menu

SARNews No.10

SARNews_10

構造活性相関部会・ニュースレター<1April2006>SARNewsNo.10「目次」///Perspective/Retrospective///創晶プロジェクトとバイオグリッドの連携による創薬開発の試み井上豪・門祐示・有竹浩介・松村浩由・甲斐泰・福西快文・中村春木・木下誉富・仲西功・南方聖司・小松満男・安達宏昭・森勇介・高野和文・村上聡・佐々木孝友・宮野雅司・裏出良博・坂田恒昭・・・2///CuttingEdge///RhoKinase立体構造に基づく阻害剤の分子設計飯島洋・・・7薬物の胎盤通過性と母乳移行性予測-ClinicalQSAR山内あい子日比野有紀坂本久美子中馬寛・・・11///Activities///<報告>・第7回薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウム横山祐作・・・15下村勝・・・16中村真也・・・18・第33回構造活性相関シンポジウム藤原英明・・・20<会告>・構造活性フォーラム2006・・・21・第34回構造活性相関シンポジウム・・・22・構造活性相関部会SARPromotionAward募集要項・・・23・日本薬学会構造活性相関部会の共催・協賛行事について・・・24/////Perspective/Retrospective/////創晶プロジェクトとバイオグリッドの連携による創薬開発の試み井上豪1,2,3・門祐示1・有竹浩介4・松村浩由1,3・甲斐泰1・福西快文5・中村春木2,6・木下誉富7・仲西功8・南方聖司1・小松満男1・安達宏昭3・森勇介1,3・高野和文1,3・村上聡3,9・佐々木孝友1,3・宮野雅司10・裏出良博4・坂田恒昭2,111阪大・院工,2NPO法人バイオグリッドセンター関西,3創晶プロジェクト,4大阪バイオサイエンス研究所,5(独)産総研・生物情報解析センター,6阪大・蛋白研,7阪府大・院理,8京大・院薬,9阪大・産研,10(独)理研・播磨研,11阪大・サイバーメディア1.はじめにたんぱく3000プロジェクトなどにより、ヒトやマウスも含めた疾患関連および病因となる蛋白質の立体構造が次々と明らかとなり、標的病因蛋白質の3次元立体構造に基づいた薬物設計(SBDD)は、効率良く安価にリード化合物を創出できるために益々その重要性を増していると言える。そこで、量子力学計算を取り入れた、オリジナリティーの高い、新しい計算方法で、酵素の活性部位に結合しうる有機低分子化合物のスクリーニング方法を開発しているNPO法人バイオグリッドセンター関西(http://www.biogrid.jp/npo/)と、SBDDのためのX線構造解析を加速するために全く新規な手法でタンパク質の結晶化に取り組んでいる創晶プロジェクト(http://www.so-sho.jp/)が協力し、創薬のための連携研究をスタートさせた。また、大阪大学で複素環化合物の新規合成法の開拓を行って来たグループも加わり、実際の化合物を使った薬効評価も行うことができる。当然ながら、初期段階ではスピード化のため市販品を使って探索を行い、薬効評価や複合体のX線構造解析を行うが、化合物の最適化の段階では、より自由な発想で、インシリコADMEの計算ソフトも駆使して毒性や代謝などにも配慮しながら、更に有望な化合物の設計が可能となっている。本報では、ヒト由来プロスタグランジンD合成酵素の阻害剤開発に関する研究を題材に、有機合成、生化学実験、阻害剤複合体の構造解析を担う、いわゆるウェットな実験系グループと、ドライな計算を担うグループが密接に連携し、インシリコ創薬による抗アレルギー剤の開発をスタートさせている研究例を紹介する。2.プロスタグランジン(PG)D2とアレルギー生体内で局所ホルモンとして様々な機能調節を行っているプロスタグランジン(PG)類は、アラキドン酸カスケードの中で誘導され、生合成されている。このカスケードでは、Ca2+の流入によりリン酸化されたホスホリパーゼA22)が細胞膜(PLAからアラキドン酸を遊離し、膜タンパク質であるシクロオキシゲナーゼ(COX)がこれをPGH2へと変換したのち、これを共通の基質としてそれぞれ特異的な合成酵素が誘導化して各種のPG類が生合成されている。中でもPGD2は、脳などの中枢神経系では、クモ膜で生合成されて、睡眠誘発物質として機能し1-3、一方、末梢組織では、肥満細胞や4,5、Th2細胞で生合成され6、2つのレセプター(DP1、CRTH2)を介して炎症やアレルギーの媒介物質として機能している4,7。PGD2が、好酸球、好塩図1.アラキドン酸カスケード基球およびTh2細胞等のレセプター(CRTH2)の特異的リガンドとして作用し、これら細胞の化学走化性を誘導し8、さらにPGDの生合成を促すことでアレルギーや炎症反応が加速されることが判明した。また、PGD2を過剰発現2させたトランスジェニックマウスではアレルギー反応が加速され9、逆にDP1レセプターの遺伝子欠損マウスでは、アレルギー反応が抑制される事実も判明している7。PGD2は、PGHを基質として、中枢神経系ではリポカリン型PGD合成酵素(L-PGDS)、末梢組織では造血器型PGD合成2酵素(H-PGDS)の働きにより生合成されるため5,10、H-PGDSの特異的阻害剤は新たな抗アレルギー剤として利用できる可能性がある。COXの阻害剤であるアスピリンの発見以来100年余りが経過し、COXをターゲットとしてインドメタシン等が開発され、抗炎症剤としても利用されたが、カスケードの下流にある全てのPG産生を抑制するために様々な副作用を伴うことも知られている。選択的にH-PGDSを阻害する薬剤を開発すれば、より副作用の少ない新規な抗炎症剤や抗アレルギー剤として有望である。2.造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H-PGDS)の金属イオン効果と反応機構ヒト由来H-PGDSは、グルタチオンS転移酵素(GST)のスーパーファミリーに属し、アミノ酸残基数198個、分子量23,300、グルタチオン(GSH)要求性(Km=300μM)酵素で、ダイマーで機能する。1997年ラット由来H-PGDSの3次元立体構造が2.3Å分解能で報告され、モノマー構造は、4本のβストランドと3本のαヘリックスで構成されるN末端側ドメインと、5本のαヘリックスで構成されるC末端側ドメインの2つのドメインからなり、全体構造は他のGSTと類似したが、活性に関与するTrp104の側鎖の配向が他のGSTの構造にはない特徴を有することが報告された11)。我々は、Ca2+およびMg2+結合型のヒト由来H-PGDSのX線結晶構造解析をそれぞれ1.8Å、1.7Å分解能で行い、ダイマーの中心に存在する金属イオンによる活性化と、その詳細なメカニズムを報告した(図2)。これによりH-PGDSは、細胞質中に数mMの濃度で存在するMg2+によって常に活性化され、反応に必須の補酵素GSHの親和性が4倍以上向上している可能性が示唆された12。一方、本酵素の反応機構の解明のため、基質であるPGH2の類似化合物との複合体の構造解析を行い、シクロペンタン環の11位に存在するペルオキシド酸素が補酵素GSHのS原子から3.3Åに位置したことから、酵素に結合して活性化されたGSHのS原子が11位のペルオキシド酸素を攻撃し、共有結合を形成すると予想された(図3左)。しかし、本酵素はGSTのスーパーファミリーに属することから、この共有結合体はそのまま酵素外へ排出され(図3中央)、11位の炭素に結合する水素原子が種々の塩基によって引き抜かれてPGD2が選択的に産生されると予想された(図3右)。図2ヒト由来H-PGDSのダイマー構造図3.H-PGDSで予想される反応機構4.これまでに得られているH-PGDSの阻害剤候補化合物これまでに図4に示す阻害剤候補化合物が得られている。阻害率の測定および複合体とのX線構造解析を終了し、それらの相関関係について既に検討を終えているが、ここでは紙面の関係でエッセンスだけを述べる。阻害剤BSPT(図4a)は、1mMのEDTA/EGTA、および2mMのMg2+存在下で阻害活性(IC50)値を測定したところ、それぞれ36.2,98.1μMであった。2.1Å分解能の複合体のX線構造解析から、BSPTのフタルヒドラジリル基が補酵素GSHと立体害を起こしていた。GSHと拮抗する阻害剤は、BSPTと同様に、GSHの親和性が高くなるMg2+存在下では阻害効率の悪化につながる可能性が示唆された13。また、阻害剤PGD-042(図4b)とCBB(図4c)は、アントラキノン骨格を共通に有する化合物にもかかわらず、IC50値が約700図4.ヒト由来H-PGDSの阻害剤候補化合物.(a)in倍異なっていた。複合体のX線構造解析の結果silcoスクリーニングで得られたBSPT.アンスラキノン誘導から、CBBの末端の硫酸基が、H-PGDSの基質の体であるPGD-042(b)とチバクロンブルー(CBB,(c)).経口α鎖を捕らえる働きを有するLys112および投与で効果のあるHQL-79(d)。Lys198と水素結合を形成し安定化した。