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SAR News No.49

構造活性相関部会・ニュースレター <1 October, 2025>
SAR News No.49
「目次」
///// Perspective/Retrospective /////創薬における核磁気共鳴(NMR)の動向・展望理化学研究所木川隆則(日本核磁気共鳴学会会長) ・・・ 1
///// Cutting Edge /////創薬モダリティの多様化に対応した NMR法の活用東京大学大学院薬学系研究科竹内恒・・・ 創薬研究における固体 NMRの可能性:スピン超偏極による感度向上と技術革新大阪大学蛋白質研究所松木陽・・・ 917
///// Activities /////<報告>構造活性フォーラム 2025開催報告 摂南大学薬学部 河合健太郎 ・・・ 28
編集後記 ・・・ 30

///// Perspective/Retrospective /////
創薬における核磁気共鳴(NMR)の動向・展望
理化学研究所木川隆則(日本核磁気共鳴学会会長)

1.はじめに
核磁気共鳴法( NMR法)は、低分子から高分子に至るまでの分子の構造、動態、相互作用を原子レベルで明らかにできる計測法であり、その汎用性、非破壊性、そして高い再現性、定量性から広い分野に用いられている。創薬研究を含めた生命科学研究では、特に溶液中や細胞内といった生理的環境に近い条件下で観測できる点が、結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡にない独自の強みである。近年、 NMR関連の技術はハードウェア、ソフトウェア、そしてアプリケーションにおいて飛躍的な進歩を遂げており、創薬モダリティの拡大ともあわせて、低分子リガンドとタンパク質の結合様式評価から、膜タンパク質、抗体、 RNA、さらには、バイオ医薬品の品質評価に至るまで応用範囲が拡大している。本項では、 NMRの最新動向に焦点を当て、その現状と将来展望について述べる。

2.超高磁場化
NMRスペクトルの分解能と感度は磁場強度に比例して向上するため、高磁場化は常に NMR技術発展の重要な柱の一つである。2010年代は磁場強度の向上が停滞していたが、レアアース系高温超電導線材の技術進展により、 2019年に 1.1 GHz装置(磁場強度 25.9T)、 2020年に 1.2 GHz装置(同 28.2T)がそれぞれブルカーにより製品化され、これまでに 17台が導入されている(ほぼ全てが欧米圏に導入され他地域では韓国に 1.2 GHz装置が 1台導入済み)。さらに本年春の Joint ENC-ISMAR Conference 2025において 1.3 GHz(同 30.5T)の製品化成功が発表され[1]、近年は超高磁場化が着実に進展している。また我が国では、 JST未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」において、理化学研究所が日本電子と協力して 1.3 GHz装置の開発を進めている。
高磁場化のメリットとして想定される効果の一つである分解能の向上では、シグナルの重なりが激しい高分子量タンパク質やその複合体のスペクトル解析が飛躍的に改善する。特に、複数ドメインを持つ多機能タンパク質[2]、天然変性タンパク質( IDP)[3]、糖タンパク質[4]、そして近年新たな創薬モダリティとして注目される RNAの解析[5]において、超高磁場装置の分解能が解析の成功に大きく寄与することが報告されている。また、感度の向上はこれまでより微量の試料でも質の高いデータの取得を可能とする。これは、試料調製が困難な膜タンパク質や希少なターゲット分子の解析や、少ないリガンド量での結合評価を可能とする[6]。感度の向上は、安定同位体標識を施さない試料を天然存在同位体により測定することを可能にするため、バイオ医薬品の品質評価にも利用が拡がる[7]。さらに、 NMR代謝物分析の感度・精度の向上も期待され、医療・ヘルスケア領への波及効果もある。
固体 NMRは超高磁場化の恩恵が分かり易い手法であり、超高速マジック角回転や動的核分極 (DNP)との組合せによりさらにその効用が発揮される。特に生きた細胞環境下における観測に関してその活用が期待されている[8]。
これら「想定内」の効果に加えて、通常直接観測が困難な低存在比状態の検出にも優れることが報告されている[9]。生命科学分野ではこういった低存在比状態が機能発現に深く関与することが広く知られており、超高磁場 NMRが創薬ターゲット分子の機能発現と作用機序の解明に大きく貢献し、創薬研究の可能性を大きく広げることが期待される。余談となるが、材料科学分野では(おそらくは生命科学にヒントを得て)多様な状態の制御・活用による新材料創出を目ざす流れがあり金属触媒能に相関する低存在比状態の検出[10]などの成果が得られており、生命科学以外でも超高磁場 NMRによる低存在比状態検出の優位性が認識されはじめている。

現在の技術の発展で 1.4 GHzや 1.5 GHzの磁場強度は達成できるとの目算もあり、遠くない将来にこれらの超高磁場装置を利用できる日が来ることが想定される。その際には、低存在比状態の検出以外にも、超高磁場ならではのアプリケーションが創出され、 NMRを活用した創薬研究がより発展することを期待したい。

3.ヘテロ核の戦略的活用
タンパク質や核酸などの生体分子をターゲットとする場合においては、安定同位体標識を導入した試料を用いるのが一般的である。均一に 13C標識や 15N標識した試料と多次元測定による完全帰属を基盤として、重水素標識と TROSY法による緩和抑制により分解能と感度が向上し、さらにはメチル基選択的観測の手法も導入され、NMR法の解析対象のサイズ限界は徐々に向上し、現在では大きな分子系も解析対象となっている。対象によってはアミノ酸選択的標識が威力を発揮する[11]。
これらは、生体分子を対象とした仕様の溶液 NMR装置で実施できる 1H核観測測定が前提となっているが、更なる限界向上を目指すなかで 15N核観測測定の優位性が提唱され、抗体など巨大分子の観測に有効であることが示されている[12, 13]。15N核観測に最適化された検出器(ブルカー社では TXO型)を必要とするものの、特に超高磁場装置で高い効果を発揮するとされており、今後創薬研究の可能性を大きく広げることが期待されている。
また近年、フッ素核の利用が再び注目されている。NMR観測可能なフッ素核( 19F)は天然存在比 100%であり、 2番目に感度が良い核である(1H核の 83%)。また天然の生体分子には存在しないためバックグラウンドがなく「理想的なレポーター」として活用できるため、広く利用されてきた。
創薬の観点からは、フラグメントスクリーニングや薬剤結合検出に利用され、迅速かつ高感度な創薬支援技術として定着しつつある。フッ素は多くの医薬品に含まれる元素であり、狭い線幅と大きな化学シフト分散により、20種以上の化合物を混合した溶液でも化学シフトの重なりなく使用可能である。初期ヒット化合物を最適化するには、タンパク質-薬物複合体の構造情報が不可欠であるが、X線結晶解析やクライオ電子顕微鏡(CryoEM)は弱結合複合体には有効でないため特にフラグメントスクリーニングにおけるボトルネックとなっている。一方、NMRは弱結合複合体の構造情報取得に優れるためフラグメントスクリーニングにも有効である。この目的で、フッ素含有化合物で構成される化合物ライブラリーを用いた効率良いスクリーニングが提案されている[14]。
より広い生命科学研究の観点では、タンパク質等生体分子の解析にフッ素を導入した試料を用いた研究は 1990年代からおこなわれてきた[15]。例えば、一般的な発現系において、培地中のフェニルアラニンを置き換えることで 5-フルオロフェニルアラニンがタンパク質に導入できるなど、アミノ酸選択的なフッ素標識は比較的容易に実施可能である。また、非天然型アミノ酸を導入する直交系を利用して特定の一カ所のみにフッ素標識アミノ酸を導入することで、観測範囲を限定するかわりに詳細に解析することもおこなわれている[16]。このようなタンパク質のフッ素標識による解析は、各時代において、最先端の装置・技術を用いてもなお解析困難な系に対して適用されてきた。最近では、 CryoEMやクライオ電子トモグラフィー (CryoET)により巨大分子複合体や細胞内生体高分子などの解析が進むにつれ、それらのダイナミクスや相互作用など動的構造が注目されていることもあり、19F NMR研究が再注目されている[17-19]。実際、多くの研究成果が発表されており、例えば、膜輸送体[20]、リボソーム[21]、生きた細胞上の Ras[22]の研究例が報告されている。最近では、タンパク質だけでなく核酸の解析にも積極的に活用されており[23]、また溶液 NMRだけでなく固体 NMRによる細胞内タンパク質の解析例も報告されている[24]。さらに、 19Fに結合した 13C核の遅い緩和特性に着目して巨大分子に適用可能な手法が報告されている[25]

なお、フッ素標識の活用においてはいくつか留意点がある。まずフッ素原子は水素原子に対して半径差が小さく等容置換と見做されるが、化学的性質は異なるため分子間相互作用が変化する可能性がある[22]。また観測に対応した検出器・分光計を必要とするため、実施可能な装置が限定されている。

