menu

SARNews No.39

SARNews_39

SAR News No.39

「目次」

///// Perspective/Retrospective /////
創薬を加速する評価系「低分子化合物ファーストを実現する次世代スクリーニング」
株式会社SEEDSUPPLY 樽井直樹 ・・・ 1

///// Cutting Edge /////
創薬を加速する評価系
〜プロテインアレイとAlphaScreenを基盤とした創薬標的探索技術〜
愛媛大学プロテオサイエンスセンター 竹田浩之・高橋宏隆 ・・・ 8

インテグリン創薬から考える一回膜貫通型タンパク質における創薬ストラテジー
関西医科大学 生命医学研究所 分子遺伝学部門 池田幸樹・木梨達雄 ・・・ 17

///// Activities /////
<報告>
構造活性フォーラム2020
横浜市立大学 池口満徳 ・・・ 24

<会告>
第48回構造活性相関シンポジウム
理化学研究所 本間光貴 ・・・ 25

///// Perspective/Retrospective /////

創薬を加速する評価系
「低分子化合物ファーストを実現する次世代スクリーニング」
株式会社SEEDSUPPLY 樽井直樹

1. はじめに
アッセイ技術の進歩に伴い創薬における評価プロセスでの成果は着実に蓄積されている。しかし、その成果が「創薬の成功」には必ずしも結びついているとは言えず、成功に結びつけるためには従来とは異なる方策が必要であると考えている。本稿ではその一案を紹介したい。なお、本稿で着目する評価系とは初期創薬におけるin vitro評価系である。
疾患の原因となるターゲットに作用する治療薬の研究は、まず、低分子化合物(以下、化合物)で検討し、無理なら、別のモダリティで検討する「低分子化合物ファースト」という考えのもと、そのプロセスを効率的に進めるには候補となるターゲットに作用する化合物を予め用意(データベース化)しておくことが得策である(図1)。しかし、従来のスクリーニング方法では数千以上におよぶ候補ターゲットに対して化合物を用意することはほぼ不可能である。筆者らはそれを可能にする技術として次世代スクリーニングを提案しており、その技術について概説した後、その結果がもたらす創薬プロセスの変革について述べる。

図1. 低分子化合物ファーストの概念とデータベース(DB)の関係

2. 創薬を加速する次世代スクリーニング 
通常、ハイスループットスクリーニング(以下、HTS)ではターゲット毎に試験系を構築し、数十万以上のライブラリ化合物の中からターゲットに作用する化合物(以下、ヒット化合物)を選択するため、数ヶ月の時間を要し、ヒット化合物が得られない場合もある。仮にあらゆるターゲットに対してHTS結果が判明していれば、その時間のロスがなくなるだけでなく、ターゲットを選択する研究を行う際にもどのモダリティを選択すべきかの見当を付けながら進めることができる。
簡便かつ大量にHTS結果を得る方法として筆者らは結合を指標としたスクリーニング方法の一つであるAffinity Selection Mass Spectrometry(以下、ASMS)に注目した[1]。ASMSはひとつの試験系でターゲットとなるタンパク質さえ調製できれば、あらゆるターゲットに対応できる次世代のスクリーニング法である。
2.1 ASMSを用いたハイスループットスクリーニング
ASMSの原理を図2に示す。まず、化合物とターゲットを混合し、分子ふるいを応用したクロマトグラフィーを行う。分子量が約100倍大きいターゲットと結合した化合物は、ターゲットと共に溶出され、結合しなかった化合物はカラムに留まる。結合した化合物をターゲットから遊離させ、液体クロマトグラフィー質量分析計(以下、LC/MS)で測定すると、予め取得しておいた化合物パラメーターからどの化合物かを同定できる。分子ふるいに供するターゲットには精製したタンパク質の他、タンパク質を過剰発現した膜画分、ミクロソーム画分、オルガネラも対象となる。特に膜タンパク質を可溶化せずに膜画分のまま用いるので構造を保持した状態でのASMSが可能である[2]。ここでよく疑問に思われるのが、得られた化合物は結合活性を有していても生物活性を有していないのではないか、また、精製されていない膜タンパク質だと非特異的な化合物しか得られないのでは無いか、という点である。その回答の一つとしてグリシントランスポーター高発現膜画分を用いたスクリーニング結果を紹介する(図3)。スクリーニングから得られた化合物の結合活性(縦軸)と細胞内グリシン取込み阻害活性(横軸)は一部の化合物を除いてよく相関すると共に生物活性を指標にしたスクリーニングでは得ることが難しいサイレントバインダ(特異性は確認済)の取得も可能であることを示している。

                        
               

図2. ASMSを用いた化合物スクリーニング   図3. グリシントランスポーター結合化合物の結合活性と細胞内グリシン取込み阻害活性の関係

2.2 結合化合物データベースを用いた新しい創薬プロセス
ASMSを用いたスクリーニングのもう一つの特徴は複数タンパク質を混合して実施できる点である。この特徴を利用すれば数千以上の候補ターゲットに対する結合化合物のデータベース構築も可能と考えられる。筆者らはその一例として約350のGPCRに対してスクリーニングを行い、一定以上の結合活性を有する化合物が得られた約200のGPCRに対する結合化合物情報を得ている。この情報の活用方法として、まず、候補ターゲットの中から結合化合物があるターゲットがどれであるかを調べる。あれば、その結合化合物の化学構造から創薬の可能性を見極める。無ければ、そのターゲットは化合物での創薬には適さないターゲットである可能性が高く、別のモダリティで検討する。次に、結合化合物をツール化合物として薬理研究に利用し、ターゲットと薬理活性の関係を見極める。ツール化合物の結合活性が不十分な場合や構造活性相関を調べる場合は短期間の合成研究を行うことも必要であるが、従来の創薬プロセスに比べるとリード創出までの期間は短くなり、ヒット化合物があるターゲットを選択しているのでトータルとしての成功率も高くなる。従来のターゲット決定、HTS、ヒット化合物を使った合成・薬理研究という流れとは異なった創薬プロセスが実現する。
さらにターゲットのクラス毎あるいは立体構造毎のデータを蓄積し、人工知能を利用した結合予測モデルを構築する。データ量の多さに加え、同じライブラリから同じ方法を用いて得られたデータであるので、より優れたモデルの構築が期待できる。このモデルを使えば市販化合物ライブラリ等から異なるケモタイプや高活性化合物を選択することが可能となる(図4)。

図4. 結合化合物データベースと新しい創薬プロセス

2.3 ASMSを用いた結合タンパク質のスクリーニング
ターゲットオリエンテッドスクリーニングと並んでよく行われるのがフェノタイプスクリーニングである。薬効に直結する有望なヒット化合物を確実に選別することができる反面、ヒット化合物を得られる成功率が低いことや得られたとしても作用機作の解明に時間を要する等、問題点も多い。筆者らはまず、後者の問題を解決するため、ターゲット分子同定法を開発した。従来の多くのターゲット分子同定法では化合物の標識やタンパク質の固定化を行う必要があり[3, 4]、手間と時間を要することが多かった。さらに、制御に関わる分子の中には細胞での発現量が極めて低く、細胞からのターゲット分子の単離が不可能なことも多かった。一つ目の課題である化合物の標識やタンパク質の固定化についてはASMSを用いることで、二つ目の課題である低発現についてはヒトタンパク質ライブラリを構築することで解決した。図5にその方法を示す。約18,000のヒトタンパク質を無細胞発現系と動物細胞発現系を用いて一つずつ高発現させ、ターゲットが不明な化合物Aとそれぞれ混合し、ASMSを用いて結合の有無を調べる。結合すれば、タンパク質と共に溶出され、化合物AがLC/MSで検出される[5]。フェノタイプや薬効が明確な化合物のターゲット分子を容易に解明できれば、フェノタイプスクリーニングからの創薬が進めやすくなると考えられる。

図5. ASMSを用いた結合タンパク質のスクリーニング
2.4 創薬を加速するフェノタイプスクリーニング
フェノタイプスクリーニングからの創薬をさらに推進するためには結合化合物データベースの活用が効果的である(図6)。例えば、あるパスウェイ上にある個々の転写因子に結合する化合物セットを用意し、フェノタイプスクリーニングを行う。その結果から、どの転写因子がフェノタイプに重要であるか分かる[6]。また、通常のスクリーニングでは1化合物ずつを試験するが、フェノタイプを示すには複数のターゲットに対して作用させる必要もあるため、複数化合物を同時に試験できることが望ましい。データベースを利用すれば、結合活性を示す化合物だけを選別し、その組み合わせでスクリーニングを行うことができる。結合化合物の組み合わせが膨大な数になることが懸念されるが、フェノタイプスクリーニングの場合、設計時に、関与しそうなパスウェイやターゲットの予測をある程度つけることも可能である。また、単一化合物のスクリーニングから弱いフェノタイプ活性を示す化合物が見いだされていれば、その化合物をベースに相加あるいは相乗効果を狙った組み合わせを作ることもできる。また、データベースに既存医薬品や毒性以外でドロップした開発品を加えればドラッグリポジショニングの効率が上がることも予想できる。
iPS細胞を初めとする幹細胞作製技術が発展し、目的に適う細胞を使った評価系を構築できる可能性が高まっているが[7, 8]、大量の細胞を調製するにはコスト、時間等の問題も多い。少ない高次評価系で研究を進めていくためには上述したようなデータベースを活用する方法が効果的である。

図6. 結合化合物データベースを利用したフェノタイプスクリーニング

3. セントラルスクリーニング構想-Binder2025計画-
1万数千以上のターゲットに対するスクリーニングをハイスループットで行い、結合化合物をデータベース化するのには十数億円(ライブラリ化合物数を40万として1ターゲットあたり約10万円)が必要であるが、これは1製品の創薬コストの1%程度である。しかも一つではなく多くの創薬プロセスに利用できる。これらのデータベースを産学で共有し(図7)、製薬企業だけでなく、アカデミアやバイオベンチャーも活用できれば、創薬の裾野が広がる。また、アカデミアを中心とした薬理研究への多大な貢献も期待できる。さらに精度の高いデータを大量に使用できるため、人工知能研究者が参入し易くなり、優れた結合予測モデルが構築される。そのデータを使った創薬研究からのフィードバックも行われ、より優れたモデルへと改良される。信頼性の高いモデルが構築されれば、より多くの創薬研究者が利用できることが期待できる。
既に欧米を中心にヒトプロテオームのすべてのタンパク質に化合物または抗体を準備するプロジェクトであるTarget2035が議論されており、2035年の完成を目処に進められようとしている[9, 10]。ここで紹介した方法は化合物だけが対象であるが、方法論的にも既に確立されており、より短期間に実現できる。このような全タンパク質を網羅するデータベースを使った創薬研究へ移行する時期に来ていると考えている。
筆者らは2025年を目標に結合化合物データベースを構築するプロジェクトBinder2025を掲げており、より多くの賛同者を募っている。