これらの残基と水素結合を形成するように化合物をデザインすれば阻害率の向上が期待できた。一方、HQL-79(図4d)は経口投与で抗アレルギー活性を発揮するほか、筋ジストロフィーや外傷性脳損傷に対して有効性を示している14,15。そこで、インシリコによる最適化をHQL-79について検討した。5.HQL-79の阻害様式HQL-79と酵素との複合体のX線構造解析は1.45Å分解能で行い、HQL-79,GSH,Mg2+の結合様式が確認できた(図5)。また、反応速度論的解析から、HQL-79は基質PGH2とは拮抗するが、GSHとは拮抗しないこと、EDTAおよびMg2+存在下でのIC50値がそれぞれ15.6,5.8μMとなり、Mg2+の効果で阻害率が向上すること、また、Mg2+存在下で表面プラズモン共鳴法を用いた結合実験を行った結果、GSH存在下および非存在下でのKd値は、それぞれ1.7,17μMとなり、10倍異なっていた。これらの事実から、Mg2+でより親和性をましたGSHが活性部位を形成し、HQL-79の結合を安定化したために、HQL-79のIC50値がMg2+存在下で改善することが判った。5.HQL-79からの誘導化。最適化に関する研究複合体の構造を見ながら薬効をあげていく、いわゆる最適化のプロセスでは、化合物側の余計な置換基の削除、蛋白質側の余った空間の充填、静電相互作用の形成などを考慮して検討する。我々はこれを、福西らが作成したSievegeneなど独自のソフトを使ってインシリコ計算を行い、実際の化合物の合成と薬効評価、X線構造解析を共同で進めている。これまで、図6のX1の部位についてはテトラゾール環を削除し、X2の部位では末端の芳香図5.HQL-79との複合体構造図6.HQL-79の結合様式環とピペリジン環との間のメチレン鎖の長さを変化させた化合物について検討した(図6,7)。まず、テトラゾール環を除去した場合は阻害率が約8倍低下した。この理由を明らかにする目的で、SPring-8のメールインシステムを利用して測定した2.07Å分解能のX線回折強度データを解析したところ、ピペリジン環のコンフォメーションが舟形からイス型へと変化し、ピペリジン環のメチル基がGSH分子とvanderWaals接触するために若干の阻害率の悪化が観測された(図8左)。一方、X2の部位の検討で、炭素鎖が2の場合は、先と同様のvanderWaals接触が甚大となり、GSH分子は完全に排除され、このために阻害率は大きく低下した。しかし、炭素鎖が3および4の場合は、ピペリジン環はエネルギー的に不利なイス型コンフォメーションをとるものの、炭素鎖自体が、狭くなった空間からvanderWaals接触により安定化を受け、阻害率はむしろ向上した。炭素鎖が4の場合、フタルイミド環がフェニルアラニンに囲まれた疎水ポケットに配置し、阻害率が向上していた(図8右)。図8.テトラゾール環を削除した化合物の複合体のX線構造を、元のHQL-79複合体の構造に重ねた(左)。炭素鎖が4でリンクした誘導体化合物の複合体構造(右)図7.誘導体の構造式と薬効図6に示す、X1,X2以外の箇所も検討中で、現在1箇所ずつ薬効の評価とX線構造解析を行い、相関関係についてデータを集積しているところである。最終段階的にはこれらをハイブリッド化したリード化合物を合成し、新規抗アレルギー剤を創出する予定である。6.インシリコ創薬の新しい探索手法の開発について近年、蛋白質のX線結晶解析などに基づく立体構造のデータベース化や化合物と蛋白質などの相互作用を予測計算するための高効率プログラムが確立されつつある。しかし、インシリコ創薬で通常行われているドッキング計算では、単一の標的蛋白質に対して、ライブラリーに含まれる多数の化合物を順次ドッキングし、スコアの良い化合物をヒット化合物候補として採集する方法が一般的である。しかし、蛋白質―化合物ドッキングの応用範囲はもっと広く、福西らは、多数の蛋白質と化合物ライブラリーを準備し、蛋白質―化合物相互作用行列を作成すれば、蛋白質―化合物ドッキングの計算へ新たに応用できることを提唱し、インシリコスクリーニングに必要な蛋白質-化合物ドッキングソフトを独自に開発している。1つはMTS法であり、もう1つはDSI法である。MTS法とは、標的蛋白質の立体構造を基にしたスクリーニング手法であり、標的蛋白質の立体構造があれば、原理的には活性化合物が未知であっても適用できる方法で、DSI法とは、標的蛋白質の既知活性化合物を基にしたスクリーニング手法であり、標的蛋白質の立体構造が未知であっても適用できる方法である。多数の標的蛋白質への化合物バーチャルドッキングによる蛋白質-低分子相互作用パネルを作成し、これらの技術を用いることにより従来のインシリコスクリーニングの予測精度を著しく向上させる情報処理技術を開発し17,18、実際にこれらの技術をG蛋白質共役型受容体をターゲットとする医薬品の探索に適用して、候補化合物のバーチャルスクリーニングにおいて有用性を実証済みである19。現在、インシリコスクリーニングに必要な2次元電子カタログから3次元化合物データベースを作成する手法の開発・整備を行ない、100万化合物の3次元データベースとタンパク質の立体構造の大規模な蛋白質-低分子相互作用パネルの作成を行っている。これを利用したインシリコ探索に対する実証研究の結果報告は次の機会に譲りたいと考えるが、新規骨格構造を有したH-PGDSの阻害剤をインシリコで高速・高効率にスクリーニングできると期待されている。文献1.UradeY,HayaishiO.,BiochimBiophysActa2000;1482(1-2):259-271.2.UradeY,FujimotoN,HayaishiO.,JBiolChem1985;260(23):12410-12415.3.UradeY,HayaishiO.,VitamHorm2000;58:89-120.4.LewisRA,SoterNA,DiamondPT,AustenKF,OatesJA,RobertsLJ,2nd.,JImmunol1982;129(4):1627-1631.5.UradeY,UjiharaM,HoriguchiY,IgarashiM,NagataA,IkaiK,HayaishiO.,JBiolChem1990;265(1):371-375.6.NagataK,TanakaK,OgawaK,KemmotsuK,ImaiT,YoshieO,AbeH,TadaK,NakamuraM,SugamuraK,TakanoS.,JImmunol1999;162(3):1278-1286.7.MatsuokaT,HirataM,TanakaH,TakahashiY,MurataT,KabashimaK,SugimotoY,KobayashiT,UshikubiF,AzeY,EguchiN,UradeY,YoshidaN,KimuraK,MizoguchiA,HondaY,NagaiH,NarumiyaS.,Science2000;287(5460):2013-2017.8.HiraiH,TanakaK,YoshieO,OgawaK,KenmotsuK,TakamoriY,IchimasaM,SugamuraK,NakamuraM,TakanoS,NagataK.JExpMed2001;193(2):255-261.9.FujitaniY,KanaokaY,AritakeK,UodomeN,Okazaki-HatakeK,UradeY.,JImmunol2002;168(1):443-449.10.KanaokaY,FujimoriK,KikunoR,SakaguchiY,UradeY,HayaishiO.,EurJBiochem2000;267(11):3315-3322.11.KanaokaY,AgoH,InagakiE,NanayamaT,MiyanoM,KikunoR,FujiiY,EguchiN,TohH,UradeY,HayaishiO.,Cell1997;90(6):1085-1095.12.InoueT,IrikuraD,OkazakiN,KinugasaS,MatsumuraH,UodomeN,YamamotoM,KumasakaT,MiyanoM,KaiY,UradeY.,NatStructBiol2003;10(4):291-296.13.InoueT,OkanoY,KadoY,AritakeK,IrikuraD,UodomeN,OkazakiN,KinugasaS,ShishitaniH,MatsumuraH,KaiY,UradeY.,JBiochem2004;135:279-283.14.OkinagaT,MohriI,FujimuraH,ImaiK,OnoJ,UradeY,TaniikeM.ActaNeuropathol(Berl)2002;104(4):377-384.15.UradeY,EguchiN.,AritakeK,SatohY,TaniikeM,MohriI,MiyanoM,JPToku-KaiH17-119984.16.UradeY,EguchiN.,AritakeK,SatohY,KadoyamaK,TaniikeM,JPToku-KaiH17-232193.17.FukunishiY,MikamiY,NakamuraH.,JMolGraphModel2005;24(1):34-45.18.FukunishiY,MikamiY,KubotaS,NakamuraH.,JMolGraphModel2005.19.FukunishiY,MikamiY,TakedomiK,YamanouchiM,ShimaH,NakamuraH.,JMedChem2006;49(2):523-533./////CuttingEdge/////RhoKinase立体構造に基づく阻害剤の分子設計キリンビール(株)医薬探索研究所飯島洋1.