4. AI活用とデータ駆動型 NMR
NMRのデータ処理や解析には、従来より情報科学の手法が活用されてきた。タンパク質や RNA等の生体高分子の立体構造決定に用いられるシミュレーテッドアニーリング(SA)法や、近年多次元 NMR測定で広く一般的に用いられるようになっている不均一サンプリング(Non-Uniform Sampling、NUS)法で取得したスペクトルの再構築に用いられる最大エントロピー[26]、MDD[27]や IST[28]などはその典型例である。
最近、 AI特に機械学習の飛躍的な進展により研究開発スタイルは大きく変化し、特に創薬研究においては、一連の AlphaFold群の登場により既知の立体構造が得られない標的に対しても、創薬戦略を立てる道が開け大きなインパクトを与えている。NMRによる生体分子研究おいても AlphaFold群の活用は必須となっているが、それ以外にも AI/機械学習の技術導入が着実に進んでいる。
例えば、分解能調整や位相調整・ベースライン補正といった NMR測定の基本的な操作にも AIが導入されており、利用者がほとんど意識することなくその恩恵を受けている。深層学習を活用したスペクトルの再構築や Virtual decouplingにより、大きな分子の NMRスペクトルの質向上がはかられている[29]。ピーク自動認識や帰属支援は、従来から情報科学の導入により人手依存だった解析が効率化されていたが、AIの導入により熟練者による精度を達成しつつある。タンパク質等生体高分子の解析については、NMRスペクトルから帰属そして立体構造計算に至る過程に機械学習を導入した ARTINAによりスペクトルから立体構造決定に至る過程が自動化され[30]、AlphaFoldとの統合により解析精度が向上し [31]、これら機能は現在オンラインプラットフォーム”NMRtist” [32]として提供されている。また、 NMRにより得られる原子間距離情報と AlphaFold2の予測構造を組み合わせることにより、隠れた構造状態の検出を可能にする手法が提唱されている[33]。
さらに、AI/機械学習以外の情報科学手法の導入も進んでいる。ベイズ推論の枠組みを組み込んスペクトル解析法「ベイズ計測」[34]は恣意性を排除した解析を実現し、S/N比が低くノイズに埋もれたシグナルの顕在化・解析を得意とする。X線光電子分光(XPS)などの分光法に適用され成果をあげており[35]、感度が低く解析困難な in-cell NMRスペクトルの解析にも効果を発揮した [22]。また、ベイズ最適化や強化学習を利用した実験設計(実験条件の選定)は、限られた測定時間において得られる情報量を最大化する測定戦略として有効であり、逐次的な化学シフト測定や Chemical Exchange Saturation Transfer (CEST)実験の最適化[36]に適用されその効果が示されている。低分子測定においては「自律的に判断し測定を進める NMR」が実現しつつあるが、より複雑で条件設定の難易度が高い生体分子の測定においてもその実現が期待される。
急速に進化し普及した大規模言語モデル( LLM)(ChatGPTや Geminiの基盤)の活用も進みつつある。すでに、生体分子磁気共鳴データバンク BMRBに登録されたデータを学習させたモデルにより、分子機能にリンクするタンパク質ダイナミクスの予想[37]や、公開された論文やデータベースから情報を収集し化合物に関する NMRデータベースの構築[38]などが報告され、活用はさらに拡がっていくと思われる。
さらにその先には、 AIやロボティクスを基盤とした実験自動化技術との組合せにより、研究設計(すら AIが担う可能性もあるが…)以降の作業、即ち試料調製、データ測定、データ解析を AIが一貫しておこなう未来像が現実味を帯びてきたようにも予感される。

5.研究基盤の整備・活用
NMR装置の導入・維持管理・運用には、手間・コスト・人材を必要とする。超高磁場装置をはじめとした先端的な装置は高額であり、知識と技術を有する専門人材が必要であり、近年の冷媒高騰と入手難、円安基調による部材高騰もあわせて、一組織や部局レベルでの最先端 NMR装置の保有は難しくなっている。さらに学術界では基盤的経費不足がその傾向に拍車をかけている。
政府は、第 6期科学技術イノベーション基本計画において研究設備・機器の組織内外への共用の推進をうたい、それに従って共用制度の整備が進みつつある。NMR分野においては、全国の 8大学・研究機関の NMR研究基盤のネットワークである「NMRプラットフォーム」[39]では、分野を問わず産官学の利用者に対して広く設備・技術を提供している。特定の分野では、材料分野において「マテリアル先端リサーチインフラ( ARIM)」[40]が、生命科学分野において「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)」[41]が、それぞれ高磁場 NMRを始めとした設備・技術を提供している。研究基盤は人材育成機能も有しており、大学生・大学院生や若手研究者の手法・技術習得だけではなく大学・企業の技術系職員の技術向上・学びなおしにも貢献している。
欧州圏は研究基盤に関して先駆的な取組を進めており、主に EUが主導して研究基盤共用とネットワーク化を進めてきた。NMRに関しては第 6次フレームワーク・プログラム(2002年開始)の「EU-NMR」から活動が始まり、現在は構造生物学基盤組織「Instruct-ERIC」[42]に組み込まれている。欧州圏の 1.2 GHz装置はいずれも研究基盤に導入され Instruct-ERIC等を通じて国内外に対して共用されている。
一方米国では研究基盤の整備が遅れていたが、中規模研究基盤(予算規模:2000万ドル~1億ドル)を対象とした NSF Mid-scale Research Infrastructureプログラムにより整備が進み、 NMRに関してはオハイオ州立大に 1.2 GHz装置が、ウィスコンシン大学マディソン校とジョージア大に 1.1 GHzがそれぞれ導入され、「Network for Advanced NMR (NAN)」を通じて共用されている。また National Academiesは“The Current Status and Future Direction of High-Magnetic-Field Science and Technology in the United States”と題する報告書を発表[43]し、より多くの市販超高磁場装置の導入を提言した。
本項で述べたような、最先端の NMR装置、標識技術、情報技術の活用には、知識、経験、ノウハウを備えた人材と設備を必要とするため、全てを自ら準備することは非現実的であり、今後は特に共用された研究基盤の活用が研究開発推進の鍵となる。超高磁場装置 1.2 GHz/1.3 GHzの利活用が、知見獲得・製品開発に大きく貢献することが導入済み装置で得られた成果から明らかであり、我が国においても研究基盤に早期に整備され広く共用されることが、研究開発の促進と人材育成に必須であると思われる。

6.おわりに
本稿では、NMR 技術の近年の進展を俯瞰し、創薬研究への貢献と今後の展望をまとめた。超高磁場化、同位体標識、AI/機械学習、研究基盤のいずれもが個別に進歩を遂げつつ、相互に連携することで「創薬を支える標準技術」としての NMR を再定義している。今後は技術革新と基盤整備を両輪として進めることで、より迅速かつ効率的な創薬プロセスの実現が期待される。

参考文献
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[39] https://nmrpf.jp

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///// Cutting Edge /////
創薬モダリティの多様化に対応した NMR法の活用
東京大学大学院薬学系研究科竹内恒
1.はじめに
NMR法(核磁気共鳴法)は、溶液中で生体高分子やその複合体の立体構造を決定できるだけでなく、相互作用解析や運動性解析などを通じて、活性や機能と構造を直接関連付けられるのが特徴である。NMR法による構造・機能相関解析は、タンパク質などの生体高分子が構造を柔軟に変化させ、他の生体高分子や生理活性物質と複合体を形成して機能を発揮する様子を明らかにするだけでなく、創薬標的タンパク質を制御し薬効を発揮する分子を見出す創薬研究を推進する上でも重要である。実際、 NMR法はこれまでも創薬標的タンパク質に結合して活性を発揮する低分子化合物のスクリーニングや、相互作用解析に基づく構造最適化に活用されてきた[1-6]。
一方、近年の創薬モダリティの発展により、従来主流であった低分子医薬のみならず、抗体などの高分子バイオ医薬、中分子医薬、RNA医薬など、新たなモダリティも広く活用されるようになった。これらの新たな創薬モダリティは低分子医薬に比べ、高次構造に活性が依存するだけでなく、構造的な自由度が高いという特徴を有する。 NMR法は対象の立体構造のみならず動的構造も定量的に解析できるため、創薬モダリティが多様化する現代において、その重要性を一層増している。そこで本稿では、多様化した創薬モダリティに対する NMR法の活用を最新の事例を紹介しながら概説する。
2.高分子バイオ医薬の高次構造(HOS)解析における NMR法の活用
バイオ医薬品、特に治療用モノクローナル抗体( mAb)は、近年臨床において広く利用されるようになった。2024年末時点で市場に出回る治療用 mAbの数は 200種を超え、現在 1400種近くが商業的な臨床パイプラインにある[7]。治療用 mAbの多くはヒト IgGであり、抗原に結合する二つの Fab領域と免疫応答を担う Fc領域がヒンジ領域を介して結合した構造となっている。現在ではプロテインエンジニアリングの進歩により、多重特異性抗体や抗体薬物複合体なども上市され多様な構造の mAbが広く利用されている。
mAbの高次構造( HOS)は生物活性に直結するため、臨床応用において極めて重要である [8]。 HOSは製造工程や保存条件、あるいは部分的な変性や凝集などによって影響を受け、不適切な HOSは有効性の低下や副作用の原因となりうる。したがって、mAbの生物活性と安全性を保証するためには、製剤化された実際の保存条件下で、HOSを非侵襲的に評価する技術が必要となる。
従来、mAbの HOS解析には、質量分析、熱量測定、クロマトグラフィー、各種分光法など、多様な物理化学的手法が用いられてきた。これらの技術は有用な情報を提供する一方で、その多くがタンパク質全体の平均的な情報や間接的な情報を与えるにとどまり、原子レベルでの詳細な構造変化を捉えることは難しい。また、測定のために特殊な溶媒条件や温度を必要とすることが多く、実際の製剤条件下での姿を正確に反映しているとは限らない。特に、医薬品の劣化や副作用の原因となりうる、ごく微量に存在する不適切な構造状態を高感度かつ定量的に検出することは、既存技術の大きな課題であった。
NMR法では、様々な溶液中での生体分子の構造解析が可能であり、製剤化された条件下でバイオ医薬品の構造情報を非侵襲的に得ることができる。例えば、.H NMRシグナルの化学シフトと線幅は、それぞれの原子位置の構造とダイナミクスに敏感であるため、最も単純な 1次元 NMRスペクトルであっても、mAbの HOSの変化を反映し得る。しかし、実際に製剤化された mAbへ適用する場合、製剤に含まれる糖、アミノ酸、界面活性剤などの添加物からの強い NMRシグナルや、mAbの大きな分子量に起因する線幅の広がりによってスペクトルの特徴が失われることが問題となり、いくつかの工夫が必要となる。