図7. データベースBinder2025の産学による共有

4. 創薬を加速する評価戦略
ここ20年間、アッセイ技術は飛躍的に進歩してきた。キナーゼを始めとする酵素アッセイではノンラベル化、ホモジーニアス化等によって利便性が向上し[11]、簡便に評価できるようになった。細胞アッセイにおいても細胞さえ供給できれば同様であり[12]、汎用性の高い試薬・機器がメーカーから供給されている。また、画像解析技術[13, 14]、自動培養技術[15]、生体物質の高感度測定技術[16-18]等の進歩により先述した分化誘導細胞を疾患モデル細胞としてアッセイに利用できるようになった。この結果、化合物の特性を知るための多面的な評価が種々のアッセイの組み合わせによって可能となった。この過程ではパネル化された酵素アッセイやin vitro ADME/Tox試験等の多くのアッセイが行われるが、汎用性の高いアッセイはアウトソーシング化が進み、インハウスではユニークなアッセイに注力されている。そのため、創薬を進める上で必要な情報を如何に効率良く集めるかを決定する評価戦略が重要となるが、その戦略はターゲット、疾患によって異なる。また、アッセイから得られるデータ量のみに頼る戦略ではなく、十分な解析を行った上での次の一手が重要であることは言うまでもない。その解析にも上述したデータベースの活用は効果的であると考えられる(図8)。

図8. 評価戦略と結合化合物データベース

5. おわりに
本稿ではあえて進歩した個々のアッセイ技術を紹介しなかった。試薬・機器メーカーからは高感度で使いやすい製品が数多く販売されており、研究者による新規検出技術も発表されている。また、iPS細胞を始めとする細胞アッセイの進歩はここで紹介するまでもない。しかし、このような評価技術が進歩しても創薬は難しくなるばかりである。欧米を中心に始まったTarget2035はヒューマンプロテオームに対して化合物もしくは抗体を準備するものであるが、「どのターゲットを選別し、どのモダリティで進めるか」の見極めに従来のやり方では立ち向かえなくなってきているということであろう。
外部リソースをうまく使いながら得意な領域を深掘りすることが創薬を加速する方策であり、今こそプロセスの大胆な変革によって生老病死の苦悩を消し去る薬を創出するという原点に戻る時ではないだろうか。

謝辞
次世代スクリーニングは2012年から武田薬品工業(株)生物分子研究所にて行われたプロジェクトである。このプロジェクトに携わった研究者のみなさまに感謝します。また、本稿執筆の機会を与えていただきました慶応義塾大学片倉晋一先生、東京大学岡部隆義先生およびSAR News編集委員の先生方に厚く御礼申し上げます。

参考文献
[1] Annis, D. A., Nickbarg, E., Yang, X., Ziebell, M. R., Whitehurst, C. E. Affinity selection-mass spectrometry screening techniques for small molecule drug discovery, Curr. Opin. Chem. Biol., 11(5), 518-526 (2007).
[2] Hirozane, Y., Motoyaji, T., Maru, T., Okada, K., Tarui, N. Generating thermostabilized agonist-bound GPR40/FFAR1 using virus-like particles and a label-free binding assay, Mol. Membr. Biol., 31(5), 168-175 (2014).
[3] Hart, C. P. Finding the target after screening the phenotype, Drug Discov. Today, 10(7), 513-519 (2005).
[4] Terstappen, G. C., Schlüpen, C., Raggiaschi, R., Gaviraghi, G. Target deconvolution strategies in drug discovery, Nat. Rev. Drug Discov., 6(11), 891–903 (2007).
[5] McMillan, E. A., Ryu, M-J., Diep, C. H., Mendiratta, S., Clemenceau, J. R., Vaden, R. M., Kim, J-H., Motoyaji, T., Covington, K. R., Peyton, M., Huffman, K., Wu, X., Girard, L., Sung, Y., Chen, P-H., Mallipeddi, P. L., Lee, J. Y., Hanson, J., Voruganti, S., Yu, Y., Park, S., Sudderth, J., DeSevo, C., Muzny, D. M., Doddapaneni, H. V., Gazdar, A., Gibbs, R. A., Hwang, T-H., Heymach, J. V., Wistuba, I., Coombes, K. R., Williams, N. S., Wheeler, D. A., MacMillan, J. B., Deberardinis, R. J., Roth, M. G., Posner, B. A., Minna, J. D., Kim, H. S., White, M. A. Chemistry-first approach for nomination of personalized treatment in lung cancer, Cell, 173(4), 864–878 (2018).
[6] Victoria, D. K., Christine, L. A., Matthew, P. R., Andrew, H., Nadya, S., Peter, J. D., Ilona, K., Bruce, B. Kutilek, V. D., Andrews, C. L., Richards, M. P., Xu, Z., Sun, T., Chen, Y., Hashke, A., Smotrov, N., Fernandez, R., Nickbarg, E. B., Chamberlin, C., Sauvagnat, B., Curran, P. J., Boinay, R., Saradjian, P., Allen, S. J., Byrne, N., Elsen, N. L., Ford, R. E., Hall, D. L., Kornienko, M., Rickert, K. W., Sharma, S., Shipman, J. M., Lumb, K. J., Coleman, K., Dandliker, P. J., Kariv, I., Beutel, B. Integration of affinity selection–mass spectrometry and functional cell-based assays to rapidly triage druggable target space within the NF-κB pathway, J. Biomol. Screen., 21(6), 608–619 (2016).
[7] Farkhondeh, A., Li, R., Gorshkov, K., Chen, K. G., Might, M., Rodems, S., Lo, D. C., Zheng W. Induced pluripotent stem cells for neural drug discovery, Drug Discov. Today, 24(4), 992-999 (2019).
[8] Rowe, R. G., Daley, G. Q. Induced pluripotent stem cells in disease modelling and drug discovery, Nat. Rev. Genet., 20(7), 377-388 (2019).
[9] Mullard, A. A probe for every protein, Nat. Rev. Drug Discov. 18(10), 733–736 (2019).
[10] Carter, A. J., Kraemer, O., Zwick, M., Mueller-Fahrnow, A., Arrowsmith, C. H., Edwards, A. M. Target 2035: probing the human proteome, Drug Discov. Today, 24(11), 2111-2115 (2019).
[11] Wang, Y., Ma, H. Protein kinase profiling assays: A technology review, Drug Discov. Today: Technologies, 18, 1-8 (2015).
[12] Martins, S. A. M., Trabuco, J. R. C., Monteiro, G. A., Chu, V., Conde, J. P., Prazeres, D. M. F. Towards the miniaturization of GPCR-based live-cell screening assays, Trends Biotechnol., 30(11), 566-574 (2012).
[13] https://www.healthcare.nikon.com/ja/ss/cell-image-lab/
[14] 坂下 浩史 非染色細胞の画像解析技術, 横河技報, 60(2), 91-94 (2017).
[15] https://www.j-tec.co.jp/life-science/auto-machine/
[16] Khanmohammadi, A., Aghaie, A., Vahedi, E., Qazvini, A., Ghanei, M., Afkhami, A., Hajian, A., Bagheri, H. Electrochemical biosensors for the detection of lung cancer biomarkers: A review, Talanta, 206, 120251 (2020).
[17] Metkar, S. K., Girigoswami, K. Diagnostic biosensors in medicine-A review, Biocatal. Agric. Biotechnol., 17, 271–283 (2019).
[18] https://www.mesoscale.com/en

///// Cutting Edge /////

創薬を加速する評価系
〜プロテインアレイとAlphaScreenを基盤とした創薬標的探索技術〜
愛媛大学プロテオサイエンスセンター 竹田浩之・高橋宏隆

1. はじめに
数百から数万種の組換えタンパク質を搭載したプロテインアレイは、タンパク質、核酸、低分子などの標的分子と相互作用するタンパク質を効率的に同定できるツールである。プロテインアレイを用いた網羅的相互作用解析技術は、基礎研究から創薬開発までライフサイエンスの様々な研究を加速できるポテンシャルを有している。本稿では、愛媛大学で進めているプロテインアレイ整備の現状について紹介するとともに、プロテインアレイを用いた創薬ターゲット探索に関する成果事例と今後の展望について紹介する。

2. プロテインアレイを用いた創薬ターゲット探索
2.1 創薬ターゲット探索
分子標的薬開発の最初のステップは創薬ターゲットの探索(Target discovery)である。医薬品開発プロジェクトでの離脱率を最小限に抑えるには、リード化合物の同定や最適化に着手する前に、適切な疾患関連因子を創薬ターゲットとして選定し、疾患メカニズムにおける役割を明らかにする事が重要である[1]。ヒトゲノム計画において遺伝子解析技術の開発と遺伝子配列情報の蓄積が進み、がんなどの疾患に特有な遺伝子変異に注目した創薬ターゲット探索が盛んに行われた[2]。その後、次世代シーケンサー技術により膨大な量の遺伝子配列情報が蓄積されたことを背景に、ゲノムワイド関連解析(GWAS)解析により疾患に関連した一塩基多型と疾患感受性遺伝子の報告が数多くなされた[3]。疾患感受性遺伝子の精査はゲノム編集を用いた機能的スクリーニングにより精力的に行われているが、疾患発症にクリティカルな創薬標的の絞り込みには、トランスクリプトーム、プロテオームやメタボロームなどの他のオミックス解析で得られた幅広い定量的・定性的な情報を統合的・複合的に解析・評価することが求められている[4]。
創薬ターゲット探索のために欠かせない情報のひとつが、タンパク質を中心とした網羅的な相互作用情報、インタラクトームである。タンパク質は生命現象のメインプレイヤーとしてほとんど全ての生体内反応に関わっているが、それらが機能する時には必ず他の分子と物理的な相互作用をしている。相互作用する相手分子は、基質分子(酵素反応)、他のタンパク質(タンパク質複合体形成)、核酸(DNA複製、修飾、転写、翻訳)、脂質(脂質代謝、膜構造形成、)など、低分子から高分子まで実に多様である。特に高等真核生物においては、複雑なタンパク質複合体が形成され、様々な反応で中心的な役割を果たしている。インタラクトームは創薬ターゲットを同定するために有用な情報であるが、一方で網羅的なインタラクトーム解析の実施には大きな困難を伴う。なぜなら、比較的安定な分子である核酸やその配列情報を扱うゲノム解析やトランスクリプトーム解析、タンパク質の一次配列を解析するプロテオーム解析とは異なり、インタラクトームの解析のためには高次構造を保持した「生きた」タンパク質が必要であるからである。

