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SARNews No.25

SARNews_25

構造活性相関部会・ニュースレター<1October,2013>SARNewsNo.25「目次」/////Perspective/Retrospective/////経産省ライフサイエンスデータベースポータルサイトMEDALSとデータベース統合への課題村上勝彦、今西規・・・2/////CuttingEdge/////エピジェネティクスを標的とした医薬品開発梅原崇史・・・9次世代エピジェネティックドラッグを目指したヒストン脱メチル化酵素阻害薬の創製研究鈴木孝禎・・・17/////Activities/////<報告>構造活性フォーラム2013開催報告「タンパク質-リガンド間相互作用解析と構造インフォマティクス」本間光貴・・・24<会告>第41回構造活性相関シンポジウム・・・25構造活性相関部会・ニュースレター<1October,2013>SARNewsNo.25(Oct.2013)-2-/////Perspective/Retrospective/////経産省ライフサイエンスデータベースポータルサイトMEDALSとデータベース統合への課題産業技術総合研究所村上勝彦東海大学産業技術総合研究所今西規1.はじめにライフサイエンス研究におけるデータベースと聞けば「研究者個人が知識の整理のために収集したデータベース」を想起する研究者はおそらく少数派で、ほとんどの研究者は「大規模研究による大量の測定データ」や「特定分野の公共データベース」を想定することであろう。大規模研究の例としてはENCODEや1000人ゲノムプロジェクト、公共データベースではPubMedやPDBなどが代表例である。しかし、ライフ分野のデータベースは実に多種多様であり、最新のNucleicAcidsResearchデータベースカタログによれば2013年4月時点で1,512種類がインターネット上で公開されている(http://www.oxfordjournals.org/nar/database/c/)。過去10年ほどの間に、データベースの数は爆発的に増加してきた。データベース数の増加と並行して、ライフサイエンス研究におけるデータベースの位置づけも大きく変わった。ヒト全ゲノムの配列データが象徴的であるが、かつてはデータベースは「測定データを格納する書庫(アーカイブ)」であったが、今では「次の研究を企画するための材料」に変わってきた。例えば、iPS細胞を発明した山中伸弥教授が、遺伝子発現データベースを使ってES細胞に特異的な遺伝子を探したことが大発見につながったことは、有名である。きっと、「データベースをうまく使えば何かが見つかるかもしれない」と考える研究者が増えているはずだ。こうした期待の高まりに対応すべく、我々は各種のデータベースを作る研究事業を進めてきた。本稿では、経産省ライフサイエンスデータベースプロジェクトの活動を紹介するとともに、我々が構築してきたヒト遺伝子の統合データベースH-InvDBや、データIDに着目した世界のデータベース統合の試みについて述べる。2.産業技術総合研究所の統合データベースについてヒト遺伝子情報の統合データベース産業技術総合研究所(以下、産総研)の我々のチームでは、ヒトの遺伝子と転写産物を主な対象とした統合データベースH-InvitationalDatabase(H-InvDB;http://h-invitational.jp/)を2004年から公開している[1,2]。これは、ヒトの全転写産物についてはそれらの遺伝子の構造・選択的スプライシング・機能性RNAの情報、またタンパク質については機能・機能ドメイン・細胞内局在・代謝経路・立体構造・疾病との関連・遺伝子多型(SNP、マイクロサテライト等)・遺伝子発現プロファイル・分子進化学的特徴・タンパク質間相互作用・遺伝子ファミリーの情報の様々なリソースを統合している。情報源としてはUniProtやOMIMなどの有名データベース、解析ツールによって独自予測した結果、文献から付与した情報を提供している。H-InvDBの特長として、実験的に検証されたタンパク質との相同性に基づいて転写産物や遺伝子座に信頼度指標(Category)を付与している。例えば、UniProtKB/SwissProtと一致し、実験的にタンパク質の存在が確認されているものがCategoryIであり、数字があがっていくと実験的な証拠は弱くなる。図1(a)にカテゴリの定義とH-InvDB8.3における遺伝子数を示した。SARNewsNo.25(Oct.2013)-3-(a)(b)Category定義遺伝子数Iヒト既知タンパク質に完全に一致する16,139II既知タンパク質に相同性を有する5,880IIIInterProドメインによって遺伝子機能推定1,450IV機能未知遺伝子(未知タンパク質で保存)1,910V機能未知遺伝子5,719VI機能未知遺伝子(20-79aaのショートプロテイン)5,691VII転写型偽遺伝子候補(pseudogene)692合計37,481図1(a)H-InvDBのカテゴリ定義と遺伝子数。カテゴリI,IIおよびIIIの合計23,469個が特に信頼できる遺伝子と考えられる。(b)プロテオミクス研究に向けて開発したH-EPDデータベースに登録されているタンパク質のベン図。H-InvDB,RefSeqprotein,UniProtの3リソースにおけるタンパク質の一致する数を示す。遺伝子とタンパク質は必ずしも一対一の関係にならないため、(a)の遺伝子総数と(b)のタンパク質総数は一致せず、(b)の各データベース内のタンパク質総数も単純な合計とは一致しない。2013年3月に公開されたH-InvDB8.3では、タンパク質コード遺伝子座36,789件のうち機能が推測可能なCategoryIからIIIは約64%の23,469件であった。CategoryIVからVIの機能未解明の遺伝子については、新規遺伝子の発見が進むにつれて過去5年間で約2,000件減少した[1]が、将来タンパク質コード遺伝子と判明するかもしれない転写産物が13,320件ある。これら膨大な機能未知遺伝子座がタンパク質として発現しているかどうかを解明するため、昨年我々はタンパク質コード遺伝子座のデータをよりプロテオミクス研究に利用しやすい形に発展させたH-InvExtendedProteinDatabase(H-EPD;http://hinv.jp/hinv/h-epd/)[3]を公開した。H-EPDでは、H-InvDBの転写物から予測したタンパク質に、RefSeq(Protein)、UniProtKB/Swiss-Protのタンパク質情報を加え、総計44,016件のデータセットとして提供している。これらの3つのリソースに共通するタンパク質の数(ベン図)を図1(b)に示す。3つで共通なタンパク質はわずか14,323タンパク質であり、各リソースに対する割合は39%から71%に対応する。このことは、未だ予測の部分が多いことと、異なるリソースの統合・比較の重要性を示している。従来のH-InvDBは転写産物・遺伝子が主眼であったが、近年はタンパク質レベルでの実験情報の拡充を続けており、遺伝子・転写産物・タンパク質それぞれのカタログとしてさらに広く研究者に利用される統合データベースを目指している。データベースは「参照する」利用方法だけでなく、将来研究を「企画する」ためのヒントの提示にも利用できる。そのような目的を念頭に、仮説を考察するためのシステム、H-InvDBEnrichmentAnalysisTool(HEAT;http://hinv.jp/heat/)を作成したので紹介したい。このシステムは、マイクロアレイなどで同定した着目すべき遺伝子やタンパク質のリストを入力すると、H-InvDBのアノテーション情報を活用し、そのグループを特徴づけるアノテーションを探し、P値とともに出力する。利用者は得られた特徴をもとに仮説を導きだし、次の実験計画を組み立てていくことができる。SARNewsNo.25(Oct.2013)-4-3.経産省の統合データベースプロジェクトとポータルサイトMEDALSプロジェクトの背景生命科学では、すでに蓄積されている研究成果を研究者自身のデータと対比することにより、仮説を考案する手がかりが得られるケースは多い。また、大きなプロジェクトの成果がどこにあるか分からない、などの声をうけて、データベースの統合の必要性が認識された結果、文科省では2007年にライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)が設立され、そこからサービス業務を独立させて2011年にバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)が設立された。経産省ではこれと連動し、経産省の関連機関や資金により実施された研究開発プロジェクトについて、成果等の整備・情報提供するための活動、経産省の「統合データベースプロジェクト」を2008年に開始した。我々、産総研では、その委託を受けてポータルサイトMEDALS(図2;http://medals.jp/)をつくり公開した[4]。このプロジェクトはNBDCを省庁連携の中核機関と位置づけ、そこへ情報を集約するという枠組みで進めている。また、農水省系では、農業生物資源研究所(NIAS)が「AgriTOGO農林水産生物ゲノム情報統合データベース」を公開し、成果を集約している。厚労省は直接のプロジェクトはないが、医薬基盤研究所(NIBIO)が独自に内部データベースの統合やデータ公開、NBDCへのデータ提供を進めている。図2MEDALSトップページとコンテンツ主要コンテンツはデータベース便覧(A)、横断検索(B)、およびアーカイブ(C)の3つである。便覧のうち、データベースは80件、ツールは77件、及びそれらの関連プロジェクトは54件登録している。SARNewsNo.25(Oct.2013)-5-MEDALS主要コンテンツ:便覧(カタログ)、横断検索、アーカイブMEDALSトップページ(図2)には8つのアイコンが縦横に配列してあるが、それぞれが「データベース便覧」などのコンテンツのカテゴリを示している。主要コンテンツと位置づけているのはデータベース便覧(カタログ)(A)、横断検索(B)、アーカイブ(C)の3つである。これらについてはNBDCと連携をとって共同で進めており、省庁連携としての統合の成果がintegbioサイトにまとめられている(http://integbio.jp/)。これらは、MEDALSプロジェクト開始以来、NBDCへの情報やデータ移管を逐次行ってきた成果といえる。MEDALSの「データベース便覧」(図2A)に掲載してあるデータベースは全てintegbioのカタログにも掲載されている。MEDALS便覧が更新されると数日後にはintegbioのカタログに変更内容が反映される。ただし、integbioにある情報は12項目という範囲であり、詳細な説明(関連特許やデータベースの初歩的な使い方など)はMEDALSにしか掲載していない。また、「ツール便覧」、「プロジェクト便覧」もMEDALS独自である。これらには関連リンクをつけているので、プロジェクト-成果物の関係についても理解を深めることができる。