図1 ..N検出 CRINEPT法による mAbの.次構造および糖鎖解析(A)皮下注射(SC)製剤(左)と静脈注射(IV)製剤(右)中のモノクローナル抗体( mAb)の..N検出 CRINEPTスペクトル。これらのスペクトルは 4 °Cで測定された。(B)..N検出 CRINEPT法によって解析された、ガラクトシル化状態の不均一性。(左)未処理 mAbの..N検出 CRINEPTスペクトルにおける Lys-248のシグナル(橙)を、酵素的に脱ガラクトシル化処理した ΔGalサンプル(青)およびガラクトシル化処理した Galサンプル(赤)のシグナルと共に示す。糖鎖模式図の黄色の丸がガラクトースである。(中) NMR法および(右)LC.MS解析から見積もられた、異なるガラクトシル化状態の比率。後者では G0_G2状態と G1_G1状態を区別できないことから存在比の上限と下限を表す。本図は[12]より許諾を受け転載。
例えば、PROtein FIngerprint by Line shape Enhancement (PROFILE)法[9]では、大きな抗体と小さな製剤成分との間の並進拡散速度の違いを利用して mAbの.H-1Dスペクトルを抽出したのち、人工的に広幅化を施したスペクトルを差し引くことで、mAbスペクトル中の特徴的な成分のみを抽出する。このような工夫を行うことで、異なる製剤条件にある同一の mAbを識別できる。 mAbに、より情報量の多い多次元 NMR法を適用しようとすると、その高分子量性が大きな障壁となる。一般的な戦略は、分子の回転拡散を促進し、NMR信号の感度と分解能を改善するため高温で測定することである。現在、高感度クライオプローブ技術の導入と、SOFAST(Selective Optimized Flip-Angle Short-Transient)法に代表される高速測定法や、不均一サンプリング( NUS)といったデータ取得の効率化により、天然同位体存在比での測定が可能となっている。例えば、 900 MHz、50 °Cの条件下で 12時間測定することで、mAbの.H-..Cメチル共鳴の 95%以上が観測可能である[10]。そのため、 2D NMR法を mAbの HOS評価のための信頼性の高い定常的な方

法にするための国際的な標準化の取り組みも進行中である。さらに近年導入された XL-ALSOFAST-HMQC法は、遅延デカップリングと磁化移動の最適化により、従来法と比較して数倍の感度で mAbの.H-..C相関シグナルを得ることに成功しており mAbの品質管理における有力な手法として期待されている[11]。
しかし、これらの.H検出 NMR実験の多くは高温条件下で行われており、低温では存在しない mAbの構造的・化学的不均一性を誘発する可能性がある。一方、典型的な保存温度(4 °C)ではタンパク質の回転拡散がさらに遅くなり(回転相関時間の増大)、信号の広幅化が著しくなるため、.H検出法では感度と分解能の良いスペクトルを得ることが困難となる。このような背景から、筆者らは最近、新規の..N直接検出 NMR実験である..N検出 CRINEPT法を開発した [12]。 ..N検出 CRINEPT法は、重水素化されていない高分子量タンパク質の高感度・高分解能測定を可能にする技術であり、実際、広範な温度( 4.32 °C)および複数の製剤条件下での mAbの観測に成功している(図 1A)。これらの製剤条件にはアミノ酸、界面活性剤、糖が含まれているが、これらの添加物はいずれも ..N検出 CRINEPT法では不要なシグナルを生成せず、非常にクリーンなスペクトルを得ることができる。また、..N検出 CRINEPT法を用いることで、 N結合型糖鎖の先端におけるガラクトシル修飾の不均一性を定量的に解析することも可能であった(図1
B)。したがって、 ..N検出 CRINEPT法は、バイオ医薬品の非侵襲的な HOS評価に適している。

3. NMR法を用いた中分子の細胞内移行活性の理解
中分子は、従来の低分子化合物では対応困難な創薬標的に対する、新しい創薬モダリティとして注目されている。環状ペプチドを含む多くの中分子には、細胞内移行性がないものの、一部は、細胞内に侵入しタンパク質 -タンパク質相互作用( protein-protein interaction: PPI)を阻害できるため、細胞内 PPIに干渉できる創薬モダリティとしての注目を集めている。特に中分子は低分子化合物に比べて、広い結合面をカバーできることもあり、PPIのような広く浅い相互作用面にも対応可能である。
その最たる例は、T細胞の活性化に関わる脱リン酸化酵素カルシニューリンを阻害し、免疫抑制効果を発揮する環状ペプチドであるシクロスポリンや、ペプチドではないが環状構造をつ FK506であろう[13-15]。シクロスポリンの細胞内移行には、ペプチド主鎖アミド NH基のメチル化が極めて重要であることが知られている。シクロスポリンは HN基の大半がメチル化を受けており、このことにより分子全体の疎水性度が増大し、脂質膜に移行しやすくなる。また、シクロスポリンの細胞内移行には、立体構造が水中と膜中で変化することも重要とされる[16, 17]。シクロスポリンは水中では極性基を露出した開いた構造をとるが、膜中では、極性の高い官能基を分子内部に向けて表面の疎水性度の高い閉じた構造をとり膜移行しやすくなる。また、その際の構造転換速度も膜透過の効率に影響するとされる[18]。しかし、それぞれの要素の膜透過への寄与が統合的に解析されたわけでは無いことに注意が必要である[19]。また、シクロスポリンは高い疎水性による自発的な膜内移行が想定されるが、疎水性度が高くなくとも細胞内移行性を示す中分子も存在する。このような中分子について、その細胞内移行性を決定する分子メカニズムを明らかにすることも期待される。
シクロラシンは、疎水性が比較的低いにも関わらず細胞内へ移行する特性を持ち、がん関連タンパク質である Ras-Rafの PPIを阻害する環状ペプチド群である[20]。代表的な類縁体であるシクロラシン 9A5は、H358肺がん細胞において約 3 μMの IC..値で細胞内シグナル伝達を阻害すると報告されている。一方、PPI阻害活性を向上させる目的で創出されたシクロラシン 9A54は、試験管内では 9A5を大きく上回る強力な阻害活性( IC.. = 18 nM)を示した。しかし、驚くべきことに、細胞を用いたアッセイでは 9A54の活性はむしろ低下し、その原因が細胞内移行性の低下にあることが示唆された。両者は 11アミノ酸残基からなる環状ペプチドで、細胞膜透過ペプチド(CPP)様のモチーフを共有している。異なるのは 3つのアミノ酸残基のみであり、9A54の方が全体的な疎水性は高まっている。このため、単純な一次配列や疎水性度から細胞内移行性を説明することは困難である。
筆者らはこの謎を解明するため、NMR法を用いて両ペプチドの立体構造を、性質の異なる溶媒中で詳細に解析した[21]。溶媒として、生体内水環境を模した水溶液と、細胞膜界面の環境を模倣する DMSOを選択した。DMSOは、水(比誘電率 ε.80)と膜内部(ε.2~4)の中間の比誘電率(ε=47)をち、ペプチドが膜と最初に相互作用する場のモデルとして有用である。

その結果、細胞内移行性の高い 9A5は、溶媒環境に応じてその立体構造を劇的に変化させる構造的可塑性を示した。水中では柔軟な開いた構造であったが、DMSO中ではコンパクトな構造へと変化した(図2A)。対照的に、細胞内移行性の低い 9A54は、水中では 9A5と同様の開いた構造をとり、DMSOに溶媒を変化させてもその構造を維したままであった(図2B)。この結果は、9A54が膜界面環境に置かれてもコンパクトな構造に変化できないことを示している。

図2 NMR法により明らかとなった環状ペプチドの細胞内移行メカニズム(A)シクロラシン 9A5および(B)9A54の化学構造、配列、水中及び DMSO中での構造アンサンブルを示す。シクロラシン 9A5と 9A54の間で異なる残基は太字で示し、赤で着色した。塩基性の残基は青、疎水性の残基は緑に着色した。CPP様モチーフの位置には下線を引いた。dAla、dNal、Fpa、dNle、 dVal、F2paは D-アラニン、D-2-ナフチルアラニン、L-4-フルオロフェニルアラニン、D-ノルロイシン、D-バリン、L-3,4-ジフルオロフェニルアラニン。(C)DMSO中の 9A5の塩基性および芳香族残基の分布。塩基性残基は青、芳香族残基は緑で示した。(D)シクロラシンの 2、3残基目の側鎖の嵩高さと細胞内移行活性の関係。細胞内移行性は、Ras-Raf相互作用の試験管内における IC50値と細胞における IC50値の比から算出した。文献[21]より許諾を得て転載。