2.2 プロテインアレイ
 タンパク質をはじめとした生体分子の相互作用を効率的に取得するために開発された研究ツールがプロテインアレイであり、プロテインチップ、プロテインマイクロアレイ、プロテインファンクションアレイなどとも呼ばれる。プロテインアレイは、数百〜数万種の組換えタンパク質をチップ上あるいはタイターウェルプレートに高密度に並列化(アレイ化)したものである(図1)。関心のあるタンパク質や核酸、低分子(ベイト(餌)分子と呼ばれる)をプロテインアレイのそれぞれのタンパク質と反応させれば、標的分子と相互作用するタンパク質(プレイ(餌食)タンパク質)を網羅的、効率的に特定できる。なお、よく似たツールに抗体などを基板上に固相化したプロテインディテクションアレイや、細胞ライセートを固相化した逆相プロテインアレイがあるが、これらは生体試料中のタンパク質を効率的に検出・定量するために用いられるツールであり、本稿で扱う分子間相互作用を解析するプロテインアレイとは原理や目的が異なる。

生体試料を用いる相互作用試験に対して、プロテインアレイはヒットの同定とタンパク質量の均質性の点において有利である。生体試料を用いる相互作用試験の代表例である免疫沈降-質量分析法では、ベイト分子と相互作用したタンパク質の同定に多くの労力を要する。その理由の1つは、細胞や血液に含まれるタンパク質濃度の幅が非常に広いことである。血漿を例に挙げると、血清アルブミンのように数百µM含まれるタンパク質から、サブnMオーダーのペプチドホルモンまで、実に106倍かそれ以上の濃度差がある。存在量がわずかなタンパク質の検出が困難なのは当然だが、過剰に存在するタンパク質も他の微細なシグナルを見えにくくしたり、イオン化を抑制したりする原因となる。ところが、プロテインアレイでは特定の位置に搭載されている組換えタンパク質のIDやアミノ酸配列はあらかじめ分かっている。プロテインアレイを用いた相互作用試験でベイト分子と反応したスポットあるいはウェルが判明すれば、相互作用タンパク質をすぐに特定することができる。また、プロテインアレイに搭載されるタンパク質は後述する無細胞技術によって調製されているため、濃度が比較的(100倍程度のレンジで)揃っている[5]。そのため、ある程度の幅のダイナミックレンジを持つ検出系を用いれば、アレイ全体を1つの検出系でカバーし比較することができる。このようにプロテインアレイは、質量分析で検出しにくいタンパク質や、生体試料中でごくわずかしか含まれないタンパク質、限られた細胞でしか発現していないタンパク質の検出に強みを持ち、細胞を用いた系の弱点を補完できる。
一方で、プロテインアレイが本質的に抱える問題として、搭載された組換えタンパク質の品質について考慮しておくべきである。プロテインアレイのタンパク質は、異所的に発現させた組換えタンパク質である以上、生体内のタンパク質と構造が全く同じではない可能性がある。特に、無細胞系で調製したタンパク質はジスルフィド結合や翻訳後修飾が細胞発現タンパク質と異なることが多いため、翻訳後修飾が構造や機能に重要なタンパク質が生体内とは異なった挙動をする可能性がある。
これまでに様々な規模・形状・コンセプトのプロテインアレイが開発されている。主なものだけでも、無細胞発現系や酵母を用いて発現させたタンパク質をスライドガラス上に固相化したプロテインチップ[5,6]、鋳型DNAをプリントしたスライドガラス上でタンパク質の無細胞合成と固相化を行うNucleic Acid Programmable Protein Array Technology (NAPPA) [7]、無細胞合成したタンパク質を固定した磁性ビーズを高密度アレイ化したProtein Active Array (PAA) [8]などが開発され、各社から販売あるいはサービス提供されている。それぞれ、高密度化や試験の効率化を重視したものや、タンパク質の変性をできるだけ抑えるよう配慮したものなど、コンセプトがそれぞれ異なっている。
これらのプロテインアレイの多くは、搭載するタンパク質の調製に無細胞タンパク質合成技術(無細胞系)を用いている。無細胞系は、試験管内で翻訳反応を再構成する技術である。無細胞系の反応液には、細胞から抽出した翻訳機構、ポリペプチドの設計図と構成単位であるmRNAと20種の標準アミノ酸、翻訳機構を駆動させるATP・GTPなどのエネルギー源およびエネルギー再生系が含まれる。無細胞系の利点は、安定した翻訳効率とスケーラビリティである。細胞発現系では、過剰発現されたタンパク質によりしばしば細胞内ホメオスタシスが撹乱され、細胞増殖や翻訳が抑制されることがあるが、無細胞系では、直接翻訳系を阻害するような毒素タンパク質のような例外を除き、翻訳産物による反応阻害を受けることがなく、合成量が安定している。また、細胞抽出液や各試薬を試験管内で混和するだけで合成できるので、反応系のスケール変更や自動化、並列化が容易である。
これまでに、大腸菌やウサギ網状赤血球、カイコなど様々な細胞の抽出液を用いた無細胞系が開発されているが、特に愛媛大学の遠藤、澤崎らによって開発されたコムギ無細胞タンパク質合成系 (図2) はその高い翻訳効率でプロテインアレイの実現に大きく貢献した[5,9]。コムギ無細胞系は、翻訳活性の高いコムギ胚芽の精製技術、独自の翻訳エンハンサー配列を含む真核生物型mRNAのデザイン、翻訳反応の自動化・並列化を容易にした重層法などの要素技術によって成立している[10-12]。真核生物であるコムギは当然、真核生物型の翻訳機構を持つが、このことがヒトのタンパク質発現に有利に働く。真核生物の翻訳系は、原核生物型の翻訳系に比べて10倍程度アミノ酸の連結速度が遅く、時間をかけてポリペプチド鎖をフォールディングする。そのためヒトを含む真核生物のタンパク質は時間をかけてフォールディングするように進化しており、真核生物型の翻訳機構で翻訳する方が凝集のリスクが低く、翻訳成効率が高い。また、コムギの翻訳機構はコドン利用頻度によるバイアスの影響を受けにくく、植物はもちろん、ヒト、マウス等の高等哺乳類、バクテリア、ウイルス、はてはCG含量が30%程度と極端に低いマラリア原虫まで、多様な生物種のcDNAを鋳型としてタンパク質を良好に合成できる。コムギ無細胞系を用いれば、多数のヒトcDNAを、それぞれのコドンを個別に最適化することなくタンパク質合成の鋳型として用い、無細胞合成することが可能である。

2.3 愛媛大学が整備するプロテインアレイ
我々が愛媛大学プロテオサイエンスセンターで運用しているプロテインアレイはタンパク質をあえて固相化していない。96穴または384穴プレートの各ウェル中で個別のタンパク質を無細胞合成した翻訳反応溶液をプレート単位で小分け分注して凍結保存したものである。プロテインアレイは相互作用解析を実施する直前に融解し、多検体の同時精密分注が可能な分注ロボットを用いて、必要量を反応系に添加する。タンパク質を基盤上に固相化すると、どうしてもタンパク質分子の自由運動が制限されるため、ベイト分子との相互作用に多少なりとも影響がでる可能性がある。そのため我々は、プロテインアレイの個々のタンパク質とベイト分子を反応液に1対1で添加し、自由に相互作用させる戦略を採用した。標的を固定せず、溶液中で自由に振る舞わせることで、お互いの分子が自由な角度でアクセスでき、精度の高い相互作用情報が得られる。固相化しない代償として、アッセイ時には膨大な数の反応液にアレイタンパク質を微量精密分注する必要があるが、384サンプルの同時精密分注が可能な分注ロボットや、高速ドロッパーなどのスクリーニング設備を活用し、高密度化と少量化を進めることで我々はこの課題を解決した。相互作用の検出には高感度なハイスループットアッセイ系であるAlphaScreenを用いている。次節ではAlphaScreenについて紹介する。

2.4 AlphaScreenを用いた相互作用アッセイ
AlphaScreen®(PerkinElmer)(LOCIとも呼ばれる)はドナービーズ、アクセプタービーズの2種類の微細な検出ビーズを用いた相互作用解析アッセイ法である [13]。反応させる2種類の分子のそれぞれにビーズを連結し、ビーズの近接によって対象分子間の相互作用を観察する (図3)。AlphaScreenは洗浄工程を必要としないホモジニアスアッセイ系であり、解析する試料と試薬を添加、混和するだけで完結する。そのため、分注ロボットを用いた自動化が容易であり、多検体のスクリーニングを簡便かつ短時間に実施することができる。