はじめに低分子医薬品探索研究の初期において、良いリード化合物候補(シード化合物)を取得することは重要である。なぜならば、リード化合物は、薬理活性だけでなく、化学的安定性、溶解性といった物性、毒性、吸収性、代謝、排泄など生体における有用性、さらには工業的な合成生産方法でも、バランス良く「最適化」を展開できる基本骨格を有することが望まれるからである。だから、活性が高くても、すべてのシード化合物が有望なリード化合物になれるとは限らない。複数のシード化合物を入手しておけば、創薬化学者の考察や経験も盛り込むことにより、この中からリード化合物へ発展する化合物が出現する可能性が広がるだろう。シード骨格の分子設計という観点において、標的蛋白の立体構造に基づく分子設計(StructureBasedDrugDesign)は、一つの標的について複数のシード化合物を提示する手法として有用である。我々は、細胞の形状形態の制御に重要な役割を担い創薬標的として注目されているRhokinaseの阻害剤のSBDDにおいて、複数シードの創出に挑戦する機会を得たので、その概要を紹介する。2.スクリーニングヒット組換え酵素を用いた無細胞系スクリーニングを行って得たヒット化合物1(図-1A)は、酵素阻害活性はあるものの細胞レベルでの効果を示さなかったi。化合物1の阻害形式はATP競合型であり、多くのkinase阻害剤に共通に見いだせる芳香環窒素原子を有していたので、この化合物が酵素のATP結合部位に結合することは間違いないと考えられた。3.ホモロジーモデルRhokinaseの触媒ドメインは、結晶構造既知のProteinkinaseAと38%のホモロジーがある。ホモロジーモデリングにとって38%は幸運な類似度である。だが、ホモロジーモデルを使って低分子のドッキングシミュレーションを行うことは、決して気持ちのいいものではない。理由は二つあった。一つ目の理由:kinase触媒ドメインはN末側とC末側の二つの構造ブロック(lobe)から構成されており、阻害剤が結合するkinaseのATP結合部位は、その二つのブロックの接合面に形成されるので、二つのブロックの相対的な位置関係が少し変われば、肝心の薬物結合ポケットの形状が大きく変わりうることであるii。幸いにして、ヒット化合物1よりも大きいイソキノリン環を持った誘導体H7との複合体結晶構造が報告されていたiii。そのポケットの形状はATPアナログを抱いたPKAのそれと運良く一致していた。よって、PKA/H7複合体構造は、ヒット化合物1程度の大きさの分子をドッキングさせるホモロジーモデルの鋳型構造にするには問題が少ないだろうと考えた。二つ目の理由:ATP結合部位上部には活性化ループがあるが、キナーゼの活性化ループは長さも配列も多様性に富んでいるので、事実上鋳型とする構造情報がないという点である。幸い、Rhokinaseの場合、活性化ループはリン酸化を受けない状態でも活性であることが判っていた。そこでRhokinaseの活性化ループはリン酸化されたPKAの活性化ループと同じような位置にいるに違いないと「推定」し、PKAの活性化ループをそのまま利用することにしたiv。R3ClR1R3R1R2NHNHNR2NONHONH123(A)(B)[図-1]ヒット化合物1とピリジン誘導体2と3.(A)構造式(B)ATP結合ポケットにおける比較。化合物2(炭素原子:紫、左パネル)と化合物3(炭素原子:橙、右パネル)ではドッキングの様子が大きく異なる。化合物1(炭素原子:白)と化合物3がATPポケットの利用の観点では類似している。化合物2誘導体の構造活性相関化合物3誘導体の構造活性相関IC50(μM)R1R2R3IC50(μM)R1R2R30.2ClClCl0.8ClClH0.9ClClH4.1ClHCl>10ClHCl7.2ClHH>10ClHH10.2HHH>10HHH7.0FFH2.0FFH2.2CF3FH13.6CF3FH[表-1]ピリジン誘導体2と3の構造活性相関図-2AはATP結合ポケットの形状を示したものである。ATPのアデニンが結合する平面状で疎水的なA領域、リボースが入る球状のF領域、基質が結合する溝状のD領域の、3つの形状的に特徴的な領域に分けられると考えた。A領域の底は、ヒンジ領域であり、多くのkinase阻害剤が利用する水素結合ドナー(NH.Met167)が存在する。4.スクリーニングヒットのドッキング図-1Bはスクリーニングヒット1をRhokinaseホモロジーモデルにドッキングした様子である。この様子から、化合物1がATP結合ポケットに結合するという仮説は悪い仮説ではないと考えられたので、1を構造変換した化合物2の合成とドッキングを実施した。ところが、化合物2は、化合物1とは異なった様式で結合するようだった(図-1B)。そこで、化合物3を検討したところ、この化合物3が、pharmacophoreの空間的な配置と言う観点で、ヒット1に対応するものであると推定された。表-1には化合物2と3の構造活性相関を示した。ドッキングモデルでは、末端のフェニル基が、化合物2ではF領域を埋めるのに利用され、化合物3ではD領域での疎水相互作用に利用されている。確かに酵素阻害活性において、化合物2ではフェニル基の置換基には大きさと位置に最適値があり、一方、化合物3では活性は置換基の疎水相互作用に相関することを示している。5.シード化合物のSBDDATP結合ポケットのA,F,D領域の形状と性質を考え、それぞれに対応する構造断片を組み合わせることで、シード化合物の分子設計を行った。我々は図-2Bに示したような構造断片を想定した。この断片を組み合わせて生じる仮想化合物をドッキングして合成作戦を立てるという戦略である。当然のことだが、実際に合成して実験を継続できる断片を想定することが極めて重要で、後々の誘導体展開の自由度の高さも見越して、合成原料と反応の存在を考慮する必要がある。そのために、社内所有の試薬、市販の試薬や反応条件などを調べる必要があるが、ISIS/HOSTやReactionBrowserといった検索ツールとデータベースが大いに役立った。後は、仮想構造をホモロジーモデルにドッキングを行い、実際に合成し、酵素阻害活性を測定すること、細胞レベルで効果を見ることを平行して行い、次はどういう構造を合成するかを考えながらサイクルを回す。こう書くときれいだが、ドッキング計算よりも実際の合成の方が早かったりv、Aという誘導体と誘導体Bの評価を比べたくても、Bの合成がAのように行かなかったりなど、現実は理想とは異なることも多かった。こうして、ピリジン、インダゾール、イソキノリン、フタルイミド、ベンズイミドといったシード化合物を複数創製することができた。図-3には本研究でデザインしたシード構造の一例を、図-4にはそれらをATP結合ポケットの中で重ね合わせた様子を示した。骨格は異なっていても形状とpharmacophoreの三次元的配置や分子形状(体積)の共通性を感じていただけると思う。ホモロジーモデルに基づくdenovoSBDDの実行上の要点は記載したので、各骨格のデザインと構造活性についての話は、紙面の都合もあるし、各論になるので、論文viを読んでいただきたい、と大胆に割愛させていただく。本稿では触れないが、活性が無いハズの化合物をきちんと合成することが、SBDDによるリード創製では重要であることも論文から感じていただければ幸いである。要は、モデリングはあくまでもモデルでしかないので、「実験的証明」が大事であるということである。(A)(B)[図-2]阻害剤の分子設計(A)RhokinaseのATP結合ポケットの形状。(B)A,F,Dの各領域に対応させて想定した阻害剤の構造断片。灰色はA領域の底部でMet167の主鎖NHと水素結合を形成すると期待した受容体原子。6.まとめ探索研究で見いだされたシード化合物のうち、最適化研究に値するリード化合物に昇格できるものは限られている。本SARNewsでも、たとえばdrug-likenessとは何かとか、いかに多様なシードを得るかなど、創薬といういわば化合物淘汰の過程を生き抜くシード/リード化合物へたどり着くためにいろいろな問題提起や提案がなされている。淘汰への対抗策の一つは「多様性」であろう。そういう観点からSBDDの有効性を考えられるのではないかという提言をさせていただいた。HNOHNHNNHNHNOHNNOO[図-3]分子設計したシード化合物の例[図-4]シード化合物の重ね合わせiこの時点で、FasdilやY27632などがタイミング良くRhokinaseの阻害剤であることが判明していた。