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  • 2021-10-01
    SAR News

    SARNews_41 SAR News No.41 「目次」 ///// Perspective/Retrospective ///// クライオ電子顕微鏡単粒子解析の適用可能範囲 高橋花南、牧野文信、元木創平、難波啓一、岩崎憲治 ・・・ 1 ///// Cutting Edge ///// クライオ電子顕微鏡法-学術基盤技術から創薬ツールへ 葦原雅道 ・・・ 10 分子動力学計算に基づくクライオ電顕構造のモデリングおよび最適化 森貴治 ・・・ 18 ///// Activities ///// <報告> 構造活性フォーラム2021 池口満徳 ・・・ 29 <会告> 第49回構造活性相関シンポジウム 仲西功 ・・・ 32 編集後記 ・・・ 33 ///// Perspective/Retrospective ///// クライオ電子顕微鏡単粒子解析の適用可能範囲 高橋花南1、牧野文信2,4、元木創平2、難波啓一3,4、岩崎憲治1 1筑波大学・生存ダイナミクス研究センター、2日本電子(株)、3理化学研究所、 4大阪大学・生命機能研究科 1. はじめに クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)+単粒子解析(SPA)による今のスタイルの高分解能解析が初めて報告されたのが2013年12月とすると、はや8年になる [1, 2]。この間に0.1 nmのFSC(Fourier Shell Correlation、フーリエシェル相関)分解能が報告されるような進歩から、クロマチンリモデリング複合体やメディエーターの転写開始前複合体のように非常に複雑でなおかつ細胞内では一時的な複合体が解かれるようになってきた [3, 4]。それでは一体どのような問題があり、どのようにして克服してきたのか。この先はどうなるのか。2013年あたりを起点に紙面の許す範囲で概括してみよう。 2.クライオ電子顕微鏡単粒子解析の技術に関するトピック 実は、ある先生から国内でいくらやってもうまくいかなかった試料を海外の某所と共同研究したところ、非常に短い期間で解析を終了しトップジャーナル掲載につながった話をこの原稿の構想を練っている時に聞いた。その勝因はやはり試料作製にあったという。クライオ電子顕微鏡というと、試料水溶液をガラス状の氷薄膜(分子配置が液体に非常に近い状態の氷)として物理固定する(これを包埋という)ため、「試料作製」という用語がこの氷包埋試料作製過程を指すことが多い。しかし、その会話の中で某先生が指摘された点は、氷包埋試料作製以前のタンパク質の調整方法についてであった。それは、通常の各種発現系を用いた大量精製や、細胞からの単離精製のプロトコルを指す。筆者らの経験からも100%この点が最重要なことに賛同する。 逆に言えば試料の状態にフォーカスできるくらいハードウェア、ソフトウェアが整ってきたということであろう。本節では、次の2点に絞ってクライオ電子顕微鏡単粒子解析のRetrospective/Perspectiveを見ていく。 ・氷包埋法の現在と未来 ・画像取得の現在と未来 2.1氷包埋法の現在と未来 2.1.1 氷包埋用グリッドの改良・開発 現在多くのユーザーが使用しているのはThermo Fisher Scientific(TF)社のVitrobotという急速凍結装置であり、そこで使われている氷包埋の原理は2017年ノーベル化学賞を受賞したJacques Dubochetが開発したものと何ら変わりはない。直径1 μm程度の穴が薄いカーボン膜に規則的な配列で開けてあり、ここにターゲット分子を溶解した水溶液を3 μL程度付着させる。濃度は試料に依存するが、一般的に1 mg/mL以上は必要である。水溶液の大半をろ紙で吸い取り穴に残った薄膜を急速凍結させることで試料粒子の氷包埋を実現する。さて、ここで様々な問題が起こり、これがクライオ電子顕微鏡単粒子解析による構造解析効率をぐっと下げている。Drulyteらの論文を参考に図1に整理したので見て頂きたい [5]。全て筆者らが経験したものである。(a)は、理想的な状態で粒子が単分散しなおかつ様々な方向を向いている。これでいろいろな角度の投影像データが得られるわけである。ところが、(b)のように粒子が大きい、もしくは氷が薄すぎると穴の縁に集まるという現象が起きる。これは実によく経験する。(c)は、カーボン膜の上に大部分の粒子が吸着してしまう現象である。このようなときに、まず高濃度の試料を大量に付着させてから、もう一度試料を加える、あるいは一度に大量に加えるという手法が採られることがある。このためにクライオ電子顕微鏡単粒子解析に用いる試料の濃度について一概に述べることができないのである。ここで試料作製過程において時折省かれる重要なファクターについて説明しておく必要がある。カーボン膜は疎水的なため、低真空放電(グロー放電という)を行うことで親水化処理する。残留気体のイオンの衝突とそれによる電子の放出現象の中で網状の金属に貼り付けたカーボンの膜(通称グリッド、またはカーボン膜付きグリッドと呼ぶ)を親水化する処理である。その時の親水化の程度はガラス状氷薄膜の厚みや形に非常に強く影響する。(d)は粒子が一方向を向いてしまう現象であり、非常にやっかいである。この図ほどまでではなくともある程度粒子の配向に指向性が出てしまうことは頻繁に起こる。それは、気液界面の気相が疎水的なためである。この場合特定の方向の投影像データしか集まらず、分解能の空間異方性が強くなる原因となる。最後の(e)は気液界面への粒子の集積である。気相に触れた、あるいは露出した部分は、変性していると考えられているためこれらの粒子は、解析途中で除外されていく。この問題は深刻であり、著名な複数のグループから報告がある。その中には86%の粒子が気液界面で損傷を受けていると述べている例もある [6]。 図1. 氷包埋時における生体分子の挙動を頻出するパターンごとに示した図。それぞれ上段はグリッド上のガラス状氷薄膜を上から見た図、下段は横から見た図である。(参考文献[5]の論文を参考に作成) (a) 理想的な単粒子解析用の氷包埋試料。粒子が単分散しており、かつ方向性もランダムである。 (b) ガラス状氷の厚みが中心部で薄く、粒子が穴の縁に集まってしまっている状態。 (c) カーボン膜の上に試料が逃げてしまっている状態。 (d) 粒子が一方向を向いてしまっている状態。 (e) 気液界面に粒子が集まってしまっている状態。解析時に除外される。 では、現在どのような解決策が採られているかというと、程度の差こそあれ(b)?(e)全ての問題を改善する方法としてグラフェンの使用が広まっている。穴があいているカーボン膜には厚さ30 nm程のアモルファス状のカーボンが使用されている。薄いとはいえ穴を維持するため解析には不向きな厚さを持ち、強い背景コントラストを形成する。そこで数nm程度の厚みの非常に薄いアモルファス状のカーボン膜をこの穴の上にのせ、そこに粒子を吸着させる方法が時折採用される。しかし薄いとはいえ、それでも有意な背景シグナルとして画像を形成するので、小さな分子には不向きである。そこで登場したのがグラフェンであった。カーボン膜の穴の上に炭素原子の直径ほどの厚みしかもたず、なおかつ最高の強度をもつグラフェンを貼り付ける(というより敷くという方が操作としては近いだろう)。ここに粒子が吸着することで、気液界面に“浮いて”しまうことや、穴の縁への局在を避けることができ、単分散を実現することができる。配向指向性の問題も解決できることが多いが、ここで気をつけないといけないことは、グラフェンそのものは親水的でないということである。グロー放電中に置くとボロボロに壊れてしまう。そこで、様々な改良グラフェンが提案されており、現在も報告が相次いでいる。最初に広まったのはフレーク状の酸化グラフェンの使用である [7]。ミクロンからサブミクロンサイズのフレークだが、これだとフレークが高い頻度で重なる、うまく穴の上を覆うように乗ってくれない等、データ取得可能な場所が限られてしまい、使用するかどうかの好みは分かれているようである。最近では化学気相蒸着(CVD)により作製された大面積グラフェンが安価に利用でき、また様々な官能基で修飾し、規則的に分子を並べて吸着させる機能化グラフェンも提案されている [8]。さながらタンパク質チップのような代物である。研究室でのハンドメイドから脱却し、商品として安定した製造供給が可能になれば自動データ取得そのものだけでなく、凍結からデータ取得開始に至るまでの効率が非常に改善されることは想像に難くない。 2.1.2 凍結技法の改良・開発 また、凍結の自動化も各種試みられており、cryoWriterやSpotiton、VitroJetが有名どころであろう [9-11]。現在の凍結処理の問題点の一つはブロッティング操作にある。カーボン膜付きグリッドに試料溶液を付着させた後、ろ紙で余分な溶液を吸い取る。この操作がないと溶液内部において急速凍結が実現せず、また、氷層が厚くなってしまい、そもそも観察ができない。このとき、大部分の溶質であるタンパク質などの試料がろ紙に吸い取られるだけでなく、給水の流れが粒子の単分散を邪魔する。そこでブロッティングフリーの凍結方法の実現を試みたのがcryoWriterやSpotitonなどである。特にSpotitonでは時分割解析を狙った試みがなされており、原理的には謳われていたもののこれまで成功事例の少なかった時分割のクライオ電子顕微鏡単粒子解析が期待できる結果となっている。また、当然ながらこれらの装置開発の背景には自動化実現の目論見がある。 2.1.3 試料微動とゴールドグリッド カーボンに穴の開いた膜はメッシュ状の金属(銅やモリブデンが多い)の上に吸着されている。しかし、この構成が長年クライオ電顕ユーザーを苦しめてきた問題を引き起こす。電子線を照射した際におこる試料微動である。20?40 nm動くという報告もある [12]。0.1~0.2 nmの分解能が必要なときにこれはあまりにも大きな値である。銅とカーボン膜では液体窒素温度への冷却で収縮の程度に差が出る。まずこれが一つの原因である。また液体窒素温度下での電気伝導性の低さの問題もある。電荷が蓄積し、これが画像劣化につながる様々な原因をつくる。そこで、Russoたちは、金属部分をすべて金製にしたグリッドを作製したところ、飛躍的にこれらの問題は改善した [12]。ゴールドグリッドとして販売されるようになったこのグリッドは、現在のクライオ電顕単粒子解析ではほぼスタンダードになりつつある。 2.1.4 氷包埋法の未来 誰しもが思い描くのは次のような氷包埋装置だろう??試料を溶解した水溶液を装置にセットすれば、あとは自動で凍結条件を変えた氷包埋試料を作製して、なおかつクライオ電子顕微鏡に自動で挿入され、順番に良い試料かどうか判定される。Spotitonを開発したBridget Carragherは非常に早くからクライオ電子顕微鏡データ取得の全自動化を開発してきた。クライオ電顕解析がまだ黎明期であった90年代には、穴にあいたカーボン膜も自作で、穴の大きさも形もまちまち、場所はランダム。凍結は湿度を調節することなく、勘やろ紙に染み出ていく溶液量を光に透かしながら見るなど職人的要素を強いられるプロセスだった。それが逆にオペレーターに付加価値を与えた。しかし、今ここにきて販売されている新装置を考えると、それほど時間もかからず完全自動化が実現するような気がする。Fragment-Based Drug Design(FBDD)まで見据えた開発を行うのであれば当然の方向である。海外からの開発販売を待つのではなく、国内で完全製品化まで開発できる環境があれば言うことはない。 2.2 画像取得の現在と未来?国産(JEOL社製)電子顕微鏡の巻き返し? 2.2.1 イメージシフトによる撮影 クライオ電子顕微鏡の自動撮影スピードはここ数年で大きく向上した。その理由はイメージシフトを活用した画像取得法が確立されたこととカメラの高速化が要因である。カメラについてはGatan社のK3、TF社のFalcon 4を始め、各社のダイレクトディテクターによる動画取得のスピードが向上したためであるが、今回の主旨とは離れてしまうため詳細は割愛させて頂く。イメージシフトによる撮影方法とはステージを動かさずに多数のホールを電子線の移動だけで撮影する方法である(図2.1)。この方法ではビームを移動させるためbeam tiltが起こるが、これを補正するbeam compensatorというキャリブレーションを行うことで電子線を数ミクロン動かしても分解能に影響なく撮影することが可能である。TF社のEPU(解析用ソフトウェア)でもこの撮影方法が現在メインとなっている。JEOL社はこの電子線の移動が30ミクロン以上可能であり、±15ミクロン程度はbeam compensatorがアクティブで、一度の移動で多数のホールを撮影可能である。