SAR News No.47
SAR News No.47
「目次」
///// Perspective/Retrospective /////
抗マラリア活性を有するトロポロン系天然物Puberulic acid(プベルル酸)を基盤とした構造展開
北里大学大村智記念研究所 廣瀬 友靖、砂塚 敏明 ・・・ 1
///// Cutting Edge /////
天然抗酸化物質の高機能化を目指した構造展開
昭和大学薬学部 福原 潔 ・・・ 11
///// Activities /////
<報告>
構造活性フォーラム2024 開催報告
九州大学大学院工学研究院 加藤 幸一郎 ・・・ 19
<会告>
第52回構造活性相関シンポジウム会告
国立医薬品食品衛生研究所 古濱 彩子 ・・・ 21
編集後記 ・・・ 23
///// Perspective/Retrospective /////
抗マラリア活性を有するトロポロン系天然物Puberulic acid(プベルル酸)を基盤とした構造展開
北里大学大村智記念研究所 廣瀬 友靖、砂塚 敏明
1. はじめに
マラリアは、メスのハマダラカが媒介するマラリア原虫(plasmodium)がヒトに感染することで引き起こされる原虫感染症であり [1]、サハラ以南に位置するアフリカの熱帯・亜熱帯地域を中心に全世界で85ヵ国での感染が報告されている [2]。WHOの最新の報告であるWorld malaria report 2023 [2]によると、2022年における全世界での推定症例数は2億4900万人であり、2020年における2億4100万人とほぼ同じ数値である。死亡者数は2022年では60万8千人であり、依然として多くの患者が命を落としていることからマラリアは未だ世界三大感染症の1つに位置付けられている。
ヒトに感染するマラリア原虫は5種類報告されており、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)、サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)が存在する。マラリア原虫がヒトに感染した後、潜伏期間を経て脾腫、貧血等を伴った40 ℃前後の発熱と解熱を繰り返す病徴を示す。特に病原性の高い熱帯熱マラリア原虫 [2]に感染すると毎日発熱症状が見られ、合併症を伴って重症化しやすく、発症後1〜2週間で急性の脳症や腎不全に陥り死亡する場合がある。その他の症状として悪寒、発汗、頭痛、筋肉痛、倦怠感、下痢、嘔吐などが知られている。
マラリアの最も初期の治療薬は、元来南米で解熱剤として用いられていたキナノキ(Cinchona Bark)が1632年にローマに持ち込まれ、抗マラリア薬として医療利用されたことで始まり、その後、1820年にPelletierとCaventouによってキナノキからquinine [3]が単離され、抗マラリア薬として利用されるようになった [4]。1938年にquinineの構造をリードとしてchloroquine [5]が開発され、第二次世界大戦時に優れた抗マラリア薬として広く用いられた (図1)。
図1. 代表的な抗マラリア薬の構造
一方でchloroquineは第二次世界大戦以降も有効な治療薬として利用されたが、1957年にタイとコロンビアで出現したchloroquine耐性の熱帯熱マラリア [6]が世界中のマラリア流行地に蔓延するに至り、その有用性が著しく低下した。それ以外にも多くの抗マラリア薬が開発されてきたが、現在のマラリア治療において主幹をなしているのがartemisinin [7]およびその誘導体artesunate、artemether等である。しかし、2007年に西カンボジアでartemisinin耐性マラリア原虫が報告されて以来、世界各地で耐性原虫の出現が徐々に増加しており、その拡大が懸念されている [8]。
2. Puberulic acid(プベルル酸)の発見
そのような背景のもと、我々が所属している大村智記念研究所 熱帯病研究センターでは微生物培養液から抗マラリア活性物質の探索を精力的に行っており、これまで多くの抗マラリア薬シード化合物を発見してきた。その中でも、糸状菌FKI-4410株(表1)培養液中より見出されたpuberulic acid(プベルル酸) [9], stipitatic acid [10], 及びその類縁構造を有する3種の新規化合物(viticolin A-C)[11]は非ベンゼン系7員環芳香族であるトロポロン骨格が高度に酸素官能基化されたユニークな構造を有する化合物であった。トロポロン骨格はカルボニル基の分極によって酸素原子がアニオン性、7員環内がカチオン性となり非局在化によって6π電子系平面構造を取るためにHückel則を満たし芳香族性を示す(表1; 右上図)。トロポロン骨格を有するpuberulic acidとstipitatic acidは、それぞれ1932年と1942年にH. Raistrickらによって単離されたが、その構造は解明されていなかった [9,10]。一方で、1936年に野副らはタイワンヒノキの根株の精油からhinokitiol(C10H12O2)を単離し、その構造を新たな芳香族化合物として位置付けた [12]。その後、1945年にM. J. S. Dewarはstipitatic acidの構造が全く新しい非ベンゼン系芳香族システムを持つという説を提唱し [13]、更に1950年にA. L. Toddらによって化学的実証がなされ [14]、その骨格はトロポロン(tropolone)と名付けられた [15]。この発見によって環状π電子系の理解は大きく発展し、有機化学の分野における非ベンゼン系の芳香族システムの研究に大きな進歩をもたらした。
表 1. Puberulic acid、viticolin類の構造、その生産菌、in vitro抗マラリア活性
Compound IC50 (µM)
Antimalarial activity
K1 strain FCR3 strain
puberulic acid 0.050 0.050
stipitatic acid 31.82 ND
viticolin A 46.76 ND
viticolin B 3.71 2.39
viticolin C >58.9 ND
chloroquine 0.58 0.047
K1: chloroquine-resistant P. falciparum, FCR3: chloroquine-sensitive P. falciparum,
ND: not determined.
