SARNews No.1
SARNewsNo.1(Oct.2001)-1-SARNewsNo.1「目次」<記事>「SARNews」発刊によせて寺田弘・・・2///特別寄稿///構造活性相関研究と構造活性相関研究会の生い立ち・・・3藤田稔夫///研究紹介///生物ゲノムにおける蛋白質自動モデリング法の開発・・・9梅山秀明海老沢計慶岩舘満雄///研究紹介///シンプルな解析を目指して丹羽朋子・・・12<お知らせ>・第29回構造活性相関シンポジウム/プログラム・・・18<編集後記>・・・20構造活性相関研究会・ニュースレター<1.October2001>SARNewsNo.1(Oct.2001)-2-「SARNews」発刊に寄せて構造活性相関研究会・代表幹事寺田弘待望の構造活性相関研究会(JSAR)のニュースレターの発刊が現実のものになった。発刊に際する編集委員諸氏のご努力に心から敬意を表する次第である。ある組織が有機的な活動をするためには会員の管理と会誌の発行とが不可欠である。その意味では、JSARもようやく組織活動を総合的に行うための基盤が整ってきたことになる。JSARの発足した1975年と現在とではサイエンスの世界も大きく様変わりしている。21世紀は情報とゲノムの世紀と言われているように、ここ数年における両者の発展は目覚ましいものがあり、これらはいずれも構造活性相関の研究と大いに関係がある。我々が目指しているのは、生体に何らかのかたちで作用する物質がどの様にして活性を発現するかの機構を知るとともに、どの様なデザインを施したらより活性を高めることが可能であるかを統括的に明らかにすることである。このような研究は、医薬や農薬の開発にも密接に関係するので、各方面から大きな期待が寄せられてきた。その意味でも、1993年にJSARが日本薬学会医薬化学部会の活動に参画するようになったことの意義は非常に大きい。また、中国、韓国、オーストラリアの関係者と共同でDrugDesign&Development(3D)に関するシンポジウムを継続的に行い、アジア・オセアニア地区における医薬・農薬関連の研究の発展に大きな影響を与えていることも忘れることができない。構造活性相関の研究は、基本的に薬物の生体系に対する相互作用様式を主として薬物の物性に焦点を当てて発展してきたと言える。この場合、活性発現に必要な薬物分子の「情報性」をどの様にしたら総合的に評価できるのかということが大きな課題であるし、薬物分子のターゲットとなるタンパク質の3次元構造を明らかにすることも重要である。また、臨床の場における医薬品の作用、薬物の代謝・毒性発現の予測、さらには環境ホルモンなど外来物質の生体系への影響なども重要な研究課題である。この様な複合的な研究を視野に入れたとき、日本化学会情報化学部会と薬学会医薬化学部会とが共同して「情報化学討論会」と「構造活性相関シンポジウム」を開催するようになったことは自然のながれとも言えよう。両学会は30余りある我が国の化学関連学協会の中では最大の会員を擁しており、いろいろな点で共通項のある活動をこれまで行ってきたが、正式に共同体制をとって継続的に学術活動を行っている例は他にはない。この様な共同作業によって我々の活動にも新しい流れが形成され、それによって、構造活性相関の研究活動が一層活性化するはずである。古い革袋の酒も混ぜ合わせればいい味になるのではないか。本ニュースレターが会員各位ばかりでなく関連分野の研究者諸氏にとっても有効な情報交換の場になることを期待している。SARNewsNo.1(Oct.2001)-3-/////特別寄稿/////構造活性相関研究と構造活性相関研究会の生い立ち京都大学名誉教授藤田稔夫構造活性相関研究の意義医薬・農薬をはじめとする生(薬)理活性物質の構造活性相関(Structure-ActivityRelationship)を明らかにすることは,活性発現に係わるメカニズム(mechanismofinteractionwithbiologicaltargets),なかでも(sub)molecularlevelにおける(分子)機構の解明にとって貴重な手掛かりを提供する.また構造活性相関が“論理的”に解析できれば,解析結果の内挿的・外挿的な活用が,新規構造をもつ活性物質の合成設計に対して“合理的”な指針を与えてくれるという期待がある.従って生(薬)理活性物質の構造活性相関研究は基礎的(生化学的・薬理学的)にも応用的(新薬の構造設計)にも重要なものと考えられ医薬・農薬の研究領域では天然物質・合成物質を問わず従来から盛んに取り組まれてきた.もっともこの分野の研究は古くは単に“化学構造と生理(薬理)活性(作用)”と呼ばれ明確に両者の関係を認識するよりも互いに相互を属性として“記述”することしかできない場合が多かった.