AlphaScreenは高い感度と特異性、さらに頑強さといった、スクリーニングに適した特長を併せ持つ。AlphaScreenはFRETと一見似ている系であるが、全く原理が異なる。AlphaScreenは励起光(680 nm)よりも高いエネルギーの化学発光(520 nm)を検出するため、励起光よりも弱いエネルギーの蛍光を検出するFRETよりも格段にS/N比が高く(数十倍〜数千倍)、ダイナミックレンジも4〜6桁と非常に広い。また、FRETはドナー分子とアプセプター分子が特定の角度で極めて近接(7〜10nm)する必要があり、アッセイ条件を厳密に設定する必要がある。それに対し、AlphaScreenにおいてドナーとアクセプターの間を取り持つ一重項酸素の飛程は約200nmと比較的長く、角度の縛りもないため、アッセイ系を構築するのが容易で、構築した系は破綻しにくい。球状タンパク質のサイズが約7〜10 nm, 抗体分子でさえ18 nm程度であることを考慮すると、200 nmの飛程の範囲にはかなり巨大な複合体であっても内包できることがお分かりいただけるだろう。プロテインアレイに搭載されたタンパク質のサイズや構造は多岐にわたるため、AlphaScreenの持つ良い意味での“ルーズさ”はプロテインアレイを用いた相互作用スクリーニングの実施を容易にする。
AlphaScreenとコムギ無細胞系で合成したタンパク質は非常に相性が良い。様々な修飾を施した検出ビーズが市販されているが、我々は主にストレプトアビジン融合ドナービーズとProtein A融合アクセプタービーズを用いてアッセイ系を構築している(図4)。ほとんどの場合、無細胞合成したタンパク質は精製する必要がなく、未精製の翻訳反応液をAlphaScreen反応系に直接添加してアッセイすることが可能である。コムギ無細胞系の翻訳反応液にはAlphaScreenを阻害する物質が含まれておらず、ほとんどの場合、0.1〜2µLの翻訳反応液中にAlphaScreenの検出に十分な量のタンパク質が含まれている。また、ビオチン化ベイト分子とストレプトアビジンドナービーズ、タグ融合アレイタンパク質とタグ抗体-Protein Aアクセプタービーズはそれぞれ高い特異性を持って結合するため、コムギ内在のタンパク質などの夾雑物存在下でも特異的な相互作用を検出できる。実際、未精製タンパク質を用いたタンパク質間相互作用でもスクリーニングに十分な20倍から600倍程度のS/N比が得られている。
AlphaScreenを用いた相互作用アッセイ系構築のポイントの1つは、系に加えるビオチンの量の制御である。AlphaScreenの特性上、リガンド分子を過剰に系に添加すると、ビーズに結合できなかったリガンドが相互作用の検出を妨害し、シグナルが低下あるいは消失する原因になる(フック効果)。特にアッセイ系に添加するビオチン化タンパク質の調製法には気を配る必要がある。数µMのビオチンを添加しただけで99%のシグナルの低下が認められる。そのため、化学修飾によりタンパク質にビオチン化を施す場合は、ビオチン化反応後にタンパク質に結合しなかったフリーのビオチンを丁寧に除去する必要がある。我々は、無細胞合成系とビオチン化反応をAlphaScreenのために最適化することでこの問題を解決した。無細胞合成反応液中に、ビオチンリガーゼと終濃度0.5 µMのビオチンを添加することで、翻訳された標的タンパク質をビオチン化できる。こうして調製したビオチン化タンパク質は、未精製のままAlphaScreen反応系に添加しても相互作用検出を阻害しない。

3. 愛媛大学で整備しているプロテインアレイとその利用
我々のグループはこれまでにヒト、マウス、シロイヌナズナなど様々な生物種の多様なタンパク質をコムギ無細胞系を用いて合成し、プロテインアレイとして整備してきた。この章ではヒトタンパク質約26,000クローンを搭載した大規模なプロテインアレイと、比較的小規模で特定領域のタンパク質をカバーするフォーカスドアレイをそれぞれ紹介する。
我々のグループで運用しているプロテインアレイのうち、最大のものが「26Kヒトプロテインアレイ」である(図5)。26,000クローンのタンパク質はスプライシングバリアントや多少の重複を含むため、遺伝子数としては20,000程度をカバーしている。26Kヒトプロテインアレイを構成するタンパク質のうち、約20,000クローンは産業技術総合研究所の五島らがFLJクローンを用いて整備した遺伝子リソースを用いてセルフリーサイエンス社が作製したものである。収録されたクローンの情報はHGPDデータベースで公開されている[14]。残り6,000クローンは、愛媛大学とかずさDNA研究所が共同で整備しているセットである。かずさDNA研究所が保有するcDNAクローンをコムギ無細胞系用のプラスミドベクターに載せ替え、それを鋳型にタンパク質を無細胞合成している。愛媛大学ではプロテインアレイを毎年約1200クローンずつ拡充している。両セットはサブクローニングの方法や転写鋳型の調製法などに若干の違いがあるものの、基本的に合成タンパク質のN末にFLAGタグとGSTタグを融合している点や、翻訳反応の試薬およびプロトコルは共通である。例外は愛媛大学で整備しているセットに含まれる複数回の膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質1,100クローンである。これらの膜タンパク質はN末にFLAGタグが融合され、脂質小胞リポソームを添加したコムギ無細胞系で合成している。翻訳された膜タンパク質は、疎水ドメインを介してリポソーム脂質に結合し、プロテオリポソームとして安定化する。

図6は、ヒトプロテインアレイを用いて比較的最近実施したスクリーニング結果の一例である。そのうち2つはタンパク質をベイトとして用いた試験で、もう1つは低分子のベイトの試験である。これらは現在も研究を継続しているため標的の名前や詳細な結果は伏せさせていただくが、それぞれ異なったパターンでヒットが得られており、各ベイトが特異的にプレイタンパク質に結合していることがお分かりいただけるかと思う。

網羅的な探索に適した26Kアレイとは別に、我々はよりコンパクトに特定領域のタンパク質を集約した「フォーカスドアレイ」も整備している。事前情報から、ベイト分子と特定のパスウェイの関与が濃厚である場合や、ベイト分子との組み合わせが明白である場合(例えば酵素-基質や、DNA-転写因子など)は、あらかじめ絞られた候補を精査する方が効率的である。我々のグループではこれまでにプロテインキナーゼ(404クローン)[15]、プロテインフォスファターゼ(100)[16]、E3ユビキチンリガーゼ(250)[17]、脱ユビキチンリガーゼ(80)[18]、転写因子(1,359)(論文投稿中)、1回膜貫通タンパク質(407)[19]、自己抗原候補タンパク質(2,181)[20]などのヒトタンパク質を搭載したフォーカスドアレイを整備し、様々な解析に用いてきた。プロテインキナーゼとE3リガーゼは本年度中に480クローンと470クローンまで増やしたアレイに更新する予定である。また、新たにGPCR(700)、イオンチャネル(230)、トランスポーター(350)、シャペロン(80)、CDマーカー(350)、エピジェネティクス関連因子(750)、プロテアーゼ(500)などのフォーカスドアレイも整備中である。

4. 酵素フォーカスドアレイを用いた創薬ターゲット探索事例
これまで我々のグループでは、プロテインアレイとAlphaScreenを用いて様々な研究を行なったが、プロテインキナーゼやE3リガーゼといった酵素タンパク質のフォーカスドアレイを用いた研究で最も多くの成果を得ている(表1)。リン酸化やユビキチン化などの翻訳後修飾が疾患に深く関わっているという報告は多い。翻訳後修飾を触媒する酵素の多くは、修飾反応をおこなう際に基質タンパク質を特異的に認識して相互作用することから、酵素のフォーカスドアレイを用いて基質タンパク質と相互作用する酵素を選抜することで、翻訳後修飾の“責任酵素”を同定することが可能である。責任酵素が同定されれば、その酵素活性や、責任酵素と基質タンパク質間の相互作用が薬剤開発の標的となる。実際の探索では、フォーカスドアレイとAlphaScreenを用いた1次スクリーニングで基質タンパク質に結合する酵素をある程度絞り込み、in vitroでの修飾反応や細胞系を用いた高次試験で検証を行うことが多い。
以下に、我々が行なったプロテインアレイを用いた研究のうち、代表的な3つの成果事例をご紹介する。

4.1 C型肝炎ウイルス(HCV)タンパク質と相互作用する宿主タンパク質の探索
HCVがもつ非構造タンパク質の一つであるNS5Aのリン酸化が感染性ウイルス粒子形成などウイルスの生活環において重要であることが知られている。HCVのウイルスゲノムにはプロテインキナーゼはコードされておらず、宿主のプロテインキナーゼによるリン酸化の可能性が強く示唆されていたが、責任酵素は未同定であった。そこでNS5Aに結合するプロテインキナーゼを404種類のヒトプロテインキナーゼアレイより選抜した。得られた候補をin vitroリン酸化試験や培養細胞での高次解析で検証した結果、NS5Aリン酸化の責任酵素としてCKI-を見出した[21]。細胞内でCKI-をノックダウンすると、NS5Aのリン酸化量が低下し、感染性ウイルス粒子の産生量が有意に低下した。これらの結果は、CKI-が新たな抗HCV薬開発における有力な標的であることを示唆している。CKI-αがNS5Aのリン酸化に関わるという報告は本研究以前にはなく、ヒトプロテインキナーゼアレイと標的タンパク質の直接的な相互作用解析による酵素-基質探索の有効性を示している。

4.2 脱ユビキチン化酵素CYLDユビキチン化の責任E3リガーゼの探索
CYLDは炎症や免疫応答に中心的な役割を果たすNF-B活性化経路を負に制御することで、同経路の適正な活性を維持する重要な因子である。このCYLDが細胞内においてタンパク質レベルで減少する例が報告されており、ユビキチン・プロテアソーム経路による分解が考えられたが、その責任酵素は未同定であった。そこで我々はE3リガーゼアレイを用いてCYLDに結合するE3リガーゼの探索を行なった。in vitroや細胞試験による検証を経て、CYLDをユビキチン化し分解するE3リガーゼとしてMIB2が同定された[25]。MIB2は細胞内でCYLDを分解することでNF-B経路の活性を活性化し、MIB2のノックアウトマウスは関節炎抑制の表現系を示した。さらに遺伝性疾患の家族性円柱腫症の患者から見出されたCYLD変異体(P904L)は、野生型と比較してMIB2によってより顕著に分解された。この結果は、家族性円柱腫症において、MIB2によるCYLD変異体の過剰な分解が発症の一因になっている可能性を示唆している。MIB2の活性阻害や、CYLD−MIB2間の相互作用阻害によって、種々の炎症疾患や家族性円柱腫症の治療法が開発されることが期待される。

