SARNews_17
構造活性相関部会・ニュースレター<1October,2009>SARNewsNo.17「目次」/////Perspective/Retrospective/////分子動力学による結合自由エネルギー計算藤谷秀章・・・2/////CuttingEdge/////MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算合田浩明、広野修一・・・9QM/MM分子動力学シミュレーションの生体高分子への応用米澤康滋・・・15/////Activities/////<報告>構造活性フォーラム2009「化合物と標的・非標的タンパク質との相互作用-創薬標的の同定と分子設計-」開催報告竹田-志鷹真由子・・・21SARPromotionAward2009年度受賞者米田照代・・・22<会告>第37回構造活性相関シンポジウム・・・23SARNewsNo.17(Oct.2009)/////Perspective/Retrospective/////分子動力学による結合自由エネルギー計算(株)富士通研究所藤谷秀章1.はじめに生体機能はそれを構成する種々の生体高分子が有機的に機能することで実現されている。個々の生体高分子の機能を理解する事は生体機能を理解する出発点になるが、例えば最も小さいタンパク質の一つである36個のアミノ酸残基からなるvillinでも、その総原子数は389個にもなる。その性質や動的挙動を調べるには周りを取り囲んだ水分子も含めた取扱いが必要であり、計算化学の手法を用いて解析する事は極めて難しい問題になる。1998年にKollmanは超大型スーパーコンピュータを用いて、villinが一本の鎖状態からタンパク質独特の立体構造を獲得するまでの畳み込み(proteinfolding)現象を、分子動力学法を用いて1マイクロ(10-6)秒までをシミュレートした。しかし原子レベルの時間スケールがフェムト(10-15)秒に対してvillinが実際に畳み込まれる時間が10マイクロ(10-5)秒ほどであるために、畳み込みが終了する時間には到達出来なかった[1]。2002年にPandeは世界中のパーソナルコンピュータにシミュレーションプログラムをダウンロードしてもらうdistributedcomputingの方法を用いて、villinの畳み込み計算を実行して実験値に近い畳み込みレートを求める事に世界で初めて成功した[2]。Pandeはスーパーコンピュータなどで用いられている従来の並列アルゴリズムではなく、世界中のインターネットで繋がっている数万台のコンピュータに分散させてシミュレートする独自の方法を考案して超難問のタンパク質の畳み込み計算を初めて実現した。スーパーコンピュータなどで用いられているmessagepassinginterface(MPI)などの並列化方法ではCPU台数が多くなるに従いCPU間のデータ通信が占める割合が増加して効率的な計算を妨げる傾向があるので、例えば数万台のCPUで数万倍の効率的なシミュレーションを実行するためには、シミュレーションの根本アルゴリズムから検討する事が必要になる。タンパク質とこれに特異的に結合する化合物(リガンド)の相互作用を調べる事は、生命現象の基礎的研究の大きな課題であると同時に応用の観点からも極めて重要である。特にタンパク質と薬分子との結合自由エネルギーを精確に求める事は、創薬分野における永年の課題である。DockingsimulationやmolecularmechanicsPoisson-Boltzmannsurfacearea(MM-PBSA)法など様々な方法が試みられて来たが、実用レベルで有効な精度で結合自由エネルギーを予測する方法はなかった。我々は非平衡統計力学理論に基づいた計算方法を用いると共に、タンパク質などの生体高分子と有機化合物分子を統一的に扱う分子力場を構築して、タンパク質とリガンドが離れた状態から結合するまでのマイクロ秒スケールの分子動力学計算を実行して結合自由エネルギーを求める方法を考案した。-2-SARNewsNo.17(Oct.2009)2.薬とタンパク質一般に薬分子は決まった標的タンパク質に結合してタンパク質本来の機能を阻害または補助して薬効を発する。図1は臓器移植やアトピーなどの病気治療に用いられる免疫抑制剤FK506がその標的とするタンパク質FKBP(FK506-bindingprotein)に結合している状態である。FKBPは107個のアミノ酸残基からなるタンパク質で原子数は1666個である。FK506がFKBPに結合する事で、T細胞での脱リン酸化を阻害して免疫機能を抑制する。タンパク質とリガンドは一般に化学結合を伴わない静電相互作用、vanderWaals相互作用、水素結合などによる極めて弱い結合力の集積で結合する。あるリガンドがタンパク質に強く結合していると、タンパク質の機能をリガンドがより良く阻害して薬効が良く現れる可能性が高くなる。この為、種々のリガンドがタンパク質に結合するエネルギーを精確に求める事が、計算機を使った薬設計(computerdrugdesign)を実現する為の必須条件になる。この時問題になるのはタンパク質とリガンドが静的に引き合うエネルギーではなく、水に囲まれて全ての原子が熱運動をしている状態でタンパク質とリガンドを引き離す為に必要な熱力学的な自由エネルギーである。一般に薬分子とタンパク質の静的な引力が-80kcal/molから-100kcal/molあっても、その結合自由エネルギーは-10kcal/mol程度であり、薬候補化合物間の優劣を判断するには1kcal/molほどの精度で結合自由エネルギーを求める必要がある。室温での熱揺らぎエネルギーkBT(kB:ボルツマン定数、T:温度)が約0.6kcal/molである事を考えると、1kcal/molの精度で結合自由エネルギーを求める事が如何に難しいかが納得出来る。タンパク質とリガンドの結合自由エネルギーを求める為に様々な計算方法が今迄に提案されているが、その多くが実験データに基づいた経験的な方法であり、実験データの無い未知の系に適用するのは難しい。タンパク質とリガンドが水中(細胞液)で結合した状態と、それが別々に水中に溶けている二つの異なった熱平衡状態の間の自由図1FKBPとFK506の結合状態図2FKBPリガンド-3-SARNewsNo.17(Oct.2009)エネルギー差を求めるには、タンパク質の構造変化や分子の運動によるエントロピー変化を精確に取り入れる方法が必要になる。しかし薬は数十から三百くらいの原子からなる分子であり、タンパク質は数百から数十万原子からなる巨大分子である。また自由エネルギーには周りを取り囲む水分子の運動が多大な影響を与えるので、これらを全て取り入れて結合エネルギーを1kcal/molの精度で精確に計算するのは20世紀の最先端のスーパーコンピュータを用いても困難であった。図2は今回結合自由エネルギー計算を行ったFK506とそのアナログである。L8、L9、L13、FK506の四種類のリガンドにはFKBPとの結合構造のX線結晶データがProteinDataBankに登録されているが、他のリガンドについてはデータが無い。全てのリガンドはピペコリン酸エステルとα-ケトアミドを共通で持っており、X線結晶データがあるリガンドでは、これらが図1でFKBPの真中に見られる疎水ポケットの底に入っている。この事から他のリガンドも同様の結合形状を持っていると推測して結合構造の初期座標を作成した。3.非平衡等式と仕事量タンパク質とリガンドの結合自由エネルギーを求めるには、リガンドが水分子やタンパク質など他の分子やイオン原子に及ぼす相互作用を消去する二重消去法を用いる。ΔGcomplex:PL(SOL)→P(SOL)+L(GAS)(1)ΔGsol:L(SOL)→L(GAS)(2)ΔGbind:PL(SOL)→P(SOL)+L(SOL)(3)タンパク質とリガンドが水中で結合している状態PL(SOL)から、リガンドが他分子と相互作用しないで空中に浮んだ状態L(GAS)になる計算(1)と、水中のリガンドが水分子と相互作用しなくなる計算(2)を行い、二つの計算から得られた自由エネルギーの差を取って結合自由エネルギーΔGbind=ΔGcomplex−ΔGsolを得る(3)。もしリガンドがタンパク質と全く相互作用しなければΔGcomplexはΔGsolと同じ値になり結合エネルギーはゼロになるので、二重消去法を用いるとゼロ点から計った絶対的な結合自由エネルギーが得られる。1997年にJarzynskiは熱平衡状態間の非平衡仕事量Wの指数関数平均が二つの状態間の自由エネルギー差になるという基礎的な等式ΔG=−kBTlnavを証明した[3]。その後、幾つ図3FKBPとL14の相互作用ポテンシァル-4-SARNewsNo.17(Oct.2009)かの証明方法が得られているが、分子動力学でよく用いられる能勢-Hooverの温度制御を用いた場合にも成立する事が証明されている。しかし数値計算でこの等式が威力を発揮する為には注意するべき事が二点ある。一つは十分多くの非平衡仕事量をサンプルする事で、もう一つは計算に使用する初期状態を十分に熱平衡化する事である。タンパク質の様な自由度が大きな系の熱平衡状態を得るには、これまで行われていたピコ秒オーダーの分子動力学による平衡化計算では不十分で、遥かに長い平衡化計算が必要である。たとえ結晶構造からスタートする場合でも自由エネルギー計算を始める前に10ナノ秒以上の平衡化計算を実行して正しい熱平衡状態を得る事が必要である。図3は平衡化計算中のFKBPとL14の相互作用ポテンシャルで、20ナノ秒以降で変化が少なくなって熱平衡状態に到達した事が読み取れる。結合自由エネルギーを求める為に、リガンドの他分子に対する相互作用が完全に存在する状態λ=0から相互作用が無くなる状態λ=1までの異なった中間状態を考える。