このプロジェクト便覧には、フリーでは公開されてないようなデータへのアクセス方法(例えばNEDOプロジェクトの成果であるもので無償公開ではないが事業化されたサービスへのリンク)も独自に調査して結果を載せている。このように、独立したデータベースでない成果物はプロジェクト便覧に記述することにしている。またソフトウエアを紹介する「ツール便覧」はMEDALSにユニークなコンテンツである。なぜならNBDCカタログはデータベースが掲載対象で、ツール(ソフトウエア)は対象外だからである。「横断検索」(図2B)はデータの中身をキーワードで検索できる仕組みである。産総研の我々のチームだけでなく、産総研・糖鎖医工学センター(RCMG)、NBDC、NIAS、およびNIBIOが担当データベースのインデックスをそれぞれ作成し、統合的に利用している。現在は300を超えるデータベースに対する検索が可能で、そのデータベース数は逐次増加している。検索インターフェースは、産総研(MEDALS)、NBDC、NIBIOの3者のサイトそれぞれで独自に趣向を凝らしている(MEDALSからリンクがある)。日本語・英語どちらを入力しても自動翻訳されて検索ができる。またキーワードを入力中にその後の文字列を補完する機能がある。MEDALSではさらに独自機能として、1)追加キーワードの提案(英語のみ)と2)同義語検索のレベル調整機能を追加してある。詳しくはサイトにあるマニュアルを参照されたい(http://medals.jp/xsearch/Cross-Search_HELP.pdf)。「アーカイブ」(図2C)は、各データベースのデータ自体を共通かつ簡便なライセンス(クリエイティブコモンズ)のもとで、ユーザが取得し再利用するためのサービスである。アーカイブ対象物としてはデータ、ツール、および報告書がある。データベースのデータはNBDCアーカイブ(http://dbarchive.biosciencedbc.jp/)の統合対象なのでNBDCに置いているが、ツールや報告書はMEDALSアーカイブ(http://medals.jp/archives/list)に置いている。我々はアーカイブ作成の際に、データの再利用をたやすくするため、開発者と協力してデータ説明項目の付加やデータ構造再編成をしている。もともとオリジナルサイトでダウンロードできなかったものが、できるようになったデータもある。この結果、アーカイブデータのメタデータに対して簡単な検索や、検索結果のみのダウンロードもできる。MEDALS便覧にあるデータベースのうち、まだ全てをアーカイブに置くことは出来ていないが、有用なデータベースから選択して置いていることもあり、多くの研究者にとっては有用なデータが見つかるであろう。是非、自分の興味に関連するデータがないかNBDCアーカイブで探してみて頂きたい。MEDALSツール(ID変換、PubMedScan、BioDBScan)ユーザがデータや情報を扱う際に役立つと思われるツールを我々自身も開発しているので、そのいくつかを紹介する。SARNewsNo.25(Oct.2013)-6-リンク自動管理システム・ID一括変換システムリンク自動管理システム[5](http://biodb.jp/)は、データベース開発者向けのサービスで、外部データベースのデータ更新に伴うリンク切れの解消を簡便にすることを目的としている。データベースのWebページから外部データベースへのハイパーリンクがあったとき、リンク先の管理更新を代理で行うサービスである。遺伝子とタンパク質に関係する世界の主要データベースへのリンクを簡単に設定し、自動更新できる。「ID一括変換システム」はデータベース利用者に向けたサービスで、リンク自動管理システムのデータを利用し、遺伝子とタンパク質と化合物に関係する世界の主要なデータベースのIDを相互に一括変換できるシステムである。複数のデータベースを統合したい時にそれぞれが異なるID体系である場合が多いが、このシステムでIDの対応関係がすぐに取得できる。IDといえば、化合物のIDの統合状況については読者の関心が高いと思われる。そこでCAS番号を扱う日本のデータベース3つを以下に簡単にまとめておく。•リンク自動管理システム・ID一括変換システム:遺伝子・タンパク質・化合物等のリンクが豊富。•化合物統合検索システム(CHRIP):CAS番号、MITI番号、EC番号、キーワードで検索可能。•日化辞Web:科学技術振興機構(JST)が作成提供している有機低分子化合物辞書。CAS番号は全体の約10%に付与されている。PubMedScan/BioDBScan新規関連文献お知らせツールPubMedScanは、特定分野の新たな論文収集を効率化するためのシステムである。PubMedに新しく登録された文献の中に、ユーザがあらかじめ登録した文献と類似した内容の文献があると、定期的に(基本設定では毎日)メールで知らせるツールである。”MyNCBI”と違って、キーワードを登録しなくてよい。代わりに文献を登録する。また、PubMedと違って、複数文献をクエリとしてそれらの関連文献を知ることができ、さらに毎日お知らせメールがくる。類似文献間のリンクは重み付けされたキーワード群によってNCBIが計算しており、そのリンク情報を使う。PubMedScanを使うと、キーワード検索では漏れてしまう文献や頻繁には見ないジャーナルの文献を拾えるので、調査漏れを防ぐのに非常に有効である。最近、文献IDだけでなく新たに公開された分子IDをレポートするサブシステムBioDBScanを開発し公開した。また、前日に発行された文献だけでなく過去1ヶ月にさかのぼって関連文献を検索できる機能を追加した。創薬研究等に有用と思われる成果物(DB・ツール)の紹介MEDALS便覧に載っているデータベース等のうち、有害物質、化合物、医薬品研究などに有用そうなものを表1に示した。特に、分子シミュレーションソフトパッケージmyPrestoはMEDALSでアクセス数の多い人気のソフトである。表1MEDALS便覧にある産業的に有用と思われるデータベースとツール(ソフトウエア)名前内容とMEDALS便覧のURL化学物質の有害性評価書「化学物質有害性評価書」の要点のみを簡潔にまとめたデータ。http://medals.jp/list/detail/181発がん性予測システム化合物を投与したラット肝臓における遺伝子の発現量を測定し、早期に化合物の発がんリスクを予測するもの。http://medals.jp/list/detail/182SARNewsNo.25(Oct.2013)-7-有害性評価支援システム統合プラットフォームHESSカテゴリーアプローチによる反復投与毒性の評価を支援するためのシステム。NEDOプロジェクト「構造活性相関手法による有害性評価手法の開発」(平成19~22年度)の成果。http://medals.jp/list/detail/187化学物質統合検索システムCHRIP化学物質の番号や名称等から、有害性情報、法規制情報及び国際機関によるリスク評価情報等を検索できる。http://medals.jp/list/detail/127myPresto分子シミュレーション計算のプログラム群とLigandBoxデータベース。タンパク質等のモデリング、タンパク質-薬物ドッキング、insilicoスクリーニング等を行う。トップレベルの高精度を保ちつつ速度が海外ソフトの10倍から100倍速いのが特徴である。http://medals.jp/list/detail/61MassBank高分解能マススペクトルデータベース。MassBankでは類似スペクトル検索、化合物検索、ピーク検索のサービスを提供している。http://medals.jp/list/detail/121DoBISCUIT文献に基づきマニュアルキュレーションされた二次代謝産物合成遺伝子クラスターデータベース。http://medals.jp/list/detail/176DIAM微生物産業利用支援データベース。微生物やバイオセーフティ関連情報、特に微生物の「同定・分類関連情報」、「安全関連情報」、「利用関連情報」に関する情報。http://medals.jp/list/detail/1134.日本の統合データベースプロジェクト~現状と将来~現状と課題ここでは日本の課題について述べたい。アメリカでは大きな研究プロジェクトを企画する際には、データコーディネーションチームがデータ整備と公開を担当し、それらに必要な体制と資金が開始当初から計画されている。ヒトゲノム、HapMap、ENCODEなどのプロジェクトではこれが成功して、高品質のデータベースやツールが公開され、国際的に使われている。日本国内のプロジェクトでも同様な試みが始まっているが、プロジェクト終了時のデータ継承・組織継承などに問題を抱えている。科研費など一部の公的資金ではNBDCとの連携が推奨されているが、システム的に行うには至っておらずまだ困難がある。日本のライフサイエンス分野のデータベースの未来は決して安泰ではない。現在わが国では経産省、文科省、農水省で統合データベース関連の活動が進められているが、そこでは10年以上前から未解決の問題も多い。特に顕著なのは、慢性的な人材不足である。近年注目を浴びているDNAシークエンサーにしても、これによる大量データを解析できる人材の不足は深刻で、わが国の今後の研究論文の生産効率に影響を与えかねない。また、データベースの構築から更新、講習会などの運営を担うキュレーター等の人材も不足している。データベースの維持管理については、関連する外部データが変化するため、更新作業が必須である。これには開発時にもおとらない手間がかかるが、そのための資金獲得は新規開発よりも非常にきびしい。残念ながら多くの学会において、この事実は広く共有されてはいない。この背景には、データベース構築を業務とする定常的かつ中心的組織がわが国にはないという大きな欠陥がある。データベース組織の設立と人材確保のためには、データベース構築業務が専門家のキャリアパスとして評価されることが前提として必要である。一方で、優れたデータベースができるためには、優れた基礎研究による高精度かつ網羅的な測定データが欠かせない。この意味で、基礎研究とデータベースは車の両輪なSARNewsNo.25(Oct.2013)-8-のであり、ウェットとドライのより緊密な連携がこれからの生命科学におけるイノベーションにつながる起爆剤となりうる。国際的な連携と動向MEDALSの国内活動に対応する国際的な連携としては以下の2つがある。1つ目に、カタログ作成の国際的な取り組みとして、InternationalSocietyforBiocuration(ISB,http://biocurator.org/)では,データベースに統一的なメタデータ項目を提案すべく、BioDBCore(http://biocurator.org/biodbcore.shtml)[6]とよばれる最低限のメタデータ項目を我々と共同で発表した(Gaudetetal.,2011)。メタデータとはこの場合、タイトルやURLなどといった「データベースを説明するデータ」である。この活動はNucleicAcidsResearch誌と連携しており、同誌のdatabaseissueで紹介されたデータベースは、BioDBCoreの提案に準じたメタデータが付与された上でBioDBCoreカタログに登録される(http://www.biosharing.org/biodbcore)。