4.3 脱ユビキチン化酵素阻害剤の特異性評価パネルの作製
脱ユビキチン化酵素(DUB)は、ユビキチン化に依存した細胞応答を負に制御する因子である。DUBの主たる役割の一つが、ユビキチン化されたタンパク質からユビキチン鎖を除去し、プロテアソーム分解から保護することである。近年、DUBが過剰に働くことで、本来分解されるべきタンパク質が細胞内に過剰蓄積し、がんや神経性疾患などを惹起する例が報告されており、DUBは魅力的な創薬標的として注目されている。しかしDUBの酵素活性ドメインの構造は非常に高く保存されており、特定のDUBを選択的に阻害する化合物の開発は困難である。そのためDUBを標的とした薬剤開発において、なるべく多くのDUBを用いた特異性評価技術が求められている。最近我々は、ヒトがもつ約100種類の脱ユビキチン化酵素のうち8割程度をカバーするDUBフォーカスドアレイを作製した[18]。このDUBアレイとAlphaScreenを用いた、簡便なDUB阻害剤の特異性評価技術の開発を進めている。無細胞合成したDUBのほとんどは酵素活性を保持していたが、AlphaScreenを用いた基質ユビキチン鎖の切断活性評価系はまだ改良の余地があり、現在のところ評価可能なDUBは30種類程度である。しかしこの評価系を用いて、我々が新規に見出したDUB阻害剤候補の特異性評価を試みたところ、この阻害剤が特定のファミリーのDUBに阻害効果を示すことが確認できた[30]。今後、AlphaScreen系の改良により、全てのDUBを対象とした特異性評価パネルを構築していく予定である。

5. 終わりに
前章で紹介した酵素フォーカスドアレイの事例の他にも、我々はプロテインアレイを様々な目的の研究に活用している。タンパク質や抗体をベイトとして用いた研究では、タンパク質複合体を形成する相互作用パートナーの網羅的な探索、抗体の抗原特異性解析、疾患特異的自己抗原の探索、バイオマーカー探索などを実施している。また、ビオチン化されたDNAと転写因子アレイを用いて、疾患関連SNPsの結合因子の探索を試みている。他にも、低分子化合物をベイトとして用いたスクリーニングでは、細胞内の作用点が不明な生理活性物質の標的の特定や、副作用リスクとなる想定外の結合タンパク質の特定が期待されている。
無細胞タンパク質合成技術やスクリーニング技術、検出技術の発展に伴い、我々のグループのアレイの他にも、様々な形状や規模のプロテインアレイが世界中で開発されている。同定済みで一定品質の組換えタンパク質をカタログ化したプロテインアレイは、酵母ツーハイブリッド法や免疫沈降-質量分析法といった細胞を用いた相互作用解析技術を補完するツールとして徐々に認知や利用が進んでいる。今後、プロテインアレイ技術とその応用法の開発がさらに進み、創薬研究開発を後押しする技術の柱の1つとして多くの方に活用されることを期待している。最後に、愛媛大学プロテオサイエンスセンターでは、プロテインアレイやスクリーニング技術を用いた共同研究をアカデミア・企業問わず受け入れている。興味深い研究の提案をお待ちしている。

謝辞
プロテインアレイの整備で尽力いただいているかずさDNA研究所の山川央先生、セルフリーサイエンス社の森下了氏にこの場を借りて御礼申し上げます。NS5Aの共同研究では浜松医科大学 鈴木哲朗先生に、CYLDの共同研究では大阪市立大学の徳永文稔先生に多くのご指導をいただいたことに感謝申し上げます。コムギ無細胞合成およびスクリーニングに関して適切な助言をいただいている愛媛大学澤崎達也先生、研究を支えていただいている研究員、技術補佐員、学生の皆さんに感謝いたします。愛媛大学で進められているプロテインアレイの整備とスクリーニング技術開発は、平成28年度〜令和2年度文部科学省国立大学法人機能強化促進費、公益財団法人 武田科学振興財団 特定研究助成により遂行されました。また、本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(16K01915、20K05709)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号JP 20am0101077の技術高度化で遂行されました。

参考文献
[1] Egner, U., Krätzschmar, J., Kreft, B., Pohlenz, H.-D. & Schneider, M. The target discovery process. Chembiochem 6, 468–479 (2005).
[2] Lindsay, M. A. Target discovery. Nat. Rev. Drug Discov. 2, 831–838 (2003).
[3] Ishigaki, K. et al. Large-scale genome-wide association study in a Japanese population identifies novel susceptibility loci across different diseases. Nat. Genet. 52, 669–679 (2020).
[4] Paananen, J. & Fortino, V. An omics perspective on drug target discovery platforms. Brief. Bioinform. DOI: 10.1093/bib/bbz122 (2019).
[5] Goshima, N. et al. Human protein factory for converting the transcriptome into an in vitro–expressed proteome. Nat. Methods. 5, 1011–1017 (2008).
[6] Hu, S. et al. Profiling the human protein-DNA interactome reveals ERK2 as a transcriptional repressor of interferon signaling. Cell 139, 610–622 (2009).
[7] Ramachandran, N. et al. Self-assembling protein microarrays. Science 305, 86–90 (2004).
[8] Morishita, R. et al. CF-PA2Vtech: a cell-free human protein array technology for antibody validation against human proteins. Sci. Rep. 9, 19349 (2019).
[9] Sawasaki, T., Ogasawara, T., Morishita, R. & Endo, Y. A cell-free protein synthesis system for high-throughput proteomics. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 99, 14652–14657 (2002).
[10] Madin, K., Sawasaki, T., Ogasawara, T. & Endo, Y. A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system prepared from wheat embryos: plants apparently contain a suicide system directed at ribosomes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97, 559–564 (2000).
[11] Sawasaki, T. et al. A bilayer cell-free protein synthesis system for high-throughput screening of gene products. FEBS Lett. 514, 102–105 (2002).
[12] Takai, K., Sawasaki, T. & Endo, Y. Practical cell-free protein synthesis system using purified wheat embryos. Nat. Protoc. 5, 227–238 (2010).
[13] Ullman, E. F. et al. Luminescent oxygen channeling assay (LOCI): sensitive, broadly applicable homogeneous immunoassay method. Clin. Chem. 42, 1518–1526 (1996).
[14] Maruyama, Y. et al. HGPD: Human Gene and Protein Database, 2012 update. Nucleic Acids Res. 40, D924–D929 (2012).
[15] Tadokoro, D. et al. Characterization of a caspase-3-substrate kinome using an N- and C-terminally tagged protein kinase library produced by a cell-free system. Cell Death Dis. 1, e89 (2010).
[16] Takahashi, H. et al. Genome-wide biochemical analysis of Arabidopsis protein phosphatase using a wheat cell-free system. FEBS Lett. 586, 3134–3141 (2012).
[17] Takahashi, H. et al. Establishment of a Wheat Cell-Free Synthesized Protein Array Containing 250 Human and Mouse E3 Ubiquitin Ligases to Identify Novel Interaction between E3 Ligases and Substrate Proteins. PLoS ONE 11, e0156718 (2016).
[18] Takahashi, H. et al. A Human DUB Protein Array for Clarification of Linkage Specificity of Polyubiquitin Chain and Application to Evaluation of Its Inhibitors. Biomedicines 8, 152 (2020).
[19] Akagi, T. et al. Caspase-8 cleavage of the interleukin-21 (IL-21) receptor is a negative feedback regulator of IL-21 signaling. FEBS Lett. 585, 1835–1840 (2011).
[20] Ishigami, T. et al. Anti-interleukin-5 and multiple autoantibodies are associated with human atherosclerotic diseases and serum interleukin-5 levels. FASEB J. 27, 3437–3445 (2013).
[21] Masaki, T. et al. Involvement of hepatitis C virus NS5A hyperphosphorylation mediated by casein kinase I-α in infectious virus production. J. Virol. 88, 7541–7555 (2014).
[22] Miyakawa, K. et al. PIM kinases facilitate lentiviral evasion from SAMHD1 restriction via Vpx phosphorylation. Nat. Commun. 10, 1844 (2019).
[23] Inoue, S.-I. et al. CIPK23 regulates blue light-dependent stomatal opening in Arabidopsis thaliana. Plant J. DOI: 10.1111/tpj.14955 (2020).
[24] Nemoto, K., Takemori, N., Seki, M., Shinozaki, K. & Sawasaki, T. Members of the Plant CRK Superfamily Are Capable of Trans- and Autophosphorylation of Tyrosine Residues. J. Biol. Chem. 290, 16665–16677 (2015).
[25] Uematsu, A. et al. The E3 ubiquitin ligase MIB2 enhances inflammation by degrading the deubiquitinating enzyme CYLD. J. Biol. Chem. 294, 14135–14148 (2019).
[26] Yonezawa, T. et al. The ubiquitin ligase STUB1 regulates stability and activity of RUNX1 and RUNX1-RUNX1T1. J. Biol. Chem. 292, 12528–12541 (2017).
[27] Yamamoto, T. et al. Interaction between RNF8 and DYRK2 is required for the recruitment of DNA repair molecules to DNA double-strand breaks. FEBS Letts 591, 842–853 (2017).
[28] Tan, B. H. et al. Identification of RFPL3 protein as a novel E3 ubiquitin ligase modulating the integration activity of human immunodeficiency virus, type 1 preintegration complex using a microtiter plate-based assay. J. Biol. Chem. 289, 26368–26382 (2014).
[29] Nemoto, K. et al. Tyrosine phosphorylation of the GARU E3 ubiquitin ligase promotes gibberellin signalling by preventing GID1 degradation. Nat. Commun. 8, 1004 (2017).
[30] Yamanaka, S. et al. Subquinocin, a small molecule inhibitor of CYLD and USP-family deubiquitinating enzymes, promotes NF-κB signaling. Biochem. Biophys. Res. Commun. 524, 1–7 (2020).