それぞれのλ点で分子動力学計算を実行して、0.1ピコ秒毎に隣のλに遷移する為に必要な仕事量を両方向について計算する。この計算では11個のλC点でリガンドのCoulomb相互作用を消去してから21個のλLJ点でvanderWaals相互作用を消去した。図4はFKBPとL2リガンドの系で、vanderWaalsのλLJが0.775と0.8の間の仕事量を500ピコ秒間収集した時の分布である。forwardはλLJを大きくする方向でreverseは逆である。大きい分布は、初期運動量分布が異なる12個の分子動力学計算全てから得られた仕事量分布で、小さい山はその中の一個の分子動力学計算から得られた分布である。点線の矢印は仕事量の指数関数平均から得た自由エネルギーで、実線は両方向の仕事量分布を用いてベネット受容比(Bennettacceptanceratio:BAR)法で計算した自由エネルギーである。BAR法による自由エネルギーの値が小さい山と大きな山で0.2kcal/molほど異なる。もし各λ点で一つの分子動力学計算で自由エネルギーを計算した場合には32個のλ点があるので、容易に6kcal/molも違う値を得る可能性がある。十分多くの仕事量から自由エネルギーを求める事が、非平衡仕事量の等式(Jarzynski等式)を使う上では極めて重図4仕事量分布要である。-5-SARNewsNo.17(Oct.2009)4.MP-CAFEEタンパク質とリガンドの結合自由エネルギーを求める為に、32個のλ点でそれぞれ12個の初期運動量分布が異なる分子動力学計算を二重消去法の式(1)と(2)の二種類について行うので、水を含んだ合計で768個の分子動力学計算を並列で自由エネルギーの値が収束するまで実行する。収束する為に必要な時間は扱う系によって異なるが、FKBPだと3ナノ秒までには全てのリガンドで収束した。図5はFKBPとL2の系で仕事量の指数関数平均から求めた自由エネルギーの積算である。点が使用した32個のλ点を表している。(a)はL2の水和計算でCoulombとvanderWaalsのλ=1の値を加えるとL2の水和エネルギーΔGsolになる。(b)はFKBPとL2の複合系で、同様にλ=1の値からΔGcomplexを得て、この二つの値から結合自由エネルギーΔGbindが求まる。(b)の複合系ではforwardとreverseで僅かな違いが認められるが、両方向の仕事量分布を用いてBAR法で計算した値は二本の線の間に入る。この計算方法をMP-CAFEE(massivelyparallelcomputationofabsolutebindingfreeenergywithwell-equilibratedstates)と名付けた。従来の計算法では両方向で値が大きく異なる履歴現象(hysteresis)が生じて仕舞う為に、タンパク質とリガンドの間にバネなどを導入してリガンドの動きを制限してhysteresisを人為的に小さくしたりしていた。MP-CAFEEではこの様な作為的な方法を用いずに結合自由エネルギーを精確に求める事が出来る[4]。図6はMP-CAFEEで計算した縦軸のFKBPリガンドの結合自由エネルギーを横軸の実験値[5]と比較している。計算は二種類の力場パラメータを用いて行っている。リガンドの力場パラメータはgeneralAmber力場(GAFF)を用いているが[6]、三角印はタンパク質FKBPにAmber99を用いてリガンドの電荷にはAM1-BCCを用いている。L13とL14を除く8つのリガンドの三角印の値は2005年に発表したが[7]、その当時から何故3.2kcal/molも実験値からシフトするのかが疑問であった。その後、L13とL14の計図5指数関数平均による自由エネルギー-6-SARNewsNo.17(Oct.2009)算を行いAmber99の力場パラメータの精度に疑問を持つようなった。任意の有機分子に対してGAFF力場パラメータを統一的に割当てるFF-FOM(forcefieldformulatorfororganicmolecules)を作成して、タンパク質とリガンドに共通した力場パラメータを割当てるようにした。リガンドの電荷はタンパク質のAmber電荷と同様にRESP(restrainedelectrostaticpotential)で決めた。この統一的な力場で計算した結果が四角印である。Amber99を用いた計算では大きく外れていたL13とL14も実験値に良く合うようなった。L6、L8、L9で作られる三角形もAmber99で計算したよりも小さくなり実験値によく一致している。L2とL3の値はAmber99を用いた値よりも改善はしているが、他のリガンドよりも実験値との一致が悪い。これはL2とL3がFKBPの疎水ポケットよりも小さい分子で、結合位置から離れても、疎水ポケットの中で回転したりしてポケットの中に留まる為に、酵素活性の阻害を行っている事によると考えられる。図6の実験値は阻害定数(inhibitionconstant)から導出されたエネルギーで、もしITC(isothermaltitrationcalorimetry)などで結合エネルギーを直接計れば、L2とL3もより計算値に近い値にな図6FKBPリガンドの結合自由エネルギーると予想している。5.ままで並列化できるので算機シミュレーションが生物の基礎研究や創薬分プログラムと計算時間MP-CAFEEの分子動力学計算にはフリーソフトとして配布されているGROMACSを使用した。分子動力学では原子間力の計算に多大なCPU時間を要するが、GROMACSは計算が重い部分がアセンブラー言語レベルでpersonalcomputerチップ向けに最適化されたコードを持っており、他の分子動力学プログラムと比較すると極めて計算速度が速い。この速いGROMACSを用いてもMP-CAFEEでFKBPと一つのリガンドの結合自由エネルギーを求めるのに、3GHzのPentium4を一台使用したとして約1200日の計算時間が必要である。しかし、MP-CAFEEのアルゴリズムはその、600台のPentium4を使えば2日ほどで計算が終わる。Obama大統領のscienceadviserに選任されたDavidE.Shawが率いる研究所では、分子動力学専用計算機の開発を進めている[8]。既に512並列のAnton試作機が2008年9月から稼働しており、タンパク質の動的挙動を調べる研究に使用されている。このように計算機の発展によって、生体高分子の挙動を精確に調べる為に必要な速度を持った計算機が最近漸く登場し始めた。またタンパク質やリガンドを記述する力場パラメータの高精度化も進んでおり[9]、大規模計-7-SARNewsNo.17(Oct.2009)-8-で活躍する環境が整いつつある。謝の研究はNEDOの『バイオ・IT融合機器開発プロジェクト』の支援を受けした。eObservedinaarisonofSimulatedonequilibriumEqualityforFreeEnergyDifferences,Phys.Rev.Lett.,78,fAbsolutetalStructuresofTheirComplexeswithFKBP12,J.Am.Chem.Soc.,115,lopmentandculationoftheBindingFreeEnergiesofFKBPLigands,J.Chem.Phys.,l-PurposeoveProteinBackboneDihedralParameters,J.Chem.TheoryComput.,5,1155-1165(2009)野辞Stanford大学のVijayS.Pande教授と富士通BioServerプロジェクトのメンバーに謝意を表します。GROMACSの改造ではStockholm大学のErikLindahl教授にお世話になりました。こま参考文献[1]Y.DuanandP.A.Kollman:PathwaystoaProteinFoldingIntermediat1-MicrosecondSimulationinAqueousSolution,Science,282,740-744(1998)[2]C.D.Snow,H.Nguyen,V.S.Pande,andM.Gruebele:AbsoluteCompandExperimentalProtein-FoldingDynamics,Nature,420,102-106(2002)[3]C.Jarzynski:N2690-2693(1997)[4]H.Fujitani,Y.Tanida,andAzumaMatsuura:MassivelyParallelComputationoBindingFreeEnergywithWell-EquilibratedStates,Phys.Rev.E,79,021914(2009)[5]D.A.Holt,J.I.Luengo,D.S.Yamashita,H.J.Oh,A.L.Konialian,H.K.Yen,L.W.Rozamus,M.Brandt,M.J.Bossard,M.A.Levy,D.S.Eggleston,J.Liang,L.W.Schultz,T.J.Stout,andJ.Clardy:Design,Synthesis,andKineticEvaluationofHigh-AffinityFKBPLigandsandtheX-rayCrys9925-9938(1993)[6]J.Wang,R.M.Wolf,J.W.Caldwell,P.A.Kollman,andD.A.Case:DeveTestingofaGeneralAmberForceField,J.Comput.Chem.,25,1157-1174(2004)[7]H.Fujitani,Y.Tanida,M.Ito,G.Jayachandran,C.D.Snow,M.R.Shirts,E.J.Sorin,andV.S.Pande:DirectCal123,084108(2005)[8]D.E.Shaw,M.M.Deneroff,R.O.Dror,J.S.Kuskin,R.H.Larson,J.K.Salmon,C.Young,B.Batson,K.J.Bowers,J.C.Chao,M.P.Eastwood,J.Gagliardo,J.P.Grossman,C.R.Ho,D.J.Ierardi,I.Kolossvary,J.L.Klepeis,T.Layman,C.McLeavey,M.A.Moraes,R.Mueller,E.C.Priest,Y.Shan,J.Spengler,M.Theobald,B.Towles,andS.C.Wang:Anton,aSpeciaMachineforMolecularDynamicsSimulation,Proc.Symp.Comp.Arch.,1-12(2007)[9]H.Fujitani,A.Matsuura,S.Sakai,H.Sato,andY.Tanida:High-LevelabinitioCalculationstoImprSARNewsNo.17(Oct.2009)/////CuttingEdge/////MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算北里大学薬学部合田浩明、広野修一1.