構造活性相関(SAR)という呼び方は“解析”が可能であることを期待させる“関係”の存在が意識されてきた1970年頃からはじまったものであって比較的新しい.構造活性相関研究の諸相生理活性および生理活性物質の実態は千差万別である.種々の生体系に対し種々のメカニズム・分子機構に基づいて種々の生(薬)理活性が種々の強度にて発現する.従って構造活性相関研究には,(I)一定のメカニズム・分子機構に基づいて,特定の生体系に対しある種の生理活性が発現するために,化合物にはどのような“骨格構造”および“官能性部分構造”上の要素・条件が要求されるかという課題.この課題は種々の生理活性化合物(群)相互の間における生理活性の“特性”と構造上の要素との関係に通ずる.(II)特定の生体系に対し一定のメカニズム・分子機構によって生理活性を発現するある化合物系列(共通あるいは類似の骨格構造をもつ場合が多い)において,生理活性の強度は構造上の要素(置換基や官能性部分の構造要素)とどのように関係づけられるのかという課題.の少なくとも二つの分野があり,それぞれ“異なった”方向からの研究アプローチがとらねばならないことに留意すべきである.そしてここで注意しておきたい重要なことは,いずれの分野においても構造上の変化と活性(特性あるいは強度)の変化との対応を問題としなければならないことである.単一の化合物の構造とその化合物の(単一の)生理活性の特性・強度とは無関係で,いずれもどちらかの項目の属性であるに過ぎない.因果関係を知るには,化合物群における両者の変化の間で対応を考察しなくてはならないのである.SARNewsNo.1(Oct.2001)-4-たとえば“アスピリン”は抗炎症薬である.アスピリン単独でも,生体内でどのような経過を辿って作用部位(受容体)に到達し,そこでどのような相互作用を行なって抗炎症効果を発現するかということを明らかにすることはできる.しかし,それはアスピリンの薬理学であってアスピリンの構造活性相関研究ではない.構造活性相関研究では少なくとも類縁の抗炎症活性化合物群において抗炎症効果を発現するためにどのような骨格および官能性構造上の要素・条件を共有せねばならないのかということを明らかにしなければならない.そしてその共有構造要素の化学的・物理化学的意義すなわち分子機構への関与はどのようなものであるのか,さらに抗炎症効果が存在しどうして殺虫活性や血糖値低下作用のような抗炎症効果以外の活性は顕わには発現しないのかといったことを解析することが厳密な意味で上記(I)の分野の構造上の変化と活性の特性の変化との対応に関する構造活性相関研究ということになる.普通この分野の研究ではある種の薬理効果を示す化合物および関連物質群の間で共有される構造上の共通点を検索・抽出し,定性的にstructure-activity(relationship)を記述することが多い.このような方式の実例は古くから現在にいたるまで極めて一般的である.また“モダーン”な立場からでは化合物ライブラリーのhigh-throughputscreeningによるlead構造(群)の特定・同定や,いわゆる“druglike”構造のinsilico設計などにも関係する分野であるといえよう.次にある特定の生理(薬理)活性を示す化合物群があるとしよう.LosartanやCandesartan(angiotensin-II受容体拮抗体)のような“sartan”系の抗高血圧剤の多くには“必須”に近い共通の骨格構造が含まれていてその骨格構造に種々の含窒素ヘテロ環(例外もある)が姿をかえて結合している.またNalidixicacidにその起源をもついわゆるnewquinolone系の抗菌剤の多くは一般に共通の4-quinolone-3-carboxylicacid骨格を“必須”(例外もある)構造とし環上の各位置に種々の置換基が導入されて種々の強度の活性を示す.いずれの場合においても化合物群(の内部)において部分構造(置換基)の変化に伴う化学的・物理化学的性質の変化が活性強度の変化とどのように対応づけられるかを解析することが(II)の分野の構造活性相関研究ということになる.これらの例において研究の対象となるのは化合物の集合ではあるが,実用されているような活性強度の大きい化合物群のみを対象にするだけでは充分でない.そのような解析からは活性強度が大きい化合物に共通の構造上の条件を示唆するような成果が得られるのみである.共通の骨格構造に導入される置換基・部分構造のdiversity/varietyを考慮し,活性強度の小さい類縁体をも同時に含むような化合物の集合を扱わないことには,活性強度が大きい方へ変化するに際して働くはずである化学的・物理化学的メカニズムについての情報を得ることはできない.