2つ目として、データの高度な利用についてはセマンティックWeb対応への取り組みがある。これに関しては、国際的な連携として、DBCLSが中心となってBiohackathon(http://www.biohackathon.org/)[7]というイベント(統合データベースのための技術情報交換ワークショップ)を毎年行っている。これらの取り組みが今後広がっていくだろう。その他の注目したい動向としては、利用者が意見を出して参画する仕組みがとられている。有名なGeneOntology(GO)[8]や、上記に紹介したBioDBCoreもコミュニティベースの活動であるが、Wikiを使ってデータベースを構築するという取り組みが試みられており[9]、その後も5年ほどで次第に広がっている。こうした有望な諸活動は初期段階であり、今後の発展を期待したい。理想と現実とのギャップは大きいが、あまた存在する諸問題を解決しつつ、我々は邁進していくのみである。参考文献1.Takeda,J.,etal.,H-InvDBin2013:anomicsstudyplatformforhumanfunctionalgeneandtranscriptdiscovery.NucleicAcidsRes,2013.41(Databaseissue):D915-9.2.Imanishi,T.,etal.,Integrativeannotationof21,037humangenesvalidatedbyfull-lengthcDNAclones.PLoSBiol,2004.2:e162.3.Imanishi,T.,etal.,Full-lengthtranscriptome-basedH-InvDBthrowsanewlightonchromosome-centricproteomics.JProteomeRes,2013.12(1):62-6.4.村上勝彦,今西規,MEDALS:経済産業省ライフサイエンスデータベース・解析ツールのボータルサイト,実験医学増刊,2011.29(15):54-9.5.Imanishi,T.andH.Nakaoka,HyperlinkManagementSystemandIDConverterSystem:enablingmaintenance-freehyperlinksamongmajorbiologicaldatabases.NucleicAcidsRes,2009.37(WebServerissue):W17-22.6.Gaudet,P.,etal.,TowardsBioDBcore:acommunity-definedinformationspecificationforbiologicaldatabases.NucleicAcidsRes,2011.39(Databaseissue):D7-10.7.Katayama,T.,etal.,The3rdDBCLSBioHackathon:improvinglifesciencedataintegrationwithSemanticWebtechnologies.JBiomedSemantics,2013.4(1):6.8.TheGeneOntologyConsortium,GeneOntologyAnnotationsandResources.NucleicAcidsRes,2013.41(Databaseissue):D530-5.9.Hoffmann,R.,Awikiforthelifescienceswhereauthorshipmatters.NatGenet,2008.40(9):1047-51.SARNewsNo.25(Oct.2013)-9-/////CuttingEdge/////エピジェネティクスを標的とした医薬品開発理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター梅原崇史1.はじめにエピジェネティクス(後成遺伝学)は、先天的な遺伝情報に付加される後成的な生命情報であり、がんや生活習慣病、老化といった様々な疾病や生命現象を制御している。エピジェネティクスは、ゲノムDNAのメチル化や、ゲノムDNAと複合体を形成しているヒストンタンパク質に対するアセチル化やメチル化等の微小で局所的な化学修飾が主な実体であり、これらの修飾反応を担う酵素群は実現性が高い創薬標的と位置づけられる。実際に今世紀に入ってから、DNAメチル基転移酵素とヒストン脱アセチル化酵素を標的とした4種類の低分子阻害剤がFDA承認薬として難治性がんの治療に使われている。本稿では、これまでに医薬品として実用化されたこれらのエピジェネティクス阻害剤をはじめとして、エピジェネティクスを制御するタンパク質を標的として進められている阻害剤開発の現状について、エピジェネティクスの制御カテゴリーごとに分類して紹介する。なお、エピジェネティクスの定義は研究者によっても解釈が異なる部分があり、広義にはエピジェネティクス情報を含んだゲノム(エピゲノム)に結合するRNA等の核酸分子や、非ヒストンタンパク質に対する翻訳後修飾を含める場合がある。本稿では比較的狭義のエピジェネティクスとして、「ヒストンタンパク質とゲノムDNAを主成分とするヌクレオソームやクロマチン繊維に対して、ゲノムDNAの配列変化を伴わずに外部から可逆的に脱着され、体細胞分裂や減数分裂を越えて伝播しうる化学修飾」をエピジェネティクス情報として取り扱う。本稿では、これらの生命情報の付加・認識・消去に関わるタンパク質の機能を制御する低分子化合物を概説する。図1にエピジェネティクス制御タンパク質による修飾と作用の代表的な種類を示す。2.FDA承認を受けたエピジェネティクス制御薬2.1.DNAメチル基転移酵素の阻害剤DNAメチル基転移酵素(DNAmethyltransferase;DNMT)は、酵素分子内に含まれる補酵素SAM(S-adenosyl-L-methionine;AdoMet)の活性メチル基をDNAの特定の塩基に転移させる酵素である。哺乳類においてはDNMTの作用により、ゲノムDNAのCpGジヌクレオチド配列のシトシンの5位にメチル基が付加されうる。哺乳類のDNMTは、新生のメチル化反応を担う酵素(DNMT3a,DNMT3b)と、DNA複製後のDNAメチル化を維持する酵素(DNMT1)に大別される。これらの酵素によってCpGシトシンのメチル化を受けたDNAは、他のタンパク質によって特異的に認識される。例えば、DNAの両鎖がメチル化されたフルメチル化DNAはMBDドメイン(methyl-CpG-bindingdomain)によって認識され、DNAの片鎖がメチル化されたヘミメチル化DNAはSRA(SET-andRING-associated)ドメインによってそれぞれ認識される。これらのDNAメチル化修飾のパターンは体細胞分裂後の姉妹細胞のゲノムDNAに維持され、上記のようにメチル化の有無を認識して遺伝子発現を制御する機構が核内に備わっていることから、ゲノムDNAのメチル化は代表的なエピジェネティクス情報として知られている。DNMTを標的とした医薬品としては、アザシチジン(5-azacytidine;Vidaza)とデシタビン(decitabine;Dacogen)の2種類が骨髄異形成症候群(myelodysplasticsyndrome;MDS)の治療薬として実用化されている(図2)。これらの化合物はともにヌクレオシドの類縁体であり、その開発は1960年代から知られているが、1980年代以降の臨床試験を経てアザシチジンは2004年に、またデシタビンは2006年に、それぞれ米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration;FDA)から承認を受けた。このアザシチジンがエピジェネティクス制御を標的として実用化された医薬品開発の最初の実例と位置づけられる。アザシチジンおよびデシタビンのSARNewsNo.25(Oct.2013)-10-作用機序は、新規合成DNAへの取り込みやDNMT1等の阻害・枯渇を引き起こすことにより、細胞核内のDNAメチル化酵素活性を低下させ、遺伝子の発現制御を介して細胞増殖を抑制する点にあると考えられている。アザシチジンは、RNAへの取り込みを介してタンパク質合成を阻害する経路も示唆されており、細胞核内における作用経路は多岐にわたると考えられる。エピジェネティクスの制御経路に関しては、MDSではがん抑制遺伝子を始めとした多種類の遺伝子プロモーター領域のCpGの高メチル化やそれらの遺伝子発現抑制が報告されており、アザシチジンおよびデシタビンが引き起こすDNAメチル化阻害活性が細胞の分化誘導作用や増殖抑制作用に働くと考えられている。その一方、骨髄抑制等の副作用も報告されている。図1.エピジェネティクスの主要な制御カテゴリーエピジェネティクス制御に関わる代表的なタンパク質ファミリーを機能別に示す。修飾の種類は上記以外にもリン酸化やユビキチン化等がある。なお、DNAのメチル化修飾を除去する酵素は現在までに報告されていない。表中のTetファミリーは、メチル化されたシトシンに対するヒドロキシル化等の反応によりDNAのメチル化修飾の除去に働く。ヒストンアセチル基転移酵素(HAT/KAT)に対する制御分子も報告されているが、現時点での創薬への実現性が比較的低いことから本稿では割愛する。図2.FDA承認を受けたエピジェネティクス制御医薬品DNAメチル基転移酵素の阻害剤(左側の2化合物)とヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤(右側の2化合物)の構造式を示す。SARNewsNo.25(Oct.2013)-11-2.2.ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤ヒストンはヒトを始めとする真核生物のクロマチンの主要構成タンパク質であり、ゲノムDNAを核内に収納するための凝集構造の形成に不可欠である。この凝集構造は、4種類のコアヒストンタンパク質(H2A,H2B,H3,H4)が2分子ずつ集合したヒストン8量体に約146塩基対のDNAが巻きついたモノヌクレオソームを最小単位として高度に凝縮し、クロマチン繊維を形成している。ヒストン脱アセチル化酵素(histone/lysinedeacetylase;HDAC/KDAC)は、ヌクレオソーム内のヒストンのリジン側鎖アミンに付加されたアセチル基を脱離する酵素であり、タンパク質配列の相同性から4種類のクラスに大別される。ヒトではクラスI,II,IVに属するアイソザイム(HDAC1からHDAC11)が亜鉛イオンを含む酵素活性ドメインを持ち、ヒストンをはじめとする基質タンパク質のアセチル化リジン側鎖の脱アセチル化反応を担う。クラスIIIに属するアイソザイム(SIRT1からSIRT7)は亜鉛非依存性で、NAD(nicotinamideadeninedinucleotide)を補酵素として各種基質の脱アセチル化触媒反応を行っている。HDACによって脱アセチル化を受けるヒストンサブユニットの種類やサブユニット内のリジン残基の位置は様々であるが、基本的にヒストンの脱アセチル化はヌクレオソームやクロマチンを凝集した状態に保ち、そのクロマチン周辺に位置する遺伝子の発現を抑制する方向に働いている。