はじめに近年、X線結晶構造解析、NMR、電子顕微鏡などの構造解析技術および遺伝子工学技術の発展により、創薬の標的となるタンパク質の立体構造が比較的容易に決定されるようになった。それに伴い、標的タンパク質の立体構造に基づいた医薬分子設計(Structure-BasedDrugDesign:SBDD)研究が理論的・計算化学的に大きく発展し、今や創薬戦略の中核をなしている。既に、上市された医薬品の開発において、SBDDが大きな役割を果たした例が数多く報告されている1,2。SBDD研究における重要な要素の一つに、精密結合自由エネルギー計算がある。精密結合自由エネルギー計算は、主にSBDD研究の最終段階(例えば、①denovoデザインなどにより考案された新規候補化合物の評価段階、および②スクリーニング計算などで発見したリード化合物の構造最適化段階)において、①新規候補化合物はどの程度の結合親和性を有するのか?(絶対結合自由エネルギー、ΔGbind、の評価)②構造修飾により、リード化合物からどの程度結合親和性が改善されるか?(相対結合自由エネルギー、ΔΔGbind、の評価)を検討する際に、非常に重要となる。これまで、精密結合自由エネルギー計算を行うための手法として、FreeEnergyPerturbation(FEP)法とThermodynamicIntegration(TI)法がよく使用されてきた3,4。この二つの手法は、ある二つのリガンド間のΔΔGbind評価において、きわめて精度の良い結果を与えることができる。しかし、これらの手法には、・ΔGbindについては評価できない。・計算可能な系は、二つのリガンド間の化学構造的違いが非常に小さい場合(例えば、メチル基とエチル基の違いのような場合)だけである。・計算中、あるリガンドからもう一つのリガンドに徐々に分子変換する必要があるため、非物理的な中間状態について長時間計算しなければならない(すなわち、計算時間がかかる)。という短所がある。ところで、近年Kollman博士らにより、MM-PBSA(MolecularMechanicsPoisson-BoltzmannSurfaceArea)法を用いた精密結合自由エネルギー計算が提案された5。FEP法やTI法と異なり、MM-PBSA法を用いた計算には、・ΔGbindについて計算できる。・そのため、化学構造が大きく異なるリガンド間のΔΔGbindも評価できる。・FEP法やTI法よりも短時間で評価できる。という長所がある。またFEP法やTI法ほどではないが、MM-PBSA法を用いた計算も非常に精度が高い計算結果を与えることができる。それゆえ、現在ではSBDD研究においてMM-PBSA法を用いた計算がさかんに行われるようになってきている6,7。本稿では、先ず、MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算の概略を示す。そして次に、適用例として、最近、我々の研究室で行われた天然由来のキチナーゼ阻害剤ArgifinおよびArgadinについての結合親和性解析を示す8。-9-SARNewsNo.17(Oct.2009)2.MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算の概略MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算では、先ず、タンパク質-リガンド複合体、タンパク質単独、およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルを用意する必要がある。したがって、それぞれについて水溶液中での分子動力学(MD)シミュレーションを行い、それぞれの溶液構造アンサンブルを算出する必要がある。次に、複合体、タンパク質単独、およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルを用いて、図1のような熱力学サイクルを考える。このサイクルにおいて、求めるべき結合自由エネルギー(ΔGbind(計算))は、次のように表される。ΔGbind(計算)=ΔGgas+Gsolv_complex−Gsolv_protein−Gsolv_ligand式(1)ここで、ΔGgasは気相中での結合エネルギーを表している。この項は、複合体、タンパク質単独、およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルが持つ分子力学(MolecularMechanics)エネルギーをAMBER等のパラメータ9を用いて計算し、差をとることで計算される。Overbarはアンサンブル平均をとることを示している。具体的に、ΔGgasは次の項の和となる。ΔGgas=ΔEint+ΔEVDW+ΔEelec−TΔSsolute式(2)ここで、ΔEintは結合時の構造変化に伴う内部エネルギー変化(結合長、結合角、二面角に関するエネルギー変化)の寄与、ΔEVDWはvanderWaals相互作用エネルギーの寄与、ΔEelecは静電相互作用エネルギーの寄与、−TΔSsoluteは結合に伴う分子エントロピー変化の寄与、である。また、式(1)における、Gsolv_complex、Gsolv_protein、およびGsolv_ligandは、それぞれ、複合体、タンパク質単独、およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルについての水和自由エネルギーを表している。例えば、Gsolv_complexは、次のように極性項(GPB_complex:水和自由エネルギーに対して電荷が寄与するエネルギー項)と非極性項(GSA_complex:水分子とのvanderWaals相互作用エネルギーおよび空洞形成や水分子の再配置に必要なエネルギーを表す項)に分割されて、計算される。Gsolv_complex=GPB_complex+GSA_complex式(3)GPB_complexは、Delphi10等のプログラムを用いてPoisson-Boltzmann方程式を数値的に解くことにより、GSA_complexは表面積(SurfaceArea)に依存した経験式により求められる。ところで、式(1)中における、水和自由エネルギー項の寄与は、複合体の水和自由エネルギーから、タンパク質単独とリガンド単独の水和自由エネルギーを引いた形になっており、これはまさに結合に伴う水和自由エネルギーの変化(ΔGsolv)を表している。ΔGsolv=Gsolv_complex−Gsolv_protein−Gsolv_ligand-10-SARNewsNo.17(Oct.2009)=GPB_complex+GSA_complex−(GPB_protein+GSA_protein)−(GPB_ligand+GSA_ligand)=(GPB_complex−GPB_protein−GPB_ligand)+(GSA_complex−GSA_protein−GSA_ligand)=ΔGPB+ΔGSA式(4)すなわち、MM-PBSA法は熱力学サイクルを利用することにより、結合に伴う水和自由エネルギー変化をきちんと考慮している。それゆえ、精度の高い結合自由エネルギー値を与えることができる。最終的に得られるΔGbind(計算)は次の項の和で計算される。ΔGbind(計算)=ΔEint+ΔEVDW+ΔEelec−TΔSsolute+ΔGPB+ΔGSA式(5)以上のように、MM-PBSA法を用いた結合自由エネルギー計算は、タンパク質-リガンド複合体、タンパク質単独、およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルを用いて絶対結合自由エネルギー(ΔGbind)を直接的に評価する。したがって、化学構造が大きく異なるリガンド間の相対結合自由エネルギー(ΔΔGbind)評価も可能となるため、SBDDにおいて非常に有用な方法と言える。次に、このMM-PBSA法の特徴を利用したSBDDの実例を紹介する。3.キチナーゼ阻害剤ArgifinおよびArgadinの結合親和性解析ArgifinおよびArgadinは、共に、北里生命科学研究所において単離された天然由来の環状ペプチド性キチナーゼ阻害剤である(図2)11,12。キチナーゼ阻害剤には抗真菌薬、殺虫剤および喘息治療薬としての機能が期待できることが報告されており13-18、現在、北里キャンパスにおいてこの二つの化合物に基づいた創薬研究が行われている。