DMSO中で 9A5が形成するコンパクトな構造を解析したところ、分子の片方の面に芳香族残基が集まって疎水性パッチを形成し、その周囲を塩基性であるアルギニン残基が取り囲む、特徴的な両親媒性構造をとることが分かった(図2C)。近年の研究で、このような両親媒性構造が、疎水性パッチを細胞膜の脂質二重層に挿入して膜に正の湾曲を誘起し、周囲のアルギニン残基が膜表面のリン酸基と相互作用して負の湾曲を誘起することで、効率的なエンドサイトーシスとそれに続くエンドソームからの脱出を促進することが示唆されている。DMSO中で観測された 9A5の構造は、このメカニズムを実行するのに最適な配置である。一方、 9A54は DMSO中でも開いた構造を維するため、このような機能的な両親媒性構造を形成できず、低い細胞内移行性につながると考えられる。
9A54がコンパクトな構造をとれない原因は、置換された 2つのアミノ酸残基にあった。9A54では、9A5の Thr-2と dAla-3が、より側鎖の嵩高い Tle-2と dVal-3に置き換わっている。この 2残基はペプチドのターン構造の先端に位置しており、9A54ではその嵩高さが立体障害となって、コンパクトな構造形成に必要なターン構造をとることが物理的に妨げられていた。すなわち、 NMR法を用いた構造・活性相関研究から、シクロラシンの細胞内移行性は、単純な疎水性ではなく、水環境での開いた構造と膜界面での両親媒性構造を切り替える構造的可塑性によってなされている。このモデルの妥当性は、他の 14種類の類縁体において、2番目と 3番目の残基の嵩高さと細胞内移行活性の間に明確な負の相関関係が見られたことからも強く支される(図2 D)。この知見は、環状ペプチドの細胞内移行性を付与するための新たな設計指針を提示すものであり、NMR法による様々な環境下での横断的な構造解析は、このような分子設計において今後も強力なツールとなることが期待される。

4. RNA医薬に対する NMR法の活用
RNA医薬は、タンパク質合成の上流に位置する RNA分子に作用する新しい医薬品である。タンパク質を直接標的とする従来薬とは異なり、その発現段階から介入できるため、これまで治療が困難であった疾患への応用が期待される。RNA医薬には mRNA医薬、siRNA医薬、アンチセンス核酸(ASO)など複数の種類が存在し、アプタマーもその一つである。
加齢黄斑変性( AMD)は、血管内皮増殖因子( VEGF…)による網膜の新生血管形成を原因とする主要な視覚障害疾患である。AMD治療薬ペガプタニブの有効成分 t44.27(図 3A)は、この VEGF…のヘパリン結合ドメイン( HBD; 図 3B, C)に、カルシウムイオン( Ca..)依存的に強く結合する RNAアプタマーである [22]。VEGFの活性化には HBDとヘパリンの結合が必須であるため、t44.27がこれを阻害することで薬効を発揮すると考えられてきた。しかし、その特異的な認識と機能阻害を司る詳細な分子メカニズムは不明であった。本研究では、 NMR法による化学シフト変化の濃度依存性解析や t44.27とヘパリンとの競合解析などから、この分子機構を原子レベルで解明した[23]。
解析の結果、t44.27が VEGF HBDに対し、分子内の異なる領域を使い分ける二段階の結合機構で作用することが明らかになった。まず第一段階として、t44.27の構造化されたヘアピン(HP)領域が VEGF HBDの中央部分と迅速に結合し(図3D中)、 μMオーダーの親和性をつ過渡的複合体を形成する。次に第二段階として、内部ループ( IL)領域が関与し、より広範な接触面を
つ強固な最終複合体へと変化する(図3D右)。この過は比較的ゆっくりと進行し、最終的に nMオーダーの高い親和性を生み出す。そして、この第二段階の強固な複合体形成こそが、 VEGF HBDからヘパリンを競合的に引き剥がし、その生理機能を阻害するために必須であることが突き止められた。
t44.27の機能には Ca..が不可欠とされるが、NMRおよび物理化学的解析の結果、少なくとも 2分子の Ca..が t44.27に直接結合し、特に第一段階の認識に重要な HP領域の塩基対形成を安定化させることが分かった(図3D左)。これは、タンパク質と結合する際にエネルギー的に不利なエントロピー損失を最小限に抑え、効率的な初期結合を可能にするための巧妙な戦略であると考えられる。
また、第二段階の強固な複合体形成に必須である IL領域に、薬剤活性を失わせることが知られている IL領域内のアデニン( A4, A5)への 2′-OMe修飾を施すと、第一段階の結合は維されたものの、第二段階の強固な複合体形成が阻害された。このことも IL領域が強固な最終複合体の形成に寄与することを明確に示している。

NMR法を用いた相互作用実験により VEGF HBD上で t44.27とヘパリンの結合部位が大きく重複していることが確認された。t44.27を、あらかじめ形成させておいたヘパリン-VEGF HBD複合体に添加すると、ヘパリンが複合体から遊離し、t44.27-VEGF HBD複合体が形成された。一方、過渡的複合体を形成する t44.27の HP領域のみでは、過剰量を加えてもヘパリンを置換できなかったことから、IL領域が介在する第二段階の最終複合体形成が、競合阻害活性の発揮に不可欠であることが結論付けられた。
本研究により、抗 VEGFアプタマーt44.27が、その治療効果を発揮する分子メカニズムが明らかとなった。t44.27は、まず HP領域で迅速に標的を捕捉し、続いて IL領域を用いてより広範な相互作用を形成し強固に結合する。この構造的な柔軟性を活かした二段階の結合様式こそが、標的タンパク質に対する高い特異性と親和性を両立させ、最終的にヘパリンとの競合阻害を可能にする鍵であった。
この知見は、タンパク質を標的とするアプタマー医薬の設計において、分子全体の動的性質や構造可塑性を考慮することの重要性を示しており、今後の核酸医薬開発における重要な設計指針となる。また、本研究は、このような複雑な分子認識過程の解明における NMR法の有用性をも示している。

図 3 NMR法により明らかとなった抗 VEGF RNAアプタマーt44.27の 2段階結合(A)t44.27および(B)VEGF HBDの配列。(C)VEGF HBDの立体構造。(D)NMR法により明らかとなった抗 VEGF RNAアプタマーt44.27の 2段階結合メカニズム。文献[23]より許諾を得て転載。

5. おわりに
本稿で概説したように、近年の創薬研究では抗体医薬、中分子、RNA医薬といった新たな創薬モダリティが台頭しており、それらの作用機序の解明において NMR法が不可欠な役割を担っている。静的な立体構造だけでなく、分子の動的な性質(ダイナミクス、構造可塑性)や、それらの機能との結びつきを原子レベルで解明できる点が NMR法の最大の強みである。抗体医薬においては、製剤・保存条件下での品質を保証するための HOS評価に NMR技術が貢献できることが明らかとなった。中分子医薬では、細胞内移行性の鍵が単純な物理化学的性質ではなく、環境に応じて構造を最適化する構造的可塑性であることが NMR法により突き止められた。 RNA医薬アプタマーについても、分子内の複数の領域が協調して段階的に標的を認識し、最終的に機能を阻害する二段階結合という動的なプロセスの存在を NMR法が突き止めた。これらの事例は、 NMR法が多様化する創薬モダリティに柔軟に適応し、その複雑な分子メカニズムを解き明かし、より合理的で高度な創薬設計を可能にするための強力なツールであることを明確に示している。
謝辞
本稿で取り上げた研究は、日本医療研究開発機構(AMED)「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(革新的中分子創薬技術の開発)および(RNA標的創薬技術開発)(研究代表者:嶋田一夫、研究分担者:竹内恒)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金挑戦的研究(萌芽)「製剤条件でバイオ医薬の立体構造を非侵襲的に評価する新規 NMR技術の開発(研究代表者:竹内恒)」「中分子の膜透過を評価し膜透過活性を付与する創薬基盤技術の構築(研究代表者:竹内恒)」の支援によって行われました。
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///// Cutting Edge /////
創薬研究における固体 NMRの可能性:スピン超偏極による感度向上と技術革新
大阪大学蛋白質研究所松木陽
1.はじめに
創薬研究において、蛋白質や薬剤分子について原子レベルでの詳細な構造を決定することは、
機能との相関を理解する上で極めて重要である。近年、 X線結晶回折法やクライオ電子顕微鏡法
といった構造解析技術の飛躍的な発展により、多くの生体分子の精密な立体構造が迅速に得られ
るようになってきた。しかし、創薬研究においては、静的な構造情報だけでは不十分である。生
体内で機能する蛋白質は絶えず動的な構造変化を伴い、環境との相互作用を通じてその機能を発
揮する。このような「動的な分子世界」を理解する上で、核磁気共鳴( NMR)分光法が果たす
役割は大きく、他の手法では代替困難な独自性を持つ。
NMRは分子の電子環境、動的挙動、構造アンサンブルを原子レベルで計測できる。特に固体
NMR法は、水溶液中でのブラウン運動が制限された分子系、すなわち脂質二重膜中の膜蛋白質(例えば GPCR)や巨大な蛋白質重合体であるアミロイド凝集体などの構造研究を可能にする。これらの分子系は現在最も重要な創薬標的でありながら、結晶化が困難であったり、本質的に非
結晶性であったりするため、従来の構造解析手法では解析が極めて困難である。
NMR法は、創薬研究において化合物スクリーニング、構造最適化、品質評価など、幅広い場
面で活用されているものの、その原理的な低感度は最大の弱点である。この感度問題を革命的に
解決する技術として、スピン超偏極を目的とした動的核偏極( Dynamic Nuclear Polarization; DNP)
法が近年注目を集めている。我々はこの 15年ほどにわたり、高磁場・高分解能条件における DNP
高感度化固体 NMR法の装置と方法論の開発に注力してきた。本稿ではまず NMR法の独自性・
有用性をおさらいし、ついで DNP法の基礎と実例データを紹介する。