HDACを標的としたFDA承認医薬品としては、SAHA(ӥvorinostat)とIstodax(FK228;depsipeptide;romidepsin)の2種類が存在する(図2)。このうち、SAHAは皮膚性T細胞リンパ腫(cutaneousT-celllymphoma;CTCL)に対する治療薬として2006年にFDA承認された。Istodax/FK228は、CTCLと末梢性T細胞リンパ腫(peripheralT-celllymphoma;PTCL)に対する治療薬としてFDA承認されている。SAHAとIstodax/FK228はともにクラスI,II,IVのHDACファミリーの阻害剤であり、クラスIIIのSIRTファミリーには作用しない。化合物の作用機序としては、SAHAは化合物中央のアルキル部分がHDACの酵素活性ポケットの基質リジン側鎖結合部位に結合し、化合物末端のヒドロキサム酸がHDAC酵素活性中心の亜鉛原子に配位結合することにより、基質タンパク質のリジン側鎖アミンの脱アセチル化反応を競合的に阻害すると考えられている。一方Istodax/FK228は、分子内のS-S結合が還元されることにより、リジン側鎖を模倣したチオール基が分子内に出現する。この部分がHDACの酵素活性中心に至る基質結合部位に結合することにより、基質タンパク質の脱アセチル化反応を競合的に阻害すると考えられている。3.現在開発が進められているエピジェネティクス制御化合物3.1.ヒストンメチル基転移酵素の阻害剤上記のように、DNAのメチル化反応とヒストンの脱アセチル化反応を標的とした低分子阻害剤は難治性がんに対する治療薬として実用化されている。これら2種類のエピジェネティクス制御カテゴリー以外にも、阻害剤の開発が精力的に進められている。これらの阻害剤開発の現状を修飾カテゴリーごとに概説する(図1)。ヒストンメチル基転移酵素(histone/lysinemethyltransferase;HMT/KMT)は、分子内に含まれる補酵素SAMから基質タンパク質のリジン残基側鎖にメチル基を転移する酵素であり、多種類のファミリーから構成されている。なお修飾する残基としては、リジンの代わりにアルギニンをメチル化する別の酵素も存在する。ヒストンのリジン残基のメチル化反応についても、HMTのファミリーによって修飾されるサブユニットの種類やサブユニット内のリジン残基の位置は様々に異なる。ただし、リジンメチル化の場合は、メチル化の反応がmono-、di-、tri-と3段階あること、修飾を受けるサブユニットや残基が異なると修飾の役割が大きく異なることが特徴的である。例えば、ヒストンH3-K4のメチル化は基本的に遺伝子発現を活性化する方向に働くが、ヒストンH3-K9のメチル化は一般的にクロマチンの凝縮と遺伝子発現の不活性化に働く。また、細胞核内のクロマチンを構成しているヒストンのメチル化状態は、HMTのファミリー間による基質特異的なメチル化だけでなく、ヒストン脱メチル化酵素によるメチル基除去反応とのバランスやゲノムDNAの複製等の事象とも関連している。ヒストンリジンメチル基転移酵素を標的とした阻害剤としては、chaetocin、BIX-01294、UNC0638、DZNep、GSK343、EPZ-6438、DAAM-3、EPZ-004777、EPZ-5676等が知られていSARNewsNo.25(Oct.2013)-12-る(図3)。このうちchaetocinとBIX-01294は、ヒストンH3-K9をメチル化するHMTであるSUV39とG9aに対する阻害剤としてそれぞれ見出された。UNC0638は、BIX-01294とG9a様タンパク質GLPとの共結晶構造に基づいて開発された後継化合物である。DZNep(3-deazaneplanocinA)は従来、SAH(S-adenosyl-L-homocysteine;AdoHcy)の加水分解酵素を阻害するSAM類縁体阻害剤として知られていたが、後にHMT複合体の一種であるPRC2を抑制することにより、ヒストンH3-K27のメチル化を阻害し、がん細胞のアポトーシスを誘導することが示された。PRC2複合体内においてヒストンH3-K27のメチル化を担う責任酵素EZH2に対しては、GSK社のGSK343や、Epizyme社のEPZ-6438(エーザイE7438)等の阻害剤が知られている。EPZ-6438/E7438は、非ホジキンリンパ腫患者に対する臨床試験が現在進められている。SAMの類縁体については、SAHやDZNep、sinefunginをはじめとしてこれまでに多種類のHMT阻害剤が報告されている。著者らは、東京医科歯科大学の平野智也准教授らのグループが開発したSAM類縁体のDAAM-3がHMTの一つであるSET7/9を阻害する分子機構を結晶構造解析により明らかにした(文献1)。SAMは補酵素として多種類のHMTやDNMTに含まれることから、SAM類縁体による酵素認識特異性は出しにくいと考えられやすかったが、Epizyme社が開発したEPZ-004777やその結晶構造に基づいた設計分子のEPZ-5676は、HMTの1種であるDOT1Lに極めて高い選択性を示す(文献2)。EPZ-5676は現在、MLL遺伝子再構成を含む白血病に対する治療薬としての臨床試験が進められている。図3.ヒストンメチル基転移酵素の阻害剤の例3.2.ヒストン脱メチル化酵素の阻害剤ヒストンのメチル化修飾を脱メチル化する酵素は長らく不明であったが、2004年にヒストンH3-K4を脱メチル化する酵素LSD1(lysine-specificdemethylase-1)が報告されて以降、多種類のヒストン脱メチル化酵素(histone/lysinedemethylase;HDM/KDM)がこれまでに同定されてSARNewsNo.25(Oct.2013)-13-い{る。これらの酵素は、FAD(flavinadeninedinucleotide)を補酵素としてリジン側鎖アミンのmono-またはdi-メチル化修飾を脱メチル化するアミンオキシダーゼ類縁型(LSD1/KDM1AとLSD2/KDM1B)のファミリーと、2価鉄イオンとαケトグルタル酸を用いてmono-、di-、tri-メチル化修飾の脱メチル化に働くJumonjiドメイン型のファミリーに大別される。脱メチル化するヒストンのサブユニットや残基は酵素ごとに異なり、メチル化修飾の場合と同様に、脱メチル化酵素反応が遺伝子発現に及ぼす影響も異なる。またヒストン脱メチル化酵素には、リジン残基でなく、アルギニン残基のメチル化修飾を脱メチル化する酵素も存在する。アミンオキシダーゼ類縁型のLSD1を標的とした阻害剤としては、FAD共有結合性の非特異的阻害剤tranylcypromine(trans-2-phenylcyclopropylamine;2-PCPA)がLSD1を阻害する知見が報告されて以降、多数の化合物が報告されている(図4)。著者らは、LSD1とtranylcypromineとの共結晶構造解析に基づいて、LSD1を特異的に阻害する化合物S2101等を開発した(文献3)。また、FADとの共有結合に関わるシクロプロピルアミン基を改変した阻害剤もOryzon社が出願した文献4のcompound57をはじめとして複数のグループから報告されている。また、非共有結合性のLSD1阻害剤として、ポリアミンの類縁化合物や基質ペプチドの模倣化合物も報告されている。LSD1阻害剤の創薬に向けた対象疾患としては、乳がんや急性白血病等が挙げられる。Jumonji型のヒストン脱メチル化酵素に対しても、αケトグルタル酸と競合して活性中心の鉄イオンと結合する阻害剤が知られている。代表的な化合物として、JMJD2E/KDM4DLの阻害剤(文献5のcompound15c)や、JMJD3/KDM6Bの阻害剤であるGSK-J1(文献6)、KDM7の阻害剤(文献7のcompound9)等が挙げられる。図4.ヒストン脱メチル化酵素阻害剤の例3.3.アセチルリジン認識因子の阻害剤ヒストンのリジン残基のアセチル化反応は、ヒストンアセチル基転移酵素(histone/lysineacetyltransferase;HAT/KAT)のファミリーに担われる。HAT/KATによってアセチル化されたヒストン等は、ブロモドメイン(bromodomain)と呼ばれるアセチルリジン認識ドメインによって認識される。ブロモドメインはヒトでは41種類のタンパク質に含まれており、その多くはヒストンや非ヒストンタンパク質のリジン側鎖アミンのアセチル化修飾を認識する。また、GCN5やPCAF等のHAT自身も酵素活性ドメインとは別にブロモドメインを分子内に有している。ブロモドメインの場合も、ファミリーによって認識するタンパク質やリジン残基の位置は異なる。SARNewsNo.25(Oct.2013)-14-阻害剤開発の観点では、上述してきたエピジェネティクス制御の標的分子はすべて酵素であり、その酵素活性中心や補酵素結合部位、基質結合部位を作用点とした阻害剤が開発されてきている。これに対し、ブロモドメインはエピジェネティクスの修飾認識因子であり、阻害剤の作用点はタンパク質-タンパク質相互作用部位となる。このようなエピジェネティクスの修飾認識因子に対する阻害剤の開発は、エピジェネティクス制御酵素に対する阻害剤の開発と比べると結合強度等の観点で困難が予想されたこともあり、比較的研究が遅れていた。ブロモドメインファミリーでは、PCAFのブロモドメインに対する阻害剤として文献8のcompound2が2005年に初めて報告されたが、この化合物は創薬への実用化には至っていない。現在、創薬への実用化が最も期待されているブロモドメイン阻害剤は、BET(bromodomainandextraterminaldomain)ファミリーのBRD2,BRD3,BRD4,BRDTに対する阻害剤である。BETファミリーの阻害剤は、BRD2のブロモドメイン構造に基づいて著者らが開発したBIC1(文献9)を含め、現在多数の低分子化合物が知られている。このうち、田辺三菱製薬の出願情報PCT/JP2008/073864(WO/2009/084693)に基づいてハーバード大とオックスフォード大のグループが合成した(+)-JQ1(文献10)や、GSK社が開発したI-BET化合物(文献11)のシリーズについて、NUT遺伝子再構成がん(NMC)等の治療薬を目指した臨床研究が現在進められている。BETファミリーの阻害剤は、NMC以外にも急性骨髄性白血病(AML)、混合型白血病(MLL)、多発性骨髄腫(MM)や、炎症への治療効果も期待されている。またResverlogix社は、BET阻害剤RVX-208をアテローム性動脈硬化治療の後期第2相試験に進めている。OncoEthix社も田辺三菱製薬からライセンスを受けたBET阻害剤のOTX015(Y-803)について、悪性血液がん治療のための第1相試験を進めている。さらにPfizer社も構造活性相関解析により独自のBET阻害剤のPFI-1等を開発している(文献12)。図5.アセチルリジン認識因子阻害剤の例3.4.メチルリジン認識因子の阻害剤HMTによってリジン側鎖がメチル化されたヒストン等は、メチルリジン認識因子によって結合・複合体化されることにより、ゲノムDNAの凝縮・弛緩や遺伝子発現の抑制化・活性化等の次の作用につながっていく。