表1に示す抗マラリア活性試験の比較からpuberulic acid とその類縁天然物のトロポロン骨格上ヒドロキシ基のメチル化により活性が低下する傾向が示された。
次に、ネズミマラリア(Plasmodium berghei N strain)感染マウスに対するpuberulic acidと既存薬であるartesunate の皮下投与(s.c.) および経口投与(p.o.)におけるin vivo 抗マラリア活性比較を示す(表2)。活性評価方法として、マラリア原虫を静脈内投与によって感染させたマウスを用いて、薬剤を1日1回、4日間投与した。その結果、薬剤皮下投与後において既存薬のartesunateに匹敵する原虫増殖阻害率を示したが、puberulic acid投与群においては薬剤投与後、原虫再増殖により7日目には全マウスが死亡する結果となった。加えて、経口投与ではartesunateが投与量5 mg/kg/day × 4で活性を示す [16]のに対し、puberulic acidは100 mg/kg/day × 4においても活性を示さず、その血中移行性に問題があった [17]。
表 2. Puberulic acidのin vivoにおける抗マラリア活性
compound s.c. administration p.o. administration
dosage Inhibition(%) dosage inhibition(%)
puberulic acid 2.0 mg/kg/day × 4 69.0 100 mg/kg/day × 4 0.0
artesunate 1.7 mg/kg/day × 4 50.0 5 mg/mg/day × 4 76.8
上記の結果から、puberulic acidの克服すべき課題として「in vivoにおける活性向上」と「経口投与での活性発現」にフォーカスを絞り、puberulic acidをリード化合物とした誘導体創製研究に着手した。
3. Puberulic acidの効率的全合成法の確立
Puberulic acidの構造展開を行うにあたりpuberulic acidからの半合成的誘導体、および天然物からの誘導化が容易ではない化合物は全合成的な誘導体合成が必要となる。またpuberulic acidは天然からの培養取得が容易ではなかったため、puberulic acidの量的供給は全合成法に依存していた。以上のことから、最初に我々は全合成的な誘導体合成も視野に入れた、簡便で多様な誘導体へと展開できる全合成法の確立を目指した。Puberulic acidの全合成は1951年にR. B. Johnsら [18,19]、1993年にM. G. Banwellら [20,21]によってそれぞれ報告されていた。両合成法は不飽和結合を有する6員環中間体にシクロプロパン化を経由したtoropolone環形成を鍵とした方法であり、反応工程数は10工程以下であるものの、総収率が2%未満と、puberulic acidの量的供給という面では課題があった。
我々はこれまでに報告されていたpuberulic acidの全合成法とは全く異なる合成戦略によりその効率的な合成法の確立に成功した(図2) [22,23]。本合成法は一般に不斉源として用いられる安価な糖をpuberulic acidの骨格源として用いることで、その母骨格に酸素原子の導入を行わず、最小限のC-C結合形成反応で天然物を合成する方法である。まず、市販のD-ガラクトースから2工程で導けるヨウ素体1と別途調製したアリルクロライド2を用いたバルビエ型付加反応により、天然物の炭素を全て有するジエン体3を合成した。続く閉環メタセシス反応と、バーチ還元の条件によるPMB基の除去を行いトリオール5とした後、鍵であるマルチタンデム酸化反応により芳香環化体6へと導いた。最後にPinnick酸化とアセトニドの除去、そして逆相系での精製を経て計8工程、総収率55%でpuberulic acidの全合成を達成した。本経路の利点として、大量スケールに許容でありグラムスケールでの合成も可能であることが挙げられる。また、トロポロン骨格が持つ求電子性から天然物への直接的な官能基変換は制限されるが、本合成経路では全合成中間体である脂肪族7員環化合物に対する種々変換により天然物が持つ母骨格の酸化度や官能基の変換が可能となるため、本手法の確立によりpuberulic acidをリードとした様々な誘導体へのアクセスが可能となった。
図2. ガラクトースをpuberulic acidの骨格源として用いた全合成 [22,23]
4. Puberulic acidの構造展開
次に我々が確立したpuberulic acidの全合成経路を活用することで誘導体合成を行い、構造活性相関の解明および低毒性で且つ経口投与で有効な化合物の探索を開始した。
4.1 Puberulic acid母骨格の官能基変換
構造活性相関の解明を目的とした誘導体合成を行うにあたり、その構造設計が重要である。そこで抗マラリア活性を示す天然物と類縁体の構造、及びin vitroにおける抗マラリア活性(表1)を参考にした。Puberulic acidと類縁天然物であるstipitatic acidを比較するとC7位のヒドロキシ基の有無が活性に大きく影響している。これからpuberulic acidの7員環上のカルボニル基を含む酸素原子が3つ連続して存在することが活性発現に重要であることを確認するためpuberulic acid のC6位脱酸素体(iso-stipitatic acid)の合成を行った。また、puberulic acidとviticolinの比較からは、puberulic acidのC4位カルボキシ基(-COOH)が活性発現に与える影響が推測できないため、puberulic acidのカルボキシ基を変換した誘導体の合成も行った。一方で、C7位メトキシ体である類縁天然物viticolin Aはpuberulic acidと比べて活性が大幅に低下するのに対し、さらにもう一箇所の水酸基がメチル化されたviticolin Bはviticolin Aの約10倍の活性が観察された。そこでpuberulic acidの母骨格上のヒドロキシ基のメチル化による活性への影響を精査した [23]。それらの誘導体合成とマラリアK1株に対するin vitro抗マラリア活性IC50(μM)を示す(図3)。天然物stipitatic acid(表1)と合成したC6位脱酸素体iso-stipitatic acid(10)のIC50を比較すると、iso-stipitatic acidが10倍以上の高活性を示し、その7員環上の3つの連続する酸素原子の配置が重要であることが明らかとなった。さらにiso-stipitatic acid(10)を含め、それらC4位上の置換基がカルボン酸、アルコールやエーテルなどに変換しても、その抗マラリア活性が維持されている(化合物12-14)。さらにそれらの抗マラリア活性は7員環上に4つの連続する酸素原子(C6位は-OHもしくは-OMe)を有することで、そのIC50値がサブμMまで増強される(IC50値= 0.21〜0.46 μM)ことが明らかとなった(化合物17-19、21、22)。