2.創薬研究に有用な NMRでしか得られない情報
創薬研究において NMRが他の構造解析手法と一線を画すのは、その情報の質的な独自性にある。一般に NMRは核間距離情報( <5.)を多数測定し、これらの構造束縛件をすべて満たす立体構造を条件付き分子動力学計算によって決定する。さらに、残余双極子結合測定や常磁性緩和促進(PRE)法を用いることで、ドメインの相対配向や比較的長距離(.20.)の情報も取得可能である。このように近距離の構造情報を積み上げて全体構造を決定するアプローチは、結晶回折やクライオ電子顕微鏡のような全体像から原子分解能へと構造を絞り込む手法とは対照的である。構造決定の原理が全く異なるため、得られる情報も相補的になることが多い。
2.1水素原子まわりの情報
特に重要なのは、水素原子に関する精密な情報が取得できることである。水素原子は結晶回折
やクライオ電子顕微鏡では観察が困難であるが、側鎖の化学状態が化学反応を通じて生理機能(薬効)を担うことを考慮すると、側鎖末端のプロトン化状態やその推移の正確な情報は極めて
重要である。NMRでは核間距離測定による水素原子位置の決定、化学シフト値と DFT計算との
照合によるプロトン化状態の決定、さらには共有結合の分極度合いまで知ることができる。これ
により、水素結合の有無や強度を、分子の電子状態を通して定量的に評価できる。固体 NMRで
は例えばこれらを医薬品の錠剤内で直接計測することも可能である。
従来の回折法などから得られる幾何学的情報、つまりプロトンドナー.アクセプターの位置関
係から水素結合の存在が示唆されても、実際にはドナー側の結合がほとんど分極しておらず、水
素結合が形成されていないケースが 2.3割程度存在すると言われる。このような false positive は、創薬における分子設計において致命的な誤解を生む可能性があるが、 NMRの化学シフト値はこのような曖昧さを排除し、明確な判定を可能にする。ケト・エノール互変異性の区別なども、構造の「像」だけからの情報では誤判定が多いが、NMRシフト値は明確な判定を提供できる。

2.2弱い結合による分子認識
NMRでは薬物分子の結合部位を化学シフト摂動法などにより迅速に決定でき、結合定数の算出も可能である。結合定数がμMオーダーといった比較的弱い過渡的な分子結合についても同様の情報が得られることは、Fragment-Based Drug Design(FBDD)に大いに役立つ。また、薬物 -標的相互作用の本質的な理解にも大きな利点となる。固体 NMRでは、膜内在性チャネル蛋白質が pH依存的に集合・解散する可逆的クラスタリングを追跡することもできる [1]。さらに、受容体膜蛋白質についてリガンドの滴定測定や追い出し測定を天然の脂質二重膜中で行うことができる。

2.3分子動力学情報
NMRは分子運動性の情報を、ピコ秒(ps)からミリ秒(ms)までの広い時間スケールで定量的に取得できる。スピン緩和を利用した多彩な方法論が開発されており[2]、結晶回折やクライオ電子顕微鏡では困難な、柔軟な蛋白質の機能動態の解析が可能である。結晶回折やクライオ電子顕微鏡では、オープン・クローズドのようなメタステーブル状態の形状が大きく異なり、明確に分離できる場合には異なる構造を観察できるが、実際の生体分子の機能を議論する上では、そのような単純な二状態系はむしろ稀である。

2.4構造アンサンブル
NMRは構造が一義的に決まっていない系の解析にも力を発揮する。溶液 NMRでは蛋白質の特定部位における動的構造平衡の存在とその交換速度を取得できる [3]。固体 NMRではさらに進んで、構造アンサンブル全体の分布形状にまで言及できる可能性を有し、新しい方法論が考案されている[4]。
機能性蛋白質、例えば GPCRは一つの分子が多種のリガンドを認識し、多様なシグナルを発生させる柔軟な分子機械である。このような機能は単純なオン・オフスイッチとは本質的に異なる機構に根ざしており、その解明には NMRが不可欠である[3]。液液相分離(LLPS)を起こす天然変性蛋白質や天然変性領域の構造アンサンブル情報も、他の手法では取得困難なものの代表例である。LLPSの生理的重要性が広く認識される一方で、その分子構造基盤の解明が遅れているのは、確立された構造解析手法が適用できないことに起因しており、NMRならではの発展分野となっている。

2.5細胞内直接構造解析
混在・夾雑分子系の解析も NMR独自の貢献が期待される分野である。結晶回折は純粋な単結晶を、クライオ電子顕微鏡も通常は単分散した精製試料を必要とする。一方、NMRは原理的に対象分子の単離精製を要求せず、複雑な分子混合物中でも解析が可能である。さらに重要なことに、細胞内にある蛋白質を、細胞を破壊することなく直接構造解析できる稀有な手法であり、これは次世代の「細胞内直接構造生物学」発展の礎となる。クライオ電子線トモグラフィー(クライオ ET)による細胞内観察も進展しているが、原子分解能には到達していない。薬物スクリーニングを直接 in cellで実行することの利点は計り知れない。
固体 NMRを用いれば、アミロイド凝集体の高次構造多型を細胞内で直接測定できる可能性もある。凝集性蛋白質は有名な絵本スイミーに登場する魚群のように集合して、様々な高次構造体すなわち多型を形成する。同一蛋白質の凝集体であっても、多型の違いにより異なる脳神経変性疾患を引き起こしたり、異なる病態進行を誘発したりすることが知られている [6]。これまでにアルツハイマー病やパーキンソン病を起こす病的凝集体のみならず、たとえば長期記憶の固定に関与するような生理的な蛋白質凝集も知られている [5]。この多型と分子機能の相関解明は現代蛋白質科学においても最大の未解決問題の一つと言ってよく、創薬の観点からも重要である。多型は遺伝子(アミノ酸配列)で一義的に決定されず、細胞内環境が大きく左右することがわかっているため、 AlphaFold2/3による構造の予測は現状不可能である。配列-構造-機能が強く連関する従来のアンフィンセン原理から外れたこのような一群の蛋白質についての、実験的な構造研究が急務であり、細胞内での直接構造研究法の発展が本質的に重要である。 GPCRのような微妙な構造平衡変化を利用して多彩なシグナルを発生させる蛋白質も、天然の脂質二重膜環境の存在が重要であることが知られており、細胞内環境での構造決定が不可欠である。我々のラボでは細胞内直接構造研究に使える DNP-固体 NMR技術や装置づくりにも注力している(ラボ HP: https://www.protein.osaka-u.ac.jp/biophys/bussei.html)。

3.スピン超偏極の原理と技術革新
NMRが他の手法と相補的であり、独特の情報を与えることは上述した。一方で、NMRの最
大の技術的課題は、その原理的な低感度である。 NMRは低エネルギーの電磁波で励起される「ラジオ波分光学」であるため、本質的に感度が低い。例えば、構造研究に汎用される 16.4テスラ(T)磁場中で分裂した核スピン状態間のエネルギーは、可視光吸収スペクトルのエネルギーと比較して 100万分の 1というオーダーである。この小さなエネルギー分裂により、上向きと下向きの量子状態に核スピンがボルツマン分布する際の占有数差(偏極)が極めて小さくなる。これ
が原理的低感度の根本原因である。
3.1動的核偏極(DNP)法
偏極の増強による信号増強、感度改善を目指して歴史的に、より高磁場条件の利用や検出系回
路の冷却による熱雑音低減など多くの手段が実装され、それぞれ数倍程度の信号ノイズ比(S/N
比)改善を実現してきた。しかし、最近注目されているスピン超偏極・動的核偏極( DNP)法は、
これらとは桁違いの感度向上をもたらす画期的な手法である(図 1は装置概要)。DNP法は電子
スピンの高いボルツマン偏極(プロトン 1Hの約 660倍)を、強力な高周波数マイクロ波の照射
で励起して核スピンに移すことで NMR信号を増強、感度を向上させる発展途上の手法である。
電子スピン偏極が核スピンに移動した分だけ NMR信号が強化されるから、 1Hについて最大 660
倍の感度向上が得られる。また移動効率を上げるために多くの場合、試料を約 100 Kに冷却する
ので、キュリー効果による核スピン偏極が増大する効果もこれに加わる。したがって、得られる
最大の総合感度利得は室温 300 Kの従来法 NMRに比べて大変大きい(660×300/100 = 1980倍)。
現状 100 K程度の中程度の低温で、数十から百倍程度の感度向上が汎用的に可能となっており、
他の手法とは文字通り桁違いの感度利得を実現している。
DNP法では多くの場合、電子スピン偏極源として不対電子を保持する開殻系有機小分子や金
属錯体(偏極剤)を、目的溶質分子とともにグリセロール・水マトリクスに溶解する。試料はス
ピン緩和を抑制し偏極移動を促進するため冷却される。多くの装置では液体窒素を用いて 100 K
程度に冷却された窒素ガスで、スペクトル高分解能化のためのマジック角試料回転(MAS)が
実施される。偏極剤の電子スピンとマトリクスの 1H間の超微細結合を通じ、偏極剤直近の 1H
スピンに超偏極が誘起されると、この核スピン超偏極は試料内をスピン拡散現象により拡散し、
理想的には目的溶質を含む試料全体に超偏極が分配される(図 1左)。このとき解析対象分子は
マトリクスに溶解または懸濁されていればよく、大きな制約はない。この汎用性が DNP法を魅
力的にしている主要因である。
3.2装置開発と技術的挑戦
高磁場 NMR用の強磁場中で電子スピン共鳴を励起するには、極めて高周波のマイクロ波が必要となる。例えば、16.4 Tマグネットでは 460 GHzのマイクロ波が要求される。一般的な ESR装置の 9 GHzと比較して約 50倍の高周波である。この領域では波長が 1 mmを下回るため、マイクロ波領域を超えてサブミリ波、テラヘルツ波(0.46 THz)とも呼ばれ、遠赤外線に相当する光と電磁波の性質を併せ持つ特殊な電磁波となる。この THz波光源の製作、光の伝送、分極制御などが極めて困難な技術課題となっている [7]。

さらに深刻な問題は、スペクトル分解能向上のために高磁場条件へ移行すると、電子から核への移動効率(DNP効率)が原理的に急激に低下することであり、この問題は DNPコミュニティが長年解決できずにいた難題であった。