これらの化合物を使うと細胞レベルでの阻害が観察できたから、細胞実験の系はちゃんと機能していることが確認できた。細胞系で有効な標準阻害剤がプロジェクトの開始時に存在し容易に入手できたのも幸運であった。ii我々が採用したのと同じPKA/H7の立体構造に対して、スタウロスポリンのドッキングが板井先生のグループで試みられていた。その結果、スタウロスポリンの強い結合力を説明できるようなドッキングはできないと報告されていた(Takagi,A.,YamadaMizutani,M.andItai,A.Chem.Pharm.Bull.1996,44,618-20)。その報告の後に結晶構造解析されたPKA/スタウロスポリン複合体では、N末lobeとC末lobeの位置が大きく変化してスタウロスポリンと相互作用していることが判明した(Parade,L.,Engh,R.A.etal.Structure.1997,15,1627-37)。今日のドッキング計算手法のほとんどでは、このように大きなinduced-fitがある場合の対応は不可能である。iiiEngh,R.A.,Girod,A.etal.J.Biol.Chem.1996,271,26157-64.iv最近、Vertex社からRhokinaseのisozymeであるROCK1の結晶構造が公開されたが、これらの選択が結果的には正解だったことを確認した。運が良かったようだ。JacobsM.,Hayakawa,K.etal.J.Biol.Chem.2006,281,260-8.vドッキングはSYBYL/BiopolymerのFlexiDockを使用した。このツールは、リガンド分子の回転結合に自由度を持たせる、蛋白側の指定した側鎖の回転結合にも自由度を持たせる、などの利点がある。その反面、リガンドを標的のしかるべき場所に手動で設定する必要があるなど、計算を実行するためには相当な人的な手間と忍耐が必要だった。計算そのものも遅く、さらに、計算結果を評価するために手作業が必要であった。数化合物を並べて合成すれば、ドッキング計算よりも合成の方が結果が出るのが早いのであった。viTakami,A.,Iwakubo,M.etal.Bioorg.Med.Chem.2004.12,2115-37./////CuttingEdge/////薬物の胎盤通過性と母乳移行性予測-ClinicalQSAR徳島大院・薬山内あい子,日比野有紀,坂本久美子,中馬寛1.はじめに妊婦に薬物治療を行う際には、薬物の胎児毒性や催奇形性に留意しながら慎重に治療を進めることが重要である。特に、薬物催奇形性は次世代に及ぶ薬の有害作用として絶対に避けなければならない副作用の一つである。そのためには、妊娠時期の正確な把握に加え、胎盤を通過して母体血中から胎児に移行した薬物の胎児に対する危険度に配慮した上で、母体治療に有効でかつ胎児への影響の少ない薬物を選択する必要がある。しかしながら、前臨床試験における動物での生殖発生毒性試験データはあるものの、第3相臨床試験を経て市販される新薬の段階では、倫理上の問題から妊娠期のヒトに対する薬物の影響に関する知見は皆無である。実際、医療用医薬品添付文書の使用上の注意にも、妊婦・授乳婦には「投与しないことが望ましい」、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」などの曖昧な記載が多い。また、授乳婦に対する薬物治療においても同様の問題が指摘されている。母親による授乳は乳児保育における最良の方法であることが再認識され、最近では我国でも母乳保育率が増加しつつあるが、臨床現場では母体への薬物治療が避けられない場合も多い。ところが、乳幼児では成人とは異なる薬物体内動態を示すことが知られていることから、母乳を介して曝露される薬物により発現する乳児への有害作用が懸念される。したがって、薬物治療中の母親により授乳されている乳児のリスク管理が臨床上重要な問題となるが、ヒトにおける薬物の母乳移行性に関する報告は非常に少ない。このように、胎盤を通過した薬物の胎児に及ぼす悪影響や母乳を介した乳児への薬物曝露を回避しようにも、授乳婦や妊婦の薬物治療における医薬品安全性情報は極めて少なく曖昧であるのが実情である。そこで著者らは、定量的構造活性相関(QSAR)解析1)により、ヒトにおける薬物の母乳移行性や胎盤通過性を薬物分子の物理化学的性質から解析・予測できないかと考えた。まず、妊婦・授乳婦における薬物の体内動態についての文献調査を慎重に実施し、ヒトにおける薬物の母乳移行や胎盤通過に関する試験データを収集した。それらをもとに、母乳中(milk)と母体血漿中(plasma)の薬物濃度の比(M/Pratio)を薬物の母乳移行性の指標として、また、臍帯静脈血中(fetalplasma)と母体血漿中(maternalplasma)の薬物濃度の比(F/Mratio)を胎盤通過性の指標として収集または算出した。これらの貴重なヒトの臨床データと薬物分子の物理化学的特性値を用いて、pH分配理論に従う受動拡散を想定した薬物移行性モデルをもとにQSAR解析により、母乳移行性および胎盤通過性を解析・予測することを試み、有意な式を導くことに成功したので紹介する。2.薬物移行性モデルA相からB相への生体膜を介した薬物移行に関して、pH分配理論に従う受動拡散を想定すると図1のようなモデルが成り立つ。このモデルは藤田がsulfonamide薬物の解析に提唱したモデルと同一の仮定に基づいている2)。すなわち、移行可能な薬物は、タンパク結合していない遊離型で、かつ分子型(非イオン型)の薬物(Cun)とした。また、生体膜を通過する際には、分子サイズ(logMW;molecularweight)、脂溶性(logP;n-octanol/waterpartitioncoefficient)などの因子が関与すると考えられる。また、各相における分子型分率(fun)の差や、タンパク結合率(PB)の差も薬物の移行性に影響を与えると考えられる。薬物移行性の指標となる、A相とB相の薬物濃度の比、A/Bratioは、総薬物濃度(遊離型薬物濃度+結合型薬物濃度)の比であるから、A/Bは(1)式のように表される。ここで、CAはA相の薬物濃度、CBはB相の薬物濃度、Cfは遊離型(free)薬物濃度、Ciはイオン型薬物濃度、Cunは分子型薬物濃度、Cbはタンパク結合型(protein-bound)薬物濃度を意味する。PBはA相中(PBA)、B相中(PBB)におけるタンパク結合率である。A/B=CA/CB=(CAf+CAb)/(CBf+CBb)-(1)CAf×(1-PBB)Cf1A/B=CBf×(1-PBA)-(2)1-PB=Cf+Cb=1+(Cb/Cf)-(3)A相pHApHBB相CAbPAF1=F1(logMW,logP)PBCBbProtein-boundProtein-bounddrugsCACBdrugsununF3=F3(PBA)unionizedunionizedF3=F3(PBB)CAF2=F2(fun(A))F2=F2(fun(B))CBffFreedrugsFreedrugs+CAiCBi+ionizedionizedPAPBBiologicalMembraneC;薬物総濃度P;アルブミン、酸性糖タンパク、リポタンパク、その他fun;分子型分率fun=Cun/(Cun+Ci)PB;タンパク結合率図1.薬物移行モデルCbK1K2BoundstateK==FreestateCf(1-α)NeutralformK1CfK1+K2CXbCf;concentrationoffreestatedrugCb;concentrationofboundstatedrugCfαIonizedformK1;bindingconstantsofneutralform[H++]K2K2;bindingconstantsofionizedformα;degreeofelectrolyticdissociation図2.タンパク結合モデル2)ここでタンパク結合モデル2)(図2)より、結合型薬物濃度と遊離型薬物濃度の比は実効的なタンパク結合定数K=Cb/Cfで表される。よって、(1)式は、(4)式のようになる。logA/B=log(CAf/CBf)+log[(1+KA)/(1+KB)]-(4)Cunfun/fun=-(5)Cf=Cun+Ci=Cun-(6)Cun+Ci(5)式および(6)式より、(4)式は(7)式となり、これを薬物移行性予測のための基本式とした。logA/B=log(CAun/CBun)+log[fun(B)/fun(A)]+log[(1+KA)/(1+KB)]-(7)=F1(膜透過に関する項)+F2(分子型薬物の割合を表す項)+F3(タンパク結合率の差を表す項)3.解析データヒトM/PratioおよびヒトF/Mratioを目的変数とし、これに関連づける物理化学的パラメータとして、MW(分子量)、logP(n-オクタノール/水分配係数)、pKa(酸解離定数)およびPB(タンパク結合率)等を説明変数として解析に用いた。4.母乳移行性の解析とlogM/Pの予測母乳のpH値は約7.0で血漿でのpH値7.4より低く、母乳中の脂質濃度は血漿中の約6倍高いことが知られている。