図3. Puberulic acidのC6-デオキシ、C4-アルキルオキシおよびメチル化誘導体と抗マラリア活性 [青字はin vitroでのK1 strainに対するIC50値(μM)]
以上の結果から、トロポロン骨格上の無置換のヒドロキシ基(もしくはカルボニル基)が連続して存在するpuberulic acidの活性が突出して高いこと、更にpuberulic acid C4位の置換基が変換許容であることが明らかとなったため、次にpuberulic acid C4位のカルボン酸部位をエステル、アミドへと変換を行った。
4.2 Puberulic acid C4位カルボン酸のエステルおよびアミド誘導体
Puberulic acidを酸性触媒存在下、メタノール中で加熱することで、メチルエステル化が速やかに進行するため、本反応条件を用いて様々なエステル誘導体の調製を試みた [17]。本エステル化条件において、第一級アルコールから第二級アルコールを用いることで対応するエステル体が得られたが、第三級アルコール(tert-ブチルアルコール; t-BuOH)では目的の生成物を得ることができなかったため、puberulic acid メチル エステル(23)から7員環上の水酸基のベンジル(Bn)保護、メチルエステルの加水分解から得られるカルボン酸体(40)に対してt-BuOHの脱水縮合後、Bn基の除去を行うことでt-Buエステル体(41)を調製した [17]。さらに本経路を利用してアミド誘導体(42、43)の合成も行った [17] (図4)。なおt-Buエステルおよびアミド誘導体において、水素添加反応によってBn基を除去する際、一般的に用いられるPd/Cを使用するとパラジウム金属がtropoloneとキレートを形成してしまい、反応後処理で残留パラジウムを除くことができなかった。種々の検討の結果、関東化学株式会社より市販されているパラジウム触媒が特殊なフィルムでコーティングされているPd/iO-brane®を用いると、反応後の濾過だけでパラジウム金属が基質とキレートを形成することなく除去でき、目的の誘導体を高収率で取得することができた。
また、アミド誘導体においては、第一級アミンとの縮合により得られるアミド体の調製も試みたが、縮合は進行するものの、最終段階のBn基除去において複雑な混合物を与える結果となった。これは生成するアミドが第二級であるためイミドとの互変異性があり、その過程で分解が進行したと考えられたので、アミド化反応は第二級アミンとの縮合にとどめた。
図4. Puberulic acidのエステルおよびアミド誘導体と抗マラリア活性[青字はin vitroでのK1 strainに対するIC50値(μM)] 四角内の化合物をin vivo評価に進めた
次に各種合成した誘導体についてin vitroでのマラリアK1株に対する抗マラリア活性を評価した(図4) [17]。メチル(Me)エステル体(23)はpuberulic acidの約1/20の活性であったが、側鎖を伸長したエチル(Et)エステル体(24)とノルマルプロピル(n-Pr)エステル体(25)及び分岐鎖をもつイソプロピル(i-Pr)エステル体(26)は天然物を凌ぐ高活性を示した。より長い分岐した炭素鎖を持つ27、28や環状の側鎖を持つ29-31が天然物とほぼ同等の高活性を維持した。以上の結果からC4位のエステル化が有効であり、また、炭素鎖の長さによって活性の強弱に差が生じていることから側鎖に関してはi-Pr基程度の脂溶性及び嵩高さが適切であると示唆された。さらに母骨格と環状鎖の間にメチレン鎖を介した環状構造の導入(32-34)は、32は比較的高活性を示すものの、環サイズが大きくなるにつれてその活性は劇的に減弱した。一方で、環内に硫黄原子を含む35や、不斉炭素を含む36-39はいずれも活性が減弱傾向にあるが、特に鏡像体の関係にある化合物で活性の強さに差があるのは興味深い。特に38と39を比較すると10倍近い活性の差が観察された。さらに第三級アルコールのエステル体であるt-Buエステル体(41)は天然物と同等の強力な抗マラリア活性を示し、アミド体(42、43)はpuberulic acidと比較して、その活性は減弱傾向にあったが、依然として強い抗マラリア作用を維持していた。
5. Puberulic acid C4位誘導体のin vivo 抗マラリア活性評価
次にin vitroで高活性を示したエステル誘導体(24-27、29-32、41)とアミド誘導体(42, 43)についてマラリア感染マウスを用いたin vivoでの評価を実施した [17]。図4の四角で囲まれた化合物群になる。
5.1 In vivo試験(腹腔内投与)
先と同様の方法(1日1回、4日間投与)でネズミマラリア(Plasmodium berghei N strain)感染マウスに対する腹腔内投与(15 mg/kg/day × 4)における抗マラリア活性を評価した(表3)。まずマラリア原虫を感染させたマウスに誘導体を15 mg/kg/day × 4で投与した。次に高い治療効果を示した化合物に関しては、二次試験として2 mg/kg/day × 4の投与で活性試験を行った。
表3 In vivo試験(腹腔内投与)における抗マラリア活性評価
compound Inhibition (%) Note
dosage dosage
15 mg/kg/day × 4 2 mg/kg/day × 4
puberulic acid – 69.0 s.c. administration
24 43.3 – toxica
25 71.5 – toxicb
26 99.0 68.1 safe
27 99.9 96.4 toxicc
29 99.9 44.0 safe
30 99.9 86.0 safe
31 99.9 92.2 safe
32 99.7 83.5 toxicd
41 99.7 74.7 safe
42 66.5 – toxice
43 49.5 – toxice
artesunate 95.5 44.7 safe
a体重減少が見られ5日目までに2/5のマウスが死亡; b体重減少のため3回で投与中止、5日目までに3/5のマウスが死亡; c15 mg/kg投与時のみ1/5のマウスが死亡;d15 mg/kg投与時のみ体重減少のため3回で投与中止、その後回復; e3/5のマウスが死亡
投与濃度15 mg/kg/day × 4における第一級アルコールとの縮合で合成したEtエステル24やn-Prエステル25は原虫増殖阻害率がそれぞれ43.3%、71.5%と中程度であり、さらにマウスへの毒性(体重減少)が観察された。しかし、同じく第一級アルコールのエステルであり、脂溶性を増した32に関しては体重減少を引き起すものの、そのマラリア原虫阻害率は99.7%と高い治療効果を示した。それらと比較して、第二級アルコールのエステル体26、27、29-31とt-Buエステル41は全て原虫増殖阻害率99%以上の高活性を示し、更に特筆すべきは27を除いて毒性を示さなかった。一方で、アミド誘導体42、43は中程度の原虫増殖阻害率且つ3/5のマウスが死亡する毒性を示した。