定量的構造活性相関のはじまりとその普及最近では,上記のいずれの研究分野においても,コンピューターの演算機能・情報処理機能を活用することは極めて当然のことである.しかしたとえ初歩的な“計算”であったとしても,コンピューターがそれほど普及していなかった時期に,その演算機能をtoolとして構造活性相関研究にとり入れたのは1961年Hanschおよび筆者らのはじめた定量的構造活性相関(QuantitativeStructure-ActivityRelationship)法であるといって差し支えないだろう.QSAR法は,有SARNewsNo.1(Oct.2001)-5-機物理化学領域で広汎に成立する直線的自由エネルギー関係則の一つであるHammett-Taft則を,(II)の範疇の構造活性相関研究分野に活用する試みである.生(薬)理活性物質と生体系との相互作用には,例えば電子的・立体的・疎水的な求引力あるいは反撥力および水素結合など種々の分子間力が働く.活性がこれらの相互作用に基づいたメカニズムで発現するならば自由エネルギー関係表現された活性強度パラメーターは以上の分子間力に関する自由エネルギー関係パラメーターの一次結合式を用いて解析することができるはずである.すなわち本来のQSARは一種の“拡張Hammett-Taft則”を基礎としているのである.もともとQSARは除草剤の2,4-Dに代表される置換phenoxyaceticacid系化合物の植物ホルモン活性に対する置換基の効果を解析するために創案されたのであった.QSARの方法論と実例に関する報告は1962年から1964にわたりNature誌とアメリカ化学会誌上に公表された.そしてそれに続く時期にはHansch先生は主として医薬・酵素反応および疎水性-dependentな生理活性の収集と経験則の発掘の分野で,筆者は主として農薬・サルファ剤・疎水性パラメーターの有機物理化学の分野で,文献記載の構造-活性データを活用させてもらったり自前で求めた実験データを用いたりして,QSAR解析の成立する事例がかなり“普遍的”に存在することを示す論文を学会誌・総説誌上で積極的に公表していったのである.最初に公表されてから5~6年のうちに,QSAR法の普及はかなり速いテンポで進み1971年にはQSARだけをテーマとして国際会議的な研究集会を開くことができるようになった.この年の3月LosAngelesで開かれた161回アメリカ化学会のNationalMeetingにおいてDivisionofPesticideChemistry(現DivisionofAgrochemicals)の主催したシンポジウム“BiologicalCorrelations—TheHanschApproach”がそれである.アメリカ化学会のNationalMeetingではあったけれども合計13題の講演のうち6題は国外の演者(英:2題,独:2題,伊:1題,日:1題)によるものであった.このシンポジウムのProceedingはアメリカ化学会発行のAdvancesinChemistrySeries114号として数編の論文が追加され1972年に刊行された.初期のQSAR研究がどのようなものであったか以下にタイトルとAuthor(s)を記しておこう.1.TheExtrathermodynamicStructure-ActivityCorrelations.BackgroundoftheHanschApproachToshioFujita(KyotoUniversity,Japan)2.AComputerizedApproachtoQuantitativeBiochemicalStructure-ActivityRelationshipsCorwinHansch(PomonaCollege,U.S.A.)3.PitfallsintheUseofπConstantsA.Canas-RodriguezandM.S.Tute(Pfizer,England)4.RelationshipsbetweenPartitioningSolventSystemsAlbertJ.Leo(PomonaCollege,U.S.A.)5.PartitionDataofChemotherapeuticandSteroidAgentsDeterminedbyReversed-PhaseThinLayerChromatographyG.L.Biagi,A.M.Barbaro,andM.C.Guerra(BolognaUniversity,Italy)6.Substituent-EffectAnalysesoftheRatesofMetabolismandExcretionofSulfonamideDrugsToshioFujita(KyotoUniversity,Japan)SARNewsNo.1(Oct.2001)-6-7.ComparativeinvitroandinvivoStructure-ActivityStudiesofAntiparasitic2-Methyleneamino-5-nitrothiazolsEberhardKutter,HansMachleidt,WolfgangLeuter,RobertSauter,andAlexanderWildfeuer(KarlThomaeGmbH,Germany)8.ComparisonoftheHanschandFree-WilsonApproachestoStructure-ActivityCorrelationPaulN.Craig(SmithKlineandFrench,U.S.A.)9.Structure-ActivityRelations.II.AntibacterialActivityof3-BenzoylacrylicAcidsandEstersKeithBowdenandM.P.Henry(TheUniversityofEssex,England)10.Structure-ActivityCorrelationsofAcaricidalHydrazines—UncouplersofOxidativePhosphorylationK.H.BüchelandW.Draber(BayerAG,Germany)11.Structure-ActivityRelationshipsinAntifungalAgents—ASurveyEricJ.LienandCorwinHansch(UniversityofSouthernCaliforniaandPomonaCollege,U.S.A.)12.Structure-ActivityCorrelationsforMeta-andPara-substitutedTrifluoromethanesulfonanilidePre-EmergenceHerbicidesAnthonyF.Yapel,Jr.(3MCo.,U.S.A.)13.TheEffectofaPenetrantAidonPre-EmergenceHerbicidalActivityofTrifluoromethanesulfonanilidesWadevanValkenburgandAnthonyF.Yapel,Jr.(3MCo.,U.S.A.)14.TheHanschStructure-ActivityApproachAsanAidinDesigningNewBiologicallyActiveChemicalsW.BrockNeely(Dowchemical,U.S.A.)15.MolecularOrbitalStudiesofBiologicalMoleculeConformationsL.B.Kier(MassachusettsCollegeofPharmacy,U.S.A.)以上のタイトルから農薬に片寄らずかなり広範な領域からの研究が発表されたことが判って頂けることと思う.2年後の1973年に同じくLosAngelesで開かれた163回アメリカ化学会のNationalMeetingにおいてはDivisionofMedicinalChemistryの主催で1971年と同様のタイトルのシンポジウムが開かれた.筆者は基質としての置換phenylacetate類の,acetylcholinesteraseによる加水分解反応において実験的にもとめたKdとk2の値に関するQSARの解析について報告した.このシンポジウムのProceedingは残念ながら刊行されなかったが内容は1971年のシンポジウムよりも更に範囲が広がりQSARが方法論として着実に定着しつつあることを実感させるものであった.そしてシンポジウム終了後の席上でPaulCraig博士より1975年からはGordonResearchConferenceの一つとして採択されるよう手続きをとることが提案された.幸い採択の件は支障なく運び現在にいたるまで一年おきに“QSARinBiology”のタイトルで開催が続いている.コンピューターの普及とコンピューター技術の発展とに伴って1970年代の後半においてもQSAR研究の領域は拡大し種々のQSAR的解析法のvariationが創案され多数の論文が公表されるようになった.