的な抗RdRp候補としてアスナプレビルを同定し、AutoDock Vinaを用いた結合エネルギーは、-7.5 kcal/molであった。他の候補としては、パリタプレビル、ファルダプレビル、シメプレビル、ベドロプレビル(HCVプロテアーゼ阻害剤)、レディパスビル、オダラスビル、およびベルパタスビル(HCV NS5A阻害剤)が挙げられる(表1.3参照、4つの最良モデルのうち少なくともいずれか2つで予測され、SARS-CoV-2 RdRpに対する結合エネルギーも比較的低いため)。我々のモデルはRdRp阻害剤のみを対象としていたが、HCVのプロテアーゼまたはNS5Aタンパク質を標的とするいくつかの抗HCV薬もRdRp阻害剤として分類された。なお、これらの候補分子は、分子ドッキング解析に基づくSARS-CoV-2のRdRpに対する結合エネルギーが良好であると予測された。これらの分子が実際にRdRpに作用するかどうか確認するためには、実験を通じて更なる検証が必要である。 物質名 対象物質を予測した 予測モデルの数 SARS-CoV-2 RdRpとの 結合エネルギー (kcal/mol) Beclabuvir 4 -9.2 Asunaprevir 4 -7.5 Paritaprevir 3 -10.5 Faldaprevir 3 -9.6 Odalasvir 3 -8.8 Simeprevir 3 -8.7 Vedroprevir 3 -8.6 Velpatasvir 3 -8.6 Telaprevir 3 -8.3 Dolutegravir 3 -8.0 Sofosbuvir 3 -6.9 Uprifosbuvir 3 -6.8 Entecavir 3 -6.6 Lobucavir 3 -6.6 Trifluridine 3 -6.3 Nevirapine 3 -6.1 Ledipasvir 2 -9.2 Ruzasvir 2 -8.1 Baloxavir marboxil 2 -8.0 TMC-310911(ASC09) 2 -7.9 Adafosbuvir 2 -7.8 Remdesivir 2 -7.5 Saquinavir 2 -7.2 Abacavir 2 -7.1 Maribavir 2 -7.1 Elvitegravir 2 -6.6 Vidarabine 2 -6.5 Efavirenz 2 -6.3 Valganciclovir 2 -6.2 Valomaciclovir 2 -6.2 Sorivudine 2 -6.1 Ibacitabine 2 -6.1 Idoxuridine 2 -5.9 Fialuridine 2 -5.9 Didanosine 2 -5.8 Umifenovir 2 -5.8 表1.3 RdRpに作用する可能性のある抗ウイルス薬一覧 及び結合エネルギー(計算はAutoDock Vinaを使用) 5.2 抗炎症性データセットの結果 抗ウイルス薬は、患者の負荷軽減には役立つが、ウイルス誘発性肺炎そのものに直接対処するものではない。新型コロナウイルスによる肺炎は、SARS-CoV-2が肺で引き起こす炎症の結果生じるものである[40]。したがって、肺炎を発症したCOVID-19の患者には、肺の炎症を抑えるための追加治療が必要となる可能性がある。上述のモデルは数多の抗ウイルス薬からRdRp阻害剤を同定する能力を有するだけでなく、抗炎症薬に対しても同様の効果を発揮しうることから、SARS-CoV-2 RdRpに対するRdRp阻害剤の特性と結合エネルギーの予測に焦点を当て、解析を行った。抗炎症性データセットの分析の結果、全ての最良モデルが、天然物質であるベツリン酸とルピオールが抗RdRp活性を有していると予測することが明らかになった。他にも、リフィテグラスト、アントラフェニン、ウルソール酸、酢酸デキサメタゾン、リン酸プレドニゾロンは、最良モデルのうち少なくとも2つのモデルによって予測されており、また、-7.5から-9.5 kcal/molの範囲の結合エネルギーでSARS-CoV-2 RdRpの活性部位に結合することが予測された(表1.4)。なお、ベツリン酸とウルソール酸は、HIVに対する抗ウイルス活性が報告されている五環式トリテルペノイドである[41]。 物質名 対象物質を予測した 予測モデルの数 SARS-CoV-2 RdRpとの 結合エネルギー (kcal/mol) Betulinic Acid 4 -7.4 Lupeol 4 -7.2 Lifitegrast 3 -9.5 Antrafenine 3 -8.7 Ursolic acid 3 -8.0 Floctafenine 3 -7.1 Cimicoxib 3 -7.0 Acemetacin 3 -6.8 Morniflumate 3 -6.8 Loteprednol 3 -6.8 Polmacoxib 3 -6.8 Andrographolide 3 -6.7 Dexamethasone acetate 2 -7.6 Prednisolone phosphate 2 -7.5 Cortisone acetate 2 -7.3 Mometasone furoate 2 -7.3 Prednicarbate 2 -7.1 