メチルリジンを認識するタンパク質のドメインとしては、PHDドメイン(planthomeodomain)、MBT(malignantbraintumor)ドメイン、クロモドメイン(chromodomain)、Tudorドメイン、CWドメイン等の多種類のファミリーが存在している。しSARNewsNo.25(Oct.2013)-15-かしながら、上述してきたような他のエピジェネティクス制御カテゴリーと比べると、メチルリジン認識因子に対する阻害剤の開発は遅れている。メチルリジン認識ドメインに対しては、2011年にL3MBTL3(lethal(3)malignantbraintumor-likeprotein3)のMBTドメインに解離定数5μMで結合する化合物UNC669がノースカロライナ大から報告された(図6)。その後、今年(2013年)になってL3MBTL3をより特異的に阻害する改良化合物UNC1215が同グループから発表された(文献13)。UNC1215は、L3MBTL3に含まれる3ヶ所のMBTドメインのうち、1番目と2番目のMBTドメインに結合することにより、L3MBTL3に120nMの解離定数で選択的に結合する。この化合物による臨床試験は現在までに報告されていない。このようにMBTドメインの特異的阻害剤が報告されたことから、アセチルリジンの認識だけでなく、メチルリジンの認識を作用点としたタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤の創薬研究も今後実現性が期待される状況となっている。図6.メチルリジン認識因子の阻害剤4.おわりに細胞核内のゲノムDNAを標的とした医薬品では、シスプラチン(固形がん)や核内受容体の拮抗薬(乳がん)等が実用化されているものの、ゲノムDNAの制御機構には未知の点も多く、創薬研究はまだ熟しきっていない。近年、特に1990年代中盤以降の研究において、ゲノムDNAに対する局所的で多様な化学修飾(エピジェネティクス)の実体とそれらの制御機構が一気に明らかとなり、本稿に述べたようなエピジェネティクスの制御分子が多様な疾患治療に有効なことが示されてきている。エピジェネティクスについては、ゲノムを標的とした特異性の観点から創薬としての実用性を疑問視する声が今でも聞かれる。しかし、2004年のアザシチジンのFDA承認を端緒としてエピジェネティクス制御医薬品が次々と実用化され、今後もFDA承認に至る化合物が現れると予想される。低分子によるエピゲノムの特異的な制御は現在も課題の一つであるが、エピジェネティクスの阻害剤はがん分野にとどまらず、動脈硬化や炎症の分野でも臨床研究が進められている。また、エピジェネティクスの阻害剤はiPS細胞の樹立過程にも貢献することから、疾病治療のみならず再生医療においても今後の実用化が期待される。エピジェネティクス制御分野における国際競争については、我が国では古くから先駆的な研究がなされてきている。本稿に述べたHDAC阻害剤のうち、FDA承認薬のSAHAは、吉田稔博士(東京大学大学院農学系研究科、理化学研究所)らのグループが初のHDAC特異的阻害剤として見出したtrichostatinAに基づいた化合物であり、Istodax/FK228もアステラス製薬(旧藤沢薬品)のグループが発見した化合物である。BET阻害剤では田辺三菱製薬のグループが見出した化合物に基づいて臨床研究が進められ、このカテゴリーでも医薬品の実用化が期待される状況となった。このようにエピジェネティクス創薬を隆盛に導いた草分け研究が国内に多数存在する一方、近年、世界的に激化したエピジェネティクスの医薬品開発競争では欧米による新種の大規模組織研究の波が押し寄せてきている。我が国がエピジェネティクス創薬分野において国際競争力を維持・発揮していくためには、産・官・学が一体となった交流や新しい枠組みの構築が不可欠と考えられる。SARNewsNo.25(Oct.2013)-16-謝辞本稿の執筆にあたり、理化学研究所の本間光貴先生(ライフサイエンス技術基盤研究センター)と横山茂之先生(横山構造生物学研究室)には数多くのご助言と励ましを頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。参考文献[1]NiwaH,HandaN,TomabechiY,HondaK,ToyamaM,OhsawaN,ShirouzuM,KagechikaH,HiranoT,UmeharaT,YokoyamaS.ActaCrystallogr.D2013;69:595-602.[2]DaigleSR,OlhavaEJ,TherkelsenCA,BasavapathruniA,JinL,Boriack-SjodinPA,AllainCJ,KlausCR,RaimondiA,ScottMP,WatersNJ,ChesworthR,MoyerMP,CopelandRA,RichonVM,PollockRM.Blood2013;122:1017-1025.[3]MimasuS,UmezawaN,SatoS,HiguchiT,UmeharaT,YokoyamaS.Biochemistry2010;49:6494-6503.[4]OrtegaMA,Castro-PalominoLJ,FyfeMCT.2011;PatentWO2011035941A1.[5]ChangKH,KingON,TumberA,WoonEC,HeightmanTD,McDonoughMA,SchofieldCJ,RoseNR.ChemMedChem2011;6:759-764.[6]KruidenierL,ChungCW,ChengZ,LiddleJ,CheK,JobertyG,BantscheffM,BountraC,BridgesA,DialloH,EberhardD,HutchinsonS,JonesE,KatsoR,LeveridgeM,ManderPK,MosleyJ,Ramirez-MolinaC,RowlandP,SchofieldCJ,SheppardRJ,SmithJE,SwalesC,TannerR,ThomasP,TumberA,DrewesG,OppermannU,PatelDJ,LeeK,WilsonDM.Nature2012;488:404-408.[7]SuzukiT,OzasaH,ItohY,ZhanP,SawadaH,MinoK,WalportL,OhkuboR,KawamuraA,YonezawaM,TsukadaY,TumberA,NakagawaH,HasegawaM,SasakiR,MizukamiT,SchofieldCJ,MiyataN.J.Med.Chem.2013;DOI:10.1021/jm400624b.[8]ZengL,LiJ,MullerM,YanS,MujtabaS,PanC,WangZ,ZhouMM.J.Am.Chem.Soc.2005;127:2376-2377.[9]ItoT,UmeharaT,SasakiK,NakamuraY,NishinoN,TeradaT,ShirouzuM,PadmanabhanB,YokoyamaS,ItoA,YoshidaM.Chem.Biol.2011;18:495-507.[10]FilippakopoulosP,QiJ,PicaudS,ShenY,SmithWB,FedorovO,MorseEM,KeatesT,HickmanTT,FelletarI,PhilpottM,MunroS,McKeownMR,WangY,ChristieAL,WestN,CameronMJ,SchwartzB,HeightmanTD,LaThangueN,FrenchCA,WiestO,KungAL,KnappS,BradnerJE.Nature2010;468:1067-1073.[11]NicodemeE,JeffreyKL,SchaeferU,BeinkeS,DewellS,ChungCW,ChandwaniR,MarazziI,WilsonP,CosteH,WhiteJ,KirilovskyJ,RiceCM,LoraJM,PrinjhaRK,LeeK,TarakhovskyA.Nature2010;468:1119-1123.[12]FishPV,FilippakopoulosP,BishG,BrennanPE,BunnageME,CookAS,FederovO,GerstenbergerBS,JonesH,KnappS,MarsdenB,NockaK,OwenDR,PhilpottM,PicaudS,PrimianoMJ,RalphMJ,SciammettaN,TrzupekJD.J.Med.Chem.2012;55:9831-9837.[13]JamesLI,Barsyte-LovejoyD,ZhongN,KrichevskyL,KorboukhVK,HeroldJM,MacNevinCJ,NorrisJL,SagumCA,TempelW,MarconE,GuoH,GaoC,HuangXP,DuanS,EmiliA,GreenblattJF,KireevDB,JinJ,JanzenWP,BrownPJ,BedfordMT,ArrowsmithCH,FryeSV.Nat.Chem.Biol.2013;9:184-191.SARNewsNo.25(Oct.2013)-17-/////CuttingEdge/////次世代エピジェネティックドラッグを目指したヒストン脱メチル化酵素阻害薬の創製研究京都府立医科大学大学院医学研究科鈴木孝禎1.はじめに近年の研究により、ヒストンのメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化やDNAのメチル化などの化学修飾が塩基配列に依存せず遺伝子の発現を制御する機構、すなわちエピジェネティクス機構の一部であることが明らかにされてきた。ヒストンのメチル化やアセチル化などのエピジェネティクスを制御する化合物は、生命現象を理解するための重要なツールとなるであろうし、エピジェネティックな異常はがんなどの疾病をもたらすことも明らかになっていることから、治療薬として応用できる可能性もある。実際に、DNAのメチル化を制御するDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤のazacitidineとdecitabineは、骨髄異形成症候群治療薬として1)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤のvorinostat2)とromidepsin3)は、皮膚T細胞腫治療薬として臨床応用されている(図1)。現在、これらDNMT阻害剤とHDAC阻害剤に続く次世代エピジェネティックドラッグの研究、開発が進められている。本稿では、近年特に注目されているヒストン脱メチル化酵素の一つであるlysinespecificdemethylase-1(LSD1)に対する阻害薬の創製研究について、我々の研究成果の一部4)を紹介する。