図 1.動的核偏極( DNP)を用いた高感度固体 NMR装置(右)と試料(左)の概略図。 DNPには従来の固体 NMR装置に加えて、THz波光源とその伝送路、NMR用のラジオ波と DNP用の THz波を同時に照射できるプローブ、低温の試料回転システムが必要である。試料は NMR磁石中のプローブ先端に位置しており、観測対象分子(丸)と偏極剤(四角)からなる凍結溶液である。THz波による励起で電子スピンの超偏極が直近の核スピンに移り、スピン拡散によって試料全体に分配される。
我々はこの高磁場での DNP効率低下問題に対し、ヘリウム温度 DNP装置をハードウェア面から一から開発することで、世界で初めてこれを解決した。従来の空気や窒素ガスではなく、密度も粘度も全く異なる単原子気体であるヘリウムガスによる高速極低温 MASの実現には、高度なエンジニアリング技術が必要であった。さらに重要な技術革新は、ヘリウムが高価な枯渇資源であることを考慮した閉回路ヘリウム温度 MAS装置の開発である[8]。ヘリウムガスが同一閉回路を循環するだけの構造を実現し、ヘリウムを一切消費せずに何週間でも 20 Kの MAS-DNP実験が可能となった。現実的な運転コストで、高効率の高磁場 DNPができるようになったのである。これにはプローブに向かう毎分 200 Lという大量のヘリウムガス流を、熱交換器通過の約 1秒の間に室温 300 Kから 20 Kへ急速冷却する技術の確立が不可欠であった[9]。
試料温度を 100 Kから 20 Kへ低下させることで、 DNP効率は 8倍以上向上した。また、キュリー効果により熱平衡偏極自体も 5倍向上した(合わせて 40倍)。加えて、戻りヘリウムガスによって検出コイル直後のプローブ内に設置したプリアンプを冷却することで、熱雑音の低減も同時に実現した(さらに 2倍)。総合感度利得は、この高磁場条件下で世界最高レベルを実現している(図 2)。

図 2. 高磁場 DNP装置開発の国際比較。感度利得と磁場強度の積(縦軸)の更新の歴史。大阪大学蛋白質研究所(OU)の装置(赤★)は突出した性能を誇る。MIT=マサチューセッツ工科大学、U-Lyon=フランス・リヨン大学、EPFL=スイス工科大学ローザンヌ校、Bruker=株
式会社ブルカー、Delft U=デルフト大学

この高感度は国内外の学術研究グループとの共同研究のみならず、文部科学省の NMRプラットフォーム事業を通して国内産業界にも開放されている(HP: https://nmrpf.jp/facility/osaka/)。バイオテクノロジー、化学、素材、創薬など、多くの企業が試料を持ち込み、従来では不可能だった高感度データを取得している。

3.3偏極剤の開発
装置開発と並行して、偏極剤開発にも注力してきた。2000年代初頭に高磁場条件でも比較的高い効率を維持できるクロス効果という DNP機構が理論的に理解され始め、2つの電子スピンと 1つの核スピンが関与する機構であることから、有機ラジカル分子を 2つ連結したバイラジカル偏極剤が登場した。 2つのラジカルを繋ぐリンカーの種類により DNP効率が大きく変動する現象の理由は長年謎であったが、2009年に g-テンソルの異方性の相対配向が重要であることが指摘され、分子構造と DNP効率の相関が理解され始めた[10]。この「 g-テンソルエンジニアリング」を基盤として偏極剤設計の大躍進が始まった。
現在の設計思想は大幅に発展し、テンソルの相互配向以外にも、双極子結合や J結合強度、電子緩和時間、水溶性、偏極剤からマトリクスへの高速偏極拡散性などが有効なパラメータとして認識されている[11]。最近では光励起により生じる超偏極を、マイクロ波を使用せずマトリクスに伝達する新しい設計思想も生まれている[12]。
偏極剤に関する最近の重要な観点の一つは Bioresistance(生体還元耐性)である。細胞内直接測定固体 NMR解析を目指すグループにとって、細胞内の強い還元環境で失活しない偏極剤が極めて重要となる。開殻系有機分子は準安定であり、機会があれば還元されて閉殻化し安定化しようとする。そのため従来から広く使用されるニトロキソ系ラジカル分子 TEMPOベースの偏極剤やバイラジカル群は、細胞内では 30分程度で失活し、DNP能を失う問題があった。
我々はこの問題に対する革新的解決策として、ナノダイヤモンド表面の不対電子を利用する方法を開発した。このナノダイヤモンド表面電子は、まず強い還元環境でも一切失活しない。この上、高磁場・ MAS件下でダイヤモンド粒子周囲のあらゆる分子に超偏極を誘起でき、分子の外部磁場配向への依存性もないため試料回転しても効率が低下しない画期的な偏極剤である
[13]。ダイヤモンド内部の NV中心にグリーンレーザー励起によって強い核スピン偏極を発生できることは、広く注目され研究されてきたが、一般的な高感度 NMR解析に使うには大きな問題がある。 NVセンターはダイヤモンドに深く埋まっているため、超偏極をそのダイヤモンドを構成する炭素核には渡せるが、ダイヤモンド外にある解析対象の分子一般に取り出すことが困難なのである。少なくとも構造研究に適した高磁場条件(B0 > 10 T)、MAS件下では世界的にも実現の見通しがたっていない。我々は高磁場、ヘリウム温度では表面電子スピンが光励起なしに高い偏極を有していること(p ~ 50%)、表面だから近隣分子に偏極を渡しやすいことなどに着目し、ブレークスルーにつなげた。
高い耐還元性能により、細胞内での長時間インキュベーションを経た分子送達も可能になり、蛋白質解析に必須の多次元 NMR測定にも対応できるようになった。ナノダイヤモンドは表面の化学修飾が容易であるため、分子送達、水溶性向上、膜透過などのための多彩な修飾が可能である。実際に細胞内での特異的分子送達も実現している。偏極剤が失活しないこと、送達できることは細胞内構造生物学実現への大きな一歩である。
細胞内研究にはこの上さらに独特の要求が生まれる。細胞内には解析対象の分子以外にも、生体分子が多数存在している。固体 NMRの場合、その分子量にかかわらず全ての分子が観測にかかるため、より高度な対処が求められる。すなわち、巨大な背景信号=非標的分子からの信号を抑制し、標的信号のみを抽出する技術が必須であり、重大な課題である。我々は最近、ナノ空間選択 DNP法を開発し、この解決策の一つとして提案した [14]。このように装置のみならず、偏極剤、方法論の多面的アプローチを推進している。

4.データ実例
4.1感度増強度評価のための標準試料
代表的な分子系の DNPによる信号増強例を図 3に示す。ウレアはメチル基を持たない水溶性小分子で、重水素化グリセロール・水マトリクスに溶解して標準試料として用いられる。メチル基がなく比較的核スピンの縦緩和時間が長いため、多くの DNP論文で信号増強度の標準試料として使用される。20 Kでの DNPなしのスペクトル(図 3a青)と比較して、THz波照射により DNPが起きると信号強度は劇的に向上する(赤)。我々の装置で実測した信号増強度(エンハンスメント)は ..on/off = 350倍(at 20 K)に達する。キュリー効果を含めると 350×15 = 5250倍の総合利得となる。 100 Kの従来 DNP装置では、同一磁場と偏極剤で ..on/offは 50に届かないため、驚異的な改善である。
メチル基を含む分子では、メチル基回転が核スピンの縦緩和 T1を促進する。T1が短いと超偏極がスピン拡散により配布される過程で核スピンが緩和し、超偏極の全体的蓄積が困難となる。これが従来の 100 K-DNP装置での大きな制約であったが、ヘリウム温度 DNP(20.30 K)ではメチル基回転が制限されるため、このマイナス効果を大幅に回避できる。

図 3. 生体系 DNP-enhanced固体 NMRデータの例。DNPなし(青)と DNPあり(赤)の 13Cスペクトル。(a) 標準試料の 13C-標識ウレア、 (b) 精製したリゾチーム微結晶、 (c) 生体骨まるごと試料。(b)、(c)は同位体標識しておらず、 DNPなしではほぼ解析に耐えないデータしか得
られない。

4.2蛋白質微結晶
対象分子系は蛋白質であっても材料分子であっても、必ずしもマトリクスに溶解している必要はなく、例えば微結晶が懸濁してあっても DNPは可能である。超偏極はマトリクス内を拡散し微結晶表面に到達するが、微結晶自体が 1Hを含有している場合、超偏極は結晶表面から内部に向かっても拡散できる。
リゾチームの同位体非標識微結晶の例(図 3b)では、微結晶をマトリクスに懸濁するというより、結晶表面全体がマトリクスでく濡れた状態に調製し、試料管の充填率を最適化している。 DNPにより..on/off ~200が得られ、同位体標識なしでも 13C信号が 30秒程度で明瞭に観察される。薬剤や材料表面など、産業界からの試料には同位体標識が通常施されていないため、その有用性は高い。蛋白質であるため当然メチル基が多数含まれているが、このような DNP効率の高さは、メチル基回転がスピン緩和シンクとして機能しにくくなるヘリウム温度の効果を示している。膜蛋白質などメチル基が特に多い試料では、従来の 100 K-DNPによるエンハンスメントは大きく制限されるが、ヘリウム温度 DNPでは多くの場合劇的な改善が得られる。

4.3膜蛋白質機能解析への応用
このヘリウム温度独特の感度利得を利用し、最近我々は脂質二重膜中に再構成されたハロロドプシンの活性部位におけるレチナール構造について、マイナーな中間状態を捉えられることを実証した。これにより、これまで解明が遅れていた光励起サイクルの後半 late photocycleでの新しい構造変化を発見した [15]。膜蛋白質の発現、精製には高い技術が要求されるし、収量も低い(通常ナノモル)ため、 DNPなしでは解析が困難であり、大きな助けになる。