Deflazacort 2 -7.1 Clobetasone 2 -6.8 Rimexolone 2 -6.8 Robenacoxib 2 -6.8 Hydrocortisone probutate 2 -6.8 Mometasone 2 -6.6 Diflunisal 2 -6.5 Lumiracoxib 2 -6.5 Etoricoxib 2 -6.5 Clobetasol 2 -6.5 Apremilast 2 -6.5 Bisindolylmaleimide I 2 -6.5 Talniflumate 2 -6.3 NS-398 2 -6.2 Firocoxib 2 -5.6 Dimethyl sulfone 2 -3.0 表1.4 RdRpに作用する可能性のある抗炎症性薬一覧 及び結合エネルギー (計算はAutoDock Vinaを使用) 6. 結論 COVID-19の世界的パンデミックの社会的・経済的影響は、世界中の数多くの人々の生活に深刻な影を落としている。多様な生態系において、人命を奪う可能性のあるウイルスを保有する動物が存在し、また、グローバルに人々が移動する現代社会においては、病原体の世界的な伝播が容易になっていることから、将来、新たなパンデミックの出現によってより脆弱な環境にさらされ得る。有効な治療薬の発見のために多大な努力がなされているが、これまでのところ、COVID-19の患者の治療に役立つ薬剤特定は未だ発展途上であり、多くの死亡者が報告され続けている。これは、創薬のプロセス全体を迅速化できるよう、現在の創薬の方法を慎重に、しかし新しい方法で見直していく必要があることを示唆している。本論文では、機械学習アルゴリズムに基づくスクリーニングを通じ、SARS-CoV-2 RdRp阻害剤の候補を予測した。今後は、当該分子がSARS-CoV-2 RdRpに対し活性を有するかどうか、モデルだけでなく実際の実験を通じて検証することが望ましいと考える。 7. 謝辞 本論文の作成に当たり、多くの人々のご協力を頂きました。特に、丁寧な原稿の修正と翻訳に協力して頂いた加藤嵩侑氏、伊東美絵氏(ともに株式会社Elix)に感謝の意を表します。今回のパンデミックは編集現時点でも、多くの人々に多大なる影響を及ぼしています。人々の安全で健康な生活のために、命がけでCOVID-19の患者のケアをして下さっている医療従事者の皆様にも感謝の意を表し、謝辞とさせて頂きます。 参考文献 [1] Chan, J. 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SARS-CoV-2関連タンパク質構造のPDBへの登録数の推移 SARS-CoV-2を構成する構造タンパク質および非構造タンパク質 (Non-structural protein; NSP) の実験構造が多く報告された。さらにSBDDによるアプローチも行われ、阻害剤との複合体構造もProtein Data Bank (PDB) に数多く登録された。SARS-CoV-2のターゲットタンパク質で注目されている4種のタンパク質 (Mpro、PLpro、RdRp、Spike protein) の登録数について、下記にその推移を示した。(図1) 図1: PDBに登録されたMpro、PLpro、RdRp、Spike Proteinの実験構造数の月毎の推移。(2021年3月19日までのデータを使用; 合計579エントリー) それぞれ6LU7.A、6YVA.A、7BV2.A、7BZ5.A (S1サブユニットRBD部分) の配列と99%以上の配列相同性をもつエントリーをPDB RESTサービス[8]を用いてJSON形式で入手、それぞれPDBID数を一ヶ月ごとに集計した。登録日データは’initial_release_date’を使用、描画にはMatplotlibを用いた。[9] 上記のカテゴリの合計は579エントリーであった。2020年1月30日にWHOによるPHEIC (国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態) の宣言がなされてから、[10][11] 僅かの期間で多くの構造ベースの研究が行われてきた事がわかる。2020年2月に公開されたSARS-CoV-2のMproの結晶構造 (PDBID: 6LU7) から始まり、毎月途切れることなく構造が登録されている。特にMproについては2020年3月の登録数が82エントリーと本期間中で最も多かった。また12月ごろにMproの登録数について2つ目のピークが現れる。これは大規模X線結晶構造スクリーニングの結果、多数の低分子との複合体構造が登録されたためである。前者は1,250種以上のフラグメント化合物に対してスクリーニングを行い、23の非共有結合性化合物を含む74の化合物を検出、合計96の複合体構造をPDBに登録している。[12] 今後フラグメント分子の相互作用を基にした阻害剤、また例えばFBDD的なアプローチによる相互に連結した強力なMpro阻害剤が得られると期待される。一方、後者は医薬品や臨床試験入り化合物を中心にスクリーニング対象としていることから、フラグメント分子に比べて大きめの化合物の複合体構造が得られており、30以上のエントリーが登録されている。