図1DNMT阻害剤azacitidine、decitabineとHDAC阻害剤vorinostat、romidepsin2.LSD1選択的阻害薬の創製LSD1阻害薬LSD1は、FAD依存性のリシン脱メチル化酵素であり、遺伝子発現をエピジェネティックに制御している5)。LSD1は前立腺がん細胞、乳がん細胞、急性骨髄性白血病細胞など様々ながん細胞の増殖や-ヘルペスウイルスの再活性化に関与していることが報告されている6)。このことから、LSD1阻害薬は、LSD1の機能を調べるためのバイオプローブとしてだけではなく、新たな作用機序の抗がん剤、抗ウイルス剤として期待されている。しかし、既存のLSD1阻害薬はLSD1阻害活性、LSD1と相同性の高いモノアミンオキシダーゼ(MAO)に対する選択性、細胞活性において問題のあるものが多い。例えば、PCPAはLSD1を阻害する(IC50=32M)が、MAOをさらに強く阻害してしまう(IC50forMAOA=7.3M;IC50forMAOB=4.3M)7)。LSD1を高発現する神経芽腫細胞に対するPCPAの増殖阻害活性も低い(EC50=500M)。そこで我々は、それらすべての点で優れているLSD1阻害薬の創製を目指した。LSD1に阻害薬を送り届けるドラッグデリバリー型分子非選択的LSD1阻害薬であるPCPAはLSD1活性中心中でFADと共有結合を形成し、LSD1を不可逆的に阻害する(図2A)。その際、PCPAの窒素原子はアンモニア分子としてLSD1活性中SARNewsNo.25(Oct.2013)-18-心中から放出される。この機構から、我々は「ドラッグデリバリー型標的酵素不活性化薬」という概念に基づいて、リシン部分およびPCPA部分を有するLSD1不活性化薬1を設計した(図2B)。メチル化リシンはLSD1の基質であるため、1のリシン部分はMAOには認識されず、LSD1により選択的かつ効率的に認識されると考えられる。続いてLSD1活性中心中に運び込まれた1のPCPA部分はFADと付加体を形成しLSD1を阻害する。その際、1のリシン部分はイミン中間体となり、続く加水分解を受けることでLSD1活性中心中から放出されると予想される(図2B)。すなわち、1のリシン部分はMAOおよびLSD1阻害薬であるPCPAをLSD1活性中心中に選択的かつ効率的に運び込む”輸送体”として働くと予想された。この機構により、1はドラッグデリバリー型の強力なLSD1選択的不活性化薬となることが期待された。図2(A)PCPAによるLSD1阻害、(B)期待した1によるLSD1不活性化機構ペプチド型LSD1不活性化薬まず、「ドラッグデリバリー型標的酵素不活性化薬」の概念を検証するために、LSD1の基質であるH3タンパクのN末端ペプチドをPCPA輸送体としたペプチド1aを設計、合成した(図3)。1aの生物活性を評価した結果、期待通り、1aはMAOを阻害せず(IC50>100M)、強力にLSD1を阻害した(IC50=0.16M)(図3)。しかし、1aはペプチド化合物であることから、LSD1を高発現する子宮頸がんHeLa細胞、神経芽腫SH-SY5Y細胞においても、強い細胞増殖阻害活性を示さなかった。そこで、つぎに1aの低分子化を試みることにした。低分子型LSD1不活性化薬低分子型LSD1不活性化薬の分子設計は、LSD1のX線結晶構造(PDBcode2UXN)8)に基づいて行った。LSD1の活性ポケット付近には、二つの特徴的な疎水性ポケットが存在する(図4)。その二つの疎水性ポケットに納まり得る置換基として、リシン構造のC側にベンジルアミノ基を、N側にベンゾイル基を持つ低分子化合物1bを設計、合成した(図4)。化合物1bの生物活性評価を行ったところ、1bはIC50でPCPAの100倍以上と非常に高いLSD1阻害活性を示した。また、HeLa細胞およびSH-SY5Y細胞に対して比較的高い増殖阻害活性を示した(表1)。化合物1bが細胞系で活性を示したのは、ペプチド1aに比べ細胞膜透過性が改善されたためであると考えられる。これらの結果から、予想通り、1bのリシン部分がPCPAの生物活性を向上させたので、PCPAの輸送体として最適な構造を見出すため、また、より高いがん細胞増殖阻害活性を有するLSD1阻害薬を見出すために、1bのリシン構造の最適化を行った。SARNewsNo.25(Oct.2013)-19-図3ペプチド1aの生物活性評価図4低分子化合物1bとLSD1のドッキングスタディ(MolegroVirtualDocker5)1bとLSD1のドッキングスタディー(図4)から、1bのベンゾイル基のパラ位近傍にPhe382、Leu386、Leu536、Trp552から成る疎水性ポケットが存在することが示唆された。そこで、この疎水性ポケットとの相互作用を期待して、1bのベンゾイル基のパラ位に疎水性の置換基を導入した誘導体1cから1hを設計、合成した(図5A、表2)。また、ベンゾイル基のメタ位近傍にはアニオン性アミノ酸残基であるAsp556、Glu559が存在するため、これらのアミノ酸残基との相互作用を期待した1iおよび1jも設計、合成した(図5B、表2)。1i、1jがプロトン化SARNewsNo.25(Oct.2013)-20-表1PCPA、ペプチド1a、化合物1bのLSD1阻害活性およびがん細胞増殖阻害活性され、正に帯電したアミノ基とAsp556、Glu559のアニオン性アミノ酸残基がイオン結合および水素結合を形成することで、1h、1iのLSD1への親和性が向上することを期待した。表2に示すように、1bのベンゾイル基のメタ位にアミノエチルアミノカルボニル基を有する1iおよび、ピペラジンカルボニル基を有する1jは高いLSD1阻害活性を示したが、240Mの濃度でもHeLaおよびSH-SY5Y細胞に対し細胞増殖阻害活性を示さなかった。おそらく、1i、1jの2つの塩基性窒素原子が正に帯電し、細胞膜透過性が著しく低下することにより、細胞増殖阻害活性を示さなかったと考えられる。一方、1bのベンゾイル基のパラ位に疎水性の置換基を導入した1d、1e、1g、1hは、高いLSD1阻害活性を示すとともに、HeLa細胞およびSH-SY5Y細胞に対して1bより高い細胞増殖阻害活性を示した。1gのHeLaおよびSH-SY5Y細胞に対する増殖阻害活性が最も高かったことから、4-フェニルベンゾイル基をリシン部分のアミノ基の最適置換基として固定し、さらに1gのベンジルアミノ基の最適化を行うこととした。1bとLSD1のドッキングスタディー(図4)から、1bのベンジルアミノ基のベンゼン環付近にCys360、Leu677、Gln358、Ile356から成る疎水性ポケットが存在することが示唆された。そこで、この疎水性ポケットとの相互作用を期待して、1gのベンジルアミノ基のパラ位またはメタ位に疎水性の置換基を導入した誘導体1kから1tを設計、合成した(図5C、表2)。生物活性評価の結果、1kから1tのうち、パラ位に大きな置換基を導入した1mと1n以外の化合物がIC50<1MのLSD1阻害活性を示した(表2)。また、1n,1o,1rから1tがリード化合物である1gよりも強いHeLa細胞およびSH-SY5Y細胞増殖阻害活性を示した。中でも1sは、高いLSD1阻害活性を示し、HeLa細胞に対してGI50が3.7M、SH-SY5Y細胞に対してGI50が1.7Mと最も高い細胞増殖阻害活性を示した。これらの結果から、PCPAの輸送体構造としては1sのリシン構造が最適であると考えられた。また、化合物1sは、ほとんどMAOを阻害せず(IC50>100M)、高いLSD1選択性を示した。これらの結果から、化合物1sは、PCPAをMAO活性中心へは運ばず、LSD1活性中心へ高効率的に運ぶことでLSD1を選択的かつ強力に不活性化していることが示唆された。LSD1阻害メカニズム解析つぎに、LSD1阻害活性およびがん細胞増殖阻害活性の両方で優れた結果を示した1sに対して、この化合物がPCPAのドラッグデリバリー型機構でLSD1を不活性化しているかを酵素速度論解析、質量分析により調べた。様々な濃度の阻害剤の存在下、時間に対して酵素反応生成物をプロットした際に、阻害剤が可逆的阻害剤ならば時間対生成物のグラフは直線系となり、阻害剤が不可逆的阻害剤ならば時間対生成物のグラフは非線形上昇カーブを描いた後に頭打ちとなることが知られている9)。1sのLSD1不活性化機構が図2に示すように不可逆的であるかどうかを調べるため、反応時間に対する生成物の量をプロットしグラフの形を調べた(図6A)。その結果、反応時間対生成物のグラフは非線形のカーブを描いた。この結果は、LSD1活性が時間依存的に低下していることを示しており、1sがLSD1を不可逆的に阻害していることが示唆された。1sが図2に示す機構でLSD1を不活性化していれば、化合物のリシン構造に関わらずFAD-PCPA付加体が生成することが予想される。そこで、このFAD-PCPA付加体の生成を確認するために、MALDI-TOFMS解析を行い、FAD-PCPA付加体の分子量の検出を試みた。その結果、1sとLSD1をインキュベーションした溶液からはFAD-PCPA付加体(m/z918)および、そのSARNewsNo.25(Oct.2013)-21-図5化合物1c-h(A)、化合物1i,j(B)、化合物1k-t(C)の分子設計脱水体(m/z900)に対応するピークが観測された(図6B)。LSD1の代わりにFADを加えた条件下ではFAD-PCPA付加体に対応するピークは観測されなかった。さらに、1fおよび1rとLSD1をインキュベーションした溶液から、1fおよび1rのリシン構造に相当するピークも観測された。以上の酵素速度論解析および質量分析の結果から、1sがLSD1の活性中心にPCPAを送り届けるドラッグデリバリー型の機構(図2)でLSD1を阻害していることが強く支持された。3.おわりに本稿では、紙面の都合上、次世代エピジェネティックドラッグの開発例として、LSD1阻害薬の例のみを取り上げたが、エピジェネティクスを基盤とする他の創薬ターゲットも多数あり、研究開発が進んでいる。また、今後も、様々な疾病におけるエピジェネティクス関連タンパク質の発現や変異が調べられ、病態との関連が明らかになり、新たな創薬ターゲット候補が登場することが予想される。これらのエピジェネティクス関連タンパク質を分子標的とする創薬研究が、近い将来実を結び、一刻も早く病気で苦しむ患者さんの手元にくすりが届くことを期待している。SARNewsNo.25(Oct.2013)-22-表2化合物1b-tのLSD1阻害活性およびがん細胞増殖阻害活性aa基質であるジメチル化ヒストンペプチドの濃度20Mで酵素アッセイを行った。