したがって、薬物移行には、F1、F2およびF3項が関与すると考えられる。AtkinsonとBeggらによって導かれた式3)を用いてlog[(1+KM)/(1+KP)]を予測したところ、logPとlog[(1+KM)/(1+KP)]との間に多重共線性が確認された。そこで、目的変数logM/Pに対して、説明変数をlogMW、logP、log[fun(P)/fun(M)]とした線形重回帰分析を行った結果、有意な予測式(8)を得た。式(8)の右辺のlog[fun(P)/fun(M)]項の係数が1であることはpH分配の仮定の妥当性を裏付けている。また式(8)のMWおよびlogP項の係数の符号から、それぞれ分子量が小さく、脂溶性が高い薬物ほど母乳中に移行しやすいことが示された。この結果は、薬物の母乳移行性について想定した分配メカニズムをよく反映するものであり、式(8)の導出に用いていない幾つかの薬剤に対する式(8)のlogM/P値の予測性が良好であることも確認した。logM/P=-1.7logMW+1.0log[fun(P)/fun(M)]+0.07logP+3.6-(8)n=45,r=0.89,s=0.30,F=545.胎盤通過性解析とlogF/Mの予測胎児の血漿pHは約7.36で母体血漿pH7.4とほぼ等しいため、両相のpH勾配は無視することができる。また、母体側の血漿脂質(リポタンパク)濃度は胎児側より約2倍高いことから、薬物移行にはF1およびF3項が関与すると考えられるが、タンパク結合率の小さい薬物群では、F3項は0に近似される。一方、タンパク結合率が大きい薬物の移行においてはF3項が大きく影響すると考えられる。薬物のタンパク結合率(PB)とlogPの間には、非線形型回帰モデルが報告されていることから4)、本研究のデータセットにおいてもPBとlogPの関連について検討した。その結果、logP=2を境にタンパク結合率の高い群と低い群の二群に分かれることが分かった。そこで、logP<2薬物群(タンパク結合率が低い薬物群)とlogP≧2薬物群(タンパク結合率が高い薬物群)の二群に分け、目的変数をlogF/M、説明変数をlogMW、logPと設定して線形重回帰分析を行った結果、それぞれの群で有意な予測式(9)および(10)を得ることにはじめて成功した。これらの式から、logMWの項に比べて係数が小さいためlogP項の全体への寄与は小さいものの、分子量が小さく脂溶性が低い薬物ほど胎盤を通過しやすい傾向がみられた。一般に、脂溶性の高い薬物は胎盤を通過しやすいといわれているが、今回、logF/MがlogPに対して負の依存を示した。このことから、妊娠母体側の血漿リポタンパク濃度が胎児側より有意に高いため脂溶性の高い薬物ほど母体側に残留しやすいのではないかと推察された。ただし、本結果は4.母乳移行性の解析(logM/P)についての解析結果に比較してまだ検討の余地があると考えられ、今後新たな薬剤についての解析を行う予定としている。薬物群;logP<2logF/M=-1.3logMW-0.14logP+2.8-(9)n=18,r=0.84,s=0.17,F=17薬物群;logP≧2logF/M=-0.51logMW-0.07logP+1.4-(10)6.まとめn=10,r=0.89,s=0.13,F=13本研究では、希少なヒトのM/Pratio、F/Mratioのデータを文献より収集し、QSAR解析により薬物固有の既知の物理化学的パラメータから薬物の母乳移行性および胎盤通過性を予測する有意な式を導くことに成功した。本結果は、実際の臨床現場で授乳婦・妊婦の薬物治療を行う際に、母乳や胎児への移行性がより少ない安全な薬物を選択するための指標となりうるのではないかと期待される。多様な臨床データを対象とする医療薬学分野にもQSAR理論が適用できることが明らかとなった。このような研究が今後、”ClinicalQSAR”として、実際にヒトを対象とした臨床における医薬品の適正使用や、医薬品開発におけるドラッグデザインなどにおいて幅広く応用され発展していくものと期待される。7.謝辞本研究におけるQSAR解析に当たり、有意義なご討論とご指導を賜りました藤田稔夫先生(京都大学名誉教授,エミール研究会代表,構造活性相関部会名誉幹事)に深謝致します。参考文献[1]LienEJ,SAR‐SideEffectsandDrugDesign,MarcelDekker,NewYorkandBasel(1987).[2]FujitaT,BiologicalCorrelation-TheHanschApproach.in“Advanceinchemistryseries,Number114”,AmericanChemicalSociety,Washington,D.C.pp.80-97(1973).[3]AtkinsonHC,BeggEJ,Predictionofdrugconcentrationsinhumanskimmilkfromplasmaproteinbindingandacid-basecharacteristics.BrJClinPharmacol25,495-503(1988).[4]YamazakiK,KanaokaM.Computationalpredictionoftheplasmaprotein-bindingpercentofdiversepharmaceuticalcompounds.JPharmSci.2004;93:1480-94./////Activities/////第7回薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウム“TheSeventhChina-JapanJointSymposiumonDrugDesignandDevelopment”参加報告東邦大学薬学部横山祐作平成17年9月22日から9月25日まで、中国浙江省杭州市で中国側ZongruGuo教授(ChineseAcademyofMedicinalSciences)のお世話で、上記シンポジウムが開催された。筆者はこの会に参加する機会を得たので、その報告をしたい。日本側の世話役は、藤田英明先生(阪大医学部、構造活性相関代表世話人)であり、日本からの出席者は、Hansch-Fujita法による構造活性相関解析の創始者藤田稔夫先生、寺田弘先生(理科大・薬)はじめ19名、中国からの参加者は、48名であった。本シンポジウムは、アジア医薬化学連合(AFMC)が主催し、日本薬学会、日本化学会、日本農芸化学会、日本有機合成化学会が共催する二国間シンポジウムの一つである。AFMCは、同様な趣旨のシンポジウムを日韓、日豪でも原則的に2年に一度、主催し開催している。これらシンポジウムの開催の趣旨は、これら2国間の薬物の構造活性相関、設計、合成、代謝に関する研究発表、討論、情報交換を通して、アジア地区の創薬の発展を目的としている。初日到着してから、Guo教授主催の昼食の餃子パーティー(WelcomeParty)で始まり、研究発表は、翌23日の8時30分から5時30分まで、また、24日の8時30分から12時までと、口頭発表18演題、ポスター発表18演題と、息をもつかせぬ発表と活発な討論が交わされ、大変充実したシンポジウムであった。シンポジウムの最初を飾ったのは、アルツハイマー症治療薬として世界中で売られているアリセプトを、エーザイで中心になって開発された杉本八郎先生(現京大・薬)による“ChasingaDreamofDiscoveringAnti-Alzheimer’sDiseaseDrugs”と題された講演であった。諦めず信念に基づいた開発過程を、裏話を交えて行われた発表は大変印象的であった。今回のシンポジウムの特徴は、中国側、日本側ともにコンピューターを利用した医薬品開発(QSAR,3D-QSAR,insilicoスクリーニング、ホモロジーモデリングを利用した新規分子のデザイン)に関する発表が多かった。しかし、日本側からの発表は、新規生理活性分子の探索と合成、新合成手法の開発などもあり、多彩な内容であった。コンピューターの利用は、医薬品開発には欠かせないものになっているが、利用するための基礎データは、合成された化合物の物性や生理活性データであり、中国側からは、そういう観点にたった化合物の合成と、その生理活性測定に関する発表が多かった。日本は、創薬研究に対して、医薬品の開発は企業、基礎研究は大学と役割分担がある程度はっきりしているが、中国はまだ大きな製薬企業が育っておらず、そういった役割分担がまだ出来ていないように感じた。しかし、創薬研究に関するレベル、特にコンピューターケミストリー、生理活性物質探索のための合成化学などかなりレベルが高くなった印象を受けた。また、シンポジウム後に直接質問に来る中国の若い人たちも多く、積極性と熱心さが印象に残った。杭州市は、南宋の首都であったことから、歴史的にも由緒ある都市であるばかりでなく、浙江省の省都であり上海にも近いことから、経済的にも発展を遂げている。また、市街地に隣接した西湖は、景勝地として有名である。24日の午後は、Guo教授のお世話で市内観光に出かけた。