[13] 後者はよりドラッグリポジショニングを重視したと言えるだろう。 スパイクタンパク質については、6月ごろから登録数が増え始めた。スパイクタンパク質は巨大なタンパク質であり、抗体医薬のターゲットタンパク質としての側面があり、実際にPDB登録情報のタイトル等に抗体関連のキーワード (“antibody”、“nanobody”等) を含むエントリーは少なく見積もっても100を超えていた。スパイクタンパク質を標的とした抗体医薬では、ヒトACE2を認識するレセプター結合ドメイン (receptor binding domain; RBD) と結合する抗体や、それぞれ異なる部位に2種の抗体が結合し、いわゆるカクテル療法を目指すケースもあり (PDBID: 6XDG) [14]、その種類は多様である。また、スパイクタンパク質は変異残基が観察されやすいタンパク質であり、ウイルスの感染力に影響を与える可能性が示唆されており、[6][15] 構造生物学的に関心が高かった事がうかがえる。ウイルスの複製に関与するRdRpの登録数が全体的に少ないのは、nsp12で900残基ある巨大なタンパク質であることなどが関係するのかもしれない。中でもYinらはクライオ電子顕微鏡法を用いてRdRp (NSP12-NSP7-NSP8) とレムデシビルとの複合体構造を報告し、SARS-CoV-2に対する本薬剤の相互作用を示した。[16] またPLproはSARS-CoV-2に存在する主要なプロテアーゼの一種であるが、Mproに比べれば登録数は少ないが定期的に登録されている。PLproはウイルスの増殖以外にも宿主の免疫系への関与が指摘されていることもあり[17]、今後の研究が期待される。全般的に本稿執筆時点の2021年3月中旬においてもPDBへの登録は続いており、この傾向は今後もしばらく続くと筆者は見込んでいる。 3. FMO法による生体高分子に対する計算データを蓄積したデータベース〜FMODB FMO法は北浦らによって提唱された量子化学計算法であり、アミノ酸等残基単位、または阻害剤などの低分子単位を参考にフラグメントに分割し、原子数の非常に多いタンパク質等の生体高分子に対しても現実的な時間内で量子化学計算が可能である。[18] またFMO法では、フラグメント間 (ダイマー) の相互作用エネルギーをIFIE/PIEDAにより精密に評価できる。タンパク質及び核酸分子などの生体高分子とリガンド分子、タンパク質―タンパク質間相互作用解析だけでなく、機械学習モデルなどの相互作用記述子の一つとして近年注目が集まっている。この様にIFIE/PIEDAの蓄積は重要であることから、著者らのグループではFMODBとして理研やFMODDコンソーシアムで計算された計算データを定期的に公開している。[19] 4. FMODBからのSARS-CoV-2ターゲットタンパク質の計算データ公開 毎週ごとに追加されるPDBデータに対してFMO計算を実施することとした。本計算は2020年3月ごろから開始された。アップデート自体は本稿執筆時点でも二週間を目安に定期的に行っている。(https://drugdesign.riken.jp/FMODB/covid-19.php) 図2: FMODBのWebサイトにおける最新のCOVID-19特集ページ  図3: FMODBで公開済みの計算データ登録数の推移。横軸はFMODBIDがFMODBへ登録された日とした。(2021年3月24日時点のデータを使用) 2020年4月の公開当初は65の実験構造についてFMO計算を実施した。[20] (図2) ホームページの各タンパク質のリボン図に貼られたリンクから計算データを参照でき、阻害剤などのリガンド分子が存在する場合はタンパク質との相互作用図を通常のFMODBと同じ手順で参照できる。一年近く経過した2021年3月時点では合計510の計算データ登録に至っている。(図3) FMODBに登録するSARS-CoV-2のPDBデータの選定は現時点では自動化されておらず、一つのPDBIDについて計算条件の異なる複数の計算結果がある場合もある。今後も継続的にアップデートを行う予定である。以下ではMpro、RdRp、Spike proteinについて行われた計算科学からのアプローチや、FMO計算を用いた解析例について紹介する。 5. Mproを対象とした研究  SARS-CoV-2のMproは翻訳されたポリタンパク質を切断する機能を有し、原稿執筆時点でもPDBに新規の実験構造が報告されるなど、図1で示したとおり、構造データが豊富に使用できることから、SARS-CoV-2の阻害剤探索において最も創薬研究が盛んなターゲットタンパク質と言えるだろう。2020年2月にSARS-CoV及びMERS-CoV等の複数のコロナウイルスのMproを阻害する阻害剤N3との結晶構造 (PDBID:6LU7) が2020年2月にPDBで公開された。[21] 筆者は本構造公開をきっかけに創薬の競争が始まったなという印象をもったが、国内でもHIVプロテアーゼ阻害剤のネルフィナビルがMproに結合することを計算モデルにより示した報告[22]は記憶に新しい。FMO計算の観点からは、本複合体結晶構造を対象としたFMO計算がなされている。