ところで興味深いことに、ArgadinはArgifinよりも非常に強いキチナーゼ阻害活性を示すことがわかっている(図2)。特に、霊菌のキチナーゼB(ChiB)に対するArgadinの阻害定数(Ki=20nM)は、Argifinの阻害定数(Ki=33,000nM)よりも1000倍以上強い。阻害定数は結合自由エネルギーに関連づけることができるので、ArgadinのChiBに対する結合自由エネルギー(ΔGbind(実験)=–10.92kcal/mol)は、Argifinの値(ΔGbind(実験)=–6.36kcal/mol)より、4.56kcal/molも強いことになる。既に、Argifin–ChiB複合体、およびArgadin–ChiB複合体のX線結晶構造が報告されており(図3)、両者を比較することでArgifinとArgadinの結合様式の違いについては議論されていた19。しかし結合様式の比較だけでは、結合親和性の違いを定量的に理解することはできない。そこで、我々は、精密結合自由エネルギー計算を行い、エネルギー論の観点からこの違いを解析することにした。ところで、図2でわかるようにArgifinとArgadinの化学構造は大きく異なっており、FEP法やTI法が適用できる系ではなかった。したがって、MM-PBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算を行うことにした。先ず、Argifin–ChiB(Argadin–ChiB)複合体のX線結晶構造、および結晶構造から取り出したArgifin(Argadin)単独構造を用いて、それぞれ1700psのMDシミュレーションを行った。この計算にはプログラムAMBER720を用いた。構造が平衡に達したと思われる後半1000psから10ps-11-SARNewsNo.17(Oct.2009)毎に全部で100個のスナップショットを取り出し、それぞれの系の複合体およびリガンド単独の溶液構造アンサンブルとした。ところで、Argifin–ChiB(Argadin–ChiB)複合体中のChiBの構造とChiB単独のX線結晶構造21を比較したところ、座標に関するRMSD値が約1Åと非常に低いものであった。このことは、ArgifinおよびArgadinが結合してもChiBはほとんど構造変化を起こさないことを示唆している。そこで本研究では、ChiB単独の溶液構造アンサンブルは、複合体の溶液構造アンサンブルからリガンドを取り除くことで近似的に用意した。また、これまでに非常に多くの系において、この近似法が有効であることが報告されている22-25。このタンパク質単独構造に関する近似法を利用できる場合、タンパク質単独のMDシミュレーションを省くことができるので大幅に計算時間を短縮できる。計算結果を表1に示す。得られたΔGbind(計算)は、Argifinに対して–6.98kcal/mol、Argadinに対して–11.16kcal/molであった。ΔGbind(実験)は、それぞれ、–6.36および–10.92kcal/molであるので、MM-PBSA法を用いた計算が実験値を非常によく再現できるものであることがわかる。また、式(5)の各項を詳細に比較することで、結合過程における物理化学的性質を議論することができる。例えば、ΔEintの項はArgifinではほとんどゼロであるが、Argadinでは結合に対して5.26kcal/mol不利になっている。本計算では先程記したタンパク質単独構造に関する近似法を用いているので、ここでのΔEintは、結合時のリガンドの構造変化に伴う内部エネルギー変化を意味している。すなわち、ChiBに結合する際に、Argifinはほとんど構造変化を起こさないが、Argadinは5kcal/mol程度のエネルギー損失に相当する構造変化を引き起こすことを示している。図4にMDシミュレーションで得られた各リガンドの複合体中における構造(結合配座)と単独溶液構造の比較を示す。確かに、Argifinではその結合配座と単独溶液構造がほぼ同じであること、対照的にArgadinの結合配座はその単独溶液構造と大きく異なっていることがわかる。このように、化学構造が大きく異なる二つのリガンド間の比較では、リガンド単独の溶液構造アンサンブルを算出し、結合時のリガンドの構造変化に伴うΔEintを見積もることが大切である。また、結合自由エネルギーに対して電荷が寄与する項(ΔGelec+PB)はΔEelecとΔGPBの和で表されるが、この値は、ArgifinおよびArgadin共に正の値になっている。これは、両者の複合体形成は、静電的には不利であることを示している。したがって、両者の複合体形成は共にvanderWaals相互作用(ΔEVDW)と水和自由エネルギーの非極性寄与(ΔGSA)により安定化されていることがわかる。本手法により計算されたArgifinとArgadinの間のΔΔGbind(計算)は4.18kcal/molであり、これも実験値、4.56kcal/mol、をよく再現していた。ところで表1より、両者の複合体形成に重要な役割を果たしているΔEVDWとΔGSAが共にArgadinにおいてArgifinより有利になっており、これらがArgadinの高親和性を生じさせていることがわかる。特に、ArgadinのΔEVDWはArgifinの値より約12kcal/molも有利であり、これが主な要因となっている。図5にArgifinとChiBの各アミノ酸残基との間のvanderWaals相互作用エネルギー値からArgadinについての値を差し引いたものをプロットした。負の値を持つ残基はArgifinと、正の値を持つ残基はArgadinとより強くvanderWaals相互作用している残基である。これより、E144、M212、W220、Y292、I339、および-12-SARNewsNo.17(Oct.2009)W403の6個の残基がArgadinとより有利なvanderWaals相互作用を形成していることがわかる。特に、W220とW403はそれぞれ、4.60および4.53kcal/molと非常に大きく有利になっていた。この二つの値の和は9.13kcal/molとなり、ArgifinとArgadinの間のvanderWaals相互作用エネルギー差のほとんどを占めていることがわかる。したがって、ChiBに対するArgadinの高親和性は、主にArgadinとこの二つのTrp残基との間の非常に有利なvanderWaals相互作用に起因すると考えられる。ところで、W220をAla残基に置換したChiB変異体(W220A変異体)に対して、ArgifinおよびArgadinはそれぞれ、–4.18および–7.52kcal/molの結合自由エネルギー値を示すことが実験的に報告されている19。これらの値とワイルドタイプのChiBに対するΔGbind(実験)との差をとることにより、W220をAla残基に置換したことによる結合自由エネルギー損失は、ArgifinおよびArgadinに対してそれぞれ1.51および3.40kcal/molと評価される。すなわち、Argadinについての損失のほうがより大きいことがわかる。これは、ArgadinとW220の相互作用がArgadinの高親和性に大きく寄与していることを支持する実験結果である。4.おわりにMM-PBSA法に基づく精密結合自由エネルギー計算により、化学構造が大きく異なるArgifinとArgadinの結合親和性の違いをエネルギー論の観点から定量的に解析できた。このことは、FEP法やTI法とは異なり、本手法が非常に幅広い系に対して適用可能であることを示している。したがって、SBDD研究において、MM-PBSA法に基づく計算が今後ますます重みを増すであろう。5.謝辞キチナーゼ阻害剤ArgifinおよびArgadinの結合親和性解析に関する研究は、科学研究費補助金、財団法人武田科学振興財団、財団法人持田記念医学薬学振興財団などの助成を受けて行ったものであり、その資金援助に深く感謝します。6.参考文献1.Klebe,G.,DrugDiscov.Today,11,580-594(2006).2.Ahmed,M.etal.,J.Pharmacol.Sci.,102,167-172(2006).3.Beveridge,D.L.etal.,Annu.Rev.Biophys.Biophys.Chem.,18,431-492(1989).4.KollmanP.,Chem.Rev.,93,2395-2417(1993).5.Kollman,P.A.etal.,Acc.Chem.Res.,33,889-897(2000).6.Yasuo,K.etal.,J.Chem.Inf.Model.,49,853-864(2009).7.Brown,S.P.etal.,J.Med.Chem.,52,3159-3165(2009).8.Gouda,H.etal.,Bioorg.Med.Chem.,16,3565-3579(2008).9.Cornell,W.D.etal.,J.Am.Chem.Soc.,117,5179-5197(1995).-13-SARNewsNo.17(Oct.2009)-14-10.Honig,B.etal.,Science,268,1144-1149(1995).11.Ōmura,S.etal.,J.Antibiot.,53,603-608(2000).12.Arai,N.etal.,Chem.Pharm.Bull.,48,1442-1446(2000).13.Kuranda,M.J.etal.,J.Biol.Chem.,266,19758-19767(1991).14.Merzendorfer,H.etal.,J.Exp.Biol.,206,4393-4412(2003).15.Takaya,N.etal.