///// Cutting Edge /////

インテグリン創薬から考える一回膜貫通型タンパク質における
創薬ストラテジー
関西医科大学 生命医学研究所 分子遺伝学部門
池田幸樹・木梨達雄

1. はじめに
創薬標的の枯渇が叫ばれている昨今、これまで困難とされていた膜タンパク質に対しての創薬が活発化している。特に七回膜貫通型であるGタンパク質共役受容体(GPCR)はヒトに800種ほどコードされており、世界的に阻害剤開発の競争が始まっている。一方で、重要とされつつも創薬標的として不人気を博しているのが一回膜貫通型受容体と呼ばれるタンパク質群ではないだろうか。代表的な一回膜貫通型タンパク質として、細胞内に酵素活性をもつ受容体(インスリン受容体、EGF受容体)、酵素活性のないToll-like受容体など、そして本稿で主に取り上げるインテグリン受容体がある。これらタンパク質群は細胞膜の内外のシグナル伝達を結びつける役割の多くを担っており、細胞状態を逐一モニターしていることから、多くの疾患と強く関連しているとされている。これら受容体の多くに共通したことは膜外にリガンド結合部位を持ち、リガンド結合によって細胞内領域の活性化(Outside-Inシグナル)が起こることである。しかし創薬において不人気の理由を考えれば、これらのタンパク質は創薬標的として数多くの困難さや問題点を抱えていると推測される。これら問題点を私たちの注目している分子であるインテグリンを例に分析し、今後の創薬の発展の礎となれば著者冥利に尽きる。

2. インテグリン阻害薬の今昔
1985年に初のインテグリン発見の報告があり、インテグリン研究が始まって既に35年が経とうとしている現在、インテグリンが制御・調節する細胞機構は多岐に渡り、特に細胞接着、浸潤、遊走、増殖を制御し、炎症を始め様々な病態においてインテグリンの働きが制御に重要と報告されている。そこで、さぞやインテグリンと病態の関係性及び薬剤開発は進んでいるだろうと思いきや、市場に残っているインテグリン阻害薬と有効な病態はたったの4組しかない(表1, [1-5])。かと言って、インテグリン創薬に世界中の誰もがそんなに興味がないのか?というと、アメリカ食品医薬品局(FDA)は非常に良い創薬標的であると太鼓判を押しているし(The HUMAN PROTEIN ATLAS, FDA approved drug targets, https://www.proteinatlas.org)、インテグリン薬剤特許についても数多く存在する。そのため、インテグリン創薬は魅力的な題材であるにも関わらず、一体何が原因で創薬が進展しないのか一考する価値がある。
インテグリンは元々、細胞外マトリクスを形成するフィブロネクチンレセプターとして同定された経緯があり、細胞内外を結びつける”インテグレートする分子”として名を受けて、あれよあれよと言う間にインテグリンαが18種、インテグリンβが8種同定された。このαとβがヘテロ複合体を形成し、細胞にはインテグリンαβ複合体が組み合わせにより計24種、対するリガンドが30種以上存在する事が明らかになっている(図1, [1]から改変)。
このヘテロ2量体形成は他の一回膜貫通型受容体においても度々見られ、細胞制御を複雑にしている要因であると考えられるが、とりわけインテグリン複合体及びリガンドはその種類と細胞種における発現パターンという点でバラエティに富んでいる。それゆえインテグリンと関連の深い病態の解明は複雑怪奇どころか、”全ての病気はインテグリンに通じる”とゆめゆめ肝に命じて筆者らは解析を行っている。これまでの私たちの解析からもインテグリンは免疫作用機序に必要不可欠であり[6]、がん細胞の増殖・浸潤・転移能に多大な影響を与えていることが分かった。そのため、インテグリン標的薬には様々な病態に対する薬効を持つポテンシャルが秘められている。さて本稿では、まずはインテグリン阻害薬と標的病態の成功例からインテグリン阻害薬同定のための心得を学び得たい。

2.1 レセプターならリガンド結合ポケットを標的にすればいいじゃない
一回膜貫通型タンパク質の中でもチロシンキナーゼ型受容体のように細胞内にキナーゼ活性領域を持つタンパク質においては、活性化に伴って細胞内チロシン残基のリン酸化が起こることから活性化の定義が明瞭であり、他のキナーゼ阻害剤開発と同様に、キナーゼ活性部位を標的にした創薬が頻繁に行われている(e.g. EGFR inhibitor; Erlotinib, Gefitinib)。一方で、インテグリンやToll-like受容体のようにキナーゼ活性部位を持たず、リガンド結合に伴うダイナミックな構造変化(あるいは2量体化)により細胞内へとシグナルを伝達するケースでは、基本的には受容体細胞内領域が複数のタンパク質と複合体形成を行うことが活性化の最終型であると考えられる[7, 8]。しかしこの複合体についても様々な因子が絡み合うヘテロ複合体と考えられており、明確な活性化の定義が難しいと言える。そこでまず考えられる創薬のストラテジーとして、活性化に重要であるリガンド結合を未然に防ぐようなアンタゴニストを設計することが考えられる。これは正攻法とも言うべき理論であり、現に複数の成功例がレセプター/リガンド間において発表されている(e.g. TLR4 inhibitor; Eritoran)。インテグリンにおいてもこれまで幾度となくレセプター結合性阻害剤の開発がなされてきた経緯があり、尤もな理由として、1. インテグリンのリガンド結合部位及び結晶構造が同定されている, 2. 細胞外に露出していることから標的にするのが容易である, 3. 創薬モダリティとして高分子である抗体医薬なども選択できる、などが挙げられる。これらの利点の多くは一回膜貫通型受容体に共通しており、まずはレセプター/リガンド間結合を阻害するインテグリン創薬の開発成功例ついて見てみることで理解を得たい。
これまでの研究から炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)では炎症部位においてインテグリンα4β7のリガンドであるMAdCAM-1の発現が亢進することが報告されている[2, 9, 10]。Vedolizumabはα4β7のリガンド結合サイト近辺に結合する抗体医薬品であり、結合することでα4β7とリガンドであるMAdCAM-1との結合に阻害的に働く(図2A)。同様にNatalizumabというα4インテグリンに結合する抗体医薬品が開発されており、多発性硬化症に対して有効性が示されている[2, 11]。Natalizumabにおいては図に示したモデルのように、共結晶構造からα4に結合することが明らかになっており、α4を基軸としたα4β1あるいはα4β7複合体の両者に作用する (図1&2B, [12], PDB:4IRZ, 3V4Vよりモデリング)。この2者はそれぞれ、リガンド結合領域近辺を物理的に阻害する特異的抗体の開発により得られていると考えられる。同様の創薬ストラテジーは多くのレセプター/リガンド間結合に有効であることから頻繁に行われている。
またLifitegrastはインテグリンαLβ2(LFA-1)に対する阻害剤であり、ドライアイにおいて起こるT cellの集積、そして炎症反応を抑制する働きを持つ。αLβ2に対する結合様式については公表されていないため詳細は分からないが、前述の2者と異なり、LifitegrastはαLβ2のリガンドであるICAM-1のレセプター結合領域を模した低分子化合物とされている[5]。αLインテグリンのリガンド結合部位(α-Iドメイン)とICAM-1の結合に重要な領域は既に同定されている[13]。そこでより深い理解を得るために、図ではLifitegrastの3D構造についてモデルを作成し、ICAM-1と比較を行った(図2C, PDB:1MQ8よりモデリング)。このようにPPI (Protein-Protein Interaction)阻害薬の設計の際に、in silicoにおいて既知の結合タンパク質領域と似た化合物を抽出、あるいは置き換える取り組みは比較的頻繁に行われている。この創薬ストラテジーは、結晶構造解析などからレセプター/リガンド結合様式の詳細が明らかになっている一回膜貫通型受容体に対して、広く適用が可能であると考えられる。
これらの成功例から分かるように、インテグリンに対してもレセプター/リガンド結合を阻害する作用を持つ薬剤の開発は可能である。成功事例を分析してみると、病態においてのみ発現が顕著に亢進するインテグリン複合体あるいはリガンドを指標に標的を設定する、というストラテジーを念頭に開発していると考えられる。が、しかしこのストラテジーは言うまでも無く、非特異的作用を減らすための一般的な創薬の心得である。では次に、これら成功例では見えないインテグリン創薬における懸念要素について議論したい。