[23] 本研究では阻害剤N3を5つのフラグメントにマニュアルで分割し、各フラグメントの相互作用を定量的に分析している。例えばN3のフラグメント1に注目した場合、フラグメント1中のペプチド結合部分の窒素原子とThr190との水素結合が非常に強いことが示されている。計算データはFMODBからも参照することができる。(図4、FMODBID: R1GK8) 図4: (左) 阻害剤N3の結合サイトの周辺残基 (PDBID: 6LU7) 各点線はIFIEを示す。(右) フラグメント1 (残基名:02J、右図中のオキサゾール環とアミド結合からなるフラグメント) からの4.5Å以内にあるフラグメントのPIEDAを表示した。(FMODBID: R1GK8) グラフの残基番号191はThr190の主鎖のカルボニル基が水素結合に関与している影響が大きい。 6. RdRpを対象とした研究 SARS-CoV-2 のRdRp (NSP12) はウイルスのRNAの複製に必須のタンパク質であり、NSP7およびNSP8と複合体を形成することでその機能を強くする。レムデシビルはエボラウイルスに対する阻害剤として開発され、プロドラッグであり、体内でリン酸化されたのち合成中のRNA鎖に取り込まれる事で伸長を阻害する。エボラウイルス以外にもコロナウイルスに対しても効果がある事が知られていた。[24] 2020年4月22日にクライオ電子顕微鏡法を用いて得られたレムデシビルとの複合体構造 (PDBID: 7BV2) がPDBから公開された。[16] 加藤らは本構造に対してFMO計算を行い、レムデシビル周辺の残基及び核酸残基との相互作用を解析した。[25] 本解析ではRNAポリマーに取り込まれたレムデシビルと周辺残基のIFIE/PIEDA解析を実施し、実験構造中で確認されていた5つの代表的な相互作用残基の中でThr687、Asn691、Asp760がより重要であること相互作用エネルギーの観点から示している。FMO計算データはFMODBから参照可能である。(図5、FMODBID: 1JL3Z) 図5: (左) レムデシビルと周辺残基 (PDBID: 7BV2) (右) レムデシビルフラグメント (残基名:F86) から4.5ÅにあるフラグメントのPIEDAを表示 (FMODBID: 1JL3Z) 7. スパイクタンパク質を対象とした研究 スパイクタンパク質はSARS-CoV-2の構造タンパク質の一つであり、ヒトの細胞に侵入する際に宿主のアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2) を認識し、ACE2と結合するドメインを特にreceptor binding domain (RBD) と呼ぶ。2020年3月11日にはRBDとACE2-B0AT1複合体構造がPDBから公開された。[26] スパイクタンパク質は他のSARS-CoV-2のタンパク質と比べて変異が入りやすい部位として知られる。例えばイギリスや南アフリカで確認されている変異株 (VUI-202012/01その後VOC-202012/01に変更、B 1.1.7系統[27]) においては、スパイクタンパク質に複数の変異が報告されている。[28] 特にRBDのAsn501のTyr501への変異 (N501Y) (図6) では、ACE2への結合親和性が増加する可能性が報告されている。[15] スパイクタンパク質を対象に複数の計算科学のアプローチがなされている。阪大の渡邉らは抗体 (もしくは関連するペプチド) とスパイクタンパク質の複合体構造12エントリーに対してFMO計算を実施し、PIEDA相互作用の観点から相互作用な重要な9つの残基を示している。[29] また、理研の渡邉らはスパイクタンパク質と抗体複合体構造に対してIFIE/PIEDA解析を実施、XH/π相互作用を正確に評価することが相互作用の理解に重要であることを示している。さらにN501Yの変異によりACE2と相互作用エネルギーが増加することを示している。[30] (FMODBID: 4NZVN、7J11Kなど) またN501Yを対象とした分子動力学計算による解析もbioRxivに報告されており、本変異により相互作用エネルギーが向上した事が示されている。[31] またSupasaらはN501またはY501をもつスパイクタンパク質に対する各抗体のKd値を報告し、変化がない抗体が多いものの、特に変化の大きい抗体種について報告している。[32] 8.終わりに 2020年初頭からSARS-CoV-2関連の創薬ターゲットとなる構造や、阻害剤との複合体の実験構造はPDBからすぐに公開された。またインターネットの普及により研究は世界中を巻き込んで行われ、新規の阻害剤情報等もすぐに報告され、理論創薬分野ではインシリコスクリーニングから相互作用研究のような基礎研究まで幅広く行われた。治療薬開発では特に海外のワクチン開発等が先行しているが、今後いわゆるチーム・ジャパンまたは日本発創薬の成果も続々と公開されていくと期待される。 SARS-CoV、SARS-CoV-2と本ウイルスの創薬研究に関わってきた著者だが、どうも縁があるようである。