JEOL社のCRYO ARM 300 Ⅱはビームを収斂させたときに現れるフリンジを抑えたケラー照明を実装しており、個々のホール内を複数撮影可能である。その結果、試料ステージの移動の度に100枚以上の撮影が可能となる。高速撮影を実現するに当たって重要な要素は、露光時間とデータ転送速度、ビームの移動速度である。Gatan社のK3を使用すると1500フレーム/秒で撮影できるので、1秒以下の短い露光時間で40フレーム以上の動画が記録可能である。また、K3はデータの保存速度が速く、Tiff形式の圧縮を行うことで1動画あたりのファイルサイズを小さくできる。JEOL社ではSerialEMという電子顕微鏡を操作するためのプログラムを使用し、イメージシフトを利用して高速自動撮影ができる [13]。最大の特徴は、豊富な操作コマンドを組み合わせたスクリプトを組むことでユーザーの好きなように画像取得が可能であること。JEOL社から提供されているPythonライブラリPyJEMを活用することもできる。これはPythonベースにDIYができるようなもので、ユーザーの好きなようにJEOLマシンを操作することが可能である。もちろん電子線の移動やbeam compensatorもPyJEMで制御可能であり、すでに様々な操作を可能とするJAFIS.pywというアプリケーションもある。CRYO ARM 300 ⅡではこれをSerialEM(電子顕微鏡用のオープンソフトウェア)と組み合わせることにより一時間で1280枚のapoferritinの像を撮影し、このデータから分解能1.47 Aの構造解析を達成した。これも現時点において高分解能構造解析の世界最高速記録である(図2.2) [14]。具体的には、倍率120kですべての条件を最適化(0.41 A/ピクセル、30フレーム動画、電子線量30 e-/A2、0.5秒露光、一度のステージ移動で5x5ホールおよび8イメージ/ホールのイメージシフトマルチショット撮影で計200枚を撮影)することにより、一枚あたり2.4秒、1分間で25枚の電顕像撮影を可能にした成果である。通常の倍率で撮影する場合(倍率60k、3秒露光)でも一時間あたり600枚程度は撮影可能である。自動撮影の設定さえすれば一晩足らずで5000枚ほど撮影でき、長めの昼休みでも1000枚程度撮影できる。現在のところ完全自動化にはまだ到達してないが、最近はSerialEMがPythonライブラリ化されてpythonから呼び出し可能になったことで、機械学習と組み合わせることにより完全自動撮影の実現は近いと思われる。 図2.1. イメージシフトによるマルチホール高速撮影の概念図 図2.2. 高速撮影によるアポフェリチンの構造解析結果 2.2.2 On-the-flyシステムの構成と特徴 撮影速度が高速化した現在、構造解析の最大のボトルネックは画像解析となった。画像解析は数日でできることもあれば一ヶ月かかることもよくある。On-the-flyシステムとは、撮影用とは別にGPUワークステーションを用意してカメラPCと接続し、撮影と並行して動画のブレ補正であるMotion CorrectionやCTF補正、粒子像の抽出などを行うシステムである。また、ある程度の画像データ収集ができた時点で二次元平均像の作成や三次元再構成を行うことができる。これらはRELIONやCryoSPARCでも利用可能である。また、Warpは非常に優秀で、機械学習を利用した理想的な粒子像の抽出ができることと処理速度が非常に速いという特徴がある [15]。On-the-flyを実現する上でオススメは10 Gbpsイーサネットを使用したNASサーバ構成である。他の複数のGPUマシンからアクセスすることで、WarpなどでMotion CorrectionやCTF補正、粒子像の抽出をしながらCryoSPARCやRELIONで解析することができる。これのメリットは、解析時間を短縮しつつ、ある程度データが溜まった時点で二次元平均像から粒子像の投影角度に偏りがあるかをその場で確認できること、また三次元再構成像から目標とする分解能の達成にどの程度の枚数の電顕像が必要かを計算できる点である。また、試料粒子像に変性や崩壊したものが多くある場合は、解析に使用できる粒子像がどの程度あるかを探ることで撮影枚数を設定することもできる。後述するが、JEOL社のマシンでは凍結試料グリッドが電子顕微鏡内に長期保存可能なので、他のユーザーが使わない日(例えば週末)に追加で撮影するかどうかを決めることもできる。また、共同利用の際には解析結果をその場で確認できるため、解析がある程度終わるまで数日から数週間という時間を経てからその後の方針を相談するより具体的な戦略を立てやすく、次回のサンプル調製や解析の相談までできて、外部利用者にとっては大きなメリットである。 2.2.3 国産クライオ電子顕微鏡CRYO ARMの運用方法 JEOL社はCRYO ARMをスクリーニング兼自動データ収集に使用することを推奨している。そのワークフローは日中に複数のグリッドをスクリーニングして、夜の間に自動撮影でデータ収集を行うというルーティンである。撮影速度が早いので、日中に各グリッドについて2時間ほどデータを収集してon-the-flyで様子をみるということも出来る。CRYO ARM 200/300では搬送系の窒素パージを前室で行うのでコンタミが少なく、ベイク無しでも数週間という長いスパンで凍結試料グリッドを電子顕微鏡内に保持可能である。このメリットは先程記述した通りマシンの共同利用で大いに発揮する。例えば、撮影したい試料グリッドが複数できたがマシンタイムが十分確保できなかった場合でも、試料グリッドを電子顕微鏡内に保持しておけば、別のユーザーの試料が不幸にも本格的データ収集に至らず終了してしまったタイミングですぐに自動撮影を仕掛けることができる。JEOL社はグリッドの搭載に細長いカートリッジ式を採用しているので、グリッドのマップはスクリーニングしたときのものがそのまま利用でき、位置もほとんどずれないため自動撮影の再設定に時間をかける必要もない。このように多くの利用者がいてもマシンタイムを無駄なく上手に活用できる。また、CRYO ARM 200は、一般にはスクリーニングマシンとして使用される加速電圧200 kVのマシンであるが、実はハイエンドマシンとしてのポテンシャルを十分に持っている。標準でエネルギーフィルタとCold FEG、K3カメラを搭載しているため、データ収集速度でも分解能でも300 kVマシンに引けを取らない性能を発揮する。