4.4インタクトな天然複合系試料の解析
図 3cは天然骨粉末試料を直接超偏極した例である。当然同位体標識は施されていない。無機層アパタイト、有機層コラーゲンやその他有機小分子などの複雑な構造体であるが、良好なエンハンスメントを示している。この場合、水溶性偏極剤 AMUPolは、この構造体内に浸透し、親水的な無機層表面に局在することが示唆された。このような微細構造体内では氷成長が阻害されるため、氷生成を抑制するためのグリセロールマトリクスは不要となる。エンハンスメントは単純な水を含む骨試料でも問題なく得ることができた。

4.5水素結合の精密計測
通常観測困難な微弱信号を捉えることに、まずは意義がある。これに加え、より高度な技術・解析への展開も可能である。非ステロイド性抗炎症薬ジクロフェナクの分子内水素結合強度を確認する目的で、NH結合距離を計測した例を図 4a,bに示す。15Nは濃縮されておらず 0.4%の天然存在比信号から結合長を正確に決定した。1.03.という値を得て、通常の共有結合からの伸張率から考えて比較的弱い分子内水素結合が示唆される。相手のプロトンアクセプタ重原子までの距離も計測すれば、さらに水素結合のジオメトリの詳細を詰めることもできる。薬物錠剤内での薬物分子の水素結合状態は、薬効や ADME特性に重要な情報となる。これを標識なし、かつ錠剤のまま測定できることの意義は大きい。
同様の測定は蛋白質分子内でも可能である(図 4c)。非標識リゾチームの His15について実施した例では、His15-Thr89分子内水素結合について、中程度の強度の水素結合を捉えた。水素結合の強度やジオメトリの精密測定に着目した、薬剤と代謝酵素についての反応追跡型・構造生物学を推進できる可能性があり、興味深い。

図 4. 非標識天然試料での結合長測定例。 (a)ジクロフェナク粉末の 13C(青)、15N(緑)交差分極( CP)スペクトル。それぞれの測定時間は 3分、10分。vR = 6 kHz, T = 30 K。(b) 可変接触 CP測定による NH結合長の測定。交差分極の時間依存性が双極子結合によって振動する現象を核間距離に換算できる。(c) リゾチームの構造( PDB: 6CIW)。His15-Thr89側鎖間の水素
結合について、同様の計測を行った結果。

4.6構造アンサンブル解析の新展開
構造アンサンブル情報に直接迫ることができるのも固体 NMRの大きな利点である。構造が一義的に決まっている硬い蛋白質の構造は、現在では結晶回折(結晶化が可能であれば)やクライオ電子顕微鏡(単分散が可能であれば)が主流である。しかし、構造を柔軟に変化させ、動的構造平衡をわずかに傾けながら多彩なシグナリングを行う GPCRのような分子は、構造を特定の安定構造に誘導・固定して構造解析されることが多い。これは人工的なアプローチであり、実際に揺らいで機能する蛋白質の構造アンサンブルを直接測定できる技術も必要である。

また、液液相分離のように一定の構造を取らずアンサンブルとして特徴を維持し機能する重要な分子集合体も存在する[16]。
固体 NMRでは、このような柔軟な構造アンサンブルを瞬間凍結し、信号を解析することでどのようなアンサンブル化が起きているかを直接測定できる可能性がある。各構造はシフト値の違いとして鋭敏にスペクトルに反映されるため、特定の構造アンサンブルは特徴的な NMR信号の拡がりと強度、すなわち複雑な形状の NMR信号となって観測される。最近我々は、これをシフト値と立体構造の相関から逆算し、元のアンサンブルを解明する新しい手法を開発した。これは αシヌクレインが均一溶液から液液相分離を起こし、線維化する初期過程を詳細に追跡した応用例として報告した[4]。このような応用では微量ナノモル蛋白質試料について、広く低く分布した信号を検出する必要があり、DNPの高感度が必須となる。

5.将来展望
5.1細胞内直接構造生物学の実現
我々の最終目標は、生きた細胞内での蛋白質構造解析の実現である。ナノダイヤモンド偏極剤による細胞内超偏極技術と、空間選択的 DNP法の開発により、細胞内の特定蛋白質(例えばアミロイド凝集体)のみを選択的に観察する技術の確立が視野に入ってきた。これが実現すれば、薬物が細胞内でどのように作用するかを直接観察でき、創薬研究に革命をもたらすであろう。
細胞内構造生物学は、従来の「精製された蛋白質の構造解析」から「生理的環境下での蛋白質機能解析」への根本的なパラダイムシフトを意味する。GPCRのような微妙な構造平衡変化を利用して多彩なシグナリングを行う蛋白質は、天然の脂質二重膜環境での観察が本質的に重要である。また、アミロイド凝集体の多型が細胞内環境に依存して決定される現象も、細胞内直接観察によってのみ解明可能である。

5.2構造アンサンブル創薬学の確立
従来の構造に基づく創薬( SBDD)は、静的な結晶構造を前提としていた。しかし、実際の蛋白質は動的な構造アンサンブルとして存在し、薬物はこのアンサンブル平衡を微妙に変化させることで作用を発揮することがある。固体 NMRによる構造アンサンブル解析技術の発展により、このような動的構造変化を考慮した新しい創薬アプローチ「構造アンサンブル創薬学」の確立が期待される。
構造アンサンブル創薬学では、薬物-標的相互作用を単一の結合構造ではなく、構造アンサンブル全体の分布変化として捉える。これにより、アロステリック効果やコンフォメーション選択的結合など、従来の創薬では考慮が困難であった複雑な分子認識機構を活用した薬物設計が可能になるだろう。 LLPS蛋白質のアンサンブル解析も、この分野の発展に大きく貢献するだろう。

5.3抗体医薬品開発への応用
現在急速に市場を拡大している抗体医薬品の開発においても、固体 NMRの応用が始まっている。抗体分子の安定性や薬効とその構造アンサンブル特徴との相関を調べることで、より効果的で安定な抗体医薬品の設計が可能になると考えられる。
製剤中での抗体分子状態を直接評価できることは、品質管理の観点からも重要な意義を持つ。従来の分析手法では困難であった製剤環境下での抗体の高次構造変化や凝集状態の定量的評価が可能になり、より安定で有効性の高い抗体医薬品の開発が加速されるだろう。

5.4次世代病態解明への貢献
アルツハイマー病やパーキンソン病などの難治性疾患の根本的理解には、凝集多型の細胞内での直接構造解析や経時追跡が不可欠である。 DNP高感度化技術により、これらの病的凝集体の細胞内多型と病態との相関を解明することが可能になりつつある。これは、神経変性疾患の根本的治療法開発への重要な手がかりとなるであろう。独自のナノダイヤモンド偏極剤を用いた病院 MRIでの多型分布計測や早期診断への応用手法の研究にも着手している。

LLPSをはじめとする天然変性蛋白質の機能解析も、構造アンサンブル解析技術の発展により大きく進展すると期待される。

5.5技術基盤の更なる発展
信号帰属作業や距離測定などの解析プロセスは従来極めて労働集約的であり、時間を要する作業であった。信号帰属や構造計算を自動化するプログラムも開発されているが、まだ発展途上である[17][18]。混合物の信号からの情報抽出にも、人間の目で対応しきれない情報が詰まっており、最大限に活用できていない。しかし、 DNPによる感度向上により取得可能となった高品質データ、例えばニューロン内の凝集多型アンサンブルに対応する高次元データ、アミノ酸 3残基を渡り歩いたような高次の信号相関データなどと、人工知能技術の発展を組み合わせることで、これらの解析プロセスの恣意性の排除や大幅な効率化が期待される。
また、ラマン顕微イメージング、パワーレーザーDX、研究用高磁場 MRIなど他の分析技術との融合により、多角的な分子解析システムの構築も進展していくであろう。固体 NMRは、これらの技術と相補的に用いることで、より包括的な分子理解を可能にする。

6.まとめ
NMRは分子の「静止画」ではなく「動画」を観察できる稀有な分析手法である。特に固体 NMRは、従来の構造解析手法では困難な膜蛋白質や巨大分子複合体、病的凝集体などの解析を可能にし、創薬研究に新たな次元をもたらす。また、我々が開発したスピン超偏極技術、特に極低温 DNP技術により、固体 NMRの最大の弱点であった低感度問題が根本的に解決され、これまで不可能であった微量試料での高精度解析や、細胞内での直接構造観察という革新的技術が現実のものとなりつつある。
創薬研究において、我々が目指すのは単なる分析技術の向上ではない。生きている細胞内で機能する分子の真の姿を観察し、蛋白質科学を前進させること、薬物がどのように分子に作用するかを直接観察することで、より効果的で安全な薬物設計を可能にすることである。静的構造から動的機能へ、精製分子から生きた細胞内分子へ、そして一義的構造から多彩な構造アンサンブルへ。固体 NMRとスピン超偏極技術の融合により、創薬研究は新たな時代を迎えようとしている。この技術が、難治性疾患の克服と人々の健康な生活の実現に貢献することを期待している。また、本稿が固体 NMRという手法に興味を持っていただける機会となれば幸いである。
謝辞
本研究は JST-SENTAN、JST-ASTEP、JST-OPERA、JEOL-YOKOGUSHIの支援のもと行われた。
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[11] Menzildjian G., Schlagnitweit J., Casano G. et al., Polarizing agents for efficient high field DNP solid-state NMR spectroscopy under magic-angle spinning: from design principles to formulation strategies, Chem. Sci., 14, 6120-6248 (2023). doi: 10.1039/d3sc01079a.
[12] De Biasi F., Karthikeyan G., Visegradi M. et al., Light-Induced 1H NMR Hyperpolarization in Solids at 9.4 and 21.1 T, J Am Chem Soc, 146, 19667.19672 (2024). doi: 10.1021/jacs.4c06151
[13] Kato K., Takahashi H., Tamaki H. et al., Nanodiamond-based hyperpolarization for in-situ magic-angle-spinning nuclear magnetic resonance spectroscopy of proteins, ChemRxiv (2023). doi: 10.26434/chemrxiv-2023-x9m17-v2
[14] Zhang Z., Kato K., Tamaki H. et al., Background signal suppression by opposite polarity subtraction for targeted DNP NMR spectroscopy on mixture samples, Phys. Chem. Chem. Phys., 26, 9880 (2024). doi: 10.1039/d3cp06280e
[15] Zhang X., Tamaki H., Kikukawa T. et al., Structural changes of Natronomonas pharaonis halorhodopsin in its late photocycle revealed by solid-state NMR spectroscopy, Biophys