「2度あることは3度ある」ではないが、コロナウイルスに限らず、十数年先に新たなパンデミックが起きる可能性もゼロではないだろう。私も含めアカデミア創薬に関わる研究者は己の知識及び技術のアップデートを絶やすことなく自己の研鑽を続け、得られた知識を惜しむことなくコミュニティで共有し、その時に備えていただきたい。 謝辞 本稿を執筆するにあたり原稿チェック、グラフや図表の作成を手伝っていただいた理化学研究所 生命科学機能研究センター 制御分子設計研究チームのみなさまに深く感謝いたします。 参考文献 [1] https://linc-ai.jp/ (2021年3月アクセス) [2] https://www.amed.go.jp/program/list/11/02/001_02-04.html (2021年3月アクセス) [3] Wang, M.-Y., Zhao, R., Gao, L.-J., et al. 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Reduced neutralization of SARS-CoV-2 B.1.1.7 variant by convalescent and vaccine sera Cell, in press, 2021 https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.02.033 ///// SAR Presentation Award ///// SAR Presentation Awardについて 「SAR Presentation Award」は、構造活性相関シンポジウムにおける若手研究者の発表を奨励し、構造活性相関研究の発展を促進するため、2010年度に創設された。当初は応募制として審査対象講演の募集を行った。2012年度からは、正式名称を「構造活性相関シンポジウム優秀発表賞」(英語表記SAR Presentation Award)と定めた。 2020年度SAR Presentation Awardについて 2020年度は、第48回構造活性相関シンポジウム(オンライン開催)における45歳以下の発表者(日本薬学会会員または受賞後に日本薬学会に入会いただける方)による一般講演(口頭発表・ポスター発表)を選考対象とすることとした。 2020年度SAR Presentation Award受賞者(五十音順) 口頭発表  : 笠原 慶亮  (東京大学大学院) 口頭発表  : 千葉 峻太朗 (理化学研究所) ポスター発表: 伊藤 朱里  (横浜市立大学大学院) ポスター発表: 髙橋 真帆  (横浜市立大学大学院) ポスター発表: 原田 祥季  (北里大学大学院) 受賞者の選考について 2020年12月12・13日にオンラインにて各審査員から提出頂いた審査票を集計し、口頭発表2名、ポスター発表3名を受賞者として選出した。口頭発表の審査は点数方式、ポスター発表の審査は3演題選出するという方式で行った。授賞式は、第48回構造活性相関シンポジウムの閉会式において行った。後日、受賞者には、賞状と副賞を贈呈した。なお、審査にあたっての審査項目は下記の通りである。 口頭発表審査項目 a) 講演要旨: 講演要旨は発表内容を反映して適切に作成されているか。 b) 講演資料: スライドは専門領域の異なる参加者にもわかりやすく、見やすく、かつ発表時間に見合って適切に作成されているか。 c) プレゼンテーション: 発表時に参加者にわかりやすく説明しているか。 d) 研究の目的: 研究の背景と目的、先行研究との関係、研究の新規性あるいは有用性が明確になっているか。 e) 研究成果: 価値のある成果が得られているか。 f) 質疑応答: 質問等に対し、的確な応答・議論がなされたか。活発な討論がなされたか。 g) 将来性: 研究内容について、将来の発展が期待できるか。 審査員 第48回構造活性相関シンポジウムに参加した2020年度常任幹事および幹事 <受賞者コメント> KO-01 氏名 笠原 慶亮(かさはら けいすけ) 所属 東京大学大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 演題 計算デザインSupercharging抗体の物性機能解析 この度は、第48回構造活性相関シンポジウム優秀発表賞(口頭)を賜りまして、大変光栄に存じます。ご評価いただきました先生方、ならびに日本薬学会構造活性相関部会の先生方に厚く御礼申し上げます。 私共の研究は、抗体表面の電荷を変化させることによる物性機能への影響や制御の可能性について詳細に議論することを目的としております。本発表では、Rosettaを用いて抗体表面への荷電アミノ酸変異導入デザインを行い、発現させたSupercharging抗体について安定性解析・相互作用解析を行いました。また、実験結果と分子動力学シミュレーションを組み合わせることにより、表面電荷の大幅な変化が抗体の物性に及ぼす影響について考察しました。さらに私共は、荷電抗体の溶媒環境依存的な物性変化や抗原結合における速度論パラメータについて、実験と計算科学を組み合わせてより詳細な議論を展開したいと考えております。