米国NIHにインストールされたCRYO ARM 200ではβ-galactosidaseで1.8 Aを記録し [16]、他にも2 Aより高い分解能の構造がいくつも得られたと聞いている。このようにCRYO ARM 200でもスクリーニングから高分解能データ収集まで一括して行うことが可能であり、CRYO ARM 200と300が近くにある環境では200でスクリーニングしたグリッドを300にカートリッジごと移行させることで、簡単により高分解能の構造解析が期待できる。 TF社のマシンと比較して使い勝手が良くないと批判はあるが、JEOL製品に最適化されたSerialEMスクリプトを使用することで問題は解決できており、ルーティンとして使用する分には全く問題がない。スクリーニングのスピードやデータ収集速度、到達分解能において実質的な性能差は殆どない。データ収集速度ではJEOLマシンの方が優れている。TF社が提供するEPUほど洗練された自動撮影プログラムがない点では遅れを取っているが、ハードウェアとしてはCold FEGによる高解像度撮影が可能である点で優れており、あとはソフトウェアの問題であるため近い将来に挽回可能である。JEOLマシンはPyJEMを始めとして、機械学習をライブラリから利用できるPythonを使用することで、ごく近い将来に完全自動化が実装可能な状況である。そうなれば使い勝手という言葉は意味を持たず、ただデータを自動収集するマシンとなる。共同利用の際にクライオ電子顕微鏡をメーカーで選ぶ時代ではなくなり、利用料金やサービス、担当者で選ぶ時代がすぐそこまで来ている。 3. 国産のクライオ電子顕微鏡の共同利用開始 2.2項で述べた自動画像取得可能な最先端の国産クライオ電子顕微鏡が2台、筑波大学生存ダイナミクス研究センターに設置され、2021年度内に稼働を始める。AMEDが実施している創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)事業(https://www.binds.jp)の一環として運営される本機器は製薬企業等民間企業への支援を一番の目標としている。現実的な創薬への貢献が使命であり、そのためシステマティックな運営と、国産である最大のメリットとしてメーカーによる十分なバックアップ体制のもとでの利用が可能なことが挙げられる。近隣の高エネルギー加速器研究機構とともにTCEFと名付けられたチームとしてつくば地区で運営される。つくば地区が今まで以上に構造解析の巨大な共同利用施設の拠点として機能することになる。 4. SARへの貢献 実際、クライオ電子顕微鏡単粒子解析が創薬につながった例はまだ少ない。創薬に関連して構造活性相関に触れた成果としては2017年に報告された抗マラリア薬メフロキンの例が初期の例としてあげられるだろう [17]。有名な抗マラリア薬メフロキンが実はリボソームに結合していることを明らかにしただけでなく、その構造を基に作製した構造誘導体は寄生虫に対する殺傷効力が2倍になったことが報告されている。この時のメフロキンと80Sリボソーム複合体の分解能は3.2 Aと決して良い値ではなかった。 SARへの応用として、現在のクライオ電子顕微鏡単粒子解析の問題点は、一旦リード化合物との複合体構造が得られた後にある。様々な誘導体が結合した多数の構造を迅速に解いていかなくてはならない。これに現在のクライオ電子顕微鏡単粒子解析が耐えうる程の効率をもっているかというと、実現に向けて鋭意努力中というのが正直な答えだろう。表1をみて頂きたい。これは文献 [18, 19] を基に、さらに我々が独自に調べて作成した表である。GPCRへの取り組みが多いのには改めてなるほどと思わされるが、GABAA受容体を見て頂くと、チャネルブロッカーとしてピクロトキシニン、ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)としてジアゼパムとアルプラゾラム、PAMのアゴニストとしてフルマゼニル、アンタゴニストのビククリン、アゴニストとしてのGABAとの複合体がクライオ電子顕微鏡単粒子解析で解析されている。面白いのはジアゼパムがPAMとして細胞外ドメインに結合するだけでなく、神経ステロイドとして膜貫通部位に結合しているところが捉えられていることである。DRD1-Gsもみて頂きたい。5種類の化合物について結合状態が報告されている。 これらの結果は多種の化合物について、それぞれのターゲット分子との複合体が構造解析可能なことを示している。しかし、すべて3 A台の解析であり、SBDDを行うとなると不十分な解像度であろう。本来であれば1 A、悪くても2 Aを超える分解能は欲しい。確かに解析スピードは最大の課題であるが、ファーマコフォアのみに焦点を当てて高分解能解析を行うなどSBDDに特化した解析段階の工夫も必須だと考える。 表1. クライオ電子顕微鏡解析により解かれたターゲットタンパク質と薬剤複合体の構造 Drug-like ligand* Target MW (k)** Resolution (A) PDB/EMDB IDs GABAA GABA+PTX α1β3γ2L 337 3.0 6HUJ/0279 PTX α1β3γ2L 331 3.1 6HUG/0275 diazepam+GABA α1β3γ2L 338 3.6 6HUP/0283 ALP+GABA α1β3γ2L 337 3.3 6HUO/0282 GABA +flumazenil α1β2γ2 359, 363 3.9 6D6T, 6D6U/7816, 7817 BCC α1β3γ2L 337 3.7 6HUK/0280 GABA α1β1γ2S 342, 342 3.8, 3.1 6DW0, 6DW1/8922, 8923 GABA α5β3 262 3.5 6A96/6998 GPCR Calcitonin CTR?Gs 165 3.3 6NIY/9382 GLP-1 GLP-1?Gs 162 4.1 5VAI/8653 Exendin-P5 GLP-1?Gs 168 3.3 6B3J/7039 NECA A2AR?Gs 144 4.1 6GDG/4390 Donitriptan 5-HT1B?Go 112 3.8 6G79/4358 DAMGO MOR?Gi 154 3.5 6DDE/7868 ATR Opsin?Gi 188 4.5 6CMO/7517 Adenosine A1R?Gi 131 3.6 6D9H/7835 FUB CB1?Gi 171 3.5 6N4B/0339 CGRP CGRPR?Gs 184 3.3 6E3Y/8978 L-quisqualate mGluR5 209 4.0 6N51/0345 DRD1-Gs fenoldopam DRD1-Gs 161 3.22 7CKW/30392 A77636 DRD1-Gs 161 3.54 7CKX/30393 PW0464 DRD1-Gs 159 3.2 7CKY/30394 LY3154207 DRD1-Gs 159 3.1 7CKZ/30395 SKF83959 DRD1-Gs 159 3.3 7CRH/30452 * 紙面の都合上、略記をそのまま用いた。 ** リガンドを含む分子全体の分子量 謝辞 クライオ電子顕微鏡の導入は、AMEDの創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)事業によるものです。 参考文献 [1] Liao, M., Cao, E., Julius, D., and Cheng, Y. 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Cryo-EM as a powerful tool for drug discovery, Bioorg Med Chem Lett 30, 127524 (2020). ///// Cutting Edge ///// クライオ電子顕微鏡法-学術基盤技術から創薬ツールへ Thermo Fisher Scientific 葦原雅道 1. はじめに クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析法は、生体高分子の構造解析手法として利用例が飛躍的に急増している。その対象範囲は幅広く、ウィルスやリボソームといった超分子複合体から、創薬ターゲットとして極めて重要な膜タンパク質に至るまで原子モデル構築に足る分解能での構造解析を可能にしている。現在のX線結晶構造解析 (XRD) 法や核磁気共鳴 (NMR) 法では解析が困難な標的分子の構造解析を推進できる非常に魅力的な手法である。 では、単粒子構造解析法を含むクライオ電子顕微鏡法がいかなる技術革新を経てタンパク質立体構造解析の基盤技術に発展し、立体構造を詳細に解明してきたのであろうか。また、世界的パンデミックを引き起こしているCOVID-19ワクチン開発において、いかに構造的基盤情報を提供したのか。さらには本手法による高分解能構造情報がいかに創薬に適用され、今後の新薬開発にパラダイムシフトを起こす可能性を秘めているのか、本稿で順を追って解説する。 2. クライオ電子顕微鏡法 クライオ電子顕微鏡法とは、生体高分子等溶液状態の試料を非晶質氷に包埋し、液体窒素温度下で像観察を行う電子顕微鏡手法の総称である。その中で、代表的な三次元構造解析手法として、単粒子構造解析法、電子線トモグラフィー法、電子線回折法(MicroED法を含む)がある [1]。単粒子構造解析法はタンパク質の原子分解能での構造解析手法として近年最も普及している手法である。一方、電子線トモグラフィー法は細胞内のオルガネラや、ウィルスと宿主細胞との相互作用様式の解明など、単離精製せずin situでの構造解析を行えることから、単粒子構造解析法の次のフロンティアと目されている [2]。さらに、電子線回折法、特にMicroED法では、微小の三次元結晶から電子線回折法により構造決定可能である [3, 4]。微結晶からの回折パターンをもとにタンパク質のみならず有機・無機低分子化合物や金属・有機構造体 (Metal-Organic Framework: MOF) 、鉱物等幅広い分野で注目を集めている [5,6]。本稿では、主に単粒子構造解析法を中心に展開し、2.3項でMicroED法の応用について言及する。 2.1 クライオ電子顕微鏡の技術革新 クライオ電子顕微鏡法の開発は1980年台前半に遡る。Dubochet博士により開発された急速凍結技法により、溶液状態の生体高分子の生理的機能条件での可視化が可能となった [1, 7]。またHenderson博士により、生体高分子の電子線回折パターンから初めて原子モデルの構築にいたる [1, 8]。Frank博士が開発した電子顕微鏡画像からの立体構造解析アルゴリズムは現在主流である単粒子構造解析法の礎となっている [1, 9]。上記三名の先生方はその功績を称えられ2017年のノーベル化学賞を受賞された [10]。その後、装置、解析アルゴリズム双方の断続的な技術革新を経て、2000年代に入り大きな変革期を迎える。 近年の単粒子構造解析法による飛躍的な分解能の向上は、大きくクライオ電子顕微鏡システムの自動化、電子直接検出器と構造解析アルゴリズムの発展に起因する [1, 2]。従来、クライオ電子顕微鏡は急速凍結した試料グリッドを液体窒素温度下で専用試料ホルダーにより一つずつ電子顕微鏡に搬送していた。凍結試料の成否は凍結グリッド上での濃度、分散、非晶質氷の厚み等にかかる。最適な凍結グリッドに至るまでに複数回の試行錯誤が必要になる。そのため複数のグリッドを逐次搬送し、グリッドの最適化を迅速に行うことが急務であった。2007年に開発上市されたThermo Scientific Krios (当時FEI Company) の誕生により、凍結試料自動搬送機構Autoloaderを備え、最大12個の凍結グリッドを一度にセットし、順にクライオ電子顕微鏡鏡筒に搬送することで、最適グリッドの選定を最適化した。またKriosは液体窒素の自動供給機構とソフトウェアによる自動操作を完備し、最大で一週間連続での自動測定を可能にした。これによりデータ取得のスループットが大幅に向上することになる。 次に、画質の劇的な向上である。2013年に発表された電子直接検出器K2 (AMETEK-Gatan) の誕生により、単粒子構造解析法の分解能は一気に擬似原子分解能に到達する [11, 12]。電子直接検出器では、CMOSセンサーにより電子を電子のまま記録できることから、ピクセル間での強度情報のにじみがなく、S/Nの向上と画像コントラストの大幅な改善が図られた。現在、電子直接検出器として、K3 (AMETEK-Gatan) とFalcon 4 (Thermo Fisher Scientific) が主流である。 第三に、構造解析アルゴリズムにベイズ統計による推論を実装したRelion [13] の登場である。従来、単粒子構造解析法では個々の粒子像とレファレンス像との相互相関により、投影角度のアサインやクラス分けを実施していた。