例えばJournalofMedicinalChemistryの76巻,(1976年)の5月号では,正規掲載論文数24のうち実に9編がQSAR関係の論文で占められているがその頃にはそれがとくに珍しいことではなかった.SARNewsNo.1(Oct.2001)-7-構造活性相関懇話会の発足筆者は国外における以上のような状況に対し国内でもせめて勉強会的な会合の発足に向けactionを起こすべきではないかと考えた.そして構造活性相関研究会の前身である構造活性相関懇話会の第一回シンポジウムを1975年(昭和50年)京都で旗揚げしたのであった.その後構造活性相関懇話会は毎年の構造活性相関シンポジウム開催の実働組織としての役割を果たすこととなる.すなわち構造活性相関シンポジウムは懇話会が実質的な“主催者”で化学系の諸学会に共催をお願いするという形式をとっていた.会員制度はとらず同好・同学のメンバーが委員あるいは幹事となりいわばボランテイアグループとして活動していたのである.シンポジウムに加えて講習会やドラッグデザインに関するシンポジウムを催すこともあった.構造活性相関懇話会の誕生した1975年頃の構造活性相関研究の“雰囲気”を伝える資料を紹介しよう.それは構造活性相関懇話会の活動の一つとして委員の方々に分担執筆をお願いし構造活性相関懇話会編集として1979年初頭に南江堂より刊行された化学の領域増刊第122号薬物の構造活性相関¾ドラッグデザインと作用機作研究への指針のまえがきである.以下にその全文を転記する.本増刊号は,医薬や農薬などの生理活性物質における構造活性相関研究方法,とくにめざましい発展をとげつつある定量的アプローチについて,その背景・理論・実例にわたり解説したものである.生理活性物質の構造活性相関には,すぐれた活性を示す物質のデザインと,活性物質の作用機作の解明とに対する指針を提供する一つの手段として重要な意義が存在しているにもかかわらず,従来は,研究方法がまちまちで,定性的個別的な研究例が多く,いわゆる“あと智恵”として現象の説明に用いることしかできないという“汚名”の着せられたことも屡々であった.約15年前,アメリカにおいてHanschら,およびFreeらは,ほぼ時をおなじくして,それぞれ異なった方向からのものではあったけれども,構造活性相関研究方法に定量的数式的モデルをはじめて導入した.その後定量的構造活性相関(QuantitativeStructure-ActivityRelationship,略してQSARという)研究法は,顕著な進歩をとげた.構造活性相関として扱われる対象も,同一系列の化合物群における特定の活性の大きさから,最近では,異なった特徴の活性を示す化合物群それぞれの構造因子による分類など飛躍的に拡がり,すでに得られた結果の蓄積も膨大なものになりつつある.蓄積された定量的結果の検討から,多くの経験則が帰納され,経験則を生かすことによって,逆に“先智恵”として新しい構造の化合物の活性や作用機作を予測することも場合によっては不可能ではないというのが最近の情勢である.このような進歩に対応して,アメリカにおいては,アメリカ化学会の農薬化学部会および医薬化学部会それぞれにおけるシンポジウム(1971年および1973年)に引続き,1975年からは1年おきにゴードン研究会議の一分科会として“QSARinBiology”がとりあげられ国際的規模の研究集会が開催されている.ヨーロッパにおいても,Praha(1973年),Suhl(東ドイツ,1976年),Noordwijkerhout(オランダ,1977年),Budapest(1979年予定)におけるシンポジウムのように東西を問わず活溌な研究交流が行なわれている.我が国においても,このような海外での動きに呼応するとともに,研究者の交流と情報交換のために設立されたのが,構造活性相関懇話会である.懇話会は昭和50年5月京都におけるシンポジウム以来合計5回のシンポジウムをSARNewsNo.1(Oct.2001)-8-本増刊号は幸いにも好評で,第1刷は完売し第2刷がプラスチックカバーつきsemi-hard表紙の体裁で1980年3月に追加発行された.合わせてかなり多くの部数が販売されたと聞いている.本書の内容は8章からなる.各章のタイトルと著者は以下のとおりである.1.構造活性相関の意義と役割藤田稔夫2.定量的構造活性相関(Hansch法)2.1序論窪田種一2.2疎水性パラメータ寺田弘2.3電子的パラメータ山川真透・窪田種一2.4立体的パラメータおよびその他のパラメータ山川真透・窪田種一2.5最近の進歩と実例吉本昌文3.生体成分と薬物との相互作用寺田弘4.量子化学の構造活性相関への応用4.1構造活性相関における量子化学の応用永田親義4.2構造活性相関と量子薬理学品川泰子・品川嘉也5.パターン認識による構造活性相関森口郁生6.有機合成化学の立場からの構造活性相関—ピラゾール系鎮痛消炎薬のドラッグデザイン千田重男・浅尾哲次7.