次に、投与濃度15 mg/kg/day × 4で原虫増殖阻害率99%以上を示した7種のエステル体26、27、29-32、41に対し、投与濃度2 mg/kg/day × 4で再度試験を行った。その結果、15 mg/kg/day × 4で毒性を示した27 と32は毒性を示さずにそれぞれ原虫増殖阻害率96.4%、83.5%と高い治療効果を示した。また、c-C5H9エステル29は阻害率44.0%であったが、脂溶性の増したc-C6H11エステル30とc-C7H13エステル31はそれぞれ86.0%、92.2%とより有効な数値を示した。この他、i-Prエステル26、t-Buエステル41はそれぞれ68.1%、74.7%と中程度の治療効果を示した。
以上より、puberulic acidのC4位エステル体とC4位アミド体はin vivo試験の腹腔内投与においても有効であり、中でも脂溶性を高めたエステル体では2 mg/kg/day × 4の低容量の条件において毒性を示さずに高い治療効果を示した。そこで、2 mg/kg/day × 4の低容量の条件において既存薬(artesunate)より高い原虫増殖阻害率を示した誘導体(表3で緑色の背景色の誘導体)の中からエステル26、27、30-32について経口投与による動物試験を実施した。
5.2 In vivo試験(経口投与)
安価で且つ経口投与で効果を示す新規抗マラリア薬が望まれているが、冒頭で述べたようにpuberulic acidは強力な抗マラリア活性を示すものの、100 mg/kg/day × 4の経口投与では、原虫増殖阻害効果は認められず、その血中移行性に問題があった。そのため腹腔内投与で特に高い治療効果を示した有望な誘導体(26、27、30-32)において、経口投与での抗マラリア活性発現が特に重要となるため、その評価を実施した(表4) [17]。
腹腔内投与において高活性であったエステル体は、いずれも経口投与(15 mg/kg/day × 4)においても効果的であり、更にマウスの死亡や体重減少などの毒性を示さなかった。これらの中でも特にエステル体27と30は既存薬(artesunate)を凌ぐ高活性を示した。また、c-C7H13エステル31は30と比べて活性が低下したことから、エステル官能基は脂溶性、嵩高さの両面からc-C6H11エステル30が限界であることが示唆された。この結果はトロポノイド類の化合物が経口投与において抗マラリア活性を示した初の例であり、天然物puberulic acidの課題であった「in vivoにおける活性向上」と「経口投与での活性発現」を乗り越えた化合物の創製に成功した。
表4. In vivo試験(経口投与)における抗マラリア活性評価
Compound Inhibition(%) Note
dosage dosage
15 mg/kg/day × 4 5 mg/kg/day × 4
puberulic acid 0.0 – –
26 64.2 – safe
27 92.9 0.0 safe
30 97.6 0.0 safe
31 79.3 – safe
32 82.0 – safe
artesunate 90.7 76.8 safe
一方で、本in vivo評価系において、既存薬のartesunateは投与量5 mg/kg/day × 4で76.8%の原虫増殖阻害活性を示すのに対し、puberulic acidエステル誘導体では、同投与量で原虫増殖阻害活性を示さない問題があった。当初、この原因はpuberulic acidエステル誘導体の血中安定性によるものだと考え、エステル誘導体の構造を模倣したケトン型誘導体を合成し、in vivo抗マラリア活性試験を実施した [17]。しかしながら5 mg/kg/day × 4の経口投与において効果を示す化合物を見出すことはできなかった。
今後の課題としては、既存薬であるartesunateのように低容量においても優れた有効性が示されるpuberulic acid誘導体の設計と創製であろう。本課題が克服されることで新しいタイプの抗マラリア薬が生まれることを期待したい。
6. おわりに
マラリアの歴史は長く、約3000年前の古代インドの聖典には、マラリアに起因すると考えられる致命的な発熱が記述されており、人類とマラリアとの闘いは数千年前から現在に至るまで依然として進行中である。最近では低分子薬によるマラリア治療だけでなく、マラリアワクチンの開発も注目されている。これまで原虫の複雑なライフサイクルを対象とするためマラリアワクチンの開発は困難とされてきたが、2015年にGlaxoSmithKline社が開発したマラリアワクチンRTS,S/AS01が臨床試験においてマラリアに対する防御効果が立証された。しかし、RTS,S/AS01は効果を得るために4回の接種が必要な上、接種を受けた小児の48ヶ月間の追跡調査では40%の有効性に留まるという報告もあり、長期的な予防効果に難があるため未だ完全なワクチンとは言い難い。2023年には第二世代ワクチンR21/Matrix-M も承認されているが、その効果は検証中の段階である。低分子のマラリア治療薬においても薬剤耐性原虫の出現が報告され、未だマラリアの根絶には至っていない。現状の打開には新たな作用機序を持ち、蔓延地域の経済的・衛生的状況から安価で且つ経口投与で効果を示す抗マラリア薬の開発が必要である。北里大学大村智記念研究所では、引き続き、微生物培養液からの抗マラリア活性物質の探索と、誘導体合成を展開し、次世代抗マラリア薬の開発に向け、今後も鋭意研究を継続していきたい。
謝辞
本研究は北里大学 大村智記念研究所で実施されたものであり、大村智特別栄誉教授をはじめ、抗マラリア活性の評価をしていただきました岩月正人教授、石山亜紀助教、穂苅玲助教、有機合成の実験遂行に多大な努力を注いでくれた千成恒助教、大学院生の齋藤亮さん、中嶋明日香さんに感謝申し上げます。本研究の一部は日本薬学会長井記念薬学研究奨励金、および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号JP24am121035の支援を受けて行われたものであり、併せて御礼申し上げます。
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///// Cutting Edge /////
天然抗酸化物質の高機能化を目指した構造展開
昭和大学 薬学部 福原 潔
1. はじめに
天然抗酸化物質は脂質過酸化におけるラジカル連鎖反応を停止し、DNAの酸化的損傷の原因となるフリーラジカルを消去することで生体内における酸化ストレスを抑制する。また、血糖上昇抑制作用やコレステロール低下作用等も有しており、これらの作用によってがんや心臓病、脳疾患などの生活習慣病を予防する。天然抗酸化物質はこのように予防物質として優れた作用をもつが、現在、医薬品としての利用は、合成抗酸化物質であるエダラボンが脳梗塞時の神経細胞毒性の抑制薬として利用されているにすぎない。代表的な天然抗酸化物質にはカテキン、プロアントシアニジン、レスベラトロールなどがあり、動脈硬化、脳梗塞、糖尿病、がん、アルツハイマー病、アレルギー、ウイルス性疾患などに予防作用や治療効果が報告されている。これらの多様な薬理作用にもかかわらず、多くの天然抗酸化物質は比較的活性が弱いため、医療目的での利用は難しい。天然抗酸化物質を特定の疾患を対照とした予防・治療物質へと機能を高める為には、ラジカル消去活性の増強、体内動態の制御、または抗酸化活性以外の生物活性の発現が必要であり、それに応じた化学修飾を検討する必要がある[1]。一方、天然抗酸化物資は比較的安全性が高い化合物であるがプロオキシダント効果や遺伝毒性に関する報告もあり、より安全性の高い化合物へと構造修飾が必要な場合もある。本稿では、我々が酸化ストレス関連疾患の克服に向けて取り組んできた、天然抗酸化物質をファーマコフォアとした創薬研究を紹介する。