しかし、Relionでは事前確率と事後確率を指標に取り入れ、クラス分けにおける統計学的確からしさを計算する。Relionの登場により、上記二点の技術的ブレークスルーと相まって、単粒子構造解析法による分解能を原子モデル構築可能な3 Å以下にまで飛躍的に高めた [2]。 上記三点の技術的要件は、昨今のクライオ電子顕微鏡法に欠かすことのできない必須アイテムといえる。今後更なる要素技術の高度化が大いに期待される。 2.2 単粒子構造解析法は原子レベルへ 前項2.1.で三点の技術的マイルストーンを紹介した。タンパク質試料調整技術の成熟化と相まり、単粒子構造解析法は1 Å台前半まで高分解能化する。Apoferritinの構造が1.22 Å分解能で解析され、密度マップから水分子を明瞭に確認できる [14](図1 B)。またGABAA受容体も1.7 Å分解能で解析され、リガンドの結合様式が詳らかになった [14] (図1 C)。これらを可能とした更なる技術革新として二点あげられる。一点目が冷陰極電界放出型電子銃Cold-FEGの搭載である。従来の電子銃と比較して高干渉性の電子線を照射でき、高い空間分解能の画像記録に寄与する。二点目にエネルギーフィルターである。試料を透過した電子線には画像シグナルとなる弾性散乱電子とノイズとなる非弾性散乱電子が含まれる。非弾性散乱電子をエネルギーフィルターで除去することで弾性散乱電子のみを結像させ、高S/N・高コントラストの画像記録を実現する。これら技術的要素が必須装備となるかは未だ検証の余地があるものの、単粒子構造解析法の威力を示す代表的な結果である(図1 A)。 図1. 単粒子構造解析へのCold-FEG, Energy Filterの寄与 A. Cold-FEG, Energy Filterの模式図。B. Apoferritinの密度マップ (PDB: 7A4Mを基に作図) 。C. GABAA受容体の密度マップとリガンド結合部位の拡大図 (PDB: 7A5Vを基に作図) 。 2.3 MicroED法への期待値 X線結晶構造解析法における課題は単結晶の作製である。特に有機合成分子の場合、目に見えるかどうかの微小な結晶しか与えない化合物も多く、単結晶の作製が構造解析の成否を分ける [15]。しかし、ここに従来の常識を大いに覆すMicroED法が現れた。2018年にアメリカとスイスのグループから同時に発表された論文により、有機および無機の低分子三次元構造の決定が実証されたのである [16, 17]。 X線結晶構造解析法と比較して優位性が三点ある。第一に、数個の微結晶から構造決定できることである。従来、X線結晶構造解析法では、直径数十 ?mが結晶サイズの下限とされてきたのに対して、直径1 ?m以下の微結晶でも構造解析が可能である。第二に、水素原子の位置を容易に決定することが可能である。第三に、結晶の混合物でもそのまま解析でき、混合物中の結晶を一つひとつ解析可能であり、結晶多型の判別・同定にも展開可能である [18]。 MicroED法に必須の装備は比較的単純である。上記2.1項で示した高安定試料傾斜機構装備のクライオ電子顕微鏡プラットフォームに加え、連続傾斜回折パターンの自動取得ソフトウェア、高S/N回折パターン取得用の専用CMOSカメラである。これらは単粒子構造解析法及び電子線トモグラフィー用のクライオ電子顕微鏡システムと共存でき、必要な解析手法にあわせて同一の装置を切り替えて使えることも魅力のひとつである。 試料グリッドに構造決定したい化合物の微粉末試料をまぶし、電子顕微鏡の鏡筒内に搬送する。良い微結晶をターゲットし、試料ステージを連続的に回転させ、CMOSカメラで連続的に回折パターンを取得することで、数分でデータ取得が完了する。その後データ処理を行い分子構造の三次元構造が得られる。試料グリッド作製から数時間で構造決定に至り、いずれの報告例においても1 Å前後の分解能で構造解析が達成されており、原子同士のつながりをみるうえで申し分ない分解能である [18](図2)。 このように、MicroED法は、微結晶からの構造決定、水素原子位置の決定、結晶混合物からの解析、他クライオ電子顕微鏡手法との装置共有など特徴を多く有し、非常に魅力的な手法である。本手法はタンパク質構造解析の枠を超え、有機・無機化学者ならびに素材、材料研究者、多岐にわたる分野への橋渡しとなる技術と言えよう。 図2. MicroEDによる低分子化合物の構造解析 A. MicroEDデータ取得の模式図。B. Paracetamolの回折パターン。C. Paracetamolの結晶構造 (データ取得: Thermo Fisher Scientific Shanghai NNP) 。 3. クライオ電子顕微鏡法の創薬応用 クライオ電子顕微鏡法の適用事例は枚挙に暇がない。特に単粒子構造解析法によるタンパク質複合体の高分解能構造の登録数はProtein Data Bank (https://www.rcsb.org/) ならびにElectron Microscopy Data Bank (https://www.ebi.ac.uk/emdb/) ともに飛躍的に増加している。特筆すべきは構造登録数だけではなく、その適用対象が拡大していることである。分子量52 kDaのStreptavidinが1.9 Å分解能で構造解析され、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) ファミリーは驚異的な速度で複合体構造が決定されている [19, 20]。さらには、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するタウタンパク質フィラメントの原子レベルでの分子構造が決定された[21]。 本章では、単粒子構造解析法の応用事例としてCOVID-19ワクチン開発への貢献、産業界におけるクライオ電子顕微鏡法の導入をテーマに見ていく。 3.1 COVID-19ワクチン開発における構造的アプローチの貢献 2019年11月に中国武漢市に端を発するSARS-CoV-2(コロナウィルス)の蔓延は世界的パンデミックCOVID-19を引き起こした。その影響はいまなお続き、世界に甚大な影響を及ぼしている。人々への早期のワクチン接種ならびに治療薬の開発が急務である。本節では、COVID-19ワクチンの迅速な開発の一端をクライオ電子顕微鏡法が担ったことを紹介したい。 Pfizer-BioNTechおよびModernaに代表されるように、mRNAを遺伝物質として開発されたワクチンは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードする。前者のワクチン BNT162b2 は、P2 変異を有する Sタンパク質(P2 S: スパイクタンパク質のアミノ酸残基986番のリシンおよび987番のバリンをプロリンに変異)をコードする修飾ヌクレオシド RNA (modRNA) を、脂質ナノ粒子 (LNP) を用いて製剤化したRNA製剤である。P2 S変異体が使われ、スパイクタンパク質のpre-fusionコンフォメーションを選択的に発現するように設計されている [22]。この選択的なコンフォメーションデザインに単粒子構造解析法の高分解能構造情報が活かされている。mRNAがコードするスパイクタンパク質を発現、精製し、単粒子構造解析法によりコンフォメーションを分類すると、およそ80%のスパイクタンパク質粒子がpre-fusionコンフォメーションを有することが明らかとなった。そして、残りの20%のスパイクタンパク質粒子においても、三量体を形成するプロトマーのうち、一つの受容体結合ドメインがupコンフォメーション(受容体結合フォーム)、二つがdownコンフォメーション(受容体非結合フォーム)を示した [22]。この構造情報をエビデンスとしてmRNA配列の最適化が行われた(図3 A)。 またスパイクタンパク質とAngiotensin Converting Enzyme 2 (ACE2) 受容体との複合体構造も詳細に解明され、スパイクタンパク質と受容体との結合様式も明らかとなった [23]。そこで結合ドメインをターゲットとして、種々のモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品が開発されている。代表的なものとして、Regeneronの抗体カクテル療法があげられる。スパイクタンパク質のクライオ電子顕微鏡法と質量分析法によるエピトープマッピングから、二種類の異なるモノクローナル抗体を異なるエピトープに結合するように組み合わせ、抗体医薬品の耐性ウィルスの出現を阻止する試みが図られている [24](図3 B)。 図3. COVID-19ワクチン・治療薬開発へのクライオ電子顕微鏡法の貢献 A. BNT162b2がコードするスパイクタンパク質の立体構造 (PDB: 7L7Kを基に作図) 。B. Regeneron抗体カクテルの立体構造 (PDB: 6XDGを基に作図) 。C. 脂質ナノ粒子 (LNP) のクライオ電子顕微鏡像の一例。 さらにクライオ電子顕微鏡法の活用は単粒子構造解析法に限った話ではない。上記mRNAベースワクチンはキャリアとしてLNPが使われ、mRNAが封入される [22]。これらキャリアの構造や品質がmRNAの宿主細胞への運搬・トランスフェクション、ひいては効能に大きく影響する。そのためキャリア自体のサイズ、形状、mRNAの含有率等、製造工程における正確なコントロールが必要不可欠である。この品質管理にもクライオ電子顕微鏡法が有効な手法である。LNPを氷包埋し、凍結条件下で生理的環境下でのインタクトな形状解析が可能となる(図3 C)。本アプローチは、アデノ随伴ウィルスベクター (AAV) やウィルス様粒子にも適用可能であり、近い将来実用化が期待される遺伝子治療にも貢献する技術といえる。 3.2 産業界におけるクライオ電子顕微鏡法の導入 前節ですでにクライオ電子顕微鏡法のワクチン開発への応用に言及したが、本節ではより創薬に焦点をあて産業界での応用に触れる。製薬企業におけるクライオ電子顕微鏡法の導入は2016年のHenderson博士と大手製薬5社とのディスカッションに端を発する。当時黎明期にあったクライオ電子顕微鏡法をいかに創薬に活用していけるか、議論を重ねた後、Cambridge大学、AstraZeneca、GlaxoSmithKline、Sosei-Heptares、Astex、UCB、Thermo Fisher Scientific (当時FEI) がコンソーシアムを形成してKriosを用いた実証試験運用を開始した。Thermo Fisher Scientificの技術者が装置管理、データ取得、解析のサポートを行い、各社平均して1週間に1日のマシンタイムを割り当てられる。各社プロジェクトは相互に機密保持契約の下に遂行される一方、実験で得たクライオ電子顕微鏡法におけるノウハウや知識を定期的なユーザーミーティングで共有する仕組み作りがなされている。具体的な成果の詳細は解説文献に譲りたいが、各社Structure-Based Drug Design (SBDD) を創薬の根幹に据え、構造情報をエビデンスとした創薬を本格化させている。コンソーシアムを継続しつつ、加盟各社は装置の自社導入に投資している [25]。 2017年以降、Pfizer、Genentech、Novartis、Merck & Co.を筆頭に、クライオ電子顕微鏡の自社導入をいち早く進め、構造情報を創薬に積極的に活かしている。早期導入社に後れを取ることなく各社が自社投資もしくはContract Research Organization (CRO) 各社への委託という形でクライオ電子顕微鏡を創薬に取り入れている。自社装置投資は国内でも2020年から始まっており、国内企業の創薬レースにおける優位性に大いに期待したい。非常に興味深い統計データは、製薬企業ランキング上位50位に入る会社だけでなく、中規模のバイオテックや新興のIT創薬を標榜する会社も導入を進めていることにある。これはSBDDがDigital Transformation (DX) 革命とちょうど相まみえ、創薬のスピードが急加速するのではないかと思われてならない。 創薬ターゲットへの応用例の一端を紹介したい。創薬ターゲットの30 ? 40%を占めるGPCR構造解析の進展に伴い、構造情報に基づいた低分子医薬候補品あるいはペプチド候補品のリード候補最適化の開発競争が熾烈化している。Sexton博士らは2型糖尿病治療薬のターゲットとされるグルカゴン様ペプチド1受容体 (GLP1R) と治験中の経口投与低分子医薬候補品 (TT-OAD2) との複合体構造から、ペプチドと異なる結合ポケットへのアゴニスト結合様式を示し、代謝疾患のための経口投与可能な治療薬開発への手掛かりをもたらした [26] (図4 A)。次に、Merck & Co.は、インシュリン受容体-インシュリン複合体の構造解析に成功し、結合作用様式の解明に至る [27] (図4 B)。