今回の受賞を励みに、医薬品・材料応用を指向した荷電抗体デザインの可能性を広げていく所存です。 最後に、本研究を進めるにあたりご指導を賜りました、津本浩平教授、長門石曉特任准教授、黒田大祐講師、田部亜季特任助教、河出来時さんに深く感謝申し上げます。 本発表につきましては要旨の掲載を控えさせていただきます。(編集委員会) <受賞者コメント> KO-06 氏名 千葉 峻太朗(ちば しゅんたろう) 所属 理化学研究所 医薬プロセス最適化プラットフォーム推進グループ 演題 幾何学的相互作用解析と機械学習を組合わせた抗体の側鎖構造予測 このたび、第48回構造活性シンポジウム優秀発表賞(口頭)を賜り、大変光栄に存じます。長年にわたり構造活性相関部会およびシンポジウムを運営されてきた歴代の先生方に、本発表の機会をいただきましたことを深くお礼申し上げます。同時に、ウェブ開催を決断し、しかも円滑な運営を実現された実行委員会の皆様に深くお礼申し上げます。 抗原・抗体の構造モデリングは抗体の物性や抗原への親和性を調整するうえで重要です。本研究ではモデル構造(側鎖周辺のローカルな構造)が、多数の実験構造からの集約された情報からみて、妥当であるか判定する手法開発を目指しました。このために、水素結合のような典型的な相互作用に加え、いわゆる弱い相互作用(CH-O, CH-など)も加味した幾何学的相互作用解析を、機械学習に組み合わせる手法を考案し、従来法と同等以上の正確度を有する手法開発に成功しました。いまはハイパーパラメータ探索や、学習データ数を大幅に増やすなどの課題に対応することで、さらなる改良を目指しています。今後は、開発した手法を利用して抗体の物性や抗原への親和性調整へも取り組みたいと考えています。 最後に、共同発表者の小甲裕一先生、野沢優翼先生、柳田駿介先生、佐藤美和先生、池口満徳先生、大田雅照先生に感謝申し上げます。 <受賞者コメント> KP-13 氏名 髙橋 真帆(たかはし まほ) 所属 横浜市立大学大学院 生命医科学研究科 演題 ニューロトロフィン受容体TrkAd5と結合ペプチド間の相互作用様式の解明 この度は、第48回構造活性相関シンポジウム SAR Presentation Awardを頂き、 誠にありがとうございます。ご評価下さいました審査員の先生方、並びに日本薬学会構造活性相関部会の先生方に、厚く御礼申し上げます。当日は、アカデミアの先生方や製薬企業の方々と議論させて頂きました。自身の研究内容の改善点も明らかになり非常に有意義な時間となりました。 本研究では、TP1の結合ポーズを解明するために、横浜市立大学のスーパーコンピュータを用いて、拡張アンサンブルシミュレーションを行いました。その結果、NMRの実験結果と一致する、TP1の結合ポーズを明らかにすることができ、結合に大事な相互作用部位の特定もできました。今後は、この知見を活かして、NMRとの共同研究により、結合能を上げるデザインに取り組んでいきたいと思います。 最後に、研究を進めるにあたりご指導いただきました、池口満徳教授、浴本亨助教、理化学研究所の山根努上級研究員、共同研究先として多くを学ばせていただきました、高橋栄夫教授、鈴木里佳研究員に心より感謝申し上げます。 <受賞者コメント> KP-21 氏名 伊藤 朱里(いとう あかり) 所属 横浜市立大学 生命医科学研究科 演題 中分子シクロスポリンAとシクロスポリンEの分子ダイナミクスの比較 この度は名誉ある賞を頂戴し、大変光栄に思います。会期中は、多くの専門家の方々に質問やアドバイスをいただきました。様々なバックグラウンドをもつ方々の考え方を知ることができ、私の研究生活において非常に意義深いものとなりました。 本研究は、経口投与可能な中分子医薬品シクロスポリンAと、その代謝物であるシクロスポリンEの膜透過性の差が生まれる要因に分子動力学シミュレーション(MD)から迫るものであります。膜中でシクロスポリンが安定に存在する位置や、構造変化する過程の中間的な構造がわかっただけでなく、中間構造の特徴がCsAとCsEで異なることもわかりました。しかし膜透過過程そのものはシミュレーションできていないので、今後も研究を進めて、膜透過のメカニズムを明らかにしていきたいと思います。 これらの研究を進めるにあたりご指導を賜りました池口満徳教授をはじめ、多くのアドバイスをくださった浴本亨助教、理化学研究所の山根努上級研究員、生命情報科学研究室の皆様に心より感謝申し上げます。今回の経験を活かして、残りの研究生活をより一層精進していきたいと思います。 <受賞者コメント> KP-25 氏名 原田 祥季(はらだ よしき) 所属 北里大学大学院薬学研究科 演題 タンパク質複合体立体構造予測におけるQuality評価法の予測精度の比較検証 この度は、第48回構造活性相関シンポジウム優秀発表賞(ポスター)を頂き、大変光栄に存じます。評価をしてくださった先生方、並びに日本薬学会構造活性相関部会の先生方に厚く御礼申し上げます。 本研究では、タンパク質複合体立体構造予測に適用可能な4種類のQuality評価法の予測精度の比較検証を行いました。その結果、タンパク質複合体ターゲットの構造予測の難易度による得意不得意といった、それぞれのQuality評価法の特徴を知ることができました。