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,62,60-65(1998).16.Cohen,E.,Arch.Insect.Biochem.Physiol.,22,245-261(1993).17.Zhu,Z.etal.,Science,304,1678-1682(2004).18.Sutherland,T.E.etal.,Clin.Exp.Allergy.,39,943-955(2009).19.Houston,D.R.etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99,9127-9132(2002).20.Case,D.A.etal.,AMBER7,UniversityofCalifornia,SanFrancisco,(2002).21.vanAalten,D.M.etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,5842-5847(2000).22.Massova,I.etal.,J.Am.Chem.Soc.,121,8133-8143(1999).23.Chong,L.T.;etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,14330-14335(1999).24.Masukawa,K.M.etal.,J.Med.Chem.2003,46,5628-5637(2003).25.Gouda,H.etal.,Biopolymers,68,16-34(2003).SARNewsNo.17(Oct.2009)/////CuttingEdge/////QM/MM分子動力学シミュレーションの生体高分子への応用大阪大学蛋白質研究所蛋白質情報科学研究系米澤康滋1.はじめに生体高分子の分子シミュレーション研究は近年の計算機性能の著しい向上と相まって重要な研究手段となりつつある。現在、生体高分子シミュレーションに一般に用いられている分子力場(MM)は古典力学に基づいており、化学結合の切断や生成及び電子伝達等の量子効果を取り扱うことは出来ない。一方、現実の蛋白質の酵素反応や電子伝達機構などでは、この化学結合の切断や生成及び電子伝達等がごく普通に行われている。すなわちこのような現象を取り扱うためには量子力学(QM)が必須であり、生体高分子シミュレーションで酵素反応及び電子伝達機構を解明するためには、QMの導入が不可欠である。分子の系に対してはQM計算方法として分子軌道法が良く用いられているが、溶媒環境も含めた生体高分子の全系を分子軌道法で計算することは現在の計算機では不可能である。WarshelとLevittは、分子力場だけでは実現が困難な酵素機能に関する分子シミュレーション研究を可能にする手法として、分子軌道法と分子力場のハイブリッド(QM/MM)シミュレーション法を初めて導入した[1]。彼らは、リゾチームの加水分解酵素反応機構のシミュレーションで、リガンドの一部と活性部位の一部を半経験的分子軌道法で取り扱い、残りの部分を分子力場で取り扱って酵素反応を解析しその有用性を示した。このようにQM/MMシミュレーションは、研究対象分子の最も重要でかつ分子力場では記述できない領域をQMで取り扱い、残りの(相対的に)重要でない領域はMMで取り扱うことで、分子力場では得ることができない精密な分子シミュレーションを高速に実現する方法である。2.QM/MMポテンシャルエネルギーQM/MMシミュレーションのポテンシャルエネルギーは、以下の表式で表すことが出来る。(以後、分子軌道法で取り扱う領域をQM領域、分子力場で取り扱う領域をMM領域とする。)totQMMMQM/MME=E+E+EここでEtotはQM/MMシミュレーション系の全エネルギー、EQMはQM領域で分子軌道法を用いて計算したエネルギーで、EMMはMM領域で分子力場を用いて計算したエネルギーである。最後のEQM/MMはQM領域とMM領域の相互作用エネルギーを表している。QM/MM境界に化学結合が存在しない場合には、QM/MMの相互作用項は大きく分けて2つの異なる取り扱い方法が存在する。ひとつはQM領域とMM領域が静電相互作用をしない方法で、もうひとつはQM領域とMM領域が静電相互作用する方法である。前者は初期のQM/MMシミュレーションでしばしば用いられた方法で、プログラムへの実装が容易である特徴がある。後者は静電埋め込-15-SARNewsNo.17(Oct.2009)-16-み法[2]と呼ばれており、現在のQM/MMシミュレーションではこの方法が広く用いられている。静電埋め込み法ではMM領域にある原子の電荷はQM領域の分子軌道計算に取り込まれて相互作用エネルギーが計算される。この時QM/MM相互作用項は以下のように記述される。QM/MMvdWeleE=E+EここでEvdWとEeleはそれぞれQM領域とMM領域の原子間のvanderWaals相互作用項と静電相互作用項を示している。3.QM/MM境界が化学結合に位置する場合の取り扱いQM領域とMM領域の境界に化学結合が存在する場合は、QM/MM相互作用の取り扱いは複雑になる。単純にQM/MM境界でQM領域を分割した場合QM領域末端には飽和されていない不対電子が生じQM領域のエネルギーを大きく変化させるか、QM領域の分子軌道計算自体を破綻させることもある。これを避けるために、QM領域の末端を水素原子で終端するリンク原子法が最も簡単な処方として多用されている(図1)。図1リンク原子LによるQM/MM境界のQM領域終端例。QとQBはQM領域にある原子を示し、MとMBはMM領域にある原子を示している。QB原子とMB原子の間にQM/MM境界が存在する場合に、リンク原子LはQM領域の不対軌道を飽和させる目的でQB原子の近傍の適当な位置に配置される。しかしこのリンク原子の導入は、(1)系に本来存在しない余分な自由度を加える。(2)リンク原子とMM原子の相互作用によってQM領域に過剰分極が誘起される、等の困難を生じることが報告されている。そのためリンク原子を用いるQM/MMシミュレーションでは、リンク原子をQB原子とMB原子の結合上に一定距離で束縛したり、MB原子の電荷を消去するなどの処方が必要となる[7]。リンク原子に起因するこのような困難を避けるために、Gao等によるGeneralizedHybridOrbital(GHO)法[3]やRivail等やFriesner等によるLocalizedSelfConsistentField(LSCF)法[4]、FrozenOrbital法[5]がそれぞれ提案されている。いずれの方法もリンク原子を使用せずQM/MM境界に人工的な分子軌道を置くことでその困難を回避しているが、QM/MM境界の問題を完全には解決しておらず今後の進展が期待される分野である。尚、これらのQM/MM境界に対する方法は、リンク原子法も含めて、問題に応じて注意深くパラメータを設定することでほぼ等しい精度を与えることが報告されている[6]。SARNewsNo.17(Oct.2009)4.生体高分子へのQM/MMシミュレーション応用例–プロリンのシス-トランス異性化反応機構QM/MMシミュレーションの生体高分子への応用例として、我々が最近報告したプロリン残基のシス-トランス異性化反応機構の研究を紹介する[7]。X線結晶構造解析やNMR溶液構造解析から、殆ど全てのアミノ酸が蛋白質の立体構造中でトランス状態を取るのに対してプロリンはおよそ10%がシス状態を取っていることが知られている。このためプロリンのシス-トランス異性化は以前から蛋白質フォールディングの律速過程として重要視され研究が進められている。最近、これに加えてプロリンのシス-トランス異性化反応は蛋白質機能の切り替えスイッチとして細胞内の信号伝達の調整機能を直接または間接的に司ることが明らかになり、新たに注目を集めている[8]。一般にアミノ酸残基の分子力場は、蛋白質中での安定状態を記述することに主眼が置かれており異性化反応などの遷移状態を記述することは考慮されておらずその精度は保証されていない。そこで我々は、このプロリンのシス-トランス異性化反応にQM/MMポテンシャルを適用して分子動力学シミュレーション(QM/MMMD)することで、反応の自由エネルギーを精密に求めてこの異性化機構の詳細を研究した。我々はプロリンのモデルとしてN-acetyl-N’-methylprolineamide(Ace-Pro-NMe)プロリンジペプチド分子を用いた。このペプチド全体をQM領域とし、水の分子力場モデルTIP3PのMM領域でこのペプチドの周りを取り囲み、シミュレーション系を構築した(図2)。ここでQM領域の計算は、制限ハートリーフォック法を採用し、QM/MM間相互作用計算は静電埋め込み法を用いている。我々は自由エネルギーを求める反応座標として、図2(左)にしめす捻り角ω’(∠Cδ-N-C-O)を使用した。この反応座標上では捻り角0°がシス状態に、180°がトランス状態に対応している。図2(左)N-acetyl-N’-methylprolineamide(Ace-Pro-NMe)プロリンジペプチド、黄色の波線で捻り角ω’を示した。(右)プロリンジペプチドのQM/MMシミュレーション系:TIP3Pの数は1355分子で中心から球対象調和ポテンシャルで束縛されている。系の半径は19Åである。安定状態のペプチド結合の電子状態はsp2混成を成して共鳴しているためにそのC-N結合長は通常のσボンド結合長よりも0.1Å程短縮している。これに加えてシス-トランス間にはこの共鳴による大きなエネルギー障壁が存在してペプチド結合を平面に保っている。すなわち室温環境でこのエネルギー障壁を超える現象は非常にまれにしか実現せずこの異性化過程を現在の計算機でカノニカルシミュレーションすることは困難である。