Genentechでは、CD20受容体-抗体複合体の構造解析を行っており、抗体医薬候補品のターゲットタンパク質との結合様式の解明に至っている [28] (図4 C)。Astexでは、Fragment-Based Drug Discovery (FBDD) を遂行し、低分子フラグメントとターゲットとの共結晶構造情報からヒット化合物を同定し、量子化学計算手法と組み合わせ、リード最適化プロセスを進めている [29] (図4 D)。国内の製薬企業5社による非競合領域における共同プロジェクトとして、human Ether-a-go-go-Related Gene (hERG) の構造解析が進められた [30]。オフターゲットという副作用に関わるタンパク質構造解析は非常に興味深い視点である(図4 E)。他にも報告されている文献だけでも多岐にわたる利用例があり、詳細は総説に委ねたい [31-34]。 図4. 創薬ターゲットの構造解析事例 A. GLP1R - 低分子候補化合物TT-OAD2複合体の立体構造 (PDB: 6ORVを基に作図) 。B. インシュリン受容体-インシュリン複合体の立体構造 (PDB: 6CE9を基に作図) 。C. CD20 - Rituximab複合体の立体構造 (PDB: 6VJAを基に作図) 。D. FBDDによるPKM2リガンド探索 (PDB: 6TTQを基に作図) 。E. hERGの立体構造 (PDB: 5VA1を基に作図。PDB: 7CN0を参照) 。 4. 今後の展望 クライオ電子顕微鏡法、特に単粒子構造解析法の威力は凄まじく、今後も生物学的・臨床的に極めて重要なタンパク質複合体の構造情報が提供されていくことは疑問の余地がない。ターゲットタンパク質がどんどん高難度になるに従い、タンパク質固有の柔軟性、不安定性、結合解離等、構造解析においてクリアすべき課題は山積しており、単粒子構造解析法の成否は試料精製技術にかかっているともいえよう。勿論、本稿で述べた技術的要素の更なる進展は必要不可欠であるが、昨今の量子化学計算手法やAIによる深層学習との相乗効果により、3 Å程度の比較的低分解能構造情報からSBDDを遂行できることが報告されており、常に実験的に高分解能を狙うだけでなく、計算科学と組み合わせて構造を理解していくアプローチも今後図られていくことが予想される [35]。本稿を執筆の最中(2021年8月現在)にAlphaFold2のタンパク質構造予測論文が報告され、AIの脅威を目の当たりにした [36, 37]。実験的アプローチとしての構造生物学手法が廃れるのではなく、むしろ実験構造生物学が教師学習データを提供し、機械学習とクロストークしていく時代はすぐそこにあるのではなかろうか。 本稿では主に単粒子構造解析法に焦点を絞り解説したが、他の手法も非常に将来性が期待される。MicroED法は、解析技術のさらなる高度化により、低分子化合物やペプチドの構造設計に重要な知見を与える大きな可能性を秘めており、従来の合成スキームにパラダイムシフトを起こす可能性がある。さらに電子線トモグラフィー法が進展すれば、生体内でのタンパク質複合体のin situ構造、タンパク質-タンパク質阻害作用の解明、ウィルス-受容体結合様式の構造的理解などが期待できるので、これは次のフロンティアとして極めて注目すべき手法である。 5. 終わりに 本稿では、クライオ電子顕微鏡法、特に単粒子構造解析法の技術的進展、微結晶サンプルへのMicroED法の興隆、単粒子構造解析法のCOVID-19ワクチン開発への貢献、そしてクライオ電子顕微鏡法の産業界における導入状況について解説した。本技術は日進月歩であり、その進歩には、生化学や計算科学など周辺の発展も欠くことのできない重要な要素である。今日の技術的限界が明日にはなくなり、本手法を取り入れて当たり前の未来はすぐそこにある。 謝辞 本稿の執筆にあたり、原稿内容のディスカッション、校正にご協力いただいたThermo Fisher Scientificの皆様に深く感謝いたします。 参考文献 [1] Cheng, Y. 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Science, 373, 871?876 (2021). ///// Cutting Edge ///// 分子動力学計算に基づくクライオ電顕構造の モデリングおよび最適化 理化学研究所 森貴治 1. はじめに タンパク質の立体構造解析において、クライオ電顕を用いた単粒子解析が盛んに用いられている。単粒子解析とは、電顕によって撮影されたタンパク質の多数の2次元画像を再構成し、3次元密度マップを得る方法である。近年、ウイルスやリボソームなどの巨大タンパク質複合体だけでなく、膜タンパク質や核酸複合体などの小さな系に対しても近原子解像度で密度マップが得られるようになり、いくつかのケースでは原子解像度が達成されている。一方、大規模構造変化を起こすような柔らかいタンパク質を対象とした場合、柔らかいドメインなどで局所解像度が上がらないことが多く、常に高解像度の密度マップが得られるとは限らない。局所解像度が低いあるいはノイズを多く含む密度マップを扱う場合、タンパク質の分子構造を慎重にモデリングする必要がある。密度マップから分子構造をモデリングする手法として、剛体ドッキング、フレキシブル・フィッティング、De novoモデリングがある。剛体ドッキングでは、タンパク質を構成するドメインあるいは、複合体の構成因子を電顕密度マップに当てはめ、構造がマップに合致するように各構成因子の最適な位置や配向を探索する。フレキシブル・フィッティングでは、分子動力学 (Molecular dynamics; MD) 計算などに基づいて原子を動かしながら立体構造を最適化する。De novoモデリングでは、アミノ酸配列に基づき電顕マップから立体構造を直接予測する。多くの場合、これらの方法を組み合わせながら立体構造を決定するが、フレキシブル・フィッティングは最終的な構造精密化において必要不可欠である。しかしながら、信頼性の高い構造モデリングを行うためには、フレキシブル・フィッティングにおけるバイアスの力をどうやって決めるか、そして得られた構造をどのように評価して最も確からしい構造モデルを選ぶかが重要になってくる。本稿ではフレキシブル・フィッティングの原理を簡単に解説した後、これまでに開発された手法に基づいて最適な構造モデリング法を提案する。また、最近の計算科学分野における動向も踏

     

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