また、本研究の知見を基に2020年度に開催されたCASP14に参加し、Assembly部門において39チーム中3位の結果を残すことができました。今後は、本研究結果に基づき、新たなQuality評価法の開発を進めていきたいと考えています。 これらの研究を進めるにあたりご指導を賜りました竹田-志鷹真由子教授、並びに、北里大学薬学部生物分子設計学教室の皆様に心より感謝申し上げます。今回このような栄誉ある賞を頂き、ありがたく思うと同時に、発表時に皆様から頂いた貴重な意見を吸収し、今後の研究に取り組んで参りたいと存じます。 ///// Activities ///// 第48回構造活性相関シンポジウム 日時:令和2年12月10日(木)・11日(金) 会場:オンライン開催 主催:日本薬学会構造活性相関部会 協賛:情報計算化学生物学会・日本化学会・日本農薬学会 後援:日本農芸化学会 12月10日及び11日の2日間にわたって、第48回構造活性相関シンポジウムが開催された。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、初めてオンラインによる開催となった。メインの招待講演・口頭発表のセッションをZoomによって、ポスターセッション及び懇親会はRemoを用いて実施した。 初めてのオンライン開催でトラブルの可能性が相当あること、及び企業の協賛・展示によって開催費用の相当部分を賄える見込みであることから、こちらも初めての試みであるが、参加費は無料とした。無料であることで参加のハードルが下がり、参加登録者は292人、最多同時接続数は10日で180人程度、11日で170人程度と、最近数年の中では最も多い参加者に集まっていただくことができた。 本シンポジウムは、低分子創薬の停滞を打破するためのシミュレーション、AI (artificial intelligence) による定量的予測をテーマとして開催した。このテーマに沿って、招待講演は、AIの創薬応用の専門家である横浜市大の寺山先生、住友化学株式会社において量子化学計算による分子設計を行っている原田先生、京大で京、富岳を用いたシミュレーションに基づく予測を行っている荒木先生にお願いした。若手でこの分野をリードする先生方からの講演は大変盛り上がり、活発に質疑応答が行われた。 オンライン開催の様子について記す。Zoomはすでに多くの学会・セミナーでも使われており、今回も大きなトラブルなく招待講演・口頭発表セッションを実施することができた。他の学会では発表終了後に座長以外との質疑応答や拍手がなく寂しいという状況が見られたことに対する改善策として、座長、座長補佐はパネリスト資格として自分の担当セッション以外の際にも質問を積極的に行うことと、拍手をすることを奨励した。 図1. Zoomのメインセッションにおける実行委員及び座長による拍手の様子 Remoは、テーブル毎に発表やホワイトボードでの議論ができるため、ポスターセッションや懇親会に利用した。他の学会における利用実績が少ないソフトウェアであり、トラブルを心配したが、一部のネットワーク接続状態の悪い参加者以外では概ねトラブルは無い様子であった。 参加者からアンケートを実施したところ、44人から回答があった。5段階で評価してもらったところ、口頭発表・招待講演が平均4.56、ポスターが4.32、懇親会が4.03と、概ね「非常に良い」と「良い」の間の評価を得ることでき、好評であった。 図2. ポスターセッションと懇親会に利用したRemoの画面 SAR Awardの審査結果についてもオンラインで集計し、2日目の昼前には集計を締め切り、受賞者を決定した。以下に受賞者を紹介する。今年は、学生による優秀な口頭発表、ポスターが多く、受賞者5名のうち、4名を学生が占めた。 KO-01 口頭 笠原慶亮(かさはらけいすけ) 東京大学大学院 修士1年 計算デザインSupercharging抗体の物性機能解析 KO-06 口頭 千葉峻太朗(ちばしゅんたろう) 理研MIH 研究員 幾何学的相互作用解析と機械学習を組合せた抗体の側鎖構造予測 KP-13 ポスター 髙橋真帆(たかはしまほ) 横浜市立大学大学院 修士1年 ニューロトロフィン受容体TrkAd5と結合ペプチド間の相互作用様式の解明 KP-21 ポスター 伊藤朱里(いとうあかり) 横浜市立大学大学院 修士1年 中分子シクロスポリンAとシクロスポリンEの分子ダイナミクスの比較 KP-25 ポスター 原田祥季(はらだよしき) 北里大学大学院 修士1年 タンパク質複合体立体構造予測におけるQuality評価法の予測精度の比較検証 図3. SAR Award受賞式における受賞者の様子 一般参加者の音声による質疑や、1対1のコミュニケーションなどまだ改善点はあるが、初めてのオンライン開催にしては、成功と言ってよいと考えている。事務局の幸研究員、高谷研究員、実行委員会の皆さん、構造活性相関部会の幹事、常任幹事の皆さん、協賛・展示いただいた企業の皆さん、招待講演を快く引き受けてくださった先生方、発表者・一般参加者の皆さんにこの場を借りて深く感謝したい。 