2. メチル基の導入
2.1 レスベラトロールのメチル誘導体
メチル基はコンパクトな置換基であるため導入しても生体分子との相互作用に大きな影響を与えない。しかし導入位置によってはレセプターなどの結合状態を大きく変化させることが可能である。また、二重結合や芳香環のπ結合と相互作用し、超共役を通じて電子を供与することから、フェノール性抗酸化剤の還元力を大きく高めることができる。ブドウ果皮に含まれているフェノール性抗酸化物質のレスベラトロールは、がんや心疾患の予防物質および老化予防物質として注目を集めているが、DNAの合成と修復に必要なリボヌクレオチドレダクターゼを阻害して染色体異常を高頻度に誘発する(図1b)[2]。これはレスベラトロールのラジカル消去作用の本体である4’-OHが、リボヌクレオチドレダクターゼの活性中心にあるチロシルラジカルを消去してしまうことが原因である[3]。このようにレスベラトロールは抗酸化作用と遺伝毒性のどちらも4’-OHのラジカル消去作用に由来しているが、さらに強力な抗酸化活性を持ち遺伝毒性が軽減された安全性の高い抗酸化物質として、4’-OHのオルト位にメチル基を導入した誘導体を設計・合成した[4]。本化合物はメチル基の超共役作用によってレスベラトロールの60倍以上のラジカル消去活性を有する一方、メチル基が立体障害となって4’-OHのリボヌクレオチドレダクターゼの活性中心への取り込みが阻害される為、染色体異常は殆ど示さなかった(図1c)。フェノール性水酸基のオルト位へのメチル基の導入は非常にシンプルな構造修飾であるが遺伝毒性の軽減には大変有効であり、このような誘導化は多くのフェノール性抗酸化物質についても毒性軽減の構造修飾法として利用可能である。
図1. レスベラトロールによる染色体異常誘発作用(矢印:染色分体切断箇所)
2.2 フラボノイドのメチル誘導体
カテキンやフィセチン等のフラボノイドは、カテコール構造が抗酸化活性を示す本体であるが、レスベラトロールと同様にリボヌクレオチドレダクターゼの活性を強力に阻害する[5]。さらにカテコール構造が生体内でオルトキノン体に酸化されると、生体高分子と付加体を形成し易く、還元状態では酸素分子とレドックスサイクルを形成して活性酸素を発生する[6]。オルトキノン体は、カテキンが活性酸素を一電子還元したときに生成されるラジカルカチオン中間体の不均化反応によっても生成する。従って、カテキンの安全性を高める為にはカテコール構造とその酸化体のオルトキノンの生体高分子に対する反応性を低下させることが必要である。そこでカテキンのカテコール構造の2箇所のオルト位(2’位,5’位)にメチル基を導入した誘導体を設計・合成した(図2)[7]。メチル基を導入するとメチルレスベラトロールと同様にラジカル消去活性が大きく増強し、天然のカテキンと比べてジメチルカテキンは28倍強力なラジカル消去活性を示した。安全性については現在検証中だが、ジメチルカテキンはメチル基が立体障害となってリボヌクレオチドレダクターゼのチロシルラジカルを消去しない為、活性に影響しない。また、カテコール構造がオルトキノンに酸化されてもメチル基の立体障害によって生体高分子との反応が進行せず、容易に還元酵素によってカテキンが再生される。その結果、メチル基を導入したカテキンはラジカル消去活性の増強とともに、毒性の軽減および抗酸化効率の大幅な増強が期待される。
多くの野菜や果物に含まれているフィセチンは、活性酸素の消去作用とともに転写因子Nrf2を誘導して酸化ストレス防御遺伝子群を発現させる優れたフラボノイド系抗酸化物質であるが[8]、本化合物のカテコール構造もキノンに酸化されると細胞内で求核性の生体高分子と反応することが報告されている[9]。そこで、フィセチンについてもキノン酸化体の生体分子との反応を抑える目的でカテコール構造のオルト位(2’位、5’位)にメチル基を導入したモノおよびジメチル誘導体を合成したところ、ラジカル消去活性が大きく増強した(図2)。特に5’位-モノメチル体はフィセチンと比べて220倍強力なラジカル消去活性を示した[10]。2’位にメチル基を導入すると立体障害によりフィセチンのカテコール構造が大きくねじるが、5’位にメチル基を導入しても立体障害に影響を与えないため、5’位-モノメチル体は高い平面性を維持している。その結果、ラジカル消去によって生成するフィセチンラジカルの安定性が高くなるため、平衡がラジカル消去へとシフトしていることが考えられる。本化合物は、優れた生物活性を有する安全性の高い化合物として多くの酸化ストレス関連疾患への予防・治療薬としての利用が期待される。
図2. カテキンとフィセチンのメチル誘導体
3. 平面型カテキン誘導体
3.1 カテキンの立体構造固定化
メチル基を導入したカテキン等のフラボイノド系抗酸化物質を合成するためには、カテキン骨格からの合成が必要であり、フラボノイド系抗酸化物質に対して直接メチル化を行うことはできない。そこで、カテキン等の天然抗酸化物への電子供与基の導入方法として、カテコール骨格のC6’位とC環の3-OHとの間にオキサ-ピクテ・スペングラー反応を利用してイソプロピル基を導入する方法を開発した(図3)[11]。(+)-カテキンはカテコール骨格(B環)とクロマン骨格(AC環)が直交しているが、イソプロピル基が導入されると分子全体が平面に固定化された構造をとる。本化合物は天然カテキンの約5倍の強力なラジカル消去活性を示した。天然カテキンは抗酸化作用を示す一方で、金属イオンが存在すると3-OHが金属イオンと配位してプロオキシダント効果を示し酸化ストレスを増強させる。Fenton反応系(Fe3+/H2O2)による酸化的DNA損傷に対するカテキンと平面型カテキンの影響を調べたところ、カテキンはDNA損傷反応を促進するのに対して、C6’位と3-OHがイソプロピル基によってアルキル化されている平面型カテキンはDNA損傷を強力に抑制した。カテキンの立体構造固定化反応は、ラジカル消去活性の増強とプロオキシダント効果の軽減が可能であることから、安全性の高い優れた抗酸化剤の開発に有用と考えられる。
図3. カテキンの立体構造固定化反応