そこで我々は、反応座標に沿って人工的なポテンシャルを適用し、シミュレーションがまれにしか訪れない位相空間領域に局所化する方法(アンブレラポテンシャル法)を採用しこの困難を回避した。尚、この人工的なポテンシャ-17-SARNewsNo.17(Oct.2009)ルの影響は解析時に統計熱力学的に矛盾無く取り除くことができる。我々は実際のアンブレラポテンシャルとして、反応座標の捻り角ω’をある一定値に束縛するような調和型ポテンシャルを用いている。我々は反応座標を36分割して、異なる束縛値ω’を持つ36の独立したアンブレラサンプリングシミュレーションを実行しこれらのシミュレーションから得られたデータを解析した。以下に示す結果は[7]の基底関数4-31Gを6-31Gに改良し、新たにシミュレーションして得たデータによる結果である。図3(左)にシミュレーションから得られたプロリンジペプチドのシス-トランス異性化自由エネルギー(PotentialofMeanForce)の反応座標依存性を示す。図3(左)プロリンジペプチドのシス-トランス異性化自由エネルギー地形、反応座標0°がシス状態に、180°がトランス状態に対応する。アンブレラサンプリングで分割された自由エネルギーはアンブレラ積分法[9]で結合して連続した自由エネルギー地形を得ている。(右)プロリンのC-N結合長の反応座標依存性。得られた自由エネルギーはトランス状態がシス状態よりも3-4kcal/mol程安定であることを示し実験と一致している。さらにエネルギー障壁の値(23kcal/mol)も実験値と良く一致しておりQM/MMシミュレーションの精度の良さを示している。次にプロリンの平均C-N結合長の反応座標依存性を図3(右)に示す。図から、シス状態とトランス状態では共鳴によって1.34Å程の結合長であったプロリンのC-N結合長がシス-トランス異性化の進行に依存して変化し、シス状態とトランス状態の中間状態では最大およそ1.42Åに伸張していることが解る。この結果はシス及びトランス状態ではsp2混成していた電子状態がシス-トランス異性化の中間状態ではsp3混成電子状態に変換していることを明確に示している[10]。ここで、プロリンの窒素原子を含むペプチド結合の平面性を測る尺度としてpyramidality(以下、ピラミダリティ)=det(e1,e2,e3)を導入する。e1、e2とe3は、プロリン環の窒素原子NからそれぞれCδ、Cα、C原子に向かう単位ベクトルとする。detはこれらのベクトルの行列式を意味する。このピラミダリティはN原子を頂点とするピラミッド様四面体の体積に比例しペプチド結合の平面性からのずれを示す良い指標となる。図4にQM/MMMDシミュレーションから得られたプロリンジペプチドの統計平均したピラミダィティ値の反応座標依存性を示す。ピラミダィティは反応座標0°付近(シス状態)では、ほぼゼロの値(平面構造)を持つ。そ-18-SARNewsNo.17(Oct.2009)して反応座標が正に増加するにつれて減少し60°付近で一旦負の極値(負のピラミッド構造:図4(b))を取る。そして反応座標がさらに増加すると急激に正の極値(正のピラミッド構造:図4(a))に跳躍し、その後再び減少に転じて180°(トランス状態)で再びゼロ(平面構造)に戻っている。反応座標が180°から360°に増加する際にも同様の現象をみることができる。図4平均ピラミダリティの反応座標依存性と、(a)正のピラミッド様コンフォメーション及び、(b)負のピラミッド様コンフォメーションのスナップショット。以前から分子軌道法によって正のピラミッド様コンフォメーションがシス-トランス異性化の中間状態として報告されているが[10]、我々の研究が明らかにしたプロリン異性化に伴う正と負の間のピラミッド様コンフォメーションの急激な跳躍はQM/MMMDシミュレーションで初めて予見された新規な現象である。さらに我々は詳細な解析の結果、プロリン窒素原子に関する溶媒水分子の水素結合がこのピラミッド様コンフォメーションの安定化に寄与していることを解明した。正のピラミッド様コンフォメーションは、図4(a)に示されている(水色)矢印方向からの溶媒水分子による水素結合で安定化されており、負のピラミッド様コンフォメーションは図4(b)に示されている矢印方向からの水素結合で安定化されている。これらの水素結合は競合しておりその度合いはプロリンジペプチドの異性化に依存している。異性化の過程でこの競合関係は複雑に変化して、競合のバランスが反応座標の60°付近と250°付近で急激に逆転するために正負のピラミッド様コンフォメーションの跳躍を引き起こす一因となると我々は考えている。5.まとめQM/MMシミュレーションの理論的基礎と応用例について概説した。QM/MMシミュレーションは分子力場の精度と限界に支配される分子シミュレーション(MM)と、その計算コスト故に計算対象サイズが限定される分子軌道法(QM)の両者の欠点を補い合いかつ双方の利点を有効活用でき-19-SARNewsNo.17(Oct.2009)-20-る優れた方法である。さらにQM/MMシミュレーションで注意を要するQM/MM境界の取り扱いに言及しリング原子法に代表される化学結合を跨ぐQM/MM境界の様々な方法について紹介した。最後に溶媒中のプロリンジペプチドのシス-トランス異性化反応に関するQM/MMMDシミュレーションの結果を具体的研究例として紹介した。ここでは、分子力場を使用する分子動力学法と分子軌道法の各々を独立に使用することでは解明し得なかった現象がQM/MMMDシミュレーションを適用することで初めて明らかになった例を挙げてQM/MMシミュレーションの有用性を示した。今後QM/MMシミュレーションは、生体高分子やナノの研究領域でその重要性を増していくことが予想される。6.謝辞本研究に関しましてご協力及びご指導頂きました、阪大蛋白研中村春木教授、理研高田俊和先生、そして共同研究者の皆様に深く感謝申し上げます。7.参考文献[1]TheoreticalStudiesofEnzymaticReactions:DielectricElectrostaticandStericStabilizationoftheCarboniumIonintheReactionofLysozyme,A.WarshelandM.Levitt,J.Mol.Biol.103,227-249(1976).[2]QM/MM:WhatHaveWeLearned,WhereareWe,andWhereDoWeGofromHere?,H.LinandD.G.Truhlar,Theoret.Chem.Acc.117,185-199(2007).[3]AGeneralizedHybridOrbital(GHO)MethodfortheTreatmentofBoundaryAtomsinCombinedQM/MMCalculations,J.Gao,P.Amara,C.AlhambraandM.J.Field,J.Phys.Chem.A102,4714-4721(1998).[4]QuantumChemicalComputationsonPartsofLargeMolecules:TheAbInitioLocalSelfConsistentFieldMethod,X.AssfeldandJ.-L.Rivail,Chem.Phys.Lett.263,100-106(1996).[5]AbInitioQuantumChemicalandMixedQuantumMechanics/MolecularMechanics(QM/MM)MethodsforStudyingEnzymaticCatalysis,R.A.FriesnerandV.Guallar,Annu.Rev.Phys.Chem.56,389-427(2005).[6]FrontierBondsinQM/MMMethods:AComparisonofDifferentApproaches,N.Reuter,A.Dejaegere,B.MaigretandM.Karplus,J.Phys.Chem.A104,1720-1735(2000).[7]Intra-andIntermolecularInteractionInducingPyramidalizationonBothSidesofaProlineDipeptideduringIsomerization:AnAbInitioQM/MMMolecularDynamicsSimulationStudyinExplicitWater,Y.Yonezawa,K.Nakata,K.Sakakura,T.TakadaandH.Nakamura,J.Am.Chem.Soc.131,4535-4540(2009).[8]ProlylIsomerasePin1:NewFindingsonPost-translationalModificationsandPhysiologicalSubstratesinCancer,Alzheimer’sDiseaseandAsthma,K.Takahashi,C.Uchida,R.W.Shin,andT.Uchida,CellMol.LifeSci.65,359-375(2008).[9]BridgingtheGapbetweenThermodynamicIntegrationandUmbrellaSamplingProvidesaNovelAnalysisMethod:UmbrellaIntegration,J.KästnerandW.Thiel,J.Chem.Phys.123,144104(2005).