2.2 インテグリンは繊細なセンサー?
“彼を知り己を知れば百戦殆からず”と孫子にもあるように、インテグリン創薬を推し進めるにあたり、インテグリン研究の現状と問題点をまず知り、そして解消への手立てとする必要がある。さて、インテグリン創薬に着手してから知識を深めるにつれて、インテグリンには創薬における様々な障害があることが明らかになったと感じる。とりわけこれまで議論を遠ざけていたが、レセプターのアンタゴニスト開発では往々にしてアゴニストとして働くものが単離されることがある。インテグリン創薬の歴史を振り返ってみてもやはりご多分に洩れず、インテグリンαIIbβ3アンタゴニストとして開発されたAbciximabやTirofibanにおいては、細胞レベルではレセプター/薬剤の結合によりリガンド結合を阻害したことから有望な治療薬と考えられたものの、Clinical Trialでは思ったような成績が得られなかった[14, 15]。さらに薬剤がインテグリンに結合することで、インテグリンの活性化(Outside-Inシグナル)を惹起してしまうことが後に明らかになった[16]。同様にインテグリン細胞外領域認識抗体においてもインテグリンを活性化状態に導くものが報告されている[17]。他にも抗がん効果を期待されていたインテグリンαVβ3, αVβ5に対するアンタゴニストは低容量投与時にがん細胞増殖の亢進と血管新生を引き起こすことが明らかになった[18]。これらの例から考えれば、インテグリン細胞外領域を狙った創薬ストラテジーは、薬効がアゴニスト/アンタゴニストのどちらに転ぶか分からない諸刃の剣と言えるため安易に踏み込めない。
しかし、なぜこのようなことが起こるかについては考察する価値があるだろう。一般的には膜貫通型タンパク質は膜貫通領域の膜への挿入と周辺膜構造によって、その構造や複合体の安定化を図っている。一回膜貫通型タンパク質は単一のヘリックス構造のみを膜貫通領域として持つため、複数膜貫通型タンパク質に比べて膜へのアンカー能が弱く、その分、細胞膜上でのフレキシビリティは高い。またインテグリンの特徴として、不活性型2量体が低親和性状態で安定化しており、リガンド結合に伴って起こる柔軟かつダイナミックな構造変化に立脚した活性化システムを持つ。これらの結果として細胞外からの微細なシグナルに反応できると推察される。そのため、リガンド結合領域周辺に結合した薬剤/抗体がインテグリン不活性型2量体にアロステリック効果を引き起こし、活性化構造を誘起してしまうと考えられる。インテグリン複合体のように細胞外領域からの刺激に敏感に反応し、活性化を誘導する例があることについては膜タンパク質の薬剤開発において頭の片隅に必ず置いておく必要があるだろう。そこで例えば、レセプター/リガンド結合を指標にしたスクリーニング系を構築した際には、2次評価として下流シグナルの活性化の有無を確認することが肝要である。
次に考えられる問題として、24種も存在するインテグリン複合体が注目した病態に複合的に関与していないか、という疑問が生じる。既に触れたIBDにおいては、病態に関与すると考えられているインテグリン種はα4β7以外にもα4β1, αLβ2などが報告されている[19]。また、対するリガンドについてもMAdCAM-1以外にもα4β1のリガンドであるVCAM-1, αLβ2のリガンドであるICAM-1などの発現亢進が見られるが、このように病態に複数のレセプター/リガンドによる制御が複雑に働いている場合、単一の阻害薬では治療効果に限界がある可能性がある。さらにインテグリンβ1を基軸としたインテグリン複合体はユビキタスに発現していると考えられており、リガンドの1つであるフィブロネクチンの血漿濃度は約300 g/ml (11 M)と非常に高いことから、様々な細胞において恒常的にシグナルを供給していることが予想される。このように過剰なリガンドがある環境下では、リガンドと薬剤が競合的に働くための実効濃度は必然的に高くなることが容易に考えられる。前述したLifitegrastはドライアイに対して点眼薬として使用されており、このような局所的に薬剤濃度を高める効果が期待される病態領域特異的な薬剤投与は、インテグリンを標的にした創薬において特に有効であると予想される。
さてこれらの問題点を回避した創薬ストラテジーとして、細胞内領域における活性化複合体形成の阻害がある。この一例として、インテグリン細胞内領域に結合するインテグリン活性化因子の1つであるカルレティキュリンの作用を阻害することによってインテグリン関連疾患を制御する試み、そして薬剤開発が近年報告された[20]。薬剤が細胞内に浸透することが前提ではあるが、前述のような細胞外領域を刺激することで起こるインテグリン活性化の誘起やリガンド濃度に依らない阻害薬として今後様々な発展が予想される。幸か不幸か細胞内にてインテグリン活性を調節する因子は既に10種以上が報告されている。このようにインテグリンを中心とした機能解析の進展により、病態に則した上流及び下流制御因子の詳細な制御機序が明らかになれば、インテグリンそのものを標的にするだけでなく、周辺因子に対する創薬も活発化し、インテグリン関連疾患の治療に繋がることが期待される。

3. インテグリン、脂質二重膜に立つ
これまでの解析からインテグリンの場合、膜貫通領域の近辺でのサブユニット間の相互作用により、不活性化型構造が屈曲し、かつ低親和性で安定化していること、そしてRap1, Talinなどを介した内部から外部へとインテグリン活性化を誘起するInside-Outシグナル、及びインテグリン/リガンド結合により生じるOutside-Inシグナルの両者による働きかけによって、細胞内外のダイナミックな構造変化がインテグリン複合体の膜貫通領域近辺の解離をもたらし、インテグリンが活性化状態に移行するモデルが提唱されている。このように脂質膜近傍において活性化に重要なメカニズムが多く存在するインテグリンではあるが、リガンド結合領域に比べて膜貫通領域あるいは細胞内領域の構造理解は決して多くない。膜構造や膜近傍領域を含めたタンパク質構造の理解はインテグリンに限らず膜タンパク質の創薬において非常に重要であると認識されているものの、一回膜貫通型タンパク質の構造解析はCryo-EM法やNano Disc法など成功例はあるが、容易であるとは言い難く、インテグリンにおいても細胞膜領域を含めた全体像の把握が待ち望まれている。そこで構造解析に先んじて行えるin silicoモデリングと分子動力学的シミュレーション解析はインテグリンの膜上挙動の理解に打って付けである。
インテグリンにおいては細胞外ドメイン構造、そして細胞膜貫通領域及び細胞内領域について、独立してはいるが、代表構造が得られている。筆者らは分断されたインテグリン構造情報及び実験結果から全長モデルをin silicoにおいて脂質二重膜上に再構築し、分子動力学的手法を用いてタンパク質挙動及び阻害剤探索を行うことを試みている。図ではホモロジーモデリングにより不活性型と目されるインテグリンαLβ2複合体について全長構造を予測し、分子シミュレーションソフトであるmyPresto (Medicinally Yielding PRotein Engineering SimulaTOr, https://www.mypresto5.jp)を用いて脂質二重膜上にモデリングを行った(図3)。この構造モデル予測及び動的シミュレーションから、膜上におけるインテグリン複合体において効果的な薬剤結合ポケットの探索、薬剤ドッキングシミュレーション、あるいは抗体エピトープの設計といったアプローチが可能となっている。具体例で言えば、筆者らのmyPrestoを使用した標的とする膜タンパク質に対する薬剤結合ポケット探索、そしてin silico薬剤スクリーニングの流れでは、ポケットあたり200万化合物/Dayの速度で1次スクリーニングが可能であり、膜タンパク質創薬の低コスト化には今後、in silico技術の活用が必要不可欠と言っても過言ではない。
これまでリガンド結合ポケットに対して薬剤を設計することで、いくつかのインテグリン阻害剤は成功し、一方でいくつかは失敗したかに見えた。しかし、失敗と言えどそれらの薬剤は標的特異的な結合を果たしている。そこでin silicoにおけるインテグリン構造モデルの強みを活かして、これら失敗から成功を紡ぐようなアプローチが近年見られてきた。例えばインテグリンIIb3に対するアゴニスト活性を持っていたTirofibanを基に、構造モデルを駆使してアゴニスト活性のない新たな薬剤が設計されている[21, 22]。筆者らの取り組む膜上でのインテグリンの詳細な構造モデル及び動的シミュレーションは、このようなインテグリン活性化を引き起こさない薬剤の創出、そして薬剤や抗体の膜近傍におけるアクセシビリティ評価に役立つと考えている。同様に、多くの膜タンパク質は膜近傍での挙動理解が今後の創薬において重要だと考えられているものの、それらを理解するためのツールは決して多くない。その点、膜タンパク質の動的シミュレーションは様々な創薬ストラテジーに柔軟に応用可能であり、かつ低コストであることから、予測とその実証の蓄積により精度及び確度を高めていくことで、in silicoシミュレーションに根差した創薬手法が今後の創薬の未来に大きく寄与することを筆者らは期待している。

4. インテグリン創薬の加速に向けたプラットフォーム整備
さてこれまでの流れからインテグリン創薬を通じて一回膜貫通型受容体についての創薬を考察してみる。一回膜貫通型受容体ではA.キナーゼ阻害、B.レセプター/リガンド間の結合阻害、そしてC.細胞内活性化複合体形成阻害、の主に3つの阻害剤開発が挙げられる。このうちB及びCは近年多くの研究者が挑まれているPPI阻害剤の開発にあたることから、ご存知の通り難易度は高い。しかしインテグリン創薬に限って言えば、構造モデルに立脚したin silico薬剤スクリーニング系、そして既にいくつかのin vitro薬剤スクリーニング系が実用化段階にある。例えば、単一のインテグリン結合性リガンドをコーティングしたディッシュ上において、右図のように細胞接着能を測定することで、前述の課題はあるものの、特定のインテグリンに対するアンタゴニストをスクリーニングすることが可能である(図4)。一方で、今後の大きな課題として挙げられるのは、活性化インテグリンを認識する抗体の同定についてである。これまでの多くの病態研究ではインテグリンあるいはリガンドの多寡のみに注目していたが、重要なのは病態に則した特異的インテグリンの活性化状態である。活性化型インテグリン認識抗体が全てのインテグリン複合体に対して同定できれば、インテグリン活性化状態によって病状判断や投薬指針を決定するといった、インテグリン関連疾患におけるコンパニオン診断が可能になる。また薬剤開発においてもin vivoでの薬効の判断において大変有用であるため、早急な開発が望まれる。
筆者らはこれらの課題解決のために、そしてインテグリン創薬加速に向けた、インテグリン創薬コンソーシアム事業を展開し、現在6大学2機関が参画している。関西医科大では、どの病態がインテグリン活性化依存的なのかについて明らかにするべく、世界初となるインテグリンコホート研究の基盤構築を行っている。技術及び知識の相互利用及びこれまで築いてきた協力体制を今後より一層強化し、インテグリン創薬を推し進めて行く事で、インテグリン関連疾患の根治を目指したい。
最後に、膜タンパク質に対する創薬に取り組むにあたり、もちろん様々な苦難を抱えていらっしゃることと存じますが、本稿が何か良い気付きの一助となりますこと、そしてかくも難しき一回膜貫通型タンパク質に対する阻害剤取得を目指す皆様にご武運ご多幸あらんことをお祈り致します。
謝辞
このような執筆の機会を与えて下さりました関係者の方々に厚く御礼申し上げます。そしてインテグリン創薬コンソーシアム事業には数多くの研究者の方々にご協力頂いており、諸先生方に深く御礼申し上げます。また、関西医科大学・生命医学研究所分子遺伝学部門の先生方及びスタッフの皆様には、日々インテグリン創薬に関して多大なご協力と多くのアドバイスを頂いており、重ねて御礼申し上げます。本研究はJSPS科研費 JP20K07624の助成を受けたものです。