カテキンの立体構造の固定化で用いたイソプロピル基の導入反応は非常に簡便で高収率な1ステップ反応である。本反応は他のフラボノイドにも有効であり、茶カテキンの主要成分であるエピガロカテキンにイソプロピル基を導入して立体構造を固定化すると、ラジカル消去活性がエガロカテキンと比べて26倍増強した[12]。本反応ではイソプロピル基の導入にアセトンを用いるが、ケトン構造を利用することで様々な置換基を平面型カテキンに導入できる。その一例として、心血管系疾患の発症に関係している脂質ペルオキシルラジカルの消去を目的とした、高脂溶性の平面型カテキン誘導体を設計・合成した[13]。これらの誘導体はアセトンの代わりにアルキル側鎖(R = C1 〜 C9)を有するケトンをカテキンに反応させて合成した。ペルオキシルラジカルに対するラジカル消去活性は、アルキル側鎖が長くなるに従って増強し、C3、 C4で最も強力な活性を示した。しかし、さらに側鎖が長くなると活性の低下がみられた。同様の傾向はFenton反応系を用いた酸化的DNA損傷反応に対してもみられ、DNA切断反応の抑制はC4、 C5が最も強く、さらにアルキル側鎖を長くすると抑制作用は低下した。
3.2 平面型カテキンの抗ウイルス作用
カテキンに代表される多くのフラボノイド系天然抗酸化物は抗酸化作用の他に抗菌作用、抗ウイルス作用、脂質代謝促進作用等、様々な生物作用が報告されている[14]。そこで平面型カテキンの生物作用を検討したところ、α-グルコシダーゼ阻害作用、及び抗ウイルス作用を示した[15]。 抗ウイルス作用についてはニューカッスル病ウイルス(NDV)感染BHK細胞の細胞融合及び、水疱性口内炎ウイルス(VSV)感染BHK細胞における感染性ウイルスの培地への放出を指標とした検討を行った(図4)。これらの実験系でのカテキンの抗ウイルス作用は500µMでも全く認められないのに対して、平面型カテキン(R = C1)は250µMで細胞融合、VSVの放出を顕著に阻害した。また、アルキル側鎖を長くして脂溶性を増加させた平面型カテキンほど強力な阻害効果を示した。以上の生物作用は抗酸化活性とは直接関係ないが、カテキンの多様な生物作用を誘導化によって制御できることを示しており、平面型カテキンの医療への利用を期待させる極めて興味深い結果である。
図4. NDVによる細胞融合に対する平面型カテキンの阻害作用
3.3 塩基性アミノ酸の導入
カテキンのラジカル消去速度は塩基存在下で顕著に加速されるが、これは、塩基がラジカル消去反応の過程で生成するラジカルカチオン中間体を安定化することによる。そこでカテキンの分子内に塩基性部位を導入すれば、中性条件下でも塩基存在下と同様の安定化効果が得られてラジカル消去活性が増強すると考え、平面型カテキンに塩基性アミノ酸のリシンを導入した化合物(PCat-K)を設計・合成した(図5)[16]。PCat-Kはリシン側鎖のアミノ基がラジカルカチオンの付近に存在することが重要であり、適切な長さのリンカーを導入して4’位のOH基のプロトンとアミノ基の窒素との間で分子内水素結合を形成できる化合物を合成した。本化合物のラジカル消去活性はカテキンと比べて約420倍増強した。PCat-Kのラジカル消去活性の増強は、活性酸素種と反応したときに生成するラジカルカチオンをリシン側鎖のアミノ基が顕著に安定化しているためと考えられる。実際、PCat-Kのラジカルカチオンの最適化構造を計算したところ、4’位のOH基のプロトンがアミノ基の窒素に移動していることがわかった(図5)。平面型カテキンにアルギニンやヒスチジンを導入した誘導体も強力なラジカル消去活性を示し、その反応速度定数はアミノ酸のpKaと相関することから、塩基性置換基の導入はラジカル消去活性の増強法として有用なことが示された。
図5. 平面型カテキンのリシン付加体(PCat-K)のラジカル消去機構
3.4 DTPAの導入
生体内で鉄イオンが存在するとフェノール性抗酸化物質は酸素分子と酸化還元サイクルを形成して活性酸素を発生する[17]。また、細胞膜リン脂質の過酸化反応は鉄イオンを触媒として連鎖し脂質ヒドロキシルラジカルが蓄積することでフェロトーシスを引き起こす。このように鉄イオンが存在すると、抗酸化物質はプロオキシダントとして働き、酸化ストレス障害を亢進してしまう。そこで酸化ストレス障害部位から鉄イオンを除去し、さらに強力な抗酸化作用を発揮する抗酸化物質として、平面型カテキン(PCat)に鉄イオンに対して優れたキレート能力を有するDTPAを結合させた化合物(PCat-DTPA)を設計・合成した(図6)[18]。興味深いことにPCatにDTPAを結合させるとラジカル消去活性をほぼ示さなくなるが、鉄イオンと配位するとPCatの約3倍強力なラジカル消去活性を示した。Fenton反応系(Fe2+/H2O2)でDNAは側鎖の切断反応が進行する。この系に天然カテキンを添加するとプロオキシダント効果を示して側鎖の切断反応がさらに進行するが、PCat-DTPAを添加するとDNA鎖の切断はほぼ完全に抑制された。フェノール性抗酸化物質による活性酸素の消去はカテコール構造からの一電子移動反応によって進行するため、最高被占軌道(HOMO)の電子はカテコール構造に分布していることが必要である。そこで、これらの化合物のHOMOを分子軌道計算によって調べたところ、PCat-DTPAはカテコール構造の水酸基がDTPAと水素結合しており、HOMOはクロマン骨格のA環に局在していた。一方、鉄イオンを配位させたPCat-DTPAは、HOMOがカテコール骨格に局在しており、カテコール骨格から活性酸素への一電子移動反応が進行しやすいことがわかった。以上、PCat-DTPAは鉄イオンを配位して除去し、また、鉄イオン配位がトリガーとなって非常に強力なラジカル消去作用を示すことから、鉄イオンが関与する酸化ストレス障害に特異的に作用し、効率的に抗酸化作用を発揮する優れた抗酸化物質であることが明らかとなった。
図6. Fe3+配位によってラジカル消去活性がONになるPCat-DTPA
3.5 プロシアニジン誘導体
プロシアニジンはカテキン類が重合したポリマー(2〜15量体)で、リンゴやブドウ、カカオなどに含まれている植物の二次代謝産物である[19]。近年、抗酸化作用をはじめ、動脈硬化予防作用、脂質代謝促進作用、糖代謝促進作用などの生活習慣病予防・改善作用が報告されている。また、アルツハイマー病(AD)に対しては、報告例は少ないもののアミロイドβ(Aβ)の凝集抑制作用が近年明らかにされた[20]。しかしながらプロシアニジンは分子量の大きさからADに対する予防・治療薬への利用には血液脳関門への透過性が問題となっている。そこで、低分子プロシアニジンのカテキン二量体(プロシアニジンB3: Cat-Cat)が血液脳関門を通過できることに着目し、一方または両方のカテキン構造を平面に固定化した化合物(Cat-PCat、 PCat-PCat)を設計・合成した(図7)[21]。抗酸化作用を解析したところ、カテキンと比べてプロシアニジンB3(Cat-Cat)は約3.8倍の抗酸化活性を示したが、 Cat-PCatは、さらにCat-Catの1.9倍強力な抗酸化活性を示した。また、PCat-PCatはCat-PCatと比べて1.5倍、カテキンと比べて約11倍の強力な抗酸化活性を示した。化合物の抗酸化活性の強さがイオン化ポテンシャルと相関したことから、Cat-Catの立体構造を平面に固定化することで還元力が増強し、強力な抗酸化作用を示したことが考えられる。次にAβの凝集阻害作用と神経細胞毒性に対する抑制効果を検討した。アミロイド前駆体タンパク質からセクレターゼによって切り出されたAβは容易に凝集し、多量体を経てアミロイド繊維を形成する。この凝集過程で生成するオリゴマーが主に神経毒性を示すと考えられている。そこでAβの凝集に対する各化合物の阻害作用を検討したところ、全ての二量体はカテキンと比べてAβの凝集を強力に阻害した。二量体の立体を平面に固定化すると凝集阻害作用はさらに増強し、PCat-PCatが最も強力にAβの凝集を阻害した。また、これらの化合物はAβによる神経細胞毒性を有意に抑制し、特にPCat-PCatは強力な抑制作用を示した[22]。以上の結果より、カテキン二量体であるプロシアニジンB3の立体構造を平面に固定化すると、Aβの凝集を阻害して神経細胞毒性を抑制することが明らかとなった。これらの化合物は抗酸化作用も大きく増強していることから、AD患者の脳内で発生するAβ由来の酸化ストレスを強く抑制することが期待される。