[10]AComputationalStudyoftheIsomerizationofProlylAmidesAsCatalyzedbyIntramolecularHydrogenBonding,K.N.RankinandR.J.Boyd,J.Phys.Chem.A106,11168-11172(2002).SARNewsNo.17(Oct.2009)/////Activities/////構造活性フォーラム2009開催報告「化合物と標的・非標的タンパク質との相互作用-創薬標的の同定と分子設計-」構造活性フォーラム2009実行委員長竹田-志鷹真由子平成21年6月19日(金)、北里大学薬学部コンベンションホール(港区白金5-9-1)において、構造活性フォーラム2009が標記の討論主題で開催されました。構造活性フォーラムは、1999年に構造活性相関講習会として開始されて以来(2003年からは構造活性フォーラムと名称を変更)、今回で11回目を迎えました。参加者は、総数116名(講師・実行委員・学生アルバイトを含む)でした。当日のプログラムは以下の通りです。1.合田浩明(北里大学薬学部)ヒト酸性キチナーゼを標的にしたin-silico創薬研究2.石黒正路(新潟薬科大学応用生命科学部)GPCRにおけるリガンド受容の多様性3.奥野恭史(京都大学大学院薬学研究科)多重標的創薬のためのインフォマティクス4.大田雅照(中外製薬㈱)UnwantedInteractionsbetweenSmallMoleculeandMultipleProteins:SelectivityandOff-targets5.夏目徹(産業技術総合研究所)タンパク質ネットワーク解析から展開するケミカルバイオロジー6.藤田稔夫(京都大学名誉教授)多様な標的に対応する個々の構造活性関係の間の上位の関係の考察と解析-SAR-omicsの提唱-生体システムは生命現象を司る多種多様な分子の複雑なネットワークから成っており、創薬研究などにおいてもそれらの相互作用情報の活用が必須となっています。今回のフォーラムでは、化合物-タンパク質間およびタンパク質-タンパク質間の相互作用の多様性に焦点をあて、分子標的インシリコ創薬の実際、創薬標的としてのGPCR、多重標的創薬のためのインフォマティクス、マルチターゲット化合物の選択性向上と副作用毒性回避、タンパク質ネットワーク解析、構造活性相関研究との関連などについて、最先端でご活躍の6名の先生方にご講演いただきました。いずれのセッションも会場からの質疑も活発で大変有益な討論となり、盛会のうちに終了することができました。末筆ながら、ご講演いただいた講師の先生方、ご参加いただいた皆様、開催にあたりご支援ご協力をいただきました皆様方に心より御礼申し上げます。-21-SARNewsNo.17(Oct.2009)/////Activities/////SARPromotionAward2009年度受賞者(庶務幹事新潟薬科大学米田照代)構造活性相関部会では,2005年度より構造活性相関研究の発展を促進するための事業として当該制度を設け,部会員の国外での研究発表を奨励している.2009年度は,6月19日の常任幹事会において,受賞者を次の1名に決定した.氏名吉田達貞(よしだたつさだ)所属徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報薬科学部門分子情報薬学講座創薬理論化学分野(助教)参加学会名FifthInternationalSymposiumonComputationalMethodsinToxicologyandPharmacologyIntegratingInternetResources(CMTPI2009)開催期日2009年7月4日~8日開催場所トルコ,イスタンブール演題ComparativeQSARAnalysisofaSeriesofBenzeneSulfonamideInhibitorsUsingAbInitioFragmentMOCalculationofTheirComplexStructureswithCarbonicAnhydrase(ポスター発表)受賞者の報告は,次号のSARNewsに掲載される予定である.-22-SARNewsNo.17(Oct.2009)/////Activities/////<会告>第37回構造活性相関シンポジウム日時平成21年11月12日(木)・13日(金)会場北里大学薬学部コンベンションホール(東京都港区白金5-9-1)主催日本薬学会構造活性相関部会共催日本化学会日本分析化学会日本農芸化学会日本農薬学会懇親会11月12日(木)連絡先第37回構造活性相関シンポジウム事務局〒105-0014東京都港区芝3-17-15クリエート三田207Tel03-3798-5253Fax03-3798-5251E-mailsar2009@event-convention.com第1日目(11月12日)10:00-10:10開会横山祐作(東邦大・薬)10:10-11:00一般講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:大田雅照KO-01新型インフルエンザウィルス(H1N1)のモデリングデータベースの開発○寺師玄記、加納和彦、中村裕樹(北里大・薬)、高谷大輔、松本武久(理研)、竹田-志鷹真由子、梅山秀明(北里大・薬、理研)KO-02ドッキング条件検討システム(PALLAS)の開発と検証○幸瞳(理研・SSBC)、石田剛(理研・SSBC、日鉄日立)、佐藤朋広(理研・SSBC、東大院・理)、津金沢恵子、田仲昭子、本間光貴(理研・SSBC)11:00-11:40招待講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:石黒正路KI-01医薬品に秘められたキラリティー夏苅英昭(帝京大・薬)13:10-15:40ポスターセッション(会場:薬学部1号館1201学生自習室)13:10-14:25奇数番発表14:25-15:40偶数番発表15:40-16:45一般講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:加藤博明KO-03サポートベクターマシンによる多種類の化学物質の発ガン性の予測○田辺和俊、栗田多喜夫(産総研・脳神経情報)、小野寺夏生(筑波大院・図情メディア)、貝原巳樹雄(一関工業高専)、鈴木孝弘(東洋大・経)KO-04有害性評価支援システム統合プラットフォームの開発○櫻谷祐企、佐藤佐和子、西川智、山田隼、前川昭彦、林真(NITE)KO-05単純グラフ同型なNTGネットワークを用いた薬物構造データマイニング○野村京平、大田黒空、高橋由雅(豊橋技科大)-23-SARNewsNo.17(Oct.2009)17:00-17:40招待講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:粕谷敦KI-02新規物質の分子標的予測システムの開発と抗がん剤創薬への応用矢守隆夫(癌研究会・癌化学療法センター・分子薬理)17:40-17:55ポスター賞発表(会場:薬学部コンベンションホール)18:30-20:30懇親会(会場:恵比寿ガーデンプレイスビヤステーション)ポスター賞授賞式ポスターセッション(会場:1201学生自習室)KP-01HIV-1膜融合阻害ペプチドにおけるgp41/S138A置換効果のMMとPBSA解析○寺川幸宏、渡部毅、渡辺健太郎、大野浩章(京大・薬)、泉和樹(京大・ウイルス研)、大石真也、藤井信孝、北浦和夫(京大・薬)KP-02取り下げKP-03ドッキング条件検討システム(PALLAS)の開発と検証○幸瞳(理研・SSBC)、石田剛(理研・SSBC、日鉄日立)、佐藤朋広(理研・SSBC、東大院・理)、津金沢恵子、田仲昭子、本間光貴(理研・SSBC)KP-04ファーマコフォアの空間配置に基づく低分子-タンパク質間相互作用記述子(Pharm-IF)の開発と機械学習を用いたインシリコスクリーニングへの応用○佐藤朋広(東大院・理、理研)、幸瞳、本間光貴(理研)、横山茂之(東大院・理、理研)KP-05タンパク質-リガンドドッキングにおけるリガンド初期配座の影響○小田彰史(東北薬大・薬、阪大・蛋白研)、小林佳奈、高橋央宜(東北薬大・薬)、山乙教之、広野修一(北里大・薬)KP-06L糖含有糖鎖の合成とその線虫ガレクチンとの結合活性の検討西山和沙、○山田篤、高橋美貴、武内智春、笠井献一、夏苅英昭、高橋秀依(帝京大・薬)KP-07炭酸脱水酵素-ベンゼンスルホンアミド阻害剤複合体の非経験的フラグメント分子軌道法を用いた相互作用解析とQSAR○宗井陽平、島本和典、岡田耕平、吉田達貞、中馬寛(徳島大院・薬)KP-08フェノール水素原子のラジカル引き抜き反応の非経験的分子軌道法解析に基づくフラボノイドのDPPH活性のQSAR○廣隅公治、吉田達貞(徳島大院・薬)、河合慶親、寺尾純二(徳島大院・栄養)、中馬寛(徳島大院・薬)KP-09N1ノイラミニダーゼ-シアル酸誘導体複合体の非経験的フラグメント分子軌道法計算に基づく相互作用解析○比多岡清司、郡恵理、原田政隆、吉田達貞、中馬寛(徳島大院・薬)KP-10分子動力学計算に基づくArg344のヒトCathepsinA活性への影響の解析○郡恵理、比多岡清司、原田政隆(徳島大院・薬)、門田佳人(徳島文理大・薬)、堀川靖、吉田達貞、伊藤孝司、中馬寛(徳島大院・薬)KP-11Insilicoscreeningによる非ペプチド性β-セクレターゼ阻害剤の探索○松下泰雄、中込泉、山乙教之、広野修一(北里大・薬)KP-12カゼインキナーゼ2複合体に対する構造最適化と結合エネルギー評価○浅田直也、北浦和夫(京大院・薬)-24-SARNewsNo.17(Oct.2009)KP-13ファルマコフォアによる化合物多様性評価○石川誠(日産化学)KP-14取り下げKP-15AutoGPAモデルによる受容体ポケットの特徴抽出○朝川直行、小林誠一、後藤純一(菱化システム)、平山令明(東海大・医)KP-16アルドース還元酵素阻害活性を有する新規三環系化合物のStructure-based3D-QSAR○生川佳代、山乙教之、合田浩明(北里大・薬)、竹田大輔、峰平大輔(富山