SARNewsNo.25(Oct.2013)-23-図6化合物1s存在下でのLSD1速度論解析(A)および化合物1sとLSD1の混合物のMALDI-TOFMS解析(B)参考文献1)EggerG,LiangG,AparicioA,JonesPA.Nature2004,429,457–463.2)SatoA.Onco.TargetsTher.2012,5,67–76.3)Lyseng-WilliamsonKA,YangLP.Am.J.Clin.Dermatol.2012,13,67–71.4)OgasawaraD,ItohY,TsumotoH,KakizawaT,MinoK,FukuharaK,NakagawaH,HasegawaM,SasakiR,MizukamiT,MiyataN,SuzukiT.Angew.Chem.Int.Ed.2013,52,8620–8624.5)ShiY,LanF,MatsonC,MulliganP,WhetstineJR,ColePA,CaseroRA,ShiY.Cell2004,119,941–953.6)SuzukiT,MiyataN.J.Med.Chem.2011,54,8236–8250.7)UedaR,SuzukiT,MinoK,TsumotoH,NakagawaH,HasegawaM,SasakiR,MizukamiT,MiyataN.J.Am.Chem.Soc.2009,131,17536–17537.8)YangM,CulhaneJC,SzewczukLM,GockeCB,BrautigamCA,TomchickDR,MachiusM,ColePA,YuH.Nat.Struct.Mol.Biol.2007,14,535–539.9)CopelandRA.Enzymes:APracticalIntroductiontoStructure,Mechanism,andDataAnalysis,2nded.,Wiley-VHC,NewYork,2000.SARNewsNo.25(Oct.2013)-24-/////Activities/////構造活性フォーラム2013開催報告「タンパク質-リガンド間相互作用解析と構造インフォマティクス」構造活性フォーラム2013実行委員長本間光貴近年、GPCRなどの高難度膜タンパク質の構造も解かれるようになり、タンパク質の構造に基づいた医薬品設計は、ますます創薬の多くの局面で使われるようになっています。精度の高いドッキングや親和性予測のために、大規模シミュレーションや量子化学計算の利用も身近になってきていますが、同時に、PDBの構造情報やChEMBL/PubChemのアッセイデータなどが公開されており、これらを用いた構造インフォマティクス的な手法も実用的になりつつあります。今年のフォーラムでは、SBDDにおいて理論的な計算とインフォマティクスを融合し、双方を最大限活用した予測を目指す方法にフォーカスを当て、6人の先生方にご講演をいただきました。プログラムは以下の通りです。(ThierryLanger教授はランチョン講演)1.ABINIT-MP/BioStationによるFMO法の創薬への応用福澤薫(みずほ情報総研株式会社・東京大学)2.3D-RISM理論の基礎と生体分子の分子認識への展開吉田紀生(九州大学)3.HowtoachieveagreattrackrecordindrugresearchservicesThierryLanger(PrestwickChemicals)4.タンパク質-リガンド間相互作用記述子を用いた活性予測本間光貴(理化学研究所)5.ドッキングスタディにおける取り組み前田能崇(持田製薬株式会社)6.自由エネルギー変化の線形表現に基づくリガンド-タンパク質結合自由エネルギー変化の超精密予測中馬寛(徳島大学)7.パネルディスカッション:相互作用解析データと予測モデルを繋ぐために必要なこと当日は、梅雨の中休みの良い天候にも恵まれ、116名に及ぶ多数の参加者が集まりました。創薬の最前線の研究者を中心に高い関心を得ることができ、活発かつ有意義な議論が行われました。特に、相互作用解析方法と、その基となる結晶構造の品質について会場からも要望をいただき、今後の方向性についてアカデミア研究者と創薬の現場の研究者で共有することができました。ご講演いただきました先生方、開催の準備に協力していただきました実行委員、事務局、ならびに構造活性相関部会の皆様に御礼申し上げます。なお次回の構造活性フォーラム2014は、大阪大学・高木達也先生が務められ、6月27日に開催される予定です。SARNewsNo.25(Oct.2013)-25-/////Activities/////<会告>第41回構造活性相関シンポジウム日時:平成25年11月7日(木)・8日(金)会場:関西学院会館(兵庫県西宮市上ヶ原)主催:日本薬学会構造活性相関部会協賛:日本化学会、日本農芸化学会、日本分析化学会、日本農薬学会、有機合成化学協会前日(11月6日)15:50理研・計算科学研究機構エントランスに集合16:00スーパーコンピュータ「京」見学会第1日目(11月7日)10:30-10:35開会10:35-11:15一般講演(会場:レセプションホール)座長:赤松美紀KO01Chemicalstructureminingcharacteristicofadversedrugreactions医薬副作用に特徴的な化学構造マイニング(関学大理工)○大森紀人,堀川袷志,岡田孝KO02CorrelationalanalysisofmutationandactivationforDOIsynthasemutantsDOI合成酵素変異体における変異と活性の相関解析(新潟薬大応生)○大久保崇之,佐藤雅人,田宮実,高久洋暁,岩澤裕喜,石黒正路11:15-11:55一般講演(会場:レセプションホール)座長:飯島洋KO03Automatichomologymodelinginconsiderationofnon-naturalaminoacids非天然型アミノ酸に対応したホモロジーモデリング(中央大院理工)○工藤麻由,佐藤亘,梅山秀明,岩舘満雄KO04Computationaldenovodesignoffunctionalizedproteinswithidealstructure計算機による理想的な構造を持つ機能タンパク質のデノボデザイン(ワシントン大)○小杉貴洋,古賀信康,古賀-巽理恵,DavidBaker13:30-14:30招待講演(会場:レセプションホール)座長:山下富義KI01Large-scalepredictionofdrugtargetsanddrugside-effectswithmachinelearning機械学習による薬物の標的分子や副作用の網羅的予測(九州大学生体防御医学研究所、高等研究院)山西芳裕14:40-16:40ポスターセッション(会場:1階会議室翼の間)14:40-15:40奇数番発表15:40-16:40偶数番発表16:50-18:00特別講演(会場:レセプションホール)座長:清水良KS01The“Kcomputer”project~Thestateofarttechnologyandthebestinclasspeople~次世代スーパーコンピュータ「京」誕生までの軌跡~世界一への挑戦とそれを支えた技術、人財~(富士通次世代テクニカルコンピューティング開発本部)伊東広樹18:10-懇親会(会場:レストランポプラ)SARNewsNo.25(Oct.2013)-26-ポスターセッション[11月7日14:40-16:40](会場:1階会議室翼の間)KP01Structure-activityrelationshipof2-phenyliminochromenederivativesaspotentinhibitorsofthetumormaker,AKR1B102-Phenyliminochromene誘導体の癌マーカーAKR1B10阻害活性に関する構造活性相関(1岐阜薬大,2富山大,3岐阜大)○陶山美穂1,遠藤智史1,松永俊之1,胡大イ2,杉本健士2,松谷裕二2,豊岡尚樹2,桑田一夫3,原明3KP02Calculationandmeasurementofbindingfreeenergyof7-azaindolederivativeswithglycogensynthasekinase-3βGlycogenSynthaseKinase-3βと7-Azaindole誘導体の結合自由エネルギー解析(1大正製薬,2徳島大院ヘルスバイオサイエンス研究部)○田村勇之進1,宮川博夫1,中馬寛2KP03PredictionofaligandboundintheATPbindingsiteofhumanCK2αduringthepreparationprocessofanapoformenzymeタンパク質調整過程で結合したヒトCK2αリガンドの推定(1近畿大薬,2大阪府大院理,3阪大蛋白研)○櫻井淳史1,中村真也1,仲庭哲津子2,3,関口雄介2,曽我部祐里2,木下誉富2,仲西功1KP04LERE-QSARanalysisofbindingaffinityofazolecompoundswithhumancytochromeP4502B6分子科学計算によるアゾール系化合物-ヒトCYP2B6複合体における相互作用解析に基づくLERE-QSAR解析(徳島大院薬)○坂本修平,笹原克則,吉田達貞,中馬寛KP05Developmentofaligand-basedvirtualscreeningmethodforpreliminarycompoundselection(part3):ValidationandtuningofthemethodusingDUD-Edataset予備的化合物選択のためのリガンドベースバーチャルスクリーニング手法の開発(その3):化合物選択手法の改良と検証(北里大薬)郡司久恵,関達徳,山崎広之,○西端芳彦KP06Predictingbioactivityofcompound-drugtargetproteinpairsbysupportvectorregressionmodelsusingligandefficiency-basedtrainingdataLigandEfficiencyにもとづく学習データを用いたSupportVectorRegressionによる化合物活性値の予測(ファルマデザイン)○菅谷昇義KP07Toxicitypredictionofchemicalsubstancesbyactivesampling:Neighborsearchmethodsandmodelselectionアクティブサンプリングによる化学物質の毒性予測に関する研究:近傍探索法とモデル選択(豊橋技科大院)○山崎友也,高橋由雅KP08RelationshipbetweenthestructureandthetoxicitytowardBacillussubtilissubsp.subtilisasbacteriaofhalogenatedanilinesハロゲン化アニリン類のバクテリアに対する毒性と構造との関係(東海大理)○中川祥子,石原良美,高野二郎SARNewsNo.25(Oct.2013)-27-KP09Influencesofthreedimensionalstructuresofpeptidesonstereoinversionsofasparticacidresiduesアスパラギン酸残基周辺の環境が立体反転反応に及ぼす影響(1金沢大院医薬保,2阪大蛋白研,3東北薬大)○小田彰史1,2,高橋央宜3,福吉修一1,中垣良一1KP10EvaluationofpredictedstructureofcomplexbetweenCYP2B6andartemetherbymolecularsimulations野生型および変異体CYP2B6と抗マラリア薬artemetherとの複合体予測構造の分子動力学シミュレーションによる評価(1東北薬大,2東北大院薬,3北里大薬,4金沢大院医薬保,5阪大蛋白研)○小林佳奈1,高橋央宜1,平塚真弘2,山乙教之3,広野修一3