生物薬剤学への応用鎌田皎・山崎勝8.薬物の吸収と分布に及ぼす構造上の要因進藤英世・駒井亨本増刊号は残念ながら絶版となっているが内容的には現在でも充分通用し大いに参考になる総説が集録されている.なお1982年には薬物の構造活性相関第2集¾ドラッグデザインと作用機作研究の実際というタイトルで懇話会編集による化学の領域増刊第136号が刊行された.大阪および東京で開催し,海外諸国における研究の紹介,国内における研究の発表と方法論の普及につとめて来た.構造活性相関懇話会のこのような活動を通じて生まれたのが,本増刊号である.構造活性相関の定量的方法論という性格上,極めて多彩な分野すなわち有機化学・物理化学・有機物理化学・分析化学・薬理学・薬剤学・生化学・生理学・推計学・情報理論・コンピュータ-ソフトウェアなどの境界領域としての特徴をもち,極めて多面的な基礎知識が要求される.したがって懇話会委員各位に分担執筆をお願いした次第であるが,内容に若干の重複や不統一な点のあることに関しては,編集責任者である私から読者におわびしなくてはならない.将来機会があれば,構造活性相関研究の実例を主体にした続篇を編集することも考えている.終りに本増刊号の出版についていろいろ御世話いただいた南江堂編集部大友和彦氏,木村孝氏に厚く御礼申し上げる.昭和53年11月25日構造活性相関懇話会を代表して藤田稔夫SARNewsNo.1(Oct.2001)-9-構造活性相関懇話会初期の活動構造活性相関懇話会の初期のシンポジウム活動の概略をについて述べておこう.第一回昭和50年5月10日京都・京都商工会議所ビル参加者65名(当日国鉄ストライキのため東海道線・中部・関東方面の予定者23名参加不可能)第二回昭和51年1月17日大阪・大阪科学技術センター参加者198名第三回昭和51年9月11日大阪・大阪科学技術センター参加者164名第四回昭和52年12月4日東京・薬学会館ホール参加者113名第五回昭和53年8月26日大阪・大阪科学技術センター参加者160名第六回昭和54年9月6~7日大阪・大阪科学技術センター参加者142名(先に述べた化学の領域増刊122号をテキストとして2日にわたる講習会を行なう.)第七回昭和55年12月12日大阪・森下製薬大ホール参加者178名(第七回から講演を一般から公募することになる.午前~午後をとおしてシンポジウム.)第八回昭和56年10月8日東京・薬学会館ホール参加者219名第九回昭和57年11月25~26日豊橋・豊橋技術科学大学参加者172名(第九回より第十一回を除き情報化学討論会と同時期に併催され現在にいたっている.)上に列挙した活動のうち第十一回はHansch先生を招聘した記念シンポジウムで依頼講演のみであった.昭和60年頃からConformationalanalysisやReceptormapping,さらに酵素・受容体蛋白質の三次元ModelingやReceptor-Liganddockingなどcolorgraphicsを活用する新しい研究法のStructure-basedApproach,そしてComparativeMolecularFieldAnalysis(CoMFA)をはじめとする三次元QSAR法など多彩な研究発表がシンポジウムに加わることになる.そして従前の初期のQSARはClassicalQSARとさえ呼ばれるようになって現在にいたっているのである.そのような展開をみせた第十回以後のシンポジウム及び懇話会の活動については構造活性相関研究の“近代的”展開に関する筆者の見解とともにいずれ稿をあらためて述べてみたい.構造活性相関研究会への組織充実筆者は1992年京都大学を定年退職した.それを機会に畏友にして親友である徳島大学寺田弘教授に代表をひきうけて頂き構造活性相関懇話会のVolunteer的組織形態が一新されることとなった.すなわち1993年(徳島大学での第21回)から日本薬学会医薬化学部会に従来から主催されていたメディシナルケミストリーシンポジウムに加え構造活性相関シンポジウムを主催して頂くことになった.それとともに1994年度から代表・副代表・常任幹事・幹事をおき活動の実務を分担する体制がとられることとなる.そして1995年度には構造活性相関懇話会の名称を構造活性相関研究会と更め従来からのシンポジウムの運営実動のほかに定期的な講習会の開催,ホームページの開設,SARNEWSの編集,アジア諸国の同学の組織との合同シンポジウムの支援SARNewsNo.1(Oct.2001)-10-などが研究会の継続的活動として盛り込まれることになったのである.おわりに今年度から“刊行”されるSARNEWSに構造活性相関研究会はどのようにして生まれどのような活動をしてきたのかなどについて,いわば構造活性相関研究会の“温故知新”とでもいったタイトルで記事を書くようにとの依頼をうけ駄文を弄してきた.