大病院・薬)、王旭(富山大院・薬)、加藤敦、足立伊左雄(富山大病院・薬)、松谷裕二、豊岡尚樹(富山大院・薬)、広野修一(北里大・薬)KP-17非経験的分子軌道法による分子間相互作用解析に基づくHammettσの理論的考察清水美帆、○吉田達貞、中馬寛(徳島大院・薬)KP-18シクロフィリンAを標的とする抗HIV薬の開発を指向した構造活性相関研究○杉本裕昌、田雨時、岡本晃典(阪大院・薬)、川下理日人(阪大院・薬、阪大微研)、安永照雄(阪大微研)、高木達也(阪大院・薬、阪大微研)KP-19パラオキシ安息香酸エステル類の構造とモル毒性の関係に関する研究石原良美(東海大・理)、○片岡啓一(東海大院・理)、齋藤寛、髙野二郎(東海大・理)KP-20化学物質の反復投与毒性試験データの解析とカテゴリーアプローチへの応用○西川智、櫻谷祐企、佐藤佐和子、山田隼、前川昭彦、林真(NITE)KP-21カテゴリーアプローチによる化学物質の生物濃縮性予測○池永裕、櫻谷祐企、佐藤佐和子、山田隼(NITE)KP-22ヒト発癌性物質の解析とSupportVectorMachineによる予測モデルの構築○三輪祐太朗、坂本久美子、山内あい子(徳島大院・薬)KP-23Identificationofthe3D-PharmacophoreforHumanABCG2TransporterSubstrates○山乙教之(北里大・薬)、齊藤光(東工大院・生命理工)、石川智久(理研)、広野修一(北里大・薬)KP-24置換安息香酸アシルグルクロニドの分解速度定数に関する電子的及び立体的記述子を用いた構造活性相関○吉岡忠夫、馬場暁子(北海道薬大)KP-25N-アセチルトランスフェラーゼ2の構造と薬物動態○大倉一人、生城山勝巳(千葉科大・薬)、篠原康雄(徳大・疾患ゲノム研)、堀均(徳大・ソシオテクノサイエンス研)KP-26新規経口急性毒性Alertの探索○赤堀有美(化学物質評価研究機構(CERI))KP-27ヒト酸性キチナーゼに対して特異性を有するArgifin誘導体阻害剤の論理的分子設計○合田浩明、寺嶋真一、広野修一(北里大・薬)KP-28トリプレット表現に基づくヒト匂い受容体の構造特徴解析○森下千識、加藤博明(豊橋技科大)KP-29ドッキング計算と熱力学測定による血清アルブミンの構造センシング○加藤祐樹、田浦俊明(愛知県立大院・情報)KP-30ドッキングスタディを利用した抗インフルエンザ薬の薬剤耐性評価法○安田匡志(阪大院・薬)、川下理日人(阪大院・薬、阪大微研)、柏田理恵、田雨時、岡本晃典(阪大院・薬)、川瀬雅也(長浜バイオ大)、安永照雄(阪大微研)、高木達也(阪大院・薬、阪大微研)-25-SARNewsNo.17(Oct.2009)KP-31ホモロジーモデリングとドッキング手法によるthiolactomycinとD-aspartateoxidaseの結合様式の推定○中込泉、山乙教之、合田浩明、片根真澄、本間浩、広野修一(北里大・薬)KP-32GPCRstructuremodellingandliganddocking:GPCRDock2008○加納和彦(北里大・薬)、高谷大輔(理研)、寺師玄記、竹田-志鷹真由子、梅山秀明(北里大・薬、理研)KP-33知識ベースによる合成経路を包括した化合物バーチャルライブラリの構築○西村拓朗、船津公人(東大院・工)KP-34単純グラフ同型なNTGネットワークを用いた薬物構造データマイニング○野村京平、大田黒空、高橋由雅(豊橋技科大)KP-35バーチャルスクリーニングを用いた新規脱皮ホルモン受容体リガンドの探索○原田俊幸、中川好秋(京大院・農)、山田豊(サイバネット)、大江武弘(オープンアイ)、宮川恒(京大院・農)KP-36事例データにもとづく薬物分子グラフのNTGネットワークの生成と応用○寺本岳史、高橋由雅(豊橋技科大)第2日目(11月13日)9:00-10:20一般講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:藤原巌KO-06プロテインキナーゼATRと阻害剤の複合体モデリング○米田照代、古寺弘昭、田宮実、石黒正路(新潟薬大・応用生命)KO-07カゼインキナーゼ2複合体に対する構造最適化と結合エネルギー評価○浅田直也、北浦和夫(京大院・薬)座長:清水良KO-08N1ノイラミニダーゼ-シアル酸誘導体複合体の非経験的フラグメント分子軌道法計算に基づく相互作用解析○比多岡清司、郡恵理、原田政隆、吉田達貞、中馬寛(徳島大院・薬)KO-09非経験的フラグメント分子軌道法による薬物-受容体相互作用解析とQSARへの応用○吉田達貞、宗井陽平、中馬寛(徳島大院・薬)10:40-11:40特別講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:横山祐作KS-01ユニークな光化学原理に基づくバイオイメージングプローブの開発研究大学発の創薬研究の新たな動き長野哲雄(東大院・薬、東大・生物機能制御化合物ライブラリー機構)13:10-14:15一般講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:黒木保久KO-10AutoGPA:グリッドとファーマコフォアモデルの連携による3D-QSARモデルの自動構築○小林誠一、朝川直行、後藤純一(菱化システム)、平山令明(東海大・医)KO-11シクロフィリンAを標的とする抗HIV薬の開発を指向した構造活性相関研究○杉本裕昌、田雨時、岡本晃典(阪大院・薬)、川下理日人(阪大院・薬、阪大微研)、安永照雄(阪大微研)、高木達也(阪大院・薬、阪大微研)-26-SARNewsNo.17(Oct.2009)-27-KO-12多変量解析による化学物質の加水分解反応予測○栗花落昇平(阪大院・薬)、尾形直紀、藤本貴男(阪大・薬)、山崎広之、日高伸之介、岡本晃典(阪大院・薬)、川下理日人(阪大院・薬、阪大微研、阪大微研・感染症共同研)、、高木達也(阪大院・薬、阪大微研、阪大微研・感染症共同研)14:30-16:20一般講演(会場:薬学部コンベンションホール)座長:中山章KO-13バーチャルスクリーニングを用いた新規脱皮ホルモン受容体リガンドの探索○原田俊幸、中川好秋(京大院・農)、山田豊(サイバネット)、大江武弘(オープンアイ)、宮川恒(京大院・農)KO-14薬物排出に関わるP-糖タンパク質の基質認識機構-さまざまな化学物質の構造とATPase活性との関係-○赤松美紀、金岡怜志、木村泰久、中川好秋、植田和光(京大院・農)座長:岡島伸之KO-15オーファンGPCRのリガンド探索手法の開発○光山倫央、荒川正幹、船津公人(東大院・工)KO-16Organicaniontransportingpolypeptide(OATP)1B1とOATP1B3の基質を用いたファーマコフォア解析、3D-QSAR解析○渡辺悦郎(東大院・薬)、山乙教之(北里大・薬)、楠原洋之(東大院・薬)、広野修一(北里大・薬)、杉山雄一(東大院・薬)座長:久保寺英夫KO-17Identificationofthe3D-PharmacophoreforHumanABCG2TransporterSubstrates○山乙教之(北里大・薬)、齊藤光(東工大院・生命理工)、石川智久(理研)、広野修一(北里大・薬)KO-18GPCRstructuremodellingandliganddocking:GPCRDock2008○加納和彦(北里大・薬)、高谷大輔(理研)、寺師玄記、竹田-志鷹真由子、梅山秀明(北里大・薬、理研)16:20-16:30閉会(会場:薬学部コンベンションホール)SARNewsNo.17(Oct.2009)/////Activities/////構造活性相関部会の沿革と趣旨1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1994年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年一回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSARNewsを年二回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。(http://bukai.pharm.or.jp/bukai_kozo/index.html)編集後記日本薬学会構造活性相関部会誌SARNews第17号をお届けいたします。ご多忙の中、ご執筆いただきました諸先生方に心よりお礼申し上げます。今回は、薬物分子がその活性を現す最重要局面である、標的生体高分子との結合の強度や構造を解析する上で不可欠な方法論である分子動力学に焦点を当てました。Perspective/Retrospectiveでは、藤谷秀章先生(富士通研究所)にJarzynski等式に基づくΔG計算法について、CuttingEdgeでは、合田浩明先生・広野修一先生(北里大学薬学部)にMM-PBSA法に基づくΔG計算法をご解説いただきました。Innovativeな理論に裏打ちされたこのような分子計算によって、絶対値として化学的精度が達成されつつあることは刮目に値します。また、米澤康滋先生(大阪大学蛋白質研究所)には、古典力場を越えて量子力学との融合をなす方法論であるQM/MM分子動力学のご紹介をいただきました。いずれも目の離せない重要なご研究です。このSARNewsが、構造活性相関研究の先端情報と展望を会員の皆様にご提供できることを編集委員一同願っております。今後ともよろしくお願い申し上げます。(編集委員会)SARNewsNo.17平成21年10月1日発行:日本薬学会構造活性相関部会長石黒正路SARNews編集委員会(委員長)久保寺英夫藤原巌黒木保久福島千晶粕谷敦*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。-28-