図7. プロシアニジンB3のカテキン構造の平面固定化
3.6 シリビニン誘導体
カテキンなどのフラボノイド系抗酸化物質は、分子内に自由回転できるC-C単結合があり、様々なコンフォーメーションをとることができる。そのため、受容体や酵素などの生体分子に対しては誘導適合機構によって最適なコンフォーメーションをとることが必要である。我々が開発した平面型カテキンは誘導適合によるエントロピー損失を立体構造固定化によって抑えられるため、標的部位への親和性が高まり生物活性の増加が期待される。プロシアニジン誘導体がAβ凝集に対して強力な阻害作用を示したのは、立体固定されたコンフォーメーションがアミロイドβに対して高い結合親和性を示すため、アミロイド同士の結合を阻害することが考えられる。
マリアアザミの種子から抽出されるシリビニンは肝機能保護作用や抗がん作用、糖尿病改善作用など多様な生物活性を有しており、米国ではサプリメントとして汎用されている。アルツハイマー病に対しても予防効果が報告されており、シリビニンはAβの凝集を阻害して神経細胞毒性を抑制する[23]。シリビニンはカテキンと同様に立体構造に自由度があるが、Aβに対して凝集阻害作用を示すときには平面構造をとることが報告されている[24]。そこでシリビニンの立体構造を固定化することによって生物活性をさらに増強させることが可能と考え、自由回転を有する分子内フラバン構造を、立体構造を固定化したカテキン誘導体に置換した化合物(PSib)を設計・合成した(図8a)[25]。平面型カテキンを導入することで分子全体が平面に固定化されたPSibはシリビニンよりもさらに強力なAβ凝集阻害活性を示すとともに(図8b)、強力なα-グルコシダーゼ阻害作用、がん細胞増殖阻害作用を示した。カテキンの抗酸化活性を増強させる目的で開発した立体構造固定化は、フラボノイド骨格を有する抗酸化物質の活性増強に大変有用な方法であることから、様々な生理活性物質の活性増強法として期待される。
図8. 平面型カテキンに置換したシリビニン誘導体(PSib)のAβ凝集阻害作用
4. 終わりに
天然抗酸化物質は活性酸素や生体内で発生する多くのラジカル種に対して直接作用するだけでなく、転写因子Nrf2を活性化して酸化ストレス防御遺伝子群の発現を統一的に誘導し、また、免疫細胞においては細胞増殖やがんの誘導に関わる転写因子NF-κBを抑制する。他にもがんや脳神経系疾患、糖尿病、肥満などの疾患への予防に関わる様々な作用が報告されている。医薬品への応用が期待されるが、フェノール性化合物は一般的に細胞毒性が高く、吸収効率が低いことから医薬品への応用は難しいといわれている。しかしながら、細胞実験ではカテキンやケルセチンなどのフラボノイドは比較的強い毒性がみられるが、動物実験ではほとんど毒性を示さない。レスベラトロールは細胞レベルでは遺伝毒性を示すが、抗がん、抗動脈硬化、抗肥満などの有益な効果が動物実験で報告されている。本稿では、最もポピュラーな天然抗酸化物質であるカテキン等のフェノール性抗酸化物質から多くの誘導体が合成可能であり、それらの化合物は各種疾患の予防や治療につながる生物活性が飛躍的に増強していることを紹介した。対象とする疾患の病態と発症機構から、その予防と治療に有効な活性を有する抗酸化物質を創薬シーズとし、構造修飾による高機能化ができれば新たな医薬品の開発は十分可能と考えられる。天然抗酸化物質を利用した創薬が新薬開発のブレークスルーとなることを期待したい。
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///// Activities /////
<開催報告>
構造活性フォーラム2024
実行委員長 加藤幸一郎
九州大学大学院工学研究院応用化学部門
構造活性フォーラム2024「分子シミュレーション・実験・機械学習が導く創薬の未来」を2024年6月21日(金)にオンライン開催いたしました。今回のフォーラムは、分子シミュレーション・機械学習・実験がそれぞれ相互に連携しあい高度な研究開発が進められている現状を受け、様々な分野(材料・化学・生物分野)における先駆的な取り組みを知り、創薬分野への適用の可能性や今後の新たな切り口を検討・議論する場をご提供できればと思い企画しました。
プログラムは以下のとおりです。
講演1「化学研究のための大規模言語モデルの活用と構築の試み」
畠山 歓(東京工業大学)
講演2「原子レベルの汎用AIシミュレータ「MATLANTIS」とENEOSにおけるMaterials Informatics事例のご紹介」
小島 隆嗣(ENEOS株式会社)
講演3「機械学習が導くタンパク質の加速進化」
梅津 光央(東北大学)
講演4「脂質膜・脂質ナノ粒子の分子シミュレーション ―細胞内動態の解析に向けて―」
篠田 渉(岡山大学)
講演5「QM/MM法の基礎と創薬応用への新展開」
八木 清・杉田 有治(理化学研究所)
畠山先生からは大規模言語モデルを援用したロボットによる合成や物性予測の事例をご紹介いただきました。小島先生からは、汎用機械学習力場であるMatlantisの開発経緯や応用事例をご紹介いただきました。梅津先生からは、進化工学とベイズ最適化の組み合わせにより所望のタンパク質を高効率に取得する方法論や適用事例についてご紹介いただきました。篠田先生からは粗視化シミュレーションによるドラッグデリバリーシステムの大規模シミュレーション解析の方法論や解析事例をご紹介いただきました。八木先生からは量子・古典のハイブリッド手法であるQM/MMを用いた自由エネルギー摂動法の方法論や解析事例をご紹介いただきました。
本フォーラムは、創薬に限定せずに分子シミュレーション・実験・機械学習を用いた化学・材料・生物と多岐にわたる分野での最新の取り組みと課題について、9:55から16:45までの長時間に渡り、5つのご講演を実施いたしました。創薬以外の分野の先生方にご講演頂くということで、各講演の時間を60分設け、導入から最先端の取組までじっくりご紹介いただきました。参加者として、約120名の方に事前登録いただき、各ご講演の実際の視聴者数は100名前後でした。参加者構成として、およそ半数の方が企業に所属する方であり、一般的な学術集会に比べましても、企業所属の方が多い参加者構成になっていたのではないかと思います。さらに、学生参加者も多く、当分野・当部会の今後を担うであろう次世代の研究者にも他分野も含めた最新事例を広く知ってもらうことができたのではないかと思います。そのこともあってか、質疑の時間においても多数の質問をいただく事ができました。ご講演者、参加者の皆様のおかげをもちまして、大きなトラブルもなく大変盛況な会になったかと思います。