Chem, 315, 107329 (2024). doi: 10.1016/j.bpc.2024.107329
[16] Jeon S., Jeon Y., Lim J. Y. et al., Emerging regulatory mechanisms and functions of biomolecular condensates: implications for therapeutic targets, Signal Trans. Target. Ther. 10, 4 (2025). doi: 10.1038/s41392-024-02070-1.
[17] Klukowski P., Riek R., and G.ntert P., Rapid protein assignments and structures from raw NMR spectra with the deep learning technique ARTINA, Nat Commun, 13, 6151 (2022). doi: 10.1038/s41467-022-33879-5
[18] Kobayashi N. and Ishii Y., Analysis of solid-state NMR data facilitated by MagRO_NMRViewJ with Graph_Robot: Application for membrane protein and amyloid, Biophys Chem, 318, 107356 (2025). doi: 10.1016/j.bpc.2024.107356

///// Activities /////
<開催報告>
構造活性フォーラム 2025
実行委員長河合健太郎摂南大学薬学部
日本薬学会構造活性相関部会では、構造活性相関に関する学術・研究の振興および推進を目的として構造活性フォーラムを年 1回開催しています。2025年度は「AI・計算化学の産業応用と新展開」を開催テーマとし、 2025年 6月 20日(金)に本フォーラムを開催いたしました。
製薬関連企業では、計算化学や機械学習を含む先端的なインシリコ技術の開発や応用が進められており、多くのノウハウが蓄積されています。これら産業界における計算化学・機械学習の研究動向を知ることは、薬学研究者が新たな着想を得るうえで重要です。そこで、本フォーラムでは産業界を中心とした最先端の応用研究をご紹介いただき、AI・計算化学の新たな切り口について議論したいと考え、実行委員の先生方と議論を重ね、7名の先生方にご講演をお願いしました。
プログラムは以下のとおりです。講演1.大川和史(塩野義製薬)「AIと計算化学がもたらす新たな展望」講演2.半田耕一( Axcelead Drug Discovery Partners)「創薬における実践的な機械学習モデルの
追求」講演3.芹沢貴之(第一三共)Integration of open source and industrial science in Daiichi Sankyo講演4.上原彰太(塩野義製薬)「COVID-19経口治療薬 S-217622(エンシトレルビル)創製にお
ける Virtual Screeningの活用」講演5.森健一(アステラス製薬)「様々な創薬モダリティ研究を効率化するための AI活用事
例と展望」講演6.小野聡(ゼウレカ)「環状ペプチドのコンフォメーションと膜透過性」講演7.松尾篤(中外製薬)「中分子創薬プラットフォーム技術開発・ RAS阻害剤の創薬にお
ける、計算化学および立体構造ベースの分子設計」総合討論
大川和史先生(塩野義製薬)には、「AIと計算化学がもたらす新たな展望」と題して、フラグメント分子軌道法の応用についてご講演いただきました。半田耕一先生(Axcelead Drug Discovery Partners)には、「創薬における実践的な機械学習モデルの追求」と題して、ADMEモデルの構築に関してご講演いただきました。芹沢貴之先生(第一三共)には、「Integration of open source and industrial science in Daiichi Sankyo」と題して、大規模データを使った AIの創薬応用についてご講演いただきました。上原彰太先生(塩野義製薬)には、「COVID-19経口治療薬 S-217622(エンシトレルビル)創製における Virtual Screeningの活用」と題して、臨床医薬品の開発における計算化学の貢献についてご講演いただきました。森健一先生(アステラス製薬)には、「様々な創薬モダリティ研究を効率化するための AI活用事例と展望」と題し、様々なモダリティに対する AI応用の取り組みについてご講演いただきました。小野聡先生(ゼウレカ)には、「環状ペプチドのコンフォメーションと膜透過性」と題して、環状ペプチドの膜透過性指標の提案についてご講演いただきました。松尾篤先生(中外製薬)には、「中分子創薬プラットフォーム技術開発・RAS阻害剤の創薬における、計算化学および立体構造ベースの分子設計」と題して、環状ペプチド創薬における計算化学の貢献についてご講演いただきました。

本フォーラムはオンライン開催といたしましたが、講演者と座長の意思疎通や総合討論を円滑に進めるため、ご講演の先生方と実行委員(座長)の多くが東京会場に集合し、そこから配信いたしました。会場に集合することで、講演時のシステムトラブルへの対応も円滑に行うことができ、想定していた以上に充実した総合討論の時間が実現できたと感じております。オンライン開催の一形態として、非常に良い試みであったと考えております。214名の方にご参加いただき、無事に盛会のうちに終えることが出来ましたこと、ご講演いただいた先生方をはじめ、活発な議論にご参加いただいた出席者の皆様に対して心よりお礼申し上げます。
また、本フォーラムを成功に導いてくださった実行委員の小倉圭司先生(塩野義製薬)、佐藤和之先生(摂南大学)、永田尚也先生(住友ファーマ)、干川翔貴先生(摂南大学)、安江克尚先生(日本たばこ産業)、幸瞳先生(理化学研究所)のご助力に深く感謝いたします。さらに、構造活性相関部会の常任世話人、常任幹事、幹事の先生方に加え、開催運営にあたりサポート頂いた日本薬学会および協賛いただきました CBI学会にも感謝いたします。
来年の構造活性フォーラムは、近畿大学薬学部の中村真也先生が実行委員長を務められます。ぜひ多くの皆様にご参加いただき、活発な議論の場となりますよう、引き続きご支援のほどお願い申し上げます。

部会長 竹田 .志鷹真由子(北里大学薬学部)
副部会長 田上宇乃(味の素(株))
副部会長 前田美紀(農業・食品産業技術総合研究機構)
会計幹事 川下理日人(近畿大学理工学部)
庶務幹事 河合健太郎(摂南大学薬学部)
広報幹事 加藤博明(広島商船高等専門学校)
SAR News編集長 合田浩明(昭和医科大学薬学部)
ホームページ委員長 高木達也(大阪大学大学院薬学研究科)

部会役員一覧
2025年度常任世話人 2025/10/1現在
構造活性相関部会の沿革と趣旨
1970年代の前半、医農薬を含む生理活性物質の活性発現の分子機構、立体構造・電子構造の計算や活性データ処理に対するコンピュータの活用など、関連分野のめざましい発展にともなって、構造活性相関と分子設計に対する新しい方法論が世界的に台頭してきた。このような情勢に呼応するとともに、研究者の交流と情報交換、研究発表と方法論の普及の場を提供することを目的に設立されたのが本部会の前身の構造活性相関懇話会である。1975年5月京都において第1回の「懇話会」(シンポジウム)が旗揚げされ、1980年からは年1回の「構造活性相関シンポジウム」が関係諸学会の共催の下で定期的に開催されるようになった。
1993年より同シンポジウムは日本薬学会医薬化学部会の主催の下、関係学会の共催を得て行なわれることとなった。構造活性相関懇話会は1995年にその名称を同研究会に改め、シンポジウム開催の実務担当グループとしての役割を果すこととなった。2002年4月からは、日本薬学会の傘下組織の構造活性相関部会として再出発し、関連諸学会と密接な連携を保ちつつ、生理活性物質の構造活性相関に関する学術・研究の振興と推進に向けて活動している。現在それぞれ年1回のシンポジウムとフォーラムを開催するとともに、部会誌のSAR Newsを年2回発行し、関係領域の最新の情勢に関する啓蒙と広報活動を行っている。
本部会の沿革と趣旨および最新の動向などの詳細に関してはホームページを参照頂きたい。
(https://sar.pharm.or.jp/)
編集後記
日本薬学会構造活性相関部会誌 SAR News第 49号をお届けいたします。今号では、「創薬における NMR」をテーマに、第一線でご活躍の先生方にご寄稿をお願いいたしました。Perspective/Retrospectiveでは、日本核磁気共鳴学会会長の理化学研究所木川隆則先生に創薬における NMRの最新の動向、及び将来展望をご紹介いただきました。Cutting Edgeでは、東京大学大学院薬学系研究科竹内恒先生に様々な創薬モダリティに対する NMRの活用研究について、大阪大学蛋白質研究所松木陽先生に固体 NMRにおける最新の技術革新とその創薬研究への可能性について、ご紹介いただきました。ご多忙の中、快くご執筆していただいた先生方に深く感謝申し上げます。
また、6月に開催された構造活性フォーラムの報告も掲載いたしましたので、お目通しいただければ幸いです。(編集委員会)
SAR News No.49 2025年 10月 1日
発行:日本薬学会構造活性相関部会長竹田.志鷹真由子
SAR News編集委員会
(委員長)合田浩明、浴本亨、遠藤智史、仲西功、原田俊幸、幸瞳
*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転載を禁じます。