そこで印象に残ったのは、西湖の美しさは勿論であるが、市街地が整備されており、大変活気がみなぎっていることであった。私はこの観光中に、西湖のほとりを散策しながら、藤田先生からHansch教授の所へ留学前後にあの有名なHansch-Fujita式を思いつかれた経緯をお聞きしたのが、忘れられない思い出となっている。杭州市は、また料理のおいしい所としても有名である。中国側のお世話による23日の懇親会、24日サヨナラパーティーは、日本ではとても食べることの出来ない豊かな食材に満ちたおいしい料理がだされ、我々の期待以上のものであった。また、おいしいお酒と楽しい会話(片言の英語と筆談)で、大いに盛り上がった。私は、前回開催された大連でのシンポジウムにも参加したが、今回も中国の人たちの暖かい歓待は、次回も是非参加したいという気持ちにさせてくれた。これからの中国の経済的、文化的な発展を考えると、この様な真剣な研究上の討論の場と友情を深める機会は、これから益々重要になってくるのではないかと考えられる。日中間に限らずAFMCが主催している2国間シンポジウムは、今までは、日本のリーダーシップで開催されてきた。しかし、アジアの経済が大きく発展している今、その差は大きく縮まって来ている。この様な地道な努力は、アジア発の独創的な医薬品に必ずつながってくると強く感じた。これまで、このシンポジウムはすべて中国の都市において開催されてきた。しかし、次回は、3年後の2008年に藤原英明先生のお世話により、日本で開催されることになっている。具体的な開催地は現在検討中であるが、多くの研究者の参加が望まれる。第7回薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウムに参加して(近畿大学農学部応用生命化学科下村勝)第7回薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウムが2005年9月22日~9月25日の3日間、中国浙江省杭州(Hangzhou)、RadisonPlazaHotelで開催された。本シンポジウムは1989年の京都から始まり、2005年の杭州まで7回開催されている。このシンポジウムでは薬物のリード化合物の探索からデータベースの開発まで、多岐にわたる発表が(口頭18件・ポスター18件)行われた。筆者は、「MolecularMechanismofSelectiveToxicityofNeonicotinoid」というタイトルで以下の内容の講演をおこなった。今日、イミダクロプリドをはじめとするネオニコチノイド系殺虫剤は(Fig.1)、殺虫活性、植物中での移行性および効力の持続性に優れ、温血動物に対する毒性が低いことなどから、世界各地で作物保護に使用されている。ネオニコチノイド系殺虫剤は昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に作用することが知られCH3ClClCH3ているが、その選択的な相互作用が、ネClNCH3Nオニコチノイド系殺虫剤特有の部分構NNNHNHNCHN3造とnAChRとのどのような物理化学的・NNONO2NCN2立体的相互作用によるものかは明らかImidaclopridNitenpyramAcetamipridではなかった。筆者はネオニコチノイドの選択性をもたらす分子機構を解明すClClOSSHHるために,野生型および構造を種々変化NNNCH3させたnAChRをアフリカツメガエルの卵NNNNCH3NOHNHNNCH3母細胞に発現させ、それらに対するネオNO2NO2NO2ニコチノイドのアゴニスト作用を電気ClothianidinThiamethoxamDinotefuran生理学的手法の一つであるtwo-electrodevoltage-clamp法を用いFig.1StructureofNeonicotinoidinsecticidesて測定した。まず、ネオニコチノイド系殺虫剤の選択性に関わる相互作用を推定するため、半経験的分子軌道法のひとつであるMNDO法を用い、ネオニコチノイド系殺虫剤を含むnAChRアゴニストの正電ポテンシャルを計算した。その結果、昆虫のnAChRに選択的に作用するネオニコチノイド系殺虫剤には負電荷を有するニトロ基やシアノ基が存在するのに対し、アセチルコリンやニコチンの対応する部分は正電荷を有することから、昆虫のnAChRにはこのニトロ基やシアノ基と相互作用しうる塩基性アミノ酸残基が存在すると推定された。そこで、コンピュータ上でnAChR-イミダクロプリド複合体3次元モデルを作成し、イミダクロプリドの選択性に関わるアミノ酸残基を精査した。その結果、nAChR-イミダクロプリド複合体モデルにおいてイミダクロプリドのニトロ基の近傍に位置するアミノ酸残基が推定された。そのなかでも、loopD領域のアミノ酸残基は、昆虫のサブユニットにおいて塩基性アミノ酸残基で保存されていたことから、当該アミノ酸残基はネオニコチノイドの昆虫nAChRに対する選択的相互作用に深く関与していると推定された。そこで、nAChRにおいて対応するアミノ酸残基を多くの昆虫nAChRに保存されている塩基性アミノ酸残基に置換した変異体nAChRを作成し、アセチルコリンおよびイミダクロプリドとの相互作用を検討したところ、nAChRのアセチルコリンに対する応答には大きな変化が見られなかったが、イミダクロプリドに対する感受性は顕著に増大した。これらの結果から、loopD領域の塩基性残基とネオニコチノイドとの相互作用が昆虫nAChRに対するネオニコチノイドの選択性をもたらす重要な要因の一つとしてはたらいていることが、はじめて明らかとなった。シンポジウムが行われた杭州は上海の南西部に位置する中国の七大古都の1つで、とても美しい町でした。杭州のお茶は大変おいしくシルクなどと並び観光土産として広く国内外の観光客から珍重されています。本場の中華料理もまた大変すばらしいものでした。このシンポジウムは日中の友好、参加者間の親睦にとって大変有意義であったと思います。筆者個人にとっても、英語での初めての口頭発表で少し緊張しましたが、大変貴重な経験となりました。また、日中の著名な先生方の御講演を拝聴することができただけでなく、個人的にもいろいろお話を聞かせていただき、大いに勉強になりました。最後になりましたが、本学会に参加するに当たり日本薬学会構造活性相関部会よりSARPromotionAwardをいただき、参加旅費を援助していただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。写真1「第7回薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウム」参加者の集合写真第7回「薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウム」参加報告京都大学大学院薬学研究科修士課程・中村真也このたび第1回のSARPromotionAwardという栄誉ある賞を授賞し、中国・杭州にて開催された「第7回・薬物の分子設計と開発に関する日中合同シンポジウム」へ参加させていただくことができました。会場となった杭州の町並みは美しく、さすがは中国一の景勝地と謳われる風景が広がっており、街中に目を転じますと、至る所で工事が行われており街の活気が伝わってきました。私たちが泊まったホテルのそばには広場があり、早朝には太極拳をする人々がたくさん見受けられました。かく言う私も少しの間ですが見様見真似で列に加わり、異国の朝の空気を満喫することができました。学会の全般的な印象としましては、日本の大学では基礎研究が中心に行われているのに対し、中国ではバーチャルスクリーニングなどの応用研究が大学で多く行われているという印象を強く感じました。中国における新薬の研究開発の中心が民間ではなく大学であるという社会の一端を垣間見た気がしております。どの発表も勉強になるものばかりで、ポスター発表でもディスカッションしたいものが多くあったのですが、時間の都合でその機会がほとんど得られなかったことが残念です。口頭発表の中で気になった発表ではSelf-OrganizingMolecularFieldAnalysis(SOMFA)法と呼ばれる3D-QSAR手法を用いたものがあり、K+チャネルの2サブタイプのDual-Blockerとなる抗不整脈薬の探索に用いられていました。SOMFA法と3D-QSARの代名詞となっているCoMFA法とは同じ格子点の計算でもプローブを使わない点が大きな違いであると感じられました。私自身に関しましては初の学会発表ということでかなりの緊張だったのですが、藤田稔夫先生に座長をしていただきまして“COMBINEanalysispredictsbindingaffinitiesofligandswithanewscaffold”という演題で口頭発表をさせていただきました。以下に発表の概要を述べさせていただきます。医薬品設計研究の主要な目的の一つは、活性の高い化合物を得ることである。タンパク質のX線結晶解析技術の発展とともに、構造情報を利用し活性候補化合物をデザインするStructure-baseddrugdesign(SBDD)は現在製薬会社などで広く用いられている。