第48回構造活性相関シンポジウム 実行委員長 本間 光貴 ///// Activities ///// <会告> 構造活性フォーラム2021 「次期スーパーコンピュータ「富岳」時代の計算創薬」 主催: 日本薬学会構造活性相関部会 会期: 2021年6月4日 (金) 会場: Zoomによるオンライン開催 フォーラムホームページ: http://www.qsarj.org/forum2021 開催趣旨:2021年3月に、日本のスーパーコンピュータのフラッグシップ「富岳」の運用が開始になった。「富岳」は「京」に比して、ソフトウエア性能で100倍以上の性能向上が謳われている。「富岳」のような膨大な計算能力を手にしたとき、計算創薬技術はどのような変革を迎えるだろうか。さらに、「富岳」では、これまでのシミュレーション研究のみならず、人工知能(AI)技術も取り込んだ研究進展が期待されている。深層学習などのAI技術や大規模データ解析が、どのように計算創薬を変革させるだろうか。そこで、本フォーラムでは、今後、実現が期待される、スーパーコンピューティングを用いた計算創薬および、計算創薬におけるAI展開など、次世代の計算創薬について議論したい。 プログラム: 講演1.「分子動力学シミュレーションによる蛋白質の動的構造と基質結合:分子混雑環境の影響とSARS-CoV-2スパイク蛋白質に関する計算分子混雑環境における蛋白質と阻害剤の結合と相互作用」 杉田 有治(理化学研究所) 講演2.「インシリコシミュレーションで探るタンパク質複合体の結合親和性とキネティックス」 北尾 彰朗(東京工業大学) 講演3.「分子動力学シミュレーションを用いた抗体設計の可能性」 山下 雄史(東京大学) 講演4.「武田薬品における創薬化学研究への分子動力学計算の活用」 高木 輝文(武田薬品工業株式会社) 講演5.「創薬研究における化合物生成モデルの現状と課題」 小倉 圭司(塩野義製薬株式会社) 講演6.「溶液理論で得たタンパク質水和の包括的解析」 吉留 崇 (東北大学) 参加登録および申込締切日: 5月21日(金)までに、フォーラムホームページから事前参加登録をお願いいたします。参加人数が上限に達しましたら、参加登録を打ち切らせていただきますのでご了承ください。 参加費: (薬学会会員・非会員ともに)無料 問合先: 構造活性フォーラム2021実行委員会 池口 満徳(実行委員長) 〒230-0045 横浜市鶴見区末広町1-7-29 横浜市立大学 Tel: 045-508-7232 Fax: 045-508-7367 E-mail: ike@yokohama-cu.ac.jp 部会役員人事 2020年度 常任世話人 2021/3/31現在 部会長 大田雅照(理化学研究所) 副部会長 服部一成(塩野義製薬(株)) 副部会長 本間光貴(理化学研究所) 会計幹事 川下理日人(近畿大学) 庶務幹事 竹田–志鷹 真由子(北里大学) 広報幹事 加藤博明(広島商船高等専門学校) SAR News編集長 幸 瞳(理化学研究所) ホームページ委員長 高木達也(大阪大学) 2021年度部会役員人事は後日ホームページにてお知らせします。 構造活性相関部会の沿革と趣旨 1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。 1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSAR Newsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。(https://sar.pharm.or.jp/) 編集後記 今号では公開時点においても未だに猛威を振るうSARS-CoV-2をターゲットとした創薬について、4人の先生にご寄稿をお願いしました。Perspective/Retrospectiveでは、理化学研究所の関根俊一先生からSARS-CoV-2の創薬ターゲットの中でも特に複雑な機構をもつRdRpについて丁寧にご紹介いただきました。Cutting Edgeでは、株式会社Elixの結城伸哉先生、Nazim Medzhidov先生からいち早く発表されていましたドラッグリポジショニング研究について、理化学研究所の高谷大輔先生からPDBに登録されているSARS-CoV-2ターゲットやFMO計算を活用した解析結果について、それぞれご紹介いただきました。COVID-19関連の研究をとおして、研究で成果を出すスピードはもちろん大事ですが、大手医学誌でCOVID-19に関する論文が撤回されたこともありますし、研究対象となる事象、生物種やタンパク質、自分たちが用いる手法についての理解も決して疎かにしてはいけないと強く感じます。ご多忙の中、快くご執筆していただいた先生方に深く感謝申し上げます。昨年12月に開催した構造活性相関シンポジウムのご報告および6月の構造活性フォーラムの会告も掲載しておりますので、お目通しいただければ幸いです。 (編集委員会) SAR News No.40 2021年4月1日 発行:日本薬学会 構造活性相関部会長 大田雅照 SAR News編集委員会 (委員長)幸 瞳、河合健太郎、清田泰臣、合田浩明、田上宇乃、仲西 功 *本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。