独断的な個所や誤謬更には記憶違いの点があるかもしれない.それらについてはお許しを願うことにして筆を擱く.最後に本稿をまとめるにあたり高橋由雅・宮川恒・中川好秋の諸氏に御助力頂いた.付記して感謝の意を表するものである.SARNewsNo.1(Oct.2001)-11-/////研究紹介/////生物ゲノムにおける蛋白質自動モデリング法の開発(北里大学薬学部生物分子設計学教室)梅山秀明、海老沢計慶、岩舘満雄1.はじめに現在、各種生物ゲノムの全遺伝子配列は、予想以上の速さで決定されつつある。今年2月には国際チームがヒトゲノムのドラフトシーケンスの解析を終え、その結果、ヒトの遺伝子総数は約31000種と推定されるなど、ヒトゲノムの全体像と特色が明らかとなった。今後は、生活習慣病の遺伝子の同定や、ヒトの発生・分化に関するメカニズムの解析などが加速化すると期待されている。一方、全遺伝子の解読が完了した後の重要な課題の一つは、遺伝子産物である蛋白質の立体構造決定と生物学的機能の解明である。図1には、生物ゲノムの機能予測を目指した蛋白質モデリングの大まかな流れを示した。図1生物ゲノムの機能予測を目指した蛋白質モデリングの大まかな流れゲノム上の遺伝子には、蛋白質に翻訳されるアミノ酸1次配列(OpenReadingFrame:ORF)ごとに名前がある。まず、各ORFについて、類似の配列を立体構造既知のデータベース(PDB)から検索する。配列間の類似性を調べるには種々の方法があるが、ここでは検索時に使用した配列間アライメントを、次の立体構造モデリングのときに利用する。つまり、アライメント上で一致するアミノ酸の座標は参照配列の座標を利用するのである。ここでは筆者らが開発した蛋白質自動モデリングシステム(FullAutomaticModelingSystem:FAMS,http://physchem.pharm.kitasato-u.ac.jp)を核に、大腸菌及び枯草菌ゲノムを対象とした大規模モデリングの方法論と成果1)について述べる。これは一昨年、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトの一環として、国立遺伝学研究所(西川教授ら)をはじめ、バイオ企業3社(味の素・東レ・三菱化学)、情報系企業2社(日本電気・三井情報開発)と共に行ったものである。2.モデル生物における配列相同性解析大腸菌と枯草菌(以下、E.coli,B.subと略)の各ORFの総数はE.coliでは4289個、B.subでは4100個であった。アミノ酸配列の相同性検索プログラムには、その高い検出感度のために評価の高いPSI-BLASTと高速検索性能を誇るFASTAを共に利用した。従来のモデリングでは、アミノ酸配列の相同性(いわゆるホモロジー、同一残基率)を指標に、構造予測の鋳型となる参照蛋白質を選択していたが、ホモロジーが30%未満になると、参照構造の選択自体の間違いや配列間アライゲノム→アミノ酸配列による類縁蛋白質の検索→ホモロジーモデリング→機能予測(ORF)(ProteinDataBank:PDB)(FAMS)データベース化SARNewsNo.1(Oct.2001)-12-メントの信頼性の低下など、問題が生じることが経験的に知られている。そこで、大規模モデリングを行う際の方針としては、①FASTAによる検索で、相同性の有意性に相当するe-valueが0.001未満である部分をモデリング領域とすること、②但し、同一残基率が30%未満の場合は、アライメントの信頼性が下がるため、FASTAによるアライメントの他に、PSI-BLASTによるアライメントもモデリングに使用することとした。3.配列相同性解析の結果表1は、E.coliの全ORFについて、PDBを対象にFASTA及びPSI-BLASTで相同性検索を行った結果である。PSI-BLASTを使った場合には、e-value<=0.001であるPSI-sの合計が示すように、39%表1FASTAとPSI-BLASTでPDBと有意な相同性が観察されたORFの数(E.coliの例)PSI-sPSI-n合計FASTA-s9595964(22%)FASTA-n67826473325(88%)合計1637(39%)2652(61%)4289注)添字sはe-value<=0.001でPDBと相同性があるORFの数を示し、添字nはそれ以外(最も低いペアでもe-value>0.001)を示す。表2FASTAで有意な相同性があったペアの同一残基率の分布相同性100%-90%90%-70%70%-50%50%-30%30%-0%合計