3D-QSARの手法の一つであるComparativeBindingEnergy(COMBINE)解析法[1]は高精度な活性予測が行えるのみならず、活性の向上に重要なアミノ酸残基を同定することが可能な手法である。COMBINE解析法の特徴は、化合物と受容体となるタンパク質との相互作用をアミノ酸残基ごとに分割して計算し、活性値への回帰を行うことである。この回帰により得られた各残基の重みは活性の向上への寄与を表す指標として用いることができ、「次にどの部位を修飾すべきか」のような創薬に重要となる情報を得ることができる。今まで報告されたCOMBINE解析法の適用は比較的似通った化合物群の解析に限られていた。しかし、この手法では化合物の周囲の環境こそが重要であり、予測能は化合物の骨格には依存しないものであると考えた。この仮説の検証としてHIV-1プロテアーゼとその阻害剤を用いた実験を行った。HIV-1プロテアーゼのCOMBINE解析についてはすでに論文が報告されていた[2]が、用いた化合物は全てペプチド系阻害剤であった。ペプチド系阻害剤48個で構築した予測モデルから非ペプチド系阻害剤7個(環状ウレア化合物など)の活性値の予測を行った。ペプチド系阻害剤ではタンパク質との水素結合に1つの水分子が関与することが知られているが、非ペプチド系阻害剤では化合物自身がタンパク質と水素結合している(図1)。このため、この架橋を行っている水分子をペプチド系阻害剤の一部として取り扱い予測モデルの再構築を行った。各残基の相互作用エネルギーと阻害活性値(pIC50)との回帰は、ツールとしてCOMBINEver1.0[1]を用いてPLS回帰を行った。なお計算が力場パラメータに依存する可能性を考え、AMBERとCHARMmの2種類の力場パラメータを用いて相互作用の計算を行うことで汎用に高精度な予測が得られることも検証した。予測の結果を図2と表1に示す。どちらの力場パラメータを用いても高い予測能(SDEPex=0.92[AMBER],0.66[CHARMm])を得ることが可能であった。(a)S1′(b)S2HOOHHOHR3HS2S1’NNR’2R’2R4OR2OS1S2’R’1NNR’1OS1S2’HHOIle50Ile149HHNIle149HHNNN図1.阻害剤の骨格とHIV-1プロテアーゼとの結合様式比較(a)ペプチド系阻害剤(b)非ペプチド系阻害剤表1.2種の力場による予測結果LVR2Q2SDEPcvSDEPexAMBER20.820.750.760.92CHARMm30.850.670.890.66図2.CHARMm力場を用いた予測縦軸:実験値、横軸:予測値骨格が回帰モデルと大きく異なるにもかかわらず高精度な予測ができた理由を以下に考察する。2つの群の複合体構造を重ね合わせたところ、骨格の比較に示す通り2次元的な構造は異なっていても立体的に占める空間などが類似しており、どちらも同じ結合ポケットを使用して結合していた。すなわちどちらの群においても活性向上に重要なアミノ酸残基が同一であることが示唆された。検証として、予測に用いた非ペプチド系阻害剤も全て回帰に含めた予測モデルを構築した。COMBINE解析から得られる各アミノ酸残基の寄与を前後で比較したところ、その寄与はほとんど変化が見られなかった。このことがペプチド系阻害剤から構築した予測モデルで非ペプチド系阻害剤が予測できた理由と考えられる。逆に、使用している結合ポケットが同一であれば既知の阻害剤と骨格が異なっても予測が可能であることが推測される。この利点は無数の化合物を1つのターゲットに対して評価するバーチャルスクリーニングへの応用性に優れている。今回の結果はCOMBINE解析法が従来想定されていたリード化合物の最適化のみならず、バーチャルスクリーニングやリードホッピングにも応用が可能という有用性の高さを示した結果といえる。1)A.R.Ortiz,M.T.Pisabarro,F.Gago,R.C.Wade:J.Med.Chem.38,2681-2691(1995)2)C.Perez,M.Pastor,A.R.Ortiz,F.Gago:J.Med.Chem.41,836-852(1998)末筆となりますが、このような発表の機会を与えてくださいました幹事の皆様方、お世話になりました諸先生方に深く感謝申し上げます。/////Activities/////第33回構造活性相関シンポジウム報告(阪大院・医)藤原英明標記シンポジウムは、構造活性相関部会の平成17年度行事の中心事業として、平成17年11月16,17日(水、木)、大阪大学コンベンションセンター(大阪府吹田市山田丘)において開催された。これまで同様に日本化学会情報化学部会の主催事業である情報化学討論会(第28回)と同じ会場・期日で開催され、参加者も片方に登録すれば双方の学会に参加できるよう配慮された。参加者は薬学会関係の他、化学会や農学関係の人を含み、製薬企業の創薬分野で研究開発に従事する者を中心に、創薬の基本ツールとしての構造活性相関と関連事項についての基礎と応用をテーマに2日間の討論を行った。関連分野として、化学会を中心とした情報化学討論会にも参加し、コンピューター科学の最前線からの刺激を受けるよう配慮された。特別講演としては、構造活性相関関連講演として(阪大院・医)遠山正彌研究科長による「統合失調症の分子機序」があり、当該疾病につながる蛋白質を複数見つけた実績と子供の発達障害を引き起こす原因遺伝子の探索やモデル動物を使った研究例が紹介され、新しい診断薬・診断技術の開発を予感させる内容で参加者の興味を集めた。情報化学関係の特別講演では、(関西学院大・理工)尾崎行洋教授による分光学データ(スペクトル)の部分最少二乗回帰分析の手法が紹介され、構造活性相関にも馴染みのPLS法の基本的理解に大いに有効であった。依頼講演も2件企画され、(徳島大院・薬)楠見武徳教授による「手作業分子モデリングによる絶対配置決定試薬の開発」では、合成中間体など種々のキラル有機化合物の絶対配置を簡単に決めるためのNMR用試薬(新Mosher試薬)について開発のプロセスと特徴が解説され、キラル合成における有用性が再認識できた。A.Nicholls博士による「MolecularShapeandElectrostaticsforScreeningQSARandLeadOptimization」では、QSARの基本手法として分子の形や静電場を比較するスクリーニング手法が紹介され、医薬品開発での応用例に興味が感じられた。9年前にも大阪で同じシンポジウムが開催された。当時と比べると、参加登録者数で1/5程度の減少となったが(212名、内学生・院生47名)、一般発表件数が1/5近く増加しており(40件)、構造活性相関研究が企業や大学で定着しつつある様子がうかがわれた。これに対して、併催された情報化学討論会では、参加登録者数の減少が目立った(演題数は増加)。情報化学討論会の奮起を期待すると共に、構造活性と情報化学の交流の場を拡大し、両学会の併催の意義を今一度見直し併催のメリットをアピールすることにより学会のさらなる充実・発展を期待したい。なお、ポスター賞としては次の2名が選ばれた。これを機に御研究の益々の御発展を祈りたい。1)飯島洋氏(キリンビール医薬探索研)、「Rhoキナーゼ阻害剤の分子設計」2)日比野有紀氏(徳島大院・薬)、「薬物の胎盤通過性と母乳移行性予測―ClinicalQSAR(3)」最後に、参加いただいた方々、および展示・広告など開催に御協力いただいた方々に心から感謝申し上げたい。/////Activities/////<会告>構造活性フォーラム2006「創薬研究のためのデータ科学:基礎と応用」今回のフォーラムでは構造活性相関および創薬研究に関連するデータ科学の先端的技法を取り上げ、特に機械学習とデータマイニング、計算機実験におけるバリデーション手法の基礎さらには創薬研究における応用事例の解説を中心に、「創薬研究のための最新データ科学入門講座」として企画しました。通常の講演より長めの1コマ75分(質疑応答を含む)の講義形式とし、午前2件、午後2件の講演(講義)を組み、特に方法論については関連分野の研究に携わる人のみならず、これからこの分野の勉強を始めようと考えている人にも十分理解できるよう、講師の先生方には基礎的事項を中心に平易な解説に努めていただくようお願いしてあります。ご関心の皆様多数の参加をお待ちしております。主催:日本薬学会構造活性相関部会協賛:日本化学会、日本農芸化学会、有機合成化学協会、日本分析化学会、日本農薬学会、近畿化学協会、コンビナトリアルケミストリー研究会日時:平成18年6月30日(金)会場:豊橋商工会議所・ホール(豊橋市花田町字石塚42-1)http://www.toyohashi-cci.or.jp交通:JR豊橋駅東口ペデストリアンデッキ5番階段から大橋通りを北へ約5分午前の部(10:00-12:45)(1)「計算機集約型手法による回帰・判別型分析法のバリデーション手法」大阪大学大学院薬学系研究科高木達也(10:00~11:15)(2)「データマイニングの基礎と創薬への適用事例」関西学院大学理工学部情報科学科岡田孝(11:30~12:45)午後の部(13:45-16:30)(3)「データ分類学習:サポートベクタマシン(SVM)の基礎と応用」豊橋技術科学大学知識情報工学系高橋由雅(13:45~15:00)(4)「GPCRリガンドスクリーニングへの能動学習の応用」田辺製薬(株)清水良(15:15~16:30)講習会終了後、講師を囲んで簡単なミキサーを開催します。