最後に、本フォーラムが大変活気のある充実したものになったのは、多くの皆様のご協力があってのことです。ご講演いただきました先生方、座長を務めていただいた先生方、活発な議論を行っていただいた参加者の方々に厚く御礼申し上げます。本フォーラムを成功に導いてくださったフォーラム実行委員の増田友秀先生(東レ株式会社)、高谷大輔先生(大阪大学)、渡邉千鶴先生(理化学研究所)、浴本亨先生(横浜市立大学)のご助力・ご支援に深く感謝いたします。また、日本薬学会構造活性相関部会としてご支援をいただいた本間光貴前部会長、竹田-志鷹真由子部会長、田上宇乃副部会長、前田美紀副部会長、前SARNews編集委員長の幸瞳先生、SARNews編集委員長の合田先生をはじめとする常任世話人・常任幹事・幹事の先生方に感謝いたします。開催運営のサポートをいただいた日本薬学会、協賛いただきましたCBI学会に感謝いたします。
来年の構造活性フォーラムは、摂南大学薬学部の河合健太郎先生が実行委員長を担当され、「AI・計算化学の産業応用と新展開」をテーマに2025年6月20日(金)の開催となります。ぜひ多くの皆様が来年のフォーラムにご参加いただき、活発なご議論の場となるよう、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
///// Activities /////
<会告>
第52回構造活性相関シンポジウム
主催: 日本薬学会構造活性相関部会
協賛: 情報計算化学生物学会(CBI学会)、日本農薬学会、日本薬学会医薬化学部会、日本薬学会レギュラトリーサイエンス部会、理論化学会、日本バイオインフォマティクス学会 (JSBi)
会期: 2024年12月12日(木)~13日(金)
会場: 川崎市産業振興会館(神奈川県川崎市幸区堀川町66番地20)1階ホール・4階展示場
討論主題
1. 生理活性物質の活性評価・構造展開・医農薬への応用
2. 基本パラメータ・基本手法・情報数理的アプローチ
3. 吸収・分布・代謝・毒性・環境毒性
4. in silico技術(薬物-受容体相互作用計算、仮想スクリーニングなど)
5. バイオインフォマティクス
6. 分子情報処理(データベースを含む)・データ予測
7. その他
発表形式:口頭発表(12月12日)・ポスター発表(12月12,13日)
特別講演(12月12日):
天能精一郎(神戸大学)
「特異な相互作用や機能に関わる複雑な電子状態と理論化学的アプローチ」
ミニシンポジウム「レギュラトリーサイエンスとQSAR」(12月13日)
構造活性相関研究の応用分野のひとつとして、規制の場での構造活性相関の活用の需要が近年高まっていることから、基調講演と招待講演3演題からなるミニシンポジウムを開催いたします。構造活性相関分野と関連分野を結び付け、発展させる場を提供することになれば幸いです。
基調講演:
本間正充(国立医薬品食品衛生研究所)
「レギュラトリーサイエンスにおけるAMES/QSARの利用」
招待講演1:伊丹悠人(国立環境研究所)
「生態リスク評価におけるQSARの活用」
招待講演2: 小山直己(中外製薬株式会社)
「ICH M7ガイドラインに準ずるQSARを活用した医薬品不純物の変異原性予測評価の基礎と実際」
招待講演3: 青柳智子(独立行政法人製品評価技術基盤機構)
「OECDにおけるQSARの行政利用の推進と日本の貢献」
参加登録費・懇親会参加費:
参加登録費 薬学会会員 一般 8,000円 学生 2,000円 金額は不課税(適用対象外)
非会員 一般 10,000円 学生 3,000円 金額は税込額
懇親会参加費 一般 6,000円 学生 4,000円 金額は税込額
参加登録申込
10月1日(火)~ 11月8日(金)12時まで
懇親会:川崎市産業振興会館4階展示場 12月12日(木)開催
その他、最新情報はホームページにてご確認ください。
HP:https://www.qsarj.org/52sympo/
問い合わせ先:
第52回構造活性相関シンポジウム実行委員会
国立医薬品食品衛生研究所 古濱彩子(実行委員長)
E-mail: sar2024@qsarj.org
部会役員人事
2024年度 常任世話人 2024/10/1現在
部会長 竹田–志鷹 真由子(北里大学 薬学部)
副部会長 田上 宇乃(味の素(株))
副部会長 前田 美紀(農業・食品産業技術総合研究機構)
会計幹事 川下 理日人(近畿大学 理工学部)
庶務幹事 河合 健太郎(摂南大学 薬学部)
広報幹事 加藤 博明(広島商船高等専門学校)
SAR News編集長 合田 浩明(昭和大学 薬学部)
ホームページ委員長 高木 達也(大阪大学大学院 薬学研究科)
構造活性相関部会の沿革と趣旨
1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。
1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSAR Newsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。
本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。
(https://sar.pharm.or.jp/)
編集後記
日本薬学会構造活性相関部会誌SAR News 第47号をお届けいたします。今号では、「天然物を基盤とした創薬」をテーマに、2つの研究グループの先生方にご寄稿をお願いいたしました。Perspective/Retrospective では、北里大学大村智記念研究所 廣瀬友靖先生、砂塚敏明先生に世界三大感染症の1つであるマラリアに対するこれまでの治療薬の概説、および天然物を基盤とした抗マラリア薬開発の将来展望をご紹介いただきました。Cutting Edge では、昭和大学薬学部 福原潔先生に、酸化ストレス関連疾患の克服に向けた天然抗酸化物質をファーマコフォアとした創薬研究についてご紹介いただきました。ご多忙の中、快くご執筆していただいた先生方に深く感謝申し上げます。
6 月に開催された構造活性フォーラムの報告および12 月の構造活性相関シンポジウムの会告も掲載いたしましたので、お目通しいただければ幸いです。(編集委員会)
(編集委員会)
SAR News No.47 2024年10月1日
発行: 日本薬学会 構造活性相関部会長 竹田–志鷹 真由子
SAR News編集委員会
(委員長)合田 浩明、浴本 亨、遠藤 智史、仲西 功、原田 俊幸、幸 瞳
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