参考文献
[1] Raab-Westphal, S., Marshall, JF., Goodman, SL. Integrins as therapeutic targets: successes and cancers, Cancers (Basel), 9(9), 110 (2017). doi:10.3390/cancers9090110
[2] Ley K., Rivera-Nieves J., Sandborn WJ., Shattil S. Integrin-based therapeutics: biological basis, clinical use and new drugs, Nat. Rev. Drug Discov., 15(3), 173-183 (2016). doi:10.1038/nrd.2015.10
[3] McLean LP., Cross RK. Integrin antagonists as potential therapeutic options for the treatment of Crohn’s disease, Expert Opin. Investig. Drugs, 25(3), 263-273 (2016). doi:10.1517/13543784.2016.1148137
[4] Kufukihara K., Nakahara J. Integrin inhibitors: “natalizumab and vedolizumab”, Jpn. J. Thromb. Hemost., 30(4), 603-609 (2019). doi:10.2491/jjsth.30.603
[5] Semba CP., Gadek TR. Development of lifitegrast: a novel T-cell inhibitor for the treatment of dry eye disease, Clin. Ophthalmol., 10, 1083-1094 (2016). doi:10.2147/OPTH.S110557
[6] Ueda Y., Kondo N., Kinashi T. MST1/2 balance immune activation and tolerance by orchestrating adhesion, transcription, and organelle dynamics in lymphocytes, Front. Immunol., 11, 733 (2020). doi:10.3389/fimmu.2020.00733
[7] Kechagia JZ., Ivaska J., Roca-Cusachs P. Integrins as biomechanical sensors of the microenvironment, Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 20(8), 457-473 (2019). doi:10.1038/s41580-019-0134-2
[8] Akira, S., Takeda, K. Toll-like receptor signalling. Nat. Rev. Immunol., 4, 499-511 (2004). doi:10.1038/nri1391
[9] Picarella D., Hurlbut P., Rottman J., Shi X., Butcher E., Ringler DJ. Monoclonal antibodies specific for beta 7 integrin and mucosal addressin cell adhesion molecule-1 (MAdCAM-1) reduce inflammation in the colon of scid mice reconstituted with CD45RBhigh CD4+ T cells, J. Immunol., 158(5), 2099-2106 (1997).
[10] Wyant T., Fedyk E., Abhyankar B. An overview of the mechanism of action of the monoclonal antibody vedolizumab, J. Crohns Colitis, 10(12), 1437-1444 (2016). doi:10.1093/ecco-jcc/jjw092
[11] Haanstra KG., Hofman SO., Lopes Estêvão DM., et al. Antagonizing the α4β1 integrin, but not α4β7, inhibits leukocytic infiltration of the central nervous system in rhesus monkey experimental autoimmune encephalomyelitis. J. Immunol., 190(5), 1961-1973 (2013). doi:10.4049/jimmunol.1202490
[12] Yu Y., Schürpf T., Springer TA. How natalizumab binds and antagonizes α4 integrins, J. Biol. Chem., 288(45), 32314-32325 (2013). doi:10.1074/jbc.M113.501668
[13] Shimaoka M., Xiao T., Liu JH., et al. Structures of the alpha L I domain and its complex with ICAM-1 reveal a shape-shifting pathway for integrin regulation, Cell, 112(1), 99-111 (2003). doi:10.1016/s0092-8674(02)01257-6
[14] Bougie DW., Wilker PR., Wuitschick ED., et al. Acute thrombocytopenia after treatment with tirofiban or eptifibatide is associated with antibodies specific for ligand-occupied GPIIb/IIIa, Blood, 100(6), 2071-2076 (2002). doi:10.1182/blood.V100.6.2071
[15] Behan MW., Storey RF. Antiplatelet therapy in cardiovascular disease, Postgrad. Med. J., 80(941), 155-164 (2004). doi:10.1136/pgmj.2003.007062
[16] Hantgan RR., Stahle MC. Integrin priming dynamics: mechanisms of integrin antagonist-promoted alphaIIbbeta3:PAC-1 molecular recognition, Biochemistry, 48(35), 8355-8365 (2009). doi:10.1021/bi900475k
[17] Beglova N., Blacklow SC., Takagi J., Springer TA. Cysteine-rich module structure reveals a fulcrum for integrin rearrangement upon activation, Nat. Struct. Biol., 9(4), 282-287 (2002). doi:10.1038/nsb779
[18] Reynolds, A., Hart, I., Watson, A. et al. Stimulation of tumor growth and angiogenesis by low concentrations of RGD-mimetic integrin inhibitors, Nat. Med., 15(4), 392-400 (2009). https://doi.org/10.1038/nm.1941
[19] Ghosh S., Panaccione R. Anti-adhesion molecule therapy for inflammatory bowel disease, Therap. Adv. Gastroenterol., 3(4), 239-258 (2010). doi:10.1177/1756283X10373176
[20] Ohkuro M., Kim JD., Kuboi Y., et al. Calreticulin and integrin alpha dissociation induces anti-inflammatory programming in animal models of inflammatory bowel disease, Nat. Commun., 9(1), 1982 (2018). doi:10.1038/s41467-018-04420-4
[21] Zhu J., Choi WS., McCoy JG., et al. Structure-guided design of a high-affinity platelet integrin αIIbβ3 receptor antagonist that disrupts Mg²⁺ binding to the MIDAS, Sci. Transl. Med., 4(125), 125ra32 (2012). doi:10.1126/scitranslmed.3003576
[22] Adair BD., Alonso JL., van Agthoven J., et al. Structure-guided design of pure orthosteric inhibitors of αIIbβ3 that prevent thrombosis but preserve hemostasis, Nat. Commun., 11(1), 398 (2020). doi:10.1038/s41467-019-13928-2

///// Activities /////

<報告>
構造活性フォーラム2020
構造活性フォーラム2020「次期スーパーコンピュータ「富岳」時代の計算創薬」は、2020年6月の開催を計画しておりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため、残念ながら中止になりました。来年度には、開催方法を含め、構造活性フォーラム2021を検討しておりますので、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

実行委員長 池口 満徳(横浜市立大学)

///// Activities /////

<会告>
第48回構造活性相関シンポジウム
研究者の皆様方におかれましては、新型コロナによる感染症で制限がある中、色々工夫して研究活動されているところと存じます。
さて、今年のシンポジウムは、実行委員会の中で開催方法を検討した結果、当初の日程どおり12/10(演題が多い場合には12/11も開催します)にオンラインで開催する運びとなりました。オンライン開催は初めてで手探りで準備を進めていますが、基本的な方針としては、特に若手の皆さんのポスター・口頭の発表機会を例年どおり提供することを優先したいと考えています。また、この機会に普段当シンポジウムに参加しない方にも気軽に参加してほしいということで参加費は【無料】といたします。
オンライン開催の方法は、口頭発表をWebExかZoomで行い、ポスター発表と企業展示をRemoのテーブルで詳細な議論を行えるようにするべく、準備を進めていきます。
発表される方はホームページの【演題登録】のタブに進み、必要事項を記入してご登録ください。なお、口頭発表は15分程度の発表を、ポスター発表は3分程度のショートプレゼンテーションをWebExまたはZoomで行い、それに加えてポスター発表と企業展示にはRemoテーブルを用意する見込みです。締め切りは【10/10】になりますので、積極的な応募をお待ちしております。

実行委員長 本間 光貴(理化学研究所)

主催: 日本薬学会構造活性相関部会
会期: 2020年12月10日(木)、予備日11(金) 9:00~18:30(予定)
会場: オンライン開催
発表形式:
 招待講演(WebExまたはZoom使用)
 一般口頭発表(WebExまたはZoom使用)15分程度
 ポスター発表
 ショートプレゼンテーション(WebExまたはZoom使用)3分程度
 Remoにて個別にコミュニケーションをとれるwebスペースを準備予定

招待講演: (敬称略、五十音順)
荒木 望嗣(京都大学大学院 医学研究科 特定准教授)
「スパコンを用いたタンパク質-化合物結合親和性の高精度予測と医療・創薬への応用」

寺山 慧(横浜市立大学 生命医科学研究科 准教授)
「化学空間や配座空間をより自由に探索するために: 様々な機械学習・最適化手法とシミュレーションの連携」

原田 俊幸(住友化学株式会社 健康・農業関連事業研究所 主任研究員)
「量子化学計算と機械学習の創薬研究への応用」

発表登録・参加申込など:
発表申込期間: 9月1日(火)~10月10日(土)
最新情報はホームページにてご確認ください。(https://drugdesign.riken.jp/pub/qsar2020/index.html)

参加登録費: 無料
懇親会参加費: 無料(Remoを使用予定)
問い合わせ先:
〒222-0033 神奈川県横浜市鶴見区末広町1-7-22 C118
第48回構造活性相関シンポジウム実行委員長
理化学研究所 本間光貴
E-mail: qsar2020@ml.riken.jp
TEL: 045-503-9433

部会役員人事
2020年度 常任世話人 2020/10/1現在
部会長 大田雅照(理化学研究所)
副部会長 服部一成(塩野義製薬(株))
副部会長 本間光貴(理化学研究所)
会計幹事 川下理日人(近畿大学)
庶務幹事 竹田–志鷹 真由子(北里大学薬学部)
広報幹事 加藤博明(広島商船高等専門学校)
SAR News編集長 幸 瞳(理化学研究所)
ホームページ委員長 高木達也(大阪大院薬学研究科)

構造活性相関部会の沿革と趣旨
1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。
1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSAR Newsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照いただきたい。(https://sar.pharm.or.jp/)

編集後記
日本薬学会構造活性相関部会誌SAR News第39号をお届けいたします。今号では「創薬を加速する評価系」をテーマに、5人の先生にご寄稿をお願いいたしました。Perspective/Retrospectiveでは、株式会社SEEDSUPPLYの樽井直樹社長にAffinity Selection Mass Spectrometryを鍵とした次世代スクリーニング手法についてご紹介いただきました。Cutting Edgeでは、愛媛大学プロテオサイエンスセンターの竹田浩之先生、高橋宏隆先生にプロテインアレイを用いた創薬ターゲット探索に関する成果事例について、関西医科大学 生命医学研究所 分子遺伝学部門の池田幸樹先生、木梨達雄先生に、インテグリンをターゲットとした創薬についてそれぞれご紹介いただきました。技術の進歩により、過去では難しかったスクリーニング手法や創薬探索手法が徐々に、しかし確実に実現していると感じました。ご多忙の中、快くご執筆していただいた先生方に深く感謝申し上げます。
フォーラムのご報告および12月のシンポジウムの会告も掲載いたしましたので、お目通しいただければ幸いです。
(編集委員会)
SAR News No.39 2020年10月1日
発行:日本薬学会 構造活性相関部会長 大田雅照
SAR News 編集委員会
(委員長)幸 瞳、河合健太郎、清田泰臣、合田浩明、田上宇乃、仲西 功

*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。