(16:50-無料)【参加費】一般6000円、学生2000円(含テキスト代)【申込締切】平成18年5月31日(水)(定員60名、定員になり次第締切り)【申込方法】氏名、所属、連絡先(住所、電話/FAX番号、email)を明記の上、電子メールまたは郵便(ハガキ可)にてお申し込みください。申し込みに際しては「フォーラム参加申込」と明記してください。参加費の事前振込(郵便振替または銀行振込)をお願いします。郵便振替口座名:「構造活性フォーラム2006」、口座番号:00810-9-103552豊橋南郵便局銀行振込口座名:「構造活性フォーラム2006代表高橋由雅」、三井住友銀行豊橋支店、普通預金、口座番号:3446449【申込および問合せ先】電子メールの場合sarforum2006@mis.tutkie.tut.ac.jp、郵便の場合は下記宛にお願いします。〒441-8580豊橋市天伯町雲雀が丘1-1豊橋技術科学大学知識情報工学系構造活性フォーラム2006実行委員長高橋由雅(TEL:0532-44-6878、FAX:0532-44-6873)/////Activities/////<会告>第34回構造活性相関シンポジウム会期平成18年11月14日(火)~15日(水)会場朱鷺メッセ(新潟市万代島6-1)http://www.tokimesse.com/交通新潟駅より徒歩20分、万代バスセンター前より徒歩10分(新潟空港からバスセンターまでバス約25分)主催日本薬学会構造活性相関部会共催日本化学会、日本農芸化学会、日本分析化学会、日本農薬学会討論主題①生理活性物質の活性評価と医農薬創製への応用、②QSARの基本パラメータ・基本手法・情報数理的アプローチ、③QSARと吸収・分布・代謝・毒性・環境毒性、④コンビケムとストラクチャーベースドアプローチ、⑤バイオインフォマティクス、⑥分子情報処理(データベースを含む)・データ予測発表形式口頭(25分(A)または15分(B)、討論5分を含む)、またはポスター(優秀な発表にはポスター賞授与)。発表申込7月21日(金)締切必着、電子メールにより受付。演題・発表者(講演者に○)・200字程度の概略・講演ABポスターの別・上記討論主題番号・連絡先住所氏名を明記。発表者は部会員に限ります。未入会の方はご入会下さい。申込先:sar-member@pharm.kitasato-u.ac.jp(会費無料)講演要旨9月22日(金)締切必着、A4用紙を使用し、本文(和文または英文)2または4ページ、および概要(英文)半ページ。執筆要領はホームページに掲載します。参加予約申込10月27日(金)締切、氏名・所属・連絡先・懇親会出欠・要旨集前送希望の有無・振込金額・振込日を記入の上、電子メールにてお申し込み下さい。参加費等は銀行振込(第四銀行、普通預金、口座名:構造活性相関シンポジウム代表石黒正路、口座番号:1199136)または郵便振替(口座名:構造活性相関シンポジウム、口座番号:00550-8-44549、通信欄に氏名・所属を記入)にてお振込み下さい。参加費[一般]予約8000円、当日9000円[学生]予約3000円、当日4000円併催の第29回情報化学討論会に参加できます(要旨集含む)。要旨集前送の場合は郵送料1000円を別途申し受けます。費用振込み後、参加取り消しによる返金には応じられません。懇親会11月14日(火)18:30ホテル日航新潟(予定、情報化学討論会と合同)[一般]予約6000円、当日8000円[学生]予約3000円、当日4000円連絡先〒956-8603新潟市東島265-1新潟薬科大学応用生命科学部石黒正路米田照代TEL0250-25-5152FAX0250-25-5021E-mailqsar@niigatayakudai.jpホームページhttp://www.pharm.or.jp/bukai/index.htmlの「構造活性相関部会」をクリック/////Activities/////構造活性相関部会SARPromotionAward募集要項構造活性相関部会では、以下の趣旨に従い構造活性相関研究の発展を促進するための事業として、当該制度を設ける。趣旨1.構造活性相関研究に関し、国外の学会で発表を行う部会員に旅費を補助することにより、国内の構造活性相関研究に関する優秀な成果を海外に積極的に発信することを奨励する。2.国外の学会における最新の研究情況を国内の部会員に早期に伝達し、部会員の研究に新展開の契機を与える。選考方法1.幹事または常任幹事の推薦によるものとし、常任幹事会で受賞該当者を決定する。受賞者は毎年若干名とする。2.推薦人は下記事項をとりまとめ、毎年決められた期日までに部会宛に提出する。候補者氏名・所属・略歴参加予定学会名・開催期日・開催場所・演題(口頭発表,ポスター発表のいずれかを明記)・発表者名・要旨(日本語の要約.参考資料として学会へ提出する英語要旨を添付.)推薦理由財源および授賞金1.法人会費から充当し、1名当たり10~20万円とする。受賞者の義務1.帰国後、研究発表内容の要約および学会参加報告をニュースレターに投稿する。2.受賞者が他機関から同一趣旨の補助を受ける場合にはいずれかを辞退するものとする。平成18年度募集要項今年度は2名程度とする。主に平成18年6月~平成19年3月の国外学会および部会の指定学会で発表を行う者。推薦人は、平成18年5月25日までに部会庶務幹事へ推薦書を提出すること。庶務幹事:赤松美紀京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻常任幹事・幹事の一覧は部会ホームページ(http://www.pharm.or.jp/bukai/index.htmlからリンク)の「SARPromotionAwardのお知らせ」をご覧下さい。/////Activities/////日本薬学会構造活性相関部会の共催・協賛行事について部会では、主催事業以外に他の学会等からの共催・協賛の希望に対応するため、下記のような「共催・協賛行事について」の要項を制定いたしました。関係学会等に周知いただければ幸いです。なお、部会としましては部会発展のためにも主催事業が優先ですので、例えば、時期的地域的に近接しており主催事業に参加者数減などの弊害が予想される場合、あるいは、商業的な目的を含む集会と認められる場合などは、申請のご意向に添えない場合がありますので、予め御留意下さい。記1.部会の趣旨に添う行事は積極的に共催・協賛する.2.共催は開催計画立案の段階から共同して行うものであり,予算計画の状況により資金援助を行う場合がある.協賛は既に計画立案の済んでいる事業に対する協力であり,募集公告などの形で協力するが,資金援助は行わない.3.申請方法:部会世話人代表宛の申請書に,行事の名称,開催予定日程,場所,開催母体機関,運営形態(共催・協賛)の希望,主な開催主題,開催計画の概要,申請者名を明記し,部会庶務幹事に送付する.4.常任幹事会において,共催・協賛の諾否を決定し,申請者に通知する.5.承諾された共催・協賛行事の案内を,部会ホームページおよびニュースレターに掲載する.以上編集後記構造活性相関研究会の部会誌SARNewsの第10号をお届けいたします。ご多忙の中、ご執筆頂きました諸先生方に心よりお礼申し上げます。Perspective/Retrospectiveでは、井上豪先生にアカデミックの優れたSBDDや分子シミュレーションの技術を駆使した創薬の取り組みをご紹介頂きました。学問的成果の産業利用の将来像ついて多くの示唆を与える内容だと存じます。CuttingEdgeでは、昨年の構造活性相関シンポジウムでポスター賞を受賞された飯島洋先生と山内あい子先生に、最先端のご研究を紹介して頂きました。また、本部会と縁の深いTheSeventhChina-JapanJointSymposiumonDrugDesignandDevelopmentに関して、横山祐作先生に参加報告をご寄稿頂き、SARPromotionAward受賞者として参加された下村勝さんと中村真也さんに研究発表内容の要約と学会参加報告を頂きました。今年は6月30日に高橋由雅先生と高木達也先生のお世話で構造活性フォーラム2006(豊橋)が、11月14日~15日には石黒正路先生と米田照代先生のお世話で第34回構造活性相関シンポジウム(新潟)が開催されます。皆様奮ってご参加下さいますようご案内申し上げます。(編集委員会)SARNewsNo.10平成18年4月1日発行:構造活性相関部会(常任世話人代表:藤原英明)SARNews編集委員会(委員長)清水良石黒正路黒木保久高橋由雅福島千晶藤原巌山上知佐子*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。