,小田彰史4,5KP11QSARstowardinterspeciessensitivityassessmentforaminesandphenols種差依存性を考慮に入れたアミン・フェノール類の生態毒性QSAR(国立環境研)○古濱彩子,今井宏治,蓮沼和夫,青木康展KP12QSARonecotoxicitytofishusingchemicalcompounds’classification化合物分類を用いた多変量解析による魚類に対する環境毒性予測(1阪大院薬,2阪大微研)○伊藤光文1,岡本晃典1,川下理日人1,2,高木達也1,2KP13Newdevelopmentandimprovementoftwo-classclassificationKY-methodsthattargetsdrugsafetyprediction安全性予測をターゲットとした2クラス分類KY法の改良と新規開発(インシリコデータ)○湯田浩太郎KP14Ligand-baseddrugdesignusingthediacylglycerolacyltransferase1inhibitorsジアシルグリセロールアシル基転移酵素-1阻害剤のLigand-BasedDrugDesign(1北里大薬,2昭和大薬,3明治薬科大薬)○若杉昌輝1,合田浩明2,平野遼太郎3,小林健一3,古源寛3,広野修一1KP15Computationalstudyonthebindingmodeofβ-glucocerebrosidaseinhibitor,calystegineB2新規β-glucocerebrosidase阻害剤calystegineB2のインシリコ結合様式解析(1北里大薬,2富山大病院薬)○中込泉1,加藤敦2,山乙教之1,足立伊左雄2,広野修一1KP16Clusteringforproteinstructurescomposedofmainchainandside-chainsfocussingonligand-bindingsiteリガンド結合部位周辺に注目しての側鎖を含んだタンパク質立体構造クラスタリング(中央大院理工)○佐藤亘,梅山秀明,岩舘満雄KP17Stationarityof3-dimentionalstructurebetweenthelocalstructureofqueryproteinandthatofpredictedquerymodelaroundligandbindingsitesタンパク質予測構造の結合リガンド周辺の立体構造保存性について(中央大院理工)○吉山晃太郎,梅山秀明,岩舘満雄KP18ASEDock2013:AnovelmethodtoplacewatermoleculesintoputativewaterbridgingsitesASEDock2013:リガンド-受容体間相互作用に関与する水分子の検出と複合体モデルの予測(菱化システム)東田欣也,○岡田晃季,片岡良一,後藤純一KP19Novelmodelqualityassessmentmethodbasedonaresidue-residuedistancemapprediction残基間距離予測に基づく新たなタンパク質予測構造評価法の開発(北里大薬)○寺師玄記,中村裕樹,下山紘充,竹田-志鷹真由子SARNewsNo.25(Oct.2013)-28-KP20Generationofdrug-likemoleculesusingthe3Dconformationofaknownligandmoleculeリガンドの立体構造の類似性を利用した分子設計(1科研製薬,2豊橋技科大)○河合健太郎1,永田尚也1,高橋由雅2KP21DevelopmentofcompoundclusteringmethodforevaluationofinsilicoscreeningefficiencyInsilicoスクリーニングの効率を検証するためのクラスタリング方法の開発(理研CLST)○幸瞳,佐藤朋広,本間光貴KP22Managementstatusofhazardevaluationsupportsystemintegratedplatform(HESS)有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)の運用状況(1NITE,2安評センター)○櫻谷祐企1,山田隆志1,池永裕1,山田隼1,太田聡1,林真2KP23Structureprofilingofdrugmoleculeusingeigenvectorofmolecularmatrix分子行列の固有ベクトルを用いた薬物構造プロファイリング(豊橋技科大院)○齋藤佳介,高橋由雅KP24DiversityofchemicalcompoundsandfragmentsusingStarDropStarDropを用いた化合物とそのフラグメントの多様性評価(1ヒューリンクス,2日産化学工業)○田島澄恵1,石川誠2KP25Developmentofthe3Dstructuralfeatureanalysissystemforproteinsbasedontheneighborhoodfragmentrepresentation近傍フラグメント表現に基づくタンパク質三次元構造特徴解析システムの開発(豊橋技科大院)○飯塚雅明,加藤博明KP26Developmentofthephylogenetictreeanalysissystemforproteinsbasedon3Dspatialarrangementsofaminoacidresiduesアミノ酸の空間配置に注目したタンパク質分子系統樹解析システムの開発(豊橋技科大院)○牧野祐基,加藤博明KP27Chemicalspaceanalysisofnaturalandcommercialcompounds三次元構造を使用した天然化合物のケミカルスペース解析((独)生物研)○前田美紀KP28LERE-QSARanalysisofhydroxamicacidMMPinhibitorsヒドロキサム酸系MMP阻害剤のLERE-QSAR解析(徳島大院薬)○杉本拓弥,野々下航,濱野綾那,林敬久,吉田達貞,中馬寛SARNewsNo.25(Oct.2013)-29-第2日目(11月8日)10:00-10:40一般講演(会場:レセプションホール)座長:久保寺英夫KO05Insilicomethodsfordrugrepositioningドラッグリポジショニングのためのイン・シリコ法の開発(1九大生医研,2九大高等研究院)◯岩田浩明1,吉原美奈子1山西芳裕1,2KO06Molecularrecognitionand3D-RISMtheory;CalciumbindingaffinitytocalbindinD9K液体の統計力学理論に基づいた分子認識機構の解明;カルビンディンD9kのカルシウム結合能評価(北里大薬)○清田泰臣,竹田-志鷹真由子11:00-12:00一般講演(会場:レセプションホール)座長:大田雅照KO07LERE-QSARofinhibitorsdifferencesintheabsoluteconfiguration:InhibitionofpyrrolidinecompoundsagainstinfluenzavirusneuraminidaseLERE-QSAR解析による絶対立体配置の識別:インフルエンザ・ノイラミニダーゼとピロリジン系化合物との相互作用解析(徳島大院薬)○河野明大,芝田雄登,林敬久,倉橋昌大,吉田達貞,中馬寛KO08RefinementandvalidationofLERE-QSARprocedureLERE-QSAR解析の精密化とその検証(1徳島大院薬,2九州大先導物質化学研)○吉田達貞1,馬島彬1,笹原克則1,芝田雄登1,江口将大1,比多岡清司2,中馬寛1KO09LERE-QSARanalysisoncatalyticreactionofserineprotease:Trypsin-seriesofsubstitutedphenylhippuratescomplexセリンプロテアーゼ触媒反応のLERE-QSAR解析-トリプシンによる置換馬尿酸フェニルの加水分解反応機構(徳島大院薬)○馬島彬,倉橋昌大,吉田達貞,中馬寛13:30-14:10一般講演(会場:レセプションホール)座長:岡島伸之KO10SDOVS:Asolventdipoleordering-basedmethodforvirtualscreening(京大院薬)○永田尚也,村田克美,仲西功,北浦和夫KO11Structure-activityrelationshipsofnovelα-glucosidaseinhibitorsderivedfromsalacinolサラシノールを基点とする新規α-グルコシダーゼ阻害剤の構造活性相関および創出研究(近畿大薬)○中村真也,高平和典,島田和子,田邉元三,村岡修,仲西功14:30-15:30招待講演(会場:レセプションホール)座長:辻下英樹KI02Thermodynamicsofbiomolecularinteractionsfordrugdesignandscreening:SITE相互作用の熱力学情報と創薬:SITE法(東京大学大学院工学系研究科、医科学研究所)津本浩平15:30-15:35閉会SARNewsNo.25(Oct.2013)-30-/////Activities/////構造活性相関部会の沿革と趣旨1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSARNewsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。(http://bukai.pharm.or.jp/bukai_kozo/index.html)編集後記日本薬学会構造活性相関部会誌SARNews第25号をお届けいたします。今号のPerspective/Retrospectiveでは、前号にひきつづいて統合データベース関連として、村上勝彦先生(産総研)と今西規先生(東海大学・産総研)に、MEDALSを中心とした統合データベースの国内および国際的な現状と今後の展望についてご解説いただきました。統合と連携が進むことで、各領域の研究でデータベースが今後一層活用されることが期待されます。また、CuttingEdgeではエピジェネティクスと創薬をテーマとして、梅原崇史先生(理研)にエピジェネティクスを標的とした創薬研究全体についてご解説いただき、また鈴木孝禎先生(京都府立医大)にはヒストン脱メチル化酵素阻害薬を例としたエピジェネティックドラッグの創薬研究についてご紹介いただきました。この分野の研究の最新の状況について両先生からご紹介いただき、大変興味深いものになったと思います。ご寄稿いただいた先生方には、大変お忙しい中でのご執筆、心よりお礼申し上げます。このSARNewsが今後とも構造活性相関研究の先端情報と展望を会員の皆様にご提供できることを、編集委員一同願っております。(編集委員会)SARNewsNo.25平成25年10月1日発行:日本薬学会構造活性相関部会長高橋由雅SARNews編集委員会(委